【農家コラム】有機トマト農家での研修! 慣行栽培と味やコストはどう違う?

「SMART AGRI」をご覧のみなさん、こんにちは。三重県でトマト農家として新規就農した北島芙有子です。

前回の記事では、新規就農から有機トマトの販路を見つけてきた道のりについてお話ししました。

【農家コラム】初めての有機トマト栽培、販路開拓はどうやった?

東京都品川区で、小中学校の給食の全野菜を有機農産物にする取り組みがなされるなど、有機農産物への注目度が上がっています。

私自身は、有機だから慣行だからというよりも、個々の農家さんの栽培技術や品種の違いなどが、味に大きく影響するのではないかと考えています。

今回はそんな中でも、私が農業研修で学んだこと、有機栽培と慣行栽培のさまざまな違い、についてお話ししたいと思います!



就農前に1年間の農業研修を選んだ理由


農業をする上で「栽培」と「販売」どちらも大事になってきますが、販売がうまくいくためにはそもそも、野菜がおいしく、価格に見合った質や価値がなければならないと思います。

そのためにまずは栽培技術をしっかり身に付け、安定しておいしい野菜を育てられるようになろうと思ったことが、農家さんの元で研修を受けることに決めた理由の一つです。

農業未経験から新規就農する場合、まずは農業大学校に通ったり、農家さんの元で研修して栽培技術を身に付ける人が多いと思います。

私の場合は最初から「有機でトマトを育てたい」という目標があったため、トマト農家さんでの研修を決めましたが、もしまだどんな野菜を育てたいか決まっていない人は、農業大学校であればさまざまな作物の栽培法を学ぶことができます。

また、慣行農業から有機農業、自然農法など、農家さんによってもさまざまな農法があるため、いろいろな研修先を見学させてもらうのがおすすめです。

その中で、自分が育てたい野菜、やりたい農業のスタイルなどを見つけていくのがいいと思います。

個人的には以下の理由から、就農前に農家さんでの研修を選んでよかったと思っています。

  • 地元のコミュニティになじみやすくなる
  • 農家さん同士のネットワークに参加できる
  • 日々リアルな農業に触れることができる

地元で長年農業をされているからこそ、人脈が広く、お付き合いのある資材屋さんなども紹介していただけたり、移住して農業を始めた私にとってはいろんな面でとても助けになりました。

また、研修中は土づくりや苗の植え付けから収穫、販売、片付けまで、一年を通して日々の作業を手伝いながら見ることができたため、より自分が独立した後のイメージを掴みやすかったです。

苗を移植するためのポットの準備

研修先での育苗の様子


有機と慣行の違いから学んだこと


私が一年間の農業研修で学んだことについてお話しします。

私にとって初めての農業経験は、慣行栽培の農家でのアルバイトでした。そのため、その後研修をさせていただいた有機栽培の農家さんとは、栽培・販売方法などにさまざまな違いがありました。

有機と慣行の違い(1)栽培方法の違い


有機栽培では化学農薬を使わないため、病気や害虫は発生してからでは抑えることが難しく、予防を徹底することが大事になります。

また、有機肥料化学肥料よりも効きが遅いため、野菜が弱ってから追肥をするのではなく、毎日の成長具合をしっかり観察して、弱る前に施肥をすることが大事なことも学びました。


有機と慣行の違い(2)栽培コストの考え方


有機と慣行で、栽培にかかるコストの違いもあります。

例えば栽培に必要なマルチやビニールなどの資材は共通ですが、有機では農薬を使わないため、その分の肥料や農薬にかかるコストは抑えられます

一方、有機栽培用の肥料は単価が高いことが多かったり、特に追肥に使う有機液肥は、有機質の原材料のみを使用しているため、そもそもの肥料分が少なく、作物が必要とする肥料分を追肥で供給しようとすると、かなりの量が必要になってしまいます。

もちろん、高価な化学肥料や安価な有機肥料もあり、年々肥料や農薬価格が高騰していることから、一概にどちらがコストがかかるとは言えませんが、おいしさにこだわるといい肥料を使用することになるため、どちらもそれなりのコストがかかってしまいます。

また、コストの違いにもつながる話ですが、有機栽培では農薬や除草剤を使わないことから、害虫の駆除や除草などを人力で行うため、それらの作業に多くの時間がかかってしまいます。

収穫した野菜も慣行栽培よりも見た目が悪いものができてしまったりするので、出荷準備にかかる手間も多くなります。

これらの理由から、労働時間をコストに換算すると、有機栽培の方がよりコストが高くなります。

研修中のもみ殻堆肥作り

研修中のハウスのビニール張り替え


有機と慣行の違い(3)味はどう変わる?


有機と慣行野菜の味の違いについては、個人的には、どちらも栽培方法や気候、土地によって味に差があり、人によって重視する点や好みも違うため、どちらがよりおいしいかは断言できないと感じました。

しかし、慣行栽培の農家さんでアルバイトした後に、初めて有機のトマト農家さんで研修して感じたのは、同じトマトでも育て方、気候、栽培時期などによってここまで味が変わるのか、ということでした。

あくまで2つの農園のトマトを味わった私の感想ですが、アルバイト先の慣行栽培のトマトは味が濃くしっかりしていて甘味と酸味のバランスがよく、研修先の有機栽培のトマトはやさしい味でコクが深く、食べた後もトマトらしい味が長く舌に残るようで、どちらもそれぞれのよさがあるおいしさでした。


有機と慣行の違い(4)収穫タイミングの違い


もう一つ気付いたことは、研修先の有機栽培のトマト農家さんは、「トマトが赤くなってから収穫する」「新鮮なうちに販売する」ことにこだわっていたことです。これはアルバイト先の慣行栽培の農家さんとは全く違う方法でした。

慣行栽培のアルバイト先ではJAへの全量出荷だったので、集荷場に持って行ってから各地へ輸送されて数日後に販売されるため、「できるだけ青いうちに収穫する」という方法でした。

初めて青いトマトを収穫した時に、「本当にこれで収穫して大丈夫なのだろうか?」と不安になるくらいの青さでしたが、夏場のトマトの色付きの速さは驚くべきもので、朝に少し赤くなったものをすべて収穫しても、夕方にはまた赤くなっているものを見つけることになります。

一方、直売や地元の市場に出荷している研修先の農家さんは、できるだけ赤い状態まで熟すのを待ってから収穫し、すぐにお客さんの元に届ける方法です。

やはり収穫したばかりのトマトは、トマトらしい香りと味が強く、青い状態で収穫したものは、日数が経つにつれて風味が落ちていくという違いがあると感じました。


これらの研修で学んだことが、今の私の農業の基盤となっており、自分の目指す農業を実現すること、有機栽培を続けることの自信につながりました。就農後に直面する困難や問題を乗り越えていくために、研修中にできるだけ多くのことを経験して、視野を広げることが大事だと思います。

次回は、よりよいトマトづくりに向けて、私の栽培のこだわりや工夫について紹介する予定です。

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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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