ドローンでみかんの農薬散布を丸ごと代行! 「かんきつ類ドローン防除サービス」現場密着レポート

かんきつ類の栽培で負担の大きい農薬散布をドローンで丸ごと代行する新しいサービス、オプティムの「かんきつ類ドローン防除サービス」が、2025年6月から和歌山県有田市で本格的に始まりました。すでに有田郡、紀の川市、海南市など和歌山県全域に広がっています。

和歌山県有田市は、温州みかんの栽培面積が約1120ha、生産量は2万6500トンを誇る、日本有数の産地です(※「2020年農業センサス」より)。しかし、その現場では高齢化による人手不足や、斜面での重労働、農薬散布にかかる時間など、農家の負担は年々増加。スマート農業の普及も進んでいるものの、初期費用や技術的ハードルで導入に踏み切れない農家も多くいます。

今回は、有田市の早和果樹園で行われたドローン防除の現場に密着。酷暑のみかん園地でのリアルな防除課題が、作業委託によってどのように解決できるのか、現場の声とともにお届けします。

有田市を象徴する典型的なみかん園地

かんきつ類ドローン防除サービス」の特徴
  1. 参加農家が集まるほど単価が下がる料金設定
  2. 手散布の10分の1以下の時間で当日の立ち会いも不要
  3. 散布中のドローンを東京から遠隔監視し、急なトラブルでも安心


参加農家が集まるほどに単価が下がる仕組み


「かんきつ類ドローン防除サービス」は、地方自治体、民間企業、地元農家らと協力し、株式会社オプティムが2022年8月に実証をスタート。2024年6月からは和歌山県下の主要なかんきつ生産地(有田、有田川、下津、田辺)にて15haから始まり、2025年から一般の申し込み受付を開始しました。有田エリアを中心とした和歌山県内ではすでに50haまで拡大し、年内には100haまで拡大を目標としています。

外部委託するとなると気になるのはコストですが、同じ地域内で参加農家と作業面積が集まるほど単価が下がる方式を採用しています。いわば“みんなで申し込めば割引になる”仕組みで、近所の農家と一緒に使えば使うほどお得になります。

とはいえ、実際に効果はどれくらいなのかが気になるところ。そこで7月2日(水)、実際に早和果樹園で行われたドローン防除に同行させていただきました。


有田市だけでなく和歌山県内、他府県でも
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わずか4時間で1.6haに散布! ドローンによる劇的な作業効率化


散布を担当したのは、関西エリアマネージャーの田邉さんと、有田市在住の新人ドローンパイロットの東林さん。さらに、防除対象の園地を所有する早和果樹園 生産部の山中さん、オプティムの柳さん、中西さんというメンバーです。

左から、ドローンパイロットの田邉さん、東林さん、オプティムの中西さん、柳さん、早和果樹園の山中さん
この日防除を行ったのは、温州みかんの園地。5カ所に分散しており、合計面積は1.6haです。いずれも急斜面にあり、防除作業は非常に厳しい立地ですが、ドローン防除なら午前中には終了予定です。

散布対象の園地は、事前にドローンによる測量を行った上で、散布範囲や適切な散布量を計算しつつマップを作成してあります。ちなみに、委託する農家が行うのは、パイロットへの農薬の受け渡しのみ。当日の立ち会いも基本的には不要です。

これまでみかん園地での防除は、主に地面に敷設したスプリンクラーを用いた一斉防除でした。しかし、経年劣化によるパイプの老朽化、修理コスト、粒度の高い農薬を使うことによるノズルつまり、スプリンクラー付近とそうでない場所の散布ムラといった課題もありました。そもそもスプリンクラーを敷設できないような園地では手作業を余儀なくされていました。こうした現状の防除課題の多くがドローン防除でほぼ解決できると、オプティムの柳さんは言います。

「希釈した農薬を散布し、ダウンウォッシュというドローンが作り出す気流によって、樹の下部や樹の奥、葉の裏、果実の隅々まで薬剤を生き渡させる仕組みです。薬剤によっては、高濃度という点が、雨の力を使って、より薬剤を果実全体に広げ、黒点病を防ぐのにも役立ちます。総散布量も散布時間も少なくて済みますし、マッピングした園地内にまんべんなく散布できます」

散布作業で使われたのは最新型の『DJI T25』。農薬の搭載量は20kgと高性能で、急斜面でも安定して作業できる。ひとつの園地で、農薬は2回補充、バッテリーは3本を交換しながら散布した
実際に散布する様子を見てみると、目視できるほどのダウンウォッシュ(下降気流)により薬剤が散布されていくのがよくわかります。

周囲を通る人や農家、スプリンクラーなども確認しながら、田邉さんと東林さんが連携しつつ慎重にドローン防除を行う
ドローンの操縦は基本的に自動飛行ですが、果樹やかんきつのように斜面に散布する場合、現地のスプリンクラーや枝など、安全性を最優先に目視で確認しながら手動飛行に切り替えることもあります。こうしたドローンパイロットの技術面についても、オプティムとしてドローンパイロット育成プログラムを用意し、地域ごとのドローンパイロットの育成も進めています。

1園地あたり約1時間のフライトの間は、発電機にて使用したバッテリーを急速充電。全部で3本のバッテリーで回していた

スプリンクラーでの散布にお困りの方も……
▶︎ドローン防除のご相談はこちら


手散布で18時間の作業がドローンならわずか1時間で完了


特に印象的だったのは、この日の散布予定園地の中で最も勾配が強い60aの園地での散布でした。早和果樹園の若手が手がける「新林みかん」というブランドみかんの園地です。

この園地はスプリンクラーでの散布だけでは撒ききれず、社員が防護服を着て手作業で散布しています。ホースを持って園地内を移動するだけでも大変な、最も過酷な場所です。

崖のような場所で、道を回り込むように奥まで広がる「新林」の園地
今回散布したのはそのうちの40aぶんで、これまで手散布で延べ18時間かかっていた作業が、ドローン導入でわずか1時間に。実に95%もの削減効果が得られました。

山中さんは、「『かんきつ類ドローン散布サービス』を丸ごと委託した場合と、手散布での人件費、資材コストはほとんど変わりません。むしろ、それによって軽減できた時間の分だけ、他の作業に時間を使ったり、園地の拡大も検討できそうです」と市内でさらに引き受けられる園地拡大の可能性を実感していました。
勾配がきつく変形した園地だが、ドローンなら苦もなく上空から散布できる


散布中は常に東京からパイロットを遠隔サポート


園地によっては、勾配、周囲の枝、曲がりくねった道路沿いの変形地のため、自動飛行だけでは散布できない場所もあります。実は「かんきつ類ドローン防除サービス」では、現地で飛行しているドローンを東京から遠隔監視しており、現地で起きる急なトラブルなどのサポート体制も構築しています。

雑木林などで安全上自動飛行では散布できない場面では、サポートと相談しながら手動で散布する
現場でのドローン操作中も、東京のサポートセンターがリアルタイムで状況を確認しており、万が一のトラブルにも迅速に対応できます。散布できなかった理由や、現地の状況を伝えながら、可能な限り効果が出るように散布の工夫もしています。飛ばしているのはドローンパイロットだけですが、実はチームで散布しているんです」

早和果樹園の山中さんと相談しながら、安全に気をつけつつ、道路側の部分に手動で散布していく田邉さん
東林さんのような地元で活躍できるドローンパイロットの育成や講習も、オプティムが行っている


かんきつ類のドローン防除は地域の協力が普及のカギに


この日の園地はそれぞれが異なる場所にあり、しかも斜面の角度もまちまちでしたが、予定どおり朝5時〜9時までの4時間で終了しました。参加農家が増え、散布する園地の面積が増えるほどにコストが下がるという意味では、取りまとめ役の早和果樹園としてもメリットも増えます。

ただ、単に農家の数を集めるだけがいいことと思っているわけではありません。

「小さな園地を守ってきた農家さんはドローンに切り替えることには慎重です。品質を最重視する農家にとって、防除を任せるのは大きな決断ですから」と山中さん。そして、「早和果樹園としてある程度大きな面積を持っているので、今後委託してくださる農家さんのためにも、試験的にいろいろな挑戦をしたいと考えています」と、オプティムと一緒にサービス向上を進めています。

その成果は実り始めており、実際に早和果樹園が取りまとめている有田市では、すでに今年新たに11件の農家さんがドローン防除に参加しているそうです。

平地から山間地まで、見えている範囲のほとんどがみかん畑の有田市。それぞれ長年大切に育ててきた園地でもある
また、トライアルで導入した方からは、「足腰が悪いので困っていたが、もう少し栽培を続けられそう」といった声や、「農薬散布の委託で浮いた時間を使って、品質の向上や経営・営業活動などに集中できるようになった」といった声もいただいたのこと。

水稲などと比べて共同防除があまり行われてこなかったかんきつ類だからこそ、農家がまとまることでコストを下げるスケールメリットもより大きくなります。スプリンクラーのような固定設備ではなく、自由に空中から散布できる農業用ドローンが普及してきたからこそ、実現可能になったサービスでもあるのです。

オプティムの「かんきつ類ドローン防除サービス」が、全国のかんきつ類の効率・品質・収益を高める後押しになりそうです。


「OPTiM かんきつ類ドローン防除サービス」 概要


「かんきつ類ドローン防除サービス」は現在、有田エリアから始まり、和歌山県内、さらに他の他府県の産地からの申し込みを受付中。今夏の防除の相談も可能で、ネット経由だけでなく、現地の農家同士で集まったり、すでに実施している農家経由で、紙やFAXによる申し込みにも柔軟に対応しています。

●主な防除内容
  • 夏場の黒点病、ゴマダラカミキリ、チャノキイロアザミウマ、カメムシ等
  • 収穫前(11月〜)の防腐剤(貯蔵病害)
  • 春先のかいよう病 ほか

●申し込み・お問い合わせ先

OPTiM かんきつ類ドローン防除サービス


▶︎お申し込み・お問い合わせ先はこちら


株式会社オプティム 農業DX事業
https://www.optim.co.jp/business/agriculture
早和果樹園
https://www.sowakajuen.co.jp/

【特集】 「かんきつ類ドローン防除サービス」の革命
  • ドローンでみかんの農薬散布を丸ごと代行! 「かんきつ類ドローン防除サービス」現場密着レポート
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
  4. 鈴木かゆ
    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
  5. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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