大阪ガスら8社「水田JCMコンソーシアム」設立、間断かんがい技術を活用したJCMクレジットの普及拡大へ

大阪ガス株式会社は、出光興産株式会社、兼松株式会社、Green Carbon株式会社、損害保険ジャパン株式会社、東邦ガス株式会社、芙蓉総合リース株式会社、三菱UFJ信託銀行株式会社とともに、二国間クレジット制度(以下、JCM:Joint Crediting Mechanism)に基づく水田由来のクレジットの普及拡大を目指す「水田JCMコンソーシアム」を設立した。


フィリピンでのプロジェクトを分析し、価値やリスクを発信


JCMは、日本とパートナー国が協力して温室効果ガスの削減に取り組み、その成果を両国で分け合う制度。日本政府は、JCMを活用した温室効果ガスの排出削減・吸収量を2030年度までに累計1億t-CO2程度、2040年度までに累計2億t-CO2程度確保する目標を2025年2月に閣議決定し、NDC(Nationally Determined Contribution)の達成手段としても活用する予定だ。

NDCとは、パリ協定に基づいて各国が5年ごとに提出・更新する温室効果ガス削減目標のことを指す。日本では、2035年度、2040年度において、温室効果ガスを2013年度からそれぞれ60%、73%削減することを目指すこととなっている。

現在、農業分野でJCMクレジットの発行実績はなく、発行に向けた取り組みが進められている。日本とフィリピンは、
間断かんがい技術(以下、AWD:Alternate Wetting and Drying)がJCMクレジットの対象として両国間で正式に承認されており、フィリピンはパートナー国の中で、農業分野におけるJCMクレジット発行に向けた取り組みが最も進展している国の一つだ。

AWDとは、水稲の栽培期間中に一定期間、水田の水を抜き、土壌を乾燥させた後、再び水を張ることを繰り返す管理手法。一般に水を張った水田はメタンが発生しやすいことから、水を抜く期間を設けることで、常時水を張った状態と比較してメタンの排出を減少させる。土壌の質によっては、メタンの排出を約30%削減するとともに、米の収量を向上させるという研究結果も報告されている。

一方で、AWDの実施は天候の影響を受けやすく、その関係については十分な分析がされていないという課題がある。

今回発足したコンソーシアムは、フィリピンにおけるAWDの各プロジェクトの情報を分析し、価値やリスクを発信することで、JCMに基づく水田由来のクレジットの普及拡大を目指すもので、大阪ガスが構想し、8社で組成した。

具体的には、米の収量の増加などプロジェクトによる複合的な価値を、パートナー国の政府関係者や農家へJCMの実データを基に伝える。

さらに、雨量や台風とAWDの関係の分析を通じて、これまで不透明であった天候リスクを可視化し、プロジェクトに対する予見性を高めることで、投資の促進につなげるとともに、クレジットの需要家が安心して取引できる情報開示を目指すとしている。

また、今後は同コンソーシアムの目的に賛同する会員企業の拡大を検討していくほか、オブザーバーとして環境省と農林水産省が参画することも決定している。

環境省・農林水産省のコメント

「JCMにおいて、AWDは温室効果ガスの大幅な削減が期待できる技術分野であり、自然を活用した解決策の先行事例としても重要です。こうした分野において、民間企業が主体となり、企業同士がオープンに連携しながら共通課題の解決を図り、市場の形成・拡大を目指す取組は、非常に意義深く、政府としても心強く感じます。

この取組を通じて、パートナー国政府を含む関係ステークホルダーとのコミュニケーションを深め、AWD案件のJCM化に向けた課題への対応が進むことを期待するとともに、当初の参画企業に限らず、今後新たに参加を希望する企業にも開かれた形でコンソーシアムが運営され、取組の持続的な発展につながることを願っています。

政府による資金支援を伴わずに案件が形成される、いわゆる『民間JCM』は、民間企業が主役であり、環境省・農林水産省をはじめとする日本政府全体としても、こうした民間主導のJCM案件がより多く形成されるよう、積極的に後押ししていきます」

大阪ガスはJCM市場の拡大を見据え、フィリピンのバタンガス州、ラグーナ州、北イロコス州の3州でAWDを活用したメタン排出削減のプロジェクトに参画している。複数地域でのプロジェクト展開により、天候リスクの分散と安定供給の実現に努めていくとしている。


大阪ガス
https://www.osakagas.co.jp/
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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    鈴木かゆ
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    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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