【農家コラム】農家の嫁、55歳からの就農。有機農業1年目を振り返る

「SMART AGRI」をご覧のみなさん、こんにちは。

55歳で本格的に農業を始めた農家の嫁のさとうまちこです。

今回は慣行栽培から有機栽培への切り替えに挑戦した2024年の振り返りをお話ししたいと思います。

経験も知識もないところからのスタートで、壁にぶち当たりつまずくことばかりでしたが、多くの気付きを得ることもできました。

失敗と反省の繰り返しから見えてきたものとは……?


これまでとこれからを考えたとき


義父が亡くなった後すぐに義母も病に倒れ、否応なしに農業をやらざるを得なくなったわたしたち夫婦。初めのうちはこれまでの通り、慣行栽培でお米も野菜も作っていくつもりでした。

というより、これまでの経験や周りの農家さんの見よう見まねで作業していたので、他の方法など考えもつかなかったのです。

でも、本格的に就農してから無我夢中で農業をしてきて、ふと思いました。

わたしは自分で考えて農業をしているのだろうか?

とにかく田畑を荒らすことなく農業を続けていければいいと思い、周りの農家さんのまねをするだけ、義母の教えのままに作業するだけ、資材屋さんが薦める物をなんの疑いもなく使うだけで本当にいいのだろうか?

主な収入源を農業に頼っていない兼業農家だからこそ、新しい試みにチャレンジしてみるのもいいのではないのだろうかと。

「メルカリ」での経験で農作物のネット販売は可能だと実証できたけれど、知識も経験もまだ乏しい小さな兼業農家がつくる野菜たちをどうすれば消費者に届けることができるのかと考えたときに、日々食事を作っている人たちは何を考えて食材を選んでいるのだろうと思ったのです。

食べることは休めないのでやはりできるだけ出費は抑えたい。でもそれ以上に、毎日の食事が健康に繋がっているので、“安心安全なもの”を求めるのではと思うのです。

そしてたどり着いたのが「有機農法」です。

できるだけ自然な形で農作物の栽培を行うことは、健康にも環境にも良く、販売を考えたときに小さな農家にとって最大の武器になると思いました。

でも、有機栽培に切り替えることは口で言うほど簡単ではありませんでした。


肥料を育てる楽しさ


まずは先代から続く慣行栽培で使用していた農薬や化学肥料にまみれた農地を改良していかなくてはなりません。

さらに、有機栽培野菜として販売するにはさまざまなことをクリアしなければならないのです。

周りの農家さんとの兼ね合いもあるのですぐには実現できそうにありませんが、とりあえずは自分が作る農地に関しては有機農法を取り入れてみようと思いました。

そこで、2024年の一年間は野菜の栽培は最小限にして土壌改良を重点的に行ってきました。

春夏野菜の植え付け前に肥料を入れて畑を耕しますが、いつも使っていた化成肥料ではなく、有機農法に切り替えるために有機肥料を入れます。春に植え付けをした野菜たちも有機肥料のみで栽培をしました。

有機肥料はもちろん販売されていますが、わたしは「ぼかし肥料」作りに挑戦しました。肥料や農業資材の価格高騰も理由の一つですが、やるからには肥料も自分で作ってみたかったのです。

ぼかし肥料を作る工程には大きく分けて「好気性発酵」と「嫌気性発酵」があります。

どちらが作りやすいかは人それぞれだとは思いますが、初めてなので完成するまでの期間が短い「好気性発酵」で作ってみました。

もみ殻(もみ殻燻炭が良いそうですがわたしは生のもみ殻を使用)と米ぬかを主として、油カス、鶏糞肥料、腐葉土を混ぜ合わせ、そこに発酵を促すために納豆とヨーグルトをミキサーで攪拌したものを入れます。

それらを衣装ケースの中で発酵させるのですが、定期的に空気を送り込み、発酵温度の上がり過ぎを防ぐために、毎日毎日攪拌しなくてはいけません。手間はかかりますが、夏場なら10日前後、冬なら1カ月ほどで完成します。

発酵が進み白カビが発生して、全体に行き渡るようにかき混ぜる作業をしていると、野菜を美味しくするための肥料を育てている、という実感が湧いてきてとても楽しいのです。

▲ぼかし肥料作成中
また、ぼかし肥料を作りながら、夫に木枠で作ってもらったコンポストに落ち葉や生ごみを入れて肥料の作成を試みています。

今年の冬には家の植木やかき、ゆずの木を剪定した後の枝もガーデンシュレッダーで粉砕して肥料にしてみようと挑戦中です。

捨てるものは何もない。

自然の循環が土を健康にしてくれて、その土で育つ野菜たちがわたしたちの体を作ってくれるのです。

2024年の一年は少し栽培面積を減らして、土作りに重点を置いて作業をしました。ほとんど野菜が栽培されていない畑を目にして義母は少し寂しそうですが、2025年以降きっと美味しい野菜ができると信じています。


農薬に頼れない! 雑草や害虫に負けない野菜を作るには


土壌の改良や有機肥料の効果が実感できるようになるには、それなりの時間がかかります。

目で見てわかるものではないのかもしれませんが、微生物たちの働きが活発になってくれば土の状態も変わってくるのかなとは思います。

気長に土作りに励んでいる一方で、昨年の夏も命の危険を感じるほどの暑さに加え、定期的に雨が降ったので野菜の育ちは良かったものの、それ以上に雑草の伸びが驚くほどでした。

除草作業が追いつかず、さといもが雑草に負けてしまったことはとてもショックでした。これは暑さを理由にしたわたしの怠慢も原因ですが……。

マルチや防草シートを敷くことも考えましたが、農業廃棄物も削減したいので抜いた雑草や藁、もみ殻を畝に敷いてみました。

また、昨年は害虫の発生も例年に比べて多かったような気がします。

酢にとうがらしとにんにくを漬け込んで防虫スプレーを作ってみたり、虫を見つけたらその都度処理して増えないようにしました。

▲にんにくととうがらしで作った自家製防虫剤

もちろん防虫ネットを使用したりと思いつく限りの対策はしましたが、特に春夏野菜の害虫被害は大きかったです。


美味しい野菜を虫は食べない!?


気候が変わってきているからなのか、今まで見たことがなかった虫も発生しています。

健康な土壌で育った美味しい野菜には虫がつかないとも聞きます。

健康に育った野菜は農薬なしでも味はもちろん、見た目も変形したり小さすぎたりせず立派に育つのだそうです。

これは光合成にも深く関係しているのだそうです。

光合成とは植物が空気中の二酸化炭素を取り入れて、酸素と糖分を作ることをいいます。酸素は空気中に排出されますが、糖分は地中の窒素と結合してタンパク質になるのだそうです。

昼に光合成をして、夜は糖分を使って養分を合成するのですがそのサイクルが狂ってしまうと糖分と窒素の結合がうまくいかず、合成されずに残った糖分を多く含んだ葉が害虫の格好の餌となるのです。

つまり、害虫は農薬を使わない野菜につくのではなくて養分の合成が不十分な野菜につくということらしいです。

野菜が健康に育つためには健康な土壌が必要です。

そんな場合は有機肥料や堆肥を入れて土壌の改良をする必要がありますが、肥料の入れすぎも逆効果になります。窒素が多すぎると今度はタンパク質を合成する前のアミノ酸が増えてしまいます。アミノ酸も糖分と同じく虫の大好物。

野菜が虫食いだらけになってしまうのは、土壌の栄養不足か肥料の与えすぎのどちらかになるのですが、それを見極めるには熟練の技と日々の観察、管理が重要になります。

農家1年生のわたし、そんな技術が身につくようになるのはいつになるのか……。


初めての有機栽培で収穫できたものは?


2024年は土壌の改良を中心に作業を進めることにしたので、野菜は必要最低限しか栽培しませんでした。じゃがいも、さといも、にんじん、キャベツ、きゅうり、なす、ピーマン、トマト、たまねぎ、だいこん、かぶ、ほうれんそう、小松菜。

さといもは雑草に負けてしまい、キャベツは見事なくらい虫の餌食となってしまいました。じゃがいもとたまねぎは全体的に小ぶりだったので、これは肥料不足が原因かなと思います。きゅうりやなすなどの夏野菜は、気温が高く程よく雨も降ってくれたので順調に育ってくれました。

畝にはマルチシートの代わりにもみ殻を敷いて雑草の伸びを防ぎましたが、やはり、予想以上に効果がありました。

ピーマンは秋になって気温が低くなってもしばらくの間収穫できていました。

まだ土中には以前使っていた化成肥料の成分が残っているので、完全な有機栽培とは言えませんが、生育に関しては大きな問題はなさそうです。

▲じゃがいも掘りを手伝う孫

▲有機農法で作った赤だいこんとかぶ

2025年へ向けての改善点


今後の課題としては、引き続き土壌の改良です。

我が家の畑は1カ所ではなく何カ所かに点在しているので、その畑ごとの土の性質を見極めて植える野菜を考えなければいけません。

川のすぐそばにある畑は砂地で水持ちが悪く、肥料を入れても雨が降ればすぐに流れてしまいます。天気が続くとカチカチに固くなってしまう畑なので、土寄せの必要がないマルチ栽培にしようかとも思っています。

1年、2年後、さらにはその先のことまで考えて、植え付けする野菜と場所の計画を立てたいと思います。

▲イノシシが壊した水路

健康な農地で安心安全な野菜作りを目指して


我が家はずっと慣行栽培で野菜を作ってきていました。

でも、正直なところわたしはこれまで農業に関してはあくまでも「手伝い」というスタンスで関わってきていて、これから先の農業のあり方や栽培方法を真剣に考えてはいませんでした。

おそらく義祖父母も義父母も有機農法や自然農法などに切り替える気などなかったので、もし義父母が今も元気で農業を続けてきていて、わたしたちが仕事を退職してその後を継いだとしたら、慣行栽培のままだったと思います。

ある日突然、農家を継がなければならなくなり途方に暮れましたが、考えようによっては良い意味で大きな分岐点となったのかもしれません。

長年の習慣を変えることは容易いことではありません。

周りの農家さんが慣行栽培を続けているのは、こだわりがあるとか有機農法を否定しているとかではないのです。ただずっとその方法で野菜を作ってきた知識も経験もあるから変える必要がないのです。

そういう意味で、わたしたちは知識も経験もまっさらな状態と言えます。

わたしはこれまで、農業に対して天候や自然災害、害虫、害獣対策など「自然との闘い」というイメージを持っていました。

でも一年間、自分なりに有機農法に取り組んでみて感じたのは、農業は「自然との共用・共生」が大事だということです。

もちろん、さまざまな障害に合わせた対策は必要です。

まだまだ未熟者ですが、日々のひとつひとつの作業から学びを得て安心安全な野菜を育てて行きたいです。

SHARE

最新の記事をFacebook・メールで
簡単に読むことが出来ます。

RANKING

WRITER LIST

  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
パックごはん定期便