宇宙開発からスマート農業への転身の理由とは? ~株式会社オプティム 農業事業部 山岸さん
農業の担い手の高齢化、離農の増加が叫ばれていますが、農業に携わりたいと考える若手もたくさんいます。そんな若い方々の農業への思いを聞く「農業界の若手に聞く!」というこの企画。
今回は、スマート農業の最前線で働く株式会社オプティム 農業事業部 ゼネラルマネージャーの山岸さんにインタビューを行いました。
──どのような経歴で、農業の仕事をされたいとお考えになったのかお聞かせください。
山岸:幼いころ「インデペンデンス・デイ」の映画を観て、宇宙開発に興味を持ちました。そうした憧れのまま、東京大学の航空宇宙工学科に進学して、深宇宙探査機を開発しまして、JAXAのロケットに乗せて小惑星探査を行いました。泊まり込みで何日も作業して、どうにか完成に漕ぎつけた後、宇宙から最初の信号を受け取ったときの喜びはよく覚えています。
傍ら、宇宙で社会の役に立つことをしたいと思い、人工衛星を用いたリモートセンシングの研究もしていました。就職活動では、宇宙技術が役に立つ道を見つけ出すため、外資系の戦略コンサルティング会社に入社しました。自動車・テクノロジー業界を中心に、さまざまな業界のさまざまな経営課題を解決する支援をさせていただきました。自分が接したプロジェクトは“地方”がキーワードになることが多く、 “過疎化・人手不足”という課題に未だ誰も回答を見出せていないことに興味を持ちました。
この“地方の人手不足”を解決したいという軸に、宇宙のリモートセンシング技術を社会の役に立てたいという考えが相まって、農業に携わる仕事をしようと決心しました。その後、さまざまな経緯があり、オプティムで農作業代行サービスの立上責任者を担わせていただいております。傍ら、東京大学で社会人博士として画像解析の研究も行っています。
──具体的には、どのようなことに取り組まれているのでしょうか?
山岸:高齢化が進む地方では、担い手農家(自治体から認定を受けた農業経営者)に土地が集まってきます。ところが営農者の高齢化や離農のペースが速く、彼らが捌き切れない量の土地が集まっています。そこで、地域の農業生産が持続可能な体系となるような農作業の代行サービスを全国で提供しています。
オプティムでは、こうした農作業をAIやIoT技術を用いて、高度な農業体系として組み換え、各地域にスマート農業サービスとして提供しています。自分たちで農作業を経験して、合理化すべきポイントを見つけてから提供化することを、非常に大切にしています。農薬散布や種まきなど、一つの農作業を合理化しようとすることで、実用的なスマート農業を提供できていると感じます。
──農業のいち工程というのは、どんな作業を指すのでしょうか?
山岸:例えば、お米の農薬散布は、これまで“町の一大行事”のような形で行っていました。JA様や役所様が生産者一人ひとりから注文を取って集計した後、町中の住民が協力して、まとめて撒いています。
実は、この地域一斉の農薬散布には、圃場別の適切な時期に撒くことが難しいという課題がありました。お米の穂ができるタイミングで農薬散布することで、病気や害虫に最も効果を発揮するとされています。しかし、穂ができるタイミングは品種や天候によって異なるので、地域に何万枚もある圃場の防除適期を特定したり、防除の計画を立てることに難しさがありました。
これまでお米の病害虫対策は、地域で共同体を組成し、生産者中心に、JA、自治体で地域全体の企画・運営することが一般的でしたが、近年は皆さん高齢化が進み、人手不足になったことで、地域単位での企画・運営ができなくなる課題が生じています。こうした課題感を捉えて、単純に農薬散布の作業代行を行うのではなく、デジタルの力を用い、企画・運営から地域の防除体系を立て直す、「ピンポイントタイム散布サービス」を立ち上げました。
農薬散布の場合は、取りまとめ事務作業の複雑さが課題でした。これをデジタルで解決することにより、生産者にお届けする農作業も一段先にバージョンアップさせることができました。このように、特定の栽培工程がどのように提供されているかを突き詰めて理解し、合理化することを大切にしています。
──たしかに、いくつかの大変な作業を合理化するだけでも、現場の苦労は大きく改善されそうですね。
山岸:別の例では、「田植え作業」のDX化に取り組んでいます
日本の稲作は移植栽培が主流であり、種籾を育苗ハウスで発芽させて苗に育ててから田に移植していました。この移植栽培は、育苗から田植えまでの手間が多くかかります。
そこで近年は、人手不足の解消につながる直播栽培が注目されています。直播栽培とは種籾を田に撒く方法であり、生育が安定しないため、まだごく一部でしか導入されていません。直播栽培の生育が不安定化する主な理由として、苗が倒伏してしまうことがあります。
そこで、種籾を田に打ち込む深さを調整できる「ストライプ・シード・シューター」というドローンユニットを開発しました。ドローンで撒いた後の水・除草管理のアフターフォローをセットでお届けしています。
このように栽培の各工程を一つ一つ理解し、合理的なスマート農業を届けていくことに取り組んでいます。
──実際に、どのような苦労・体験がありましたか?
山岸:「ピンポイントタイム散布サービス」は、“もっと適期に撒こう”ということから始まりましたが、実のところ何が求められているか、正確にはわからない中で始まったプロジェクトになります。
一斉農薬散布の実務に携わる方に話を聞かせていただくと、さまざまなことを教わりました。申込情報を整理して地図に落とし込む業務が大変であるあまり、適期に日程を分けて撒くような複雑な運用はできないことや、ヘリのパイロットのスケジュールに合わせているので適期に撒きたくても撒けないことを、課題として教えていただきました。
その話を聞いた日から、何度もうかがって、お客さまが具体的に何に困っているのかを教えて頂きました。毎晩資料を更新して、共同防除という未知の業務に対する理解を深めていった結果、実績もない私たちに、町の大切な共同防除の一切を任せたいと仰っていただけるお客さまが幸いにもいらっしゃいました。
こうしてうかがった情報を基に、地図情報と農薬散布作業を管理するシステムを作りました。農作業にシステムを使うことは、一般論として難しいものと理解していますし、むしろ紙に逃げたいという誘惑に駆られる瞬間は沢山ありました。ですが、“IT屋であるオプティムが諦めてはならない”と思い、一つずつ課題を潰して、農作業に使えるシステムにしていきました。
その後、ドローンを操縦して農薬を撒く作業や、その現場監督も自分たちで行いました。まだドローンでの地域一斉農薬散布が普及していない中、ヘリの農薬散布との違いを理解し、何をすればいいサービスになるかを一生懸命考えてきました。
農作業の品質は収量を左右するものであり、農家様の収入に直結します。そのため、その品質は厳しく見られて当然であり、言い訳のできないものを提供していることを自覚しなければならなりません。
──どのような時にこの仕事のやりがいを感じますか?
山岸:今やグローバル化の時代であり、優れたものがどこかで作られれば、町を超え国境を越え世界中に普及していきます。農業で言えばハードウェアとしてのドローンがその例です。
ところが“地方”社会でそれらを普及させるためには、地域全体で理解を醸成するハードルを乗り越えることが求められます。さまざまな方の意見をうかがって、懸念を一つずつ潰して納得感を作っていくことも、私としては仕事の醍醐味を感じる瞬間ですし、“ハードルを乗り越える気合”が自分たちの存在価値そのものであると考えています。
山岸:私は、日本で生まれ、日本で育ちました。ですから、“農業の人手不足”という日本にとって重要な課題に取り組めていることに充実感を感じます。
もちろん、海外で働くことは、刺激的でスケールの大きいことに取り組めることと思いますし、今も昔も人気があることも理解しています。ただ、日本で働くことの見逃されがちな魅力が、農業の仕事には詰まっているように私は感じます。昔お世話になった人のことを思い浮かべると、ものすごく高い壁に直面しても、不思議と力が湧いてくるものです。
今になって思うと、幼いころ「インデペンデンス・デイ」に感じた憧れは、“宇宙”という表層的な部分ではなく、“力を合わせて目前の課題を乗り越える”ことだったように思います。 なじみのある場所の身近な課題の解決に全力を注げていることは、幸せなことであると日々感じます。
ドローン適期防除サービス|ピンポイントタイム散布|株式会社オプティム
https://www.optim.co.jp/agriculture/services/pts
今回は、スマート農業の最前線で働く株式会社オプティム 農業事業部 ゼネラルマネージャーの山岸さんにインタビューを行いました。
今回の社員:山岸さん(株式会社オプティム ゼネラルマネージャー)
東京大学 工学部 航空宇宙工学科、及び同大学院を卒業し、新卒で外資系コンサルティング会社へ就職。その後オプティムへ転職し、現在は勤務と並行して、農学生命科学研究科の博士課程に在籍。趣味はバスケットボール。
東京大学 工学部 航空宇宙工学科、及び同大学院を卒業し、新卒で外資系コンサルティング会社へ就職。その後オプティムへ転職し、現在は勤務と並行して、農学生命科学研究科の博士課程に在籍。趣味はバスケットボール。
憧れだった宇宙開発、コンサルティング会社を経て、スマート農業立ち上げに携わる
──どのような経歴で、農業の仕事をされたいとお考えになったのかお聞かせください。
山岸:幼いころ「インデペンデンス・デイ」の映画を観て、宇宙開発に興味を持ちました。そうした憧れのまま、東京大学の航空宇宙工学科に進学して、深宇宙探査機を開発しまして、JAXAのロケットに乗せて小惑星探査を行いました。泊まり込みで何日も作業して、どうにか完成に漕ぎつけた後、宇宙から最初の信号を受け取ったときの喜びはよく覚えています。
傍ら、宇宙で社会の役に立つことをしたいと思い、人工衛星を用いたリモートセンシングの研究もしていました。就職活動では、宇宙技術が役に立つ道を見つけ出すため、外資系の戦略コンサルティング会社に入社しました。自動車・テクノロジー業界を中心に、さまざまな業界のさまざまな経営課題を解決する支援をさせていただきました。自分が接したプロジェクトは“地方”がキーワードになることが多く、 “過疎化・人手不足”という課題に未だ誰も回答を見出せていないことに興味を持ちました。
この“地方の人手不足”を解決したいという軸に、宇宙のリモートセンシング技術を社会の役に立てたいという考えが相まって、農業に携わる仕事をしようと決心しました。その後、さまざまな経緯があり、オプティムで農作業代行サービスの立上責任者を担わせていただいております。傍ら、東京大学で社会人博士として画像解析の研究も行っています。
──具体的には、どのようなことに取り組まれているのでしょうか?
山岸:高齢化が進む地方では、担い手農家(自治体から認定を受けた農業経営者)に土地が集まってきます。ところが営農者の高齢化や離農のペースが速く、彼らが捌き切れない量の土地が集まっています。そこで、地域の農業生産が持続可能な体系となるような農作業の代行サービスを全国で提供しています。
オプティムでは、こうした農作業をAIやIoT技術を用いて、高度な農業体系として組み換え、各地域にスマート農業サービスとして提供しています。自分たちで農作業を経験して、合理化すべきポイントを見つけてから提供化することを、非常に大切にしています。農薬散布や種まきなど、一つの農作業を合理化しようとすることで、実用的なスマート農業を提供できていると感じます。
米づくりの中でも大変な「農薬散布」と「育苗・田植え」をDX化
──農業のいち工程というのは、どんな作業を指すのでしょうか?
山岸:例えば、お米の農薬散布は、これまで“町の一大行事”のような形で行っていました。JA様や役所様が生産者一人ひとりから注文を取って集計した後、町中の住民が協力して、まとめて撒いています。
実は、この地域一斉の農薬散布には、圃場別の適切な時期に撒くことが難しいという課題がありました。お米の穂ができるタイミングで農薬散布することで、病気や害虫に最も効果を発揮するとされています。しかし、穂ができるタイミングは品種や天候によって異なるので、地域に何万枚もある圃場の防除適期を特定したり、防除の計画を立てることに難しさがありました。
これまでお米の病害虫対策は、地域で共同体を組成し、生産者中心に、JA、自治体で地域全体の企画・運営することが一般的でしたが、近年は皆さん高齢化が進み、人手不足になったことで、地域単位での企画・運営ができなくなる課題が生じています。こうした課題感を捉えて、単純に農薬散布の作業代行を行うのではなく、デジタルの力を用い、企画・運営から地域の防除体系を立て直す、「ピンポイントタイム散布サービス」を立ち上げました。
農薬散布の場合は、取りまとめ事務作業の複雑さが課題でした。これをデジタルで解決することにより、生産者にお届けする農作業も一段先にバージョンアップさせることができました。このように、特定の栽培工程がどのように提供されているかを突き詰めて理解し、合理化することを大切にしています。
──たしかに、いくつかの大変な作業を合理化するだけでも、現場の苦労は大きく改善されそうですね。
山岸:別の例では、「田植え作業」のDX化に取り組んでいます
日本の稲作は移植栽培が主流であり、種籾を育苗ハウスで発芽させて苗に育ててから田に移植していました。この移植栽培は、育苗から田植えまでの手間が多くかかります。
そこで近年は、人手不足の解消につながる直播栽培が注目されています。直播栽培とは種籾を田に撒く方法であり、生育が安定しないため、まだごく一部でしか導入されていません。直播栽培の生育が不安定化する主な理由として、苗が倒伏してしまうことがあります。
そこで、種籾を田に打ち込む深さを調整できる「ストライプ・シード・シューター」というドローンユニットを開発しました。ドローンで撒いた後の水・除草管理のアフターフォローをセットでお届けしています。
このように栽培の各工程を一つ一つ理解し、合理的なスマート農業を届けていくことに取り組んでいます。
色々な人に教わりながら、未知のことを少しずつDX化していった
──実際に、どのような苦労・体験がありましたか?
山岸:「ピンポイントタイム散布サービス」は、“もっと適期に撒こう”ということから始まりましたが、実のところ何が求められているか、正確にはわからない中で始まったプロジェクトになります。
一斉農薬散布の実務に携わる方に話を聞かせていただくと、さまざまなことを教わりました。申込情報を整理して地図に落とし込む業務が大変であるあまり、適期に日程を分けて撒くような複雑な運用はできないことや、ヘリのパイロットのスケジュールに合わせているので適期に撒きたくても撒けないことを、課題として教えていただきました。
その話を聞いた日から、何度もうかがって、お客さまが具体的に何に困っているのかを教えて頂きました。毎晩資料を更新して、共同防除という未知の業務に対する理解を深めていった結果、実績もない私たちに、町の大切な共同防除の一切を任せたいと仰っていただけるお客さまが幸いにもいらっしゃいました。
こうしてうかがった情報を基に、地図情報と農薬散布作業を管理するシステムを作りました。農作業にシステムを使うことは、一般論として難しいものと理解していますし、むしろ紙に逃げたいという誘惑に駆られる瞬間は沢山ありました。ですが、“IT屋であるオプティムが諦めてはならない”と思い、一つずつ課題を潰して、農作業に使えるシステムにしていきました。
その後、ドローンを操縦して農薬を撒く作業や、その現場監督も自分たちで行いました。まだドローンでの地域一斉農薬散布が普及していない中、ヘリの農薬散布との違いを理解し、何をすればいいサービスになるかを一生懸命考えてきました。
農作業の品質は収量を左右するものであり、農家様の収入に直結します。そのため、その品質は厳しく見られて当然であり、言い訳のできないものを提供していることを自覚しなければならなりません。
“力を合わせて目前の課題を乗り越える”。農業を通じて、日本へ恩返しがしたい
──どのような時にこの仕事のやりがいを感じますか?
山岸:今やグローバル化の時代であり、優れたものがどこかで作られれば、町を超え国境を越え世界中に普及していきます。農業で言えばハードウェアとしてのドローンがその例です。
ところが“地方”社会でそれらを普及させるためには、地域全体で理解を醸成するハードルを乗り越えることが求められます。さまざまな方の意見をうかがって、懸念を一つずつ潰して納得感を作っていくことも、私としては仕事の醍醐味を感じる瞬間ですし、“ハードルを乗り越える気合”が自分たちの存在価値そのものであると考えています。
山岸:私は、日本で生まれ、日本で育ちました。ですから、“農業の人手不足”という日本にとって重要な課題に取り組めていることに充実感を感じます。
もちろん、海外で働くことは、刺激的でスケールの大きいことに取り組めることと思いますし、今も昔も人気があることも理解しています。ただ、日本で働くことの見逃されがちな魅力が、農業の仕事には詰まっているように私は感じます。昔お世話になった人のことを思い浮かべると、ものすごく高い壁に直面しても、不思議と力が湧いてくるものです。
今になって思うと、幼いころ「インデペンデンス・デイ」に感じた憧れは、“宇宙”という表層的な部分ではなく、“力を合わせて目前の課題を乗り越える”ことだったように思います。 なじみのある場所の身近な課題の解決に全力を注げていることは、幸せなことであると日々感じます。
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ドローン適期防除サービス|ピンポイントタイム散布|株式会社オプティム
https://www.optim.co.jp/agriculture/services/pts
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