国産デュラム小麦による町おこし【コメより小麦の時代へ 第9回】

国内では戦後に小麦の用途が広がった後に、国産小麦の「安楽死の時代」に突入したため、用途によっては品種がない、あるいは極めて少ない状況が続いてきた。

パスタ用のデュラム小麦もその一つ。しかし農研機構と日本製粉が共同で国内初のデュラム小麦の品種「セトデュール」を開発し、2016年に品種登録を済ませた。

今回はこれを作る農業法人の取り組みから触れていく。

八幡営農組合の芦原代表(筆者撮影)

パスタによる地域おこし


兵庫県加古川市の東加古川駅近くにあるレストラン「ル・パスタガーデン」。同店では客がパスタの料理を注文すると、麺は「加古川パスタ」かそれ以外かを選べるようになっている。

「加古川パスタ」とは、地元の八幡営農組合が生産する「セトデュール」を製麺した同組合の商品。ほかのレストランも「加古川パスタ」の料理を提供するなど、加古川市では地元産のデュラム小麦を使った地域おこしが始まっている。


パスタの原料となるのはデュラム小麦の粗挽き粉(セモリナ)。一般にデュラム小麦は普通小麦と比べて成熟期が遅いほか、雨が多いと発生しやすい赤カビ病に弱く、穂発芽しやすい。

こういった理由から、収穫期が梅雨に重なる国内では栽培は皆無と言ってよかった。

しかし、製麺業者から国産を望む声があったことから、農研機構・西日本農業研究センターが日本製粉と共同開発。それが「セトデュ―ル」だ。米国のデュラム小麦「Produra」を母に、イタリアのデュラム小麦「Latino」を父に交配して育成した。

硬質小麦というだけあって、粒の硬さが尋常ではない。八幡営農組合の代表の芦原安男さんは「粒のまま噛んで、歯を壊した人がおるくらいやから。トレーラーが踏んでしまったこともあったけど、それでも壊れなかった。それほど硬い」と語る。

その硬さゆえに細かい粉にせず、セモリナ(小麦胚乳:こむぎはいにゅう)の粗い粉として使う。製粉工程で小麦を軽く粉砕することで、胚乳を細かくせず、ざらめ状で取り出したものを採取する。


魅力は尽きない需要


120haの水田を経営する八幡営農組合が、この品種の試験的な栽培を始めたのは2011年。芦原さんのもとに西日本農業研究センターから依頼があったほか、日本製粉に勤めていた知り合いからも委託された。

芦原さんが引き受けた理由の一つは、「パスタは日本人が日常的に食べている麺類の一つだから」。確かな需要がある。しかし、原料となる小麦の自給率は皆無。需要に応じた品質や価格で作れば、買い手はいくらでもいるはずだ。

一方、同じ転作でも飼料用米は「鶏卵に混ぜ過ぎれば黄身が白っぽくなるなど、使える量は知れている。生産量が増えれば交付金も下がるだろう」という。



同組合は耕作放棄地の発生を防ぐため、650戸ほどを組合員に設立した集落営農組織である。存在意義はあくまでも地域の水田を活かすことにある以上、「需要が持続して作り続けられることが大事」と芦原さんは語る。


麺は自社商品としても展開


契約では収穫物はすべて日本製粉に出荷することになっていた。締結するに当たり、次の二つのことを約束してもらった。

一つは産地品種銘柄と同等の収入を得られることを保証してもらうこと。当時の「セトデュ―ル」は産地品種銘柄に登録されておらず、国の「畑作物の直接支払交付金」の対象外。つまり農家にとってみれば、例年通りに奨励品種を作れば手にできる交付金が、「セトデュ―ル」を栽培すれば、その面積分だけ入ってこないことになる。これでは試作する意欲が湧かない。

もう一つは、「セトデュ―ル」の商品化に成功したあかつきには、製造した麺を八幡営農組合にも卸してもらうこと。目的は日本製粉とは別に独自の商品を作ることにある。

組合は「八幡厄神」という商標を取得して、自社で生産した大豆やソバなどを使った加工品をその名前を付して販売している。「セトデュ―ル」についても、同様に商品化をしようと考えた。

出荷先の日本製粉が製造した麺の一部は卸してもらい、地域の名所である「八幡厄神」という名前を入れて独自の加工品として販売する。他にも同様の加工品を次々に開発してきた目的は、農産物の価値を高めると同時に地域を宣伝することにある。


施肥と赤かび病対策は必須


現在、兵庫県では八幡営農組合が「セトデュール」の種子を生産し、その種子で同組合のほか複数の農家も栽培している。同組合における10a当たりの平均収量は360kg。肥料は元肥と穂肥、実肥と3回に分けて投じる。「生育を見ながら撒く時期を決めている」とのこと。

施肥はタンパク値に影響してくる。デュラム小麦のタンパク値の基準値と許容値はパン用や中華麺用と同じで基準値は11.5~14%、許容値は10~15.5%と高く設定されている。設定した値に入らなければ畑作の交付金が低くなるので、施肥には気を使う。その甲斐あって、八幡営農組合の成績は良く、2019年産では最高ランクの「AA」を付けた。

もう一つ重要なのは、赤かび病の対策だ。これは、出穂後に雨に当たると出やすく、収穫物に混じることは禁じられている。最近になって効果が高い農薬が出てきたので、1シーズンに4回撒いて防いでいる。

現時点では収穫物はすべて同組合が一元的に集荷。民間の業者で乾燥調製をして、日本製粉に出荷する契約になっている。というのも、地元のJAが所有する乾燥施設は1タンクが120t。利用を希望したものの、「10tとか20tとかは触られん」と突き返された。そこで5tのタンクを持つ民間の業者を探し、現在もそこに乾燥調製を依頼している。

そこから神奈川県にある日本製粉に輸送されて粉になり、再び加古川市に運ばれてグループ会社のオーマイ株式会社加古川工場で製麺され、市販されている。一方、八幡営農組合はその麺の一部を卸してもらい、「加古川パスタ」という商品名で農産物直売所やスーパーなどで独自に販売している。

八幡営農組合の次なる目標は、自営で販売と飲食の提供を兼ねた店を地元で持つこと。芦原さんは「うちとこの商品は安全・安心。そばとパスタが食べられる、気軽に来られるようなおしゃれな店を作りたい」と話す。

国産のデュラム小麦は食糧の自給だけでなく、地域おこしという観点でも注目すべき存在だと思った。


農業組合法人 八幡営農組合
https://yahataeinoukumiai.com/

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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
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    北島芙有子
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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