最適な時期を狙った共同防除を実現する「ピンポイントタイム散布サービス」最新事例

自治体やJAが防除を希望する生産者を募り、地域ごとにまとめて実施することで「防除コストの抑制」「地域全体を一度に防除してしまうことによる害虫の発生抑制」といった効果が期待できます。

しかし、共同防除の多くは実際に散布する際の作物の生育状況や、天候などの状況が未確定な前年度のうちに日程等を確定させなければならないケースがほとんど。いざ散布するという日に「自分の圃場はまだ散布の時期ではない」「大幅にスケジュールが遅れてしまっている……」といった経験をされた方もいるのではないでしょうか。

また、自治体やJA側にとっても、希望する生産者の集計や実施状況を把握するための散布地図の作成、さらに当日は現地確認などの付き添いといった事務作業があり、想像以上の負担があるとも聞きます。誰かの希望に合わせれば誰かの希望には合わないという、共同防除のメリットとデメリットの板挟みになってしまうことも多いようです。

ピンポイントタイム散布とは


そのような状況を解決するために、2022年から株式会社オプティムがスタートさせたのが「ピンポイントタイム散布」、通称「PTS」というサービスです。

農家の知見をスマート農業で実現する「ピンポイントタイム散布サービス」とは
https://smartagri-jp.com/smartagri/3886


これは防除希望者の集計、対象圃場のデジタル地図の作成などをオプティムが請け負い、生産者が求める最適なタイミングで農薬を散布するというもの。結果的に、農薬等の使用頻度・使用量を抑えながら防除の効果がより高められ、高品質で低コストな農業を実現できると期待されています。



確かに、もしこれが実現できれば個々の生産者が行う防除作業の手間、知識、資材コストが抑えられます。さらに地域内の賛同者が増えれば増えるほど、地域全体での防除効率が上がることになります。「みどりの食料システム戦略」にある環境への配慮や、農薬使用量の削減といった目標を実現するためにも有効な方法となりそうです。

そこで本記事では、サービス開始初年度となった2022年に実際に「PTS」を利用した地域の事例から、具体的な効果やメリット、今後の課題などを取材しました。

事例1  「PTS」で病害虫被害が10%削減(千葉県・東庄町)


千葉県東庄町(とうのしょうまち)で55haの米を栽培する大規模農業法人を営む高安敏郎さんは、農業法人として「PTS」を利用されました。担い手がいなくなった近隣の圃場を引き受けることが年々増え、規模拡大とともに作業期間も長くなり、適期防除ができなくなりつつあったそうです。


「これまで、ラジコンヘリによる共同防除は1回だけの散布。出穂時期がずれる作付けの品種については、結局自分で動力噴霧器を使って散布するしかありませんでした。ですが『PTS』では、効果が最大限発揮できそうな1週間くらいの期間内でタイミングを合わせて散布していただけました。ヘリに比べてドローンだと農薬がドリフトする心配も少ないので、当日立ち会う必要がないところもよかったですね」

適期に散布した効果をたずねると、「収穫作業しながらでもわかるぐらい、目に見えて病気やカメムシによる黒い粒が少なかった」と高安さん。「食用米は色彩選別機を通していますが、従来のヘリ防除と比べると弾かれる米もだいぶ減らせました」とのこと。

さらに、基本的には準備・作業ともに丸ごと委託することになりますが、作業の状況を逐一報告してもらえるところも安心感につながったと言います。

「散布してほしい圃場をGPSやパソコンを使って場所を伝えるだけなので、進行状況の共有がとてもスムーズでした。作業状況もパソコンを見ればすぐにわかるところが良かったですし、担当者とのコミュニケーションも取れるので心配はなかったです」

高安さんとしては次回以降も依頼したいとのことでしたが、すでに行政側も「PTS」での共同防除を検討中とのこと。「これまでと比べて確実に適期散布の効果が感じられるはずです」とも語っていました。今まで防除の繁忙期は1人多めに雇っていたそうですが、外注にした方が人手不足も解消されると、今後に期待しているとのことです。

事例2 自治体レベルで「PTS」を導入し約1000haを18日で散布(新潟県・関川村)


自治体レベルで「PTS」を導入・実施した例が、新潟県関川村です。

関川村役場を筆頭に、にいがた岩船農業協同組合、新潟県農業共済組合、関川村土地改良区などの村内の農業関係機関が協力し、「関川村農業DX推進協議会」を設立。その取り組みの技術的なサポート役としてオプティムが携わることとなりました。


これまで農業共済が村内の一部の地区に限定して取りまとめを行っていた共同防除を、協議会主体のドローン共同防除に移行。その取りまとめを「PTS」に依頼し、村内すべての地区を対象に延べ1000ha実施しました。

村内の各地区ごとに、作付けされる品種特性に合った散布日を設定したことで、18日間の適期散布が実施でき、お米の品質に関わる等級下落率も下がったとのこと。

その年の気象状況を踏まえて最適な防除時期を見極めることができる「PTS」を活用することで、これまでの共同防除では調整が難しかった細かい品種単位での適期防除も実現が可能です。

事例3 丹波黒の枝を痛めずに農薬散布を実施(兵庫県・丹波篠山市)


もうひとつは、「PTS」による散布時期の柔軟性が奏功した事例です。

兵庫県丹波篠山市では、県の丹波農業改良普及センターと、地元のJA丹波ささやまが協力して、2022年に「PTS」に取り組みました。対象作物は、丹波篠山が誇る米と丹波黒(枝豆・大豆)の2品目ですが、まずは丹波黒(枝豆・大豆)から段階的に導入を開始しました。

丹波黒(枝豆・大豆)の課題は、散布できる農薬の種類が少ないことでした。一般的に、一斉防除は散布期間の幅が読めないので、効果期間が長い浸透移行性の農薬が使われています。

今回の散布効果が確かめられれば、周辺への影響が少ないドローンを使うことも考慮したいとのことでしたが「PTS」は2022年から始まったサービスなので、丹波黒(枝豆・大豆)の生育状況などのデータがそろっていませんでした。

そこで、散布適期のアルゴリズムを特定するため、農家の散布希望日と生育状態を観察しながら地域の散布適期体系を検討。その上で、農家が希望する「この日」というタイミングに合わせて散布するという、最も効率的で効果的なタイミングでの防除を実現しました。


丹波ささやま農業協同組合(JA丹波ささやま)営農経済部 営農指導課課長の寺本吉彦さんは、「丹波黒(枝豆・大豆)にヘリで農薬散布すると、ヘリの風圧(ダウンウォッシュ)により大豆の木に痛みが出てしまう可能性が指摘され、影響が小さいドローンの方がいいという声がありました。ドローンはヘリに比べて低い位置でも飛ばせるので、まんべんなく散布でき、効果が高くなることにも期待しています」と語ります。

「丹波篠山地区も新しい住人が増えてきました。ヘリは農薬のドリフトや飛行時の騒音などによる苦情も一部にあります。でも、ドローンは静かなので苦情もありません。丹波黒(枝豆・大豆)だけでなく、水稲の方でもいずれは省力化になるのではないかと思っています」と、将来的には水稲での「PTS」導入も検討しているそうです。

まとめ


従来の共同防除は、コスト面では有利でも、もはや個々の農家のタイミングに合わせることは難しくなりつつあります。

「PTS」のような適期散布の登場で、より効率的に防除効果を高めることができ、個々の農家が我慢する必要もなくなっていくかもしれません。

すでに「PTS」では個人だけでなく自治体や地域ぐるみでの取り組みも進められており、誰にとっても有益な共同防除の新しいかたちが、これからのスタンダードになっていきそうです。

ピンポイントタイム散布|オプティム

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 加藤拓
    加藤拓
    筑波大学大学院生命環境科学研究科にて博士課程を修了。在学時、火山噴火後に徐々に森が形成されていくにつれて土壌がどうやってできてくるのかについて研究し、修了後は茨城県農業総合センター農業研究所、帯広畜産大学での研究を経て、神戸大学、東京農業大学へ。農業を行う上で土壌をいかに科学的根拠に基づいて持続的に利用できるかに関心を持って研究を行っている。
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    大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
  5. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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