【農家コラム】農家の嫁、55歳からの就農。新規就農経験から考える、有機栽培とスマート農業の相性

「SMART AGRI」をご覧のみなさん、こんにちは。55歳で本格的に農業を始めた農家の嫁のさとうまちこです。

今回は有機栽培とスマート農業について考えてみました。

時代の最先端をいくテクノロジーが、まるで時が止まってしまったかのように昔ながらの方法で農業を続けている「お百姓さん」にとって無用の長物なのか、それとも夢の技術なのか。

小さな農家にもできるスマート農業はあるのでしょうか。

雪に覆われた畑

やってみて初めてわかった、有機栽培の困りごと


1年間有機農法で野菜を育ててみて、慣行栽培とは違って難しいと感じたことは、生育段階での害虫被害と草取り作業でした。虫食いを見つけたと思ったらあっという間に広がっていくのです。

農薬を使うことはできないので、酢とにんにく、とうがらしで防虫剤を作ってみましたが時すでに遅し……。春に植え付けたキャベツとブロッコリーはほぼ全滅でした。

「健康な土壌で育てた野菜には虫食いはない」「正しい土壌管理がカギ」と言われますが、土壌改良もまだ十分ではない我が家の農地では、その効果を期待するにはまだまだ時間と労力がかかりそうです。

しかし、せめて家庭で消費するくらいの野菜は作りたい。

夏野菜はポットで育てている段階から酢ととうがらしで作った自家製防虫剤を吹き付けたり、毎日すみずみまで観察をして、虫を見つけたらその場で駆除したりとこまめに防虫対策を施しました。


終わりが見えない除草作業に疲弊する心身


雑草対策もこれまではマルチシートを敷いていましたが、もみ殻で代用してみました。草が出てくるところは少しありましたが、予想以上に効果があったので、もみ殻マルチは今後も続けていきたいです。

もみ殻マルチ
畝の雑草はある程度その方法で防げますが、畝間や周りの雑草は抜いても抜いても生えてきてキリがありません。ここ数年の異常な夏の暑さもあって、日中はおろか早朝や夕方でも気温が下がらず草取り作業はなかなか進みませんでした。

有機肥料を入れて土壌を改良中のため最低限の野菜だけの栽培ですので、何も植え付けていない圃場は夫にトラクターでうなって(耕して)もらい、物理的に雑草を畑に混ぜ込んでいました。

わたしはわたしで、管理機を駆使して混ぜ込みという名の草取りをしていたわけですが、燃料費もバカにならず……。これが仕事だとはいえ、有機農法での一番の厄介ごとが雑草対策だと言われることに納得した夏でした。

防草シートの活用も頭をよぎりましたが、できるだけ農業資材の廃棄物も減らしたいので、手間だけれど草取り作業を頑張るしかないのかな〜と思っていました。

夏の苦行

雑草は伸びる前に削り取れ


そんな時に、草を取るのではなく生やさないようにすればいいのだと、「SMART AGRI」の記事で見つけました。

「伝統的な草取り」を再現した小型除草ドローンが有機農業を変える

草を刈るのではなく、草を生やさない

草が伸びてくる前に、芽が出るか出ないかの時に草の芽を「削り取る」のです。

目から鱗とはまさにこのこと。

でも、わたしが知らなかっただけで義祖父はずっとやっていたことだったのかもしれません。無知は罪だなと痛感しました。

除草ならぬ草削りドローンは、畑の草取りはもちろんですが、田んぼの畦や土手の除草など、夏の農作業の中でトップクラスできついわたしの作業にとっては救世主です。

畔の草刈り

我が家の田んぼは山間にあり、大きさも形もさまざまです。イノシシ被害の対策で電気柵を巡らしているので、刈払機で草刈りをするとよく電気柵のワイヤーを一緒に絡め取ってしまうのです。

単にわたしの草刈りが下手なのかもしれませんが、結構な頻度で起こしてしまうのでストレスになっているのは間違いありません。

小型除草ドローンの大きさや高さにもよりますが、活用できれば夏の畦の草刈り作業は劇的に楽になると思います。

それに、夫が刈払機で足を切るケガをしたという苦い経験があるので、そういったことへの安心面でもドローンやロボットを導入できたらという思いもあります。


小さな有機農家にとってスマート農業は高嶺の花?


有機栽培、慣行栽培に関わらず我が家のような中途半端な小さな農家にとって、今以上の投資は正直難しいです。

以前、隣町にある梨農家のお手伝いに行った時に聞いた話ですが、試験的にドローンでの農薬散布を行ってくれる会社があるので使ってみませんか? と近隣の農家さんに尋ねて回ったところ、1軒も契約が取れなかったそうです。

果物の産地として有名で、町を挙げて果物観光に力を入れている場所ではあるのですが、例に漏れず後継者不足に悩まされていて、これからさらにお金をかけて大きくしていこうなんて考える農家さんはほとんどいないのが現状です。

年老いて、これまでの作業がつらくなってきたら、規模を縮小して徐々に畑を畳んでいく準備をしている農家さんが多いのだと思います。


誰のため、何のためのスマート農業か


会社組織ではなく家族で農業を営んでいる場合、仕事をすれば雇用主から従業員に給与が支払われるというシステムではないので、極端なことを言えば人件費がかかっているという考えがない農家さんが多いと思います。

ですから、品質や収量が格段にアップするのであればスマート農業を取り入れる意味はありますが、人件費削減や作業の軽量化が理由では難しいのでしょう。

まして有機栽培では慣行栽培よりも収量は落ちると思いますし、販路の確保も難しいです。有機肥料のみで栽培していたとしても、「有機野菜」として出荷・販売するためには厳しい条件をクリアしなければなりません。

「有機農家です」と胸を張って野菜作りや販売を行うための道のりは遠く、そこが確立できないうちは新しい試みに挑戦したくても躊躇ってしまうというのが本音です。

春のある日

今あるものを活用して始めるスマート農業


スマート農業と聞くと、AIロボットやドローンなど高額な費用と高度な技術が必要というイメージがあります。

実際のところスマート農業を取り入れることの不安として

  • 初期費用が高い
  • 人材の育成・確保が難しい
  • 機器間の互換性が少ない
  • 抵抗感がある

などが挙げられています。

でも調べてみると、パソコンで作業の記録をしたり、収穫量などのデータを取り込むことで次年度の生産計画を立てたり、スマホやタブレットを使うことでその場で記録・管理がスムーズに行えるということもスマート農業のひとつなのだそう。AIを用いた天気予報を参考に作業工程を組むこともスマート農業です。

先人たちがノートとペンで書いていた作業日誌がパソコンになり、スマホやタブレットを活用することで複数の作業者同士での情報共有も容易になりました。

見たこともない大きな機械やロボットを想像してしまい、スマート農業はお金がかかって難しいものという先入観に囚われている人が多いと思います。実際わたしもそう思っていたので、今までの通りのやり方で細々と農業を続けていければいいと考えていました。

でも、パソコンやスマホでデータの記録や管理をすることで次の作業にスムーズに取り掛かれるのであれば、効率化も図れます。

なので、今すぐに取り入れられるスマート農業として、作業や生育の管理ができるアプリで記録をすることから始めています。マップを使って圃場の場所や面積も登録できます。

一日の終わりに作業内容を思い出しながら書くのではなく、その場ですぐに記録できるので、使った肥料や資材も簡単に管理できてとても便利です。

いつか叶えたいこととしては、やはり小型除草ドローンです。除草作業を軽減できることはとても魅力的ですから。

まずは土壌改良を進めながら、農作物の収量と品質を安定させていくことが当面の目標です。

人の知恵とテクノロジーの力。上手に組み合わせて、これからの農業の発展につなげていけたらと思います。

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WRITER LIST

  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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