リンゴの知的財産権を守る「クラブ制」は日本でも根付くか 〜世界のリンゴ事情


世界に広がるリンゴの知的財産権管理制度「クラブ制」

日本のリンゴは、青森県、長野県、岩手県などが主産地で、秋に収穫して年末の贈答用に販売し、年を超えると冷蔵庫に貯蔵したものを少しずつ小出しにして流通させている。国産リンゴの約6割を生産している青森県に行くと、巨大なリンゴ倉庫がいくつも並んでいて、その中でリンゴが眠っている。これらは健康志向の皆さんが一年中求める、野菜ジュースやスムージー、酵素ドリンクに欠かせない。日本でリンゴを収穫できない春〜夏の需要を支えてきたのは、青森県の貯蔵リンゴなのだ。

ところが、そんなサイクルに変化が起きている。2012年以降、国産リンゴが品薄になる5〜8月に生食用リンゴの輸入量が急増。中でもニュージーランド産の伸びが目覚ましく、2017〜2018年は3000トンを超えている。ベルリンで会ったJAZZ APPLEのお兄さんがとびきりのスマイルで話していた、「いつでも新鮮でおいしいリンゴ」が、赤道を越えてここまでやってきたのだ。

自国で育種したリンゴを自国で栽培し世界へ輸出するのではなく、JAZZ APPLEのように、単一の品種を複数の国で栽培し、同じ商標で、世界中に戦略的に販売を展開する方法は「クラブ制」と呼ばれている。

それは生産者と流通業者、苗木生産者がグループ(クラブ)を形成し、その中で生産と流通をコントロールするシステム。そこから得られた利益の一部をプールして、市場でのマーケティングやブランド防衛に活用するというものだ。

その嚆矢となったのは、オーストラリアで1990年代に誕生した「Pink Lady」。フルーツロジスティカの会場でも、ショッキングピンクのブースを構え、ド派手にPRしていた。

Pink Ladyのブースは規模も大きく演出も派手

品種はオーストラリア生まれの「クリスプピンク」で、商標が「Pink Lady」。このリンゴはすでに日本でも長野県を中心に栽培されているが、「日本ピンクレディー協会」に所属している会員でなければ栽培できない。

さらに苗木の自己増殖は許されず、会費を支払って栽培する生産者や苗木業者にも、厳しい管理が要求される。まるでちょっと写っているだけで掲載できないアニメキャラやアイドル写真のよう。農産物でありながら、著作権や肖像権に近い縛りや規制が生まれている。

展示会でJAZZ APPLEのハンサムボーイが私に試食を勧めたり、Pimk Ladyがド派手なブースを設営できるのも、これらの商標をクラブ制のシステムが支えているからなのだろう。
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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