新規就農に向けて取得しておきたい農業関連資格 5選

農業に魅力を感じ、ゼロから新規就農を検討している方々は、農業を始めるための土地や資金、なにより栽培する作目選びやその栽培技術の習得など、たくさんやるべきことがあります。

それらと同時に、新規就農するにあたって身につけておきたい、あるいは身につけておくと役に立つ農業関連の資格もあります。いったん就農してしまうとなかなか時間もありませんが、研修期間前にこれらを学んでおくと、いざというときに役に立つはずです。

今回は、農作業の基礎とも言える畦畔等の草刈りや農業機械の操縦に役立つ資格として「刈払機取扱作業者」と「農業機械士」、スマート農業の時代において持っておいて損はしない「ドローン操縦士回転翼3級」、農業経営の安定に資する資格として「農業簿記検定」といったものをご紹介していきます。



自動車運転免許(小型特殊・大型特殊・けん引)


農作業において一般的に使われるトラクターやコンバインなどは、そのサイズや公道を走行するかどうか、スプレーヤーなどの装備を付けているかどうかによって、必要な免許が変わってきます。

最高速度が時速15km程度で、車両サイズも小さめのトラクターは小型特殊車両という位置付けです。これは、普通運転免許を持っていれば運転可能で、持っていない場合でも学科試験に合格すれば取得できます。

より大型のトラクターやコンバインを運転したい場合は、大型特殊免許が必要になります。こちらは全長12.0m以下、全幅が2.5m以下、全高が3.8m以下となっており、大規模農業法人などで使われるタイプのものです。ただし、農機限定の大型特殊免許も存在しています。

さらに、これらの大型農機を運搬するためにトレーラーなどを使用しなければならない場合は、けん引免許も必要になります。こちらは普通運転免許に加えて、実技と学科の講習・試験が必要です。

16歳以上18歳未満の方は小型特殊免許があればトラクターを運転できますし、18歳以上の方であれば普通免許があれば、運搬用の軽トラックなども含めてなにかと便利でしょう。大型特殊免許は、大型農機を扱う可能性がある方だけが取得すれば十分です。

資格の運用機関・格式


自動車運転免許は国家資格であり、運用は都道府県の公安委員会の管轄となっています。自分が操縦するものに合わせた免許を取得する必要がありますが、農業に関して言えば、大型特殊免許(普通運転免許も所持)を持っていればたいていの農機は運転可能です。

取得方法


小型特殊免許は満16歳以上から受験でき、筆記試験のみで取得できます。普通運転免許は必要なく、原動機付自転車と同様の扱いです。

大型特殊免許は満18歳から取得可能で、こちらは普通運転免許に加えて独自の学科と技能教習が必要となり、卒業試験に合格することで取得できます。

けん引免許は、普通自動車などを持っていることを前提として、追加の技能教習を受けた上で、卒業検定に合格することで取得できます。

取得費用


小型特殊免許は受験料、交付料を合わせて3500円程度です。当然、試験に合格しなければ取得できません。

大型特殊免許は普通運転免許があれば、約10万円で取得可能です。

けん引免許は普通運転免許があれば、17万円前後となっています。

刈払機取扱作業者


厚生労働省が「刈払機取扱作業者に対する安全衛生教育について(平成12年2月16日基発第66号厚生労働省労働局長通知)」により、農業生産者に資格取得を推奨しているのが、「刈払機取扱業者」という資格です。その目的は、「刈払機を使用する作業の安全を確保し、かつ、刈払機取扱作業者に対する振動障害を防止するため、当該作業に従事する者に対し、必要な知識等を付与する」ことです。

「平成29年に発生した農作業死亡事故の概要(農林水産省資料)」によれば、動力刈払機での草刈り中の事故は、2008年(平成20年)の3件に対して、2017年(平成29年)は12件と、ここ10年間で4倍に増えています。

農作業には、畦畔等の草刈り作業が必須となります。この資格を有していなくても刈払機を使った作業はできますが、自らの安全確保や、他者の巻き添え事故回避を図るため、新規就農者にとって取得が望まれる資格です。

資格の運用機関・格式


安全衛生団体として、一般社団法人 労働技能講習協会、一般社団法人安全衛生マネジメント協会、コマツ教習所株式会社、コベルコ教習所株式会社などが講習を実施しています。なお、資格の格式は民間資格です。

取得方法


資格運用機関が実施する「刈払機取扱作業者に対する安全衛生教育カリキュラム」を受講する必要があります。その内容は、学科教育5時間(刈払機の点検および整備、振動障害および予防などに関する知識など)と実技教育1時間(刈払機の作業、点検・整備など)から構成されます。このカリキュラムを修了した者には、修了証が交付されます。

取得費用


機関によって若干の差異がありますが、労働技能講習協会の場合は受講料+テキスト代で9,900円(税込み)となっています。


農業機械士


農業生産コストの削減による効率的な農業経営を行うためには、農業機械が大きな役割を担っており、その操作等に関する知識が不可欠です。また、「平成29年に発生した農作業死亡事故の概要(農林水産省資料)」によれば、農作業中の死亡事故に占める農業機械作業に係るものは、毎年約7割と高い状況です。

このため、農業機械士は、農業機械の構造、簡易な修理、作業安全、運転操作等に必要な知識および技能を修得した者を育成することを目的としています。新規就農者にとっては、農業機械に関する知識の向上や、自らの安全確保を図るため、持つことが望ましい資格と言えます。

資格の運用機関・格式


各道府県知事が運用し、認定証を交付する公的資格となっています。

取得方法


全国の道府県に設置されている農業大学校による養成研修を数日受講する必要があります。研修終了後に行われる検定試験に合格すれば、知事より認定証が交付されます。ただし、大型特殊自動車免許(農耕車限定)の講習がカリキュラムに組み込まれていない場合は、研修に先立って取得しておく必要があります。

なお、地域によって、受講内容、研修期間、受講資格、取得費用等の運用が異なるので、詳細は道府県のホームページを確認してください。

取得費用


例えば、京都府立農業大学校の場合、2019年(令和元年)度の養成研修(検定試験含む)に要する経費は、研修テキスト2,000円程度、傷害共済料400円程度、大型特殊自動車免許(農耕車限定)受験手数料4,650円(既取得の場合は不要)となっています。

ドローン操縦士回転翼3級


人口減少や高齢化に伴う労働力不足を補うため、ドローンを用いた農薬散布による農作業の効率化が注目されています。他方、ドローンによる農薬散布に当たっては、航空法や農薬取締法に関する知識がなければなりません。

具体的には、国土交通大臣の事前承認が必要となる飛行形態「危険物輸送」、「物件投下」に該当するとともに、農薬のドリフトが起こらないよう注意する必要があります。この飛行承認に当たっては、資格条件は求められていませんが、一定の技能や知識が必要とされています。一定の水準を上回ることができるように技能修得の支援を目的につくられた資格が、「ドローン操縦士回転翼3級」です。

現在、農業分野における労働力不足が深刻化している中、農業生産の効率化に資するドローン操作技術を修得している者は法人等の雇い主から重宝されています。法人等への就職を目指す新規就農者にとって、取得が望ましい資格と言えます。

資格の運用機関・格式


一般社団法人ドローン操縦士協会(国土交通省の登録管理団体であり、小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会の構成員)が運営している民間資格です。

取得方法


年齢(15歳以上)、視力、色覚等の適性要件を満たした者が、全国各地にある認定校で所定の講習を受講し、修了後、ドローン操縦士協会へ資格申請が可能。認定料を振込み、オンライン講座を受講後、認定されることになっています。詳しくは、ドローン操縦士協会のホームページを参照してください。

取得費用


認定料は2万5,000円となっています。

農業簿記検定


2019年(平成31年)1月から「収入保険制度」が新たに始まりました。これは、「農業をされている方の経営努力では避けられない、自然災害や農産物の価格の低下などで、売上が減少した場合に、その減少分の一部を補償する保険」です。

対象者は青色申告を行っている農業者となっており、簿記に関する知識が不可欠です。そのスキルを修得することを目的とした資格が、「農業簿記検定」です。収入保険制度の適用など農業経営の安定に資するものなので、新規就農者にとって役に立つものと言えます。

資格の運用機関・格式


一般社団法人日本ビジネス技能検定協会が運営している民間資格です。

取得方法


毎年7月と11月の2回実施されており、日本ビジネス技能検定協会のホームページを通じて申し込みができます。また、難易度に応じて、1級(財務会計・原価計算・管理会計)、2級(財務会計・原価計算)、3級(財務会計)に分かれています。

取得費用


1級4,400円、2級2,200円、3級1,650円となっています。

まとめ


農林水産省が食料・農業・農村基本計画の見直しの中でとりまとめている「農業労働力の見通し」においては、このままの趨勢が続けば、49歳以下の青年層農業就業者が2015年(平成27年)の35万人から2030年(令和12年)には28万人まで減少するとされています。そのため、2030年時点で37万人確保されるように、農業の内外からの青年層の新規就農を促進する目標を打ち出しています。

このように、新規就農者は農業を救う人材として注目を浴びています。今回紹介した資格が新規就農を検討している方々の参考になれば幸いです。


刈払機取扱作業者に対する安全衛生教育について
https://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-41/hor1-41-24-1-0.htm
平成29年に発生した農作業死亡事故の概要
https://www.maff.go.jp/j/press/seisan/sizai/attach/pdf/190128-1.pdf
一般社団法人ドローン操縦士協会
https://d-pa.or.jp/
日本ビジネス技能検定協会 農業簿記検定
http://www.jab-kentei.or.jp/agri-boki/
食料・農業・農村基本計画:農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/k_aratana/
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WRITER LIST

  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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