「コシヒカリ」に代わる米が主流になる? 次世代を担う注目の「高温耐性品種」まとめ

米の需給や価格への関心が高まるなかで、水稲の生産現場にも変化が現れています。温暖化による高温登熟、白未熟粒、カメムシ被害などにより、これまで安定して作れていた品種でも、品質を保つ難しさが増しているためです。

その代表的な品種の一つが、長く日本のコメの主力であり続けてきた「コシヒカリ」。食味やブランド力は今も強い一方で、普及から数十年が経過し、高温への弱さが課題として挙げられてきました。

そんなコシヒカリに代わる選択肢として品種開発が進み、作付けが広がっているのが「高温耐性品種」です。単に暑さに強いというだけでなく、高温下での白濁などが少ないことを示すデータを申請し、農林水産省による数年の審査を経て正式に名乗れる仕組みになっています。

今回は、農林水産省や農研機構などのデータをもとに、いま新たに注目を集めている米品種をご紹介していきます。



作付けランキングはコシヒカリが首位ながら、集中緩和が進む


2024年産(令和6年産)うるち米の品種別作付割合を見ると、全国1位はコシヒカリで32.6%と圧倒的。2位は大きく差が開いてひとめぼれ8.4%、3位ヒノヒカリ7.1%、4位あきたこまち6.7%、5位ななつぼし3.4%となっています。上位5品種の順位は前年から変わっていません。

一方で、上位10品種の合計は68.6%で、前年の69.6%から低下しました。上位20品種でも78.7%と、前年の79.6%から下がっています。これは、主要品種がすぐに入れ替わるというよりも、地域ごとの条件に合わせて品種の選択肢が広がっていると見るのが自然です。

農林水産省の「令和6年地球温暖化影響調査レポート」では、水稲の高温耐性品種の作付面積が前年より2.5万ha増え、20.6万haになったとされています。主食用米に占める割合も16.4%まで上がりました。出穂期以降の高温による白未熟粒の発生も報告されており、高温耐性品種の導入は、現場での適応策の一つになっています。

順位品種名作付割合(%)主要産地前年順位
1 コシヒカリ 32.6 新潟、茨城、福島 1
2 ひとめぼれ 8.4 宮城、岩手、福島 2
3 ヒノヒカリ 7.1 熊本、鹿児島、大分 3
4 あきたこまち 6.7 秋田、茨城、岩手 4
5 ななつぼし 3.4 北海道 5
6 はえぬき 2.7 山形 6
7 まっしぐら 2.5 青森 7
8 ゆめぴりか 1.8 北海道 8
9 きぬむすめ 1.8 島根、岡山、鳥取 9
10 キヌヒカリ 1.6 滋賀、兵庫、京都 10
上位10品種計 68.6 - -
11 つや姫 1.5 山形、宮城、島根 12
12 こしいぶき 1.4 新潟 11
13 夢つくし 1.1 福岡 14
14 あさひの夢 1.0 群馬、栃木、岐阜 13
15 とちぎの星 1.0 栃木 19
16 天のつぶ 1.0 福島 15
17 ふさこがね 0.9 千葉 16
18 あいちのかおり 0.8 愛知 17
19 あきさかり 0.7 広島、徳島、福井 18
20 ハツシモ 0.7 岐阜、愛知 21
上位20品種計 78.7 - -
出典:「令和6年産 水稲の品種別作付動向について」より引用(https://www.komenet.jp/pdf/R06sakutuke.pdf

ななつぼし|北海道の主力として定着したバランス型


全国5位の「ななつぼし」は、北海道を代表する品種です。令和6年産では全国作付割合3.4%で、北海道内では作付面積の大きい主力品種として定着しています。

親にあたる組み合わせは「ひとめぼれ」と道内系統を含む交配で、北海道立中央農業試験場が育成しました。熟期は「中生の早」。食味は、甘みと粘りのバランスがよく、あっさりした食感とされています。冷めても食べやすいため、家庭用だけでなく弁当や寿司向けにも使いやすい品種です。

コシヒカリのような強い粘りだけでなく、食べ飽きしにくい軽さを求める消費者にとって、選択肢に入りやすい品種といえます。


きぬむすめ|西日本で広がる良食味品種


「きぬむすめ」は、令和6年産で全国9位、作付割合1.8%でした。主要産地は島根、岡山、鳥取です。西日本を中心に存在感を高めている品種で、静岡や和歌山などでも上位品種として確認できます。

交配組み合わせは「キヌヒカリ/愛知92号(祭り晴)」です。農研機構によると、熟期は「日本晴」より2日程度、コシヒカリより1週間程度晩生(おくて)の品種です。食味はコシヒカリと同等以上とされ、特にご飯の白さとツヤに優れる点が特徴です。

収穫時期がコシヒカリとずれるため、乾燥調製や刈り取りの作業分散にもつながりやすい品種です。人手や機械利用が集中しやすい経営では、こうした熟期の違いも判断材料になります。


つや姫|食味と高温登熟性で評価されるブランド米


 「つや姫」は、令和6年産で全国11位、作付割合1.5%でした。主要産地は山形、宮城、島根で、前年12位から順位を上げています。

交配組み合わせは「山形70号」を母、「東北164号」を父とするものです。山形県では中生の晩〜晩生品種として位置づけられ、ブランド米として高い知名度を持っています。一方で、温暖地で行われた試験では、ヒノヒカリより成熟期が早く、高温条件下でも品質低下が少ない良食味品種として評価されています。

食味の評価が高いことに加え、高温登熟性や品質の安定性も注目されており、地域によって期待される役割が異なる品種といえるでしょう。


とちぎの星|栃木で広がる高温耐性品種


「とちぎの星」は、令和6年産で全国15位、作付割合1.0%でした。前年19位から順位を上げており、主要産地は栃木です。栃木県農業試験場が育成した品種で、交配組み合わせは「栃木11号/栃木7号(後のなすひかり)」。熟期は中生の中で、コシヒカリより約6日遅く、あさひの夢より約6日早い品種です。

地元の栃木県では、コシヒカリの作付けが減少傾向にある一方で、「とちぎの星」の作付けが増えてきました。栃木県の資料では、2021年(令和3年)産で県内作付けの約17%を占めたとされています。県産米の販売先は業務用向けも多く、家庭用と業務用の双方に対応しやすい品種づくりが意識されています。

食味面では、炊き上がりの粒立ちがよく、弾力のある食感と甘みが特徴とされています。栽培面では、病害に強く、高温下でも品質が低下しにくい点が評価されています。一方で、肥料を多く与えすぎると生育が乱れやすいため、地力や土壌診断に合わせた施肥、水管理、適期収穫が重要です。高温年の品質確保と肥料コストの見直しを両立したい場合に、検討材料になり得る品種です。


にじのきらめき|多収性と耐倒伏性を備える注目品種


もう一つ注目したいのが「にじのきらめき」です。全国上位20品種にはまだ入っていませんが、茨城県では令和6年産の県内3位に入りました。農研機構によると、交配組み合わせは「西南136号(なつほのか)/北陸223号」。熟期は中生の中で、出穂期はコシヒカリとほぼ同じ、成熟期は4〜5日程度遅い品種です。

特徴は、高温耐性、耐倒伏性、多収性をあわせ持つ点です。農研機構では、コシヒカリに比べて15%程度多収で、高温条件でも品質が良好、食味はコシヒカリと同等と整理しています。粒が大きく、業務用需要への適性も期待されています。

さらに、農研機構が進める再生二期作の実証にも採用されており、省力化や収量向上を目指す取り組みの中でも注目されています。

にじのきらめきは、コシヒカリの食味を評価しながらも、倒伏や高温登熟への対応を重視したい地域で、選択肢になり得る品種です。


品種の多様化は、農家と消費者の双方に影響


コシヒカリのブランド力は、今後もすぐに失われるものではありません。長年の産地づくりや消費者の認知、食味への評価は大きな財産です。

ただし、生産現場では気温、病害虫、倒伏、収穫時期、乾燥調製の負担など、品種選びに関わる条件が変わりつつあります。高温に強い品種、作期を分散しやすい品種、地域の栽培体系に合う品種が広がることは、農家にとって経営リスクを分散する一つの方法になります。

消費者側も、「コシヒカリかどうか」だけで選ぶ時代から、産地や品種ごとの特徴を見て選ぶ時代へ少しずつ移っています。作り手の減少や気候変動が進むなかで、米の市場は、これまで以上に多様な品種を前提に動いていくかもしれません。


参考URL
公益社団法人米穀安定供給確保支援機構「令和6年産 水稲の品種別作付動向について」
農林水産省「令和6年地球温暖化影響調査レポート」
北海道立総合研究機構「水稲新品種「ななつぼし」の育成」
北海道米販売拡大委員会「ななつぼし」
農研機構「きぬむすめ」
農研機構「高温登熟性に優れた極早生水稲品種「つや姫」の大分県における特性」
栃木県・一般社団法人とちぎ農産物マーケティング協会「『とちぎの星』品質向上栽培マニュアル」
栃木米「とちぎの星」特設ページ
栃木県農業試験場「水稲新品種『とちぎの星』の育成」
農研機構「にじのきらめき」
農研機構「高温耐性に優れた極良食味水稲品種「にじのきらめき」」
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
  5. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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