みかんの産地、和歌山県有田市が新規就農者と既存農家をマッチング 「AGRI-LINK IN ARIDA」の先進性

株式会社リクルートと和歌山県有田市は3月14日、「和歌山県有田市・リクルート 新たな就農支援スキーム記者発表会」を開催し、新規就農者獲得のための包括的就農支援スキーム「AGRI-LINK IN ARIDA」を、2019年4月1日より運用開始する。

株式会社リクルート 執行役員(経営企画)の柳川昌紀氏(左)と、有田市市長の望月良男氏(右)

有田みかんが市場で認められにくいジレンマ

人口3万人を切る和歌山県有田市の基幹産業である「有田みかん」は400〜500年の歴史を持つブランド。しかし、近年は農家は元気がなく将来を案じているという厳しい環境で、農業を持続的に発展させられるかというのが大きな課題となっていた。

有田市市長の望月良男氏は、「大切に育てた有田みかんが、市場に出ると数あるみかんのひとつになってしまう。ブランド価値を高め、高い値段でも認めてもらえる方法はないか、ということで、リクルートさんに協力いただきました」と、リクルートとの協業について、今回の経緯を語る。

リクルートと有田市は、2017年3月に地域振興を目的とした「Cheers Agri Project IN ARIDA」プロジェクトを立ち上げ、2年にわたって実証実験を展開。厳正な審査により基準をクリアしたものだけを有田QUALITYとして認定する「原産地呼称管理制度」や、ふるさと納税への取り組み、農家意見交換会や販路拡大講座による地域の農家自身による土台づくり、ドローンによる農薬散布実験などにも取り組んできた。また、地元高校生たちの就農体験などで有田みかんへの思いを醸成する、地域を挙げた取り組みをしてきた。

今回の就農支援スキームでの具体的な運用方法としては、事業継承マッチング、就労・技術マッチング、農地マッチングという3つで構成されている。

農地提供者、受け入れ農家、新規就農者それぞれの課題

「AGRI-LINK IN ARIDA」の具体的な内容について、株式会社リクルート 地方創生プロジェクトの小林慶太氏から説明がなされた。

まず、新規就農支援の新たなモデルを構築するにあたって、有田市のすべての農家に調査したところ、490軒(56%)の農家が現在も将来も後継者の見込みがないと回答した。農地削減、つまり耕作面積を減らしたいと考えている農家は36%にあたる316軒にものぼる。

実際に農家の生の声を聞くと、担い手の平均年齢は64歳と体の問題なども出てきてはいるものの、やめてしまうと一気に農地が衰退し、自分の農地はよくても結果的に隣の家の農地にも影響が出て迷惑がかかってしまうため、「厳しくてもやめられない」というのが切実な声だったという。

その一方で、農地を拡大したいと考えている農家も5%存在している。それならば、農家同士で相談すればいいようにも思えるが、やめそうな農家に農地を譲ってほしいと聞くということは農家同士の心情として非常に難しく、もし聞いてみて断られてしまうと2度と聞けない、という意味でも、ニーズは合致しているにもかかわらず、「聞きたくても聞けない」というジレンマがあった。

さらに、近年新たに農業に携わりたいと考えている新規就農者の数が増えていると言われているが、全国新規就農相談センターの2016年度調査によれば、就農1年目にかかる費用は569万円、実際の研修期間は1年以上2年未満という方が43.3%という数字も出ている。農業に興味があるけれど、「やりたいけどやれない」という現実も見えてきた。

過去の状況から農地の価値を評価

こうして、農地所有者(農地削減意向農家)の「やめられない」、拡大意向農家の「聞きたいけど、聞けない」、そして新規就農者の「やりたいけど、やれない」という三者をつなぎ、それぞれにメリットを享受できるようにするための仕組みが、「AGRI-LINK IN ARIDA」となっている。

この新規就農支援を実現するためのポイントとして、小林氏は、
  1. 農地の価値を可視化する
  2. 価値を3者でシェアする
という2点を挙げている。

株式会社リクルート 地方創生プロジェクトの小林慶太氏

過去の収量、栽培履歴などから農地に適切な賃料を設定

これまで耕作放棄地として栽培をやめてしまった農地は、タダ同然の価値となってしまい、わずかな賃料で貸し出す以外には、耕作放棄地として手入れもされずに放置されることが大半だった。農地データベースにも、住所、面積、栽培品種などの基本情報しか記録されてこなかった。しかし、一般的なビジネスにおいては、飲食店の跡地などであれば、売り上げが上がりそうな立地であれば価値が加えられて取引されている。

そこで「AGRI-LINK IN ARIDA」では、「農地DB」という仕組みにより、過去2年間の取り組みで取得した農地の「売上情報(販路、収量、単価)や、農地の所有者がこだわってきた栽培方法、農地所有者のこれまでの努力と農地に対する誇り、そして立地、面積、方角といった農地の基本状況などを保管。その価値に応じた適切な賃料を農地提供者に支払う。

耕作放棄地として栽培がストップしてしまうと、土地は痩せ、過去のような収量を実現するためには時間がかかってしまうが、「農地DB」が特徴的なのは、直近まで耕作されていた農地を引き継げるという点にある。新規就農者にも土地を確認してもらい納得して営農してもらう。これならば、その土地ならではの栽培方法などもわかり、売上情報や収入、販売単価などの見通しもたつというわけだ。

農地の価値を3者でシェアし、メリットを享受

もうひとつは、削減意向農家、拡大意向農家、新規就農者の3者で、その農地の“価値”をシェアできるようにするという点だ。

削減意向農家には「農地DB」というかたちで適切な賃料として、拡大農家には売上・収益の向上として、新規就農者には1年目から作業料というかたちで支払うことで、畑の価値を3者で共有できるようにする。単に金銭的な価値だけを提供するわけではなく、農家の気持ちに寄り添うように配慮されている。

たとえば、農地提供者は、見ず知らずの新規就農者に任せるよりは、信頼できる人に大切な農地を預けたいと考えている。そのため、地元の信頼できる農家に管理してもらうことを前提としている。

受け入れる農家側からすれば、トラブルや難しい交渉をイチから行うことなく、農地を拡大したいという課題を解決できる。

そして、新規就農者は受け入れ農家と業務委託契約を結び、その農地を管理して作物を栽培することで、経験不足な1年目から収入のメドがたつほか、受け入れ農家から農機具などを借りたり紹介をうけることでイニシャルコストを削減しつつ、間違いのない就農準備と栽培ノウハウを享受をすることができる。個人で飛び込むのは難しいことの多い地元のコミュニティなどにも、受け入れ農家との関係から所属しやすくしてもらえるといったメリットもある。

これら、3者をつなぐ役割は自治体が担い、新規就農者への市独自の補助金も150万円を2年間提供し、橋渡し役として活動する。有田市としては2019年は4名の新規就農者分にあたる600万円の予算を計上しており、今後成功事例となれば予算お拡大していていく意向だ。

さらにリクルートとしても、自治体や地元の大手農家と連携し、最終的に新規就農者がスムーズに就農し、独立できるよう、ブランディングや新規就農者の集客、販売などを支援する同社のサービス「Lierco」などを活用して支援していく。

現状、農地1ヘクタールあたりの売上としては約360万円を見込んでおり、受け入れ農家の利益、土地の賃貸料、新規就農者への業務委託料などをそこから分割。市独自の150万円の補助金と業務委託料を合わせて、新規就農者でも250万〜300万円ほどの年収を得られる計算となっている。

有田みかんについて考えるきっかけに

ここから、実際に2年間のプロジェクトを進めてきた当事者たちの感想や課題を伺うトークセッションが開催された。

右から、リクルートの柳川氏、有田市市長の望月氏、金嘉農園の酒井能章氏、株式会社早和果樹園 取締役専務の松本将輝氏

まずは、「AGRI-LINK IN ARIDA」スタートに際しての感想を伺った。

有田市の望月市長は「いろいろなことがありましたが、1歩目を踏み出して、これから有田市が主体的に立ち上がって頑張っていけるんじゃないかという感覚を持っています」とコメント。

株式会社リクルート 執行役員(経営企画)の柳川昌紀氏は、「有田市のみなさんに感謝したい」と述べ、「リクルートのミッションとして『機会格差の解消』というものがあり、そのなかでも『地方創生』は大切なテーマ。具体的にどう取り組むかを我々も考えていたときに、有田市と実証実験を繰り返すことができました。自治体、リーダー農家と細かいところまでご一緒できたことでノウハウが共有できたし、仕事の難しさも見えました」という。

家族経営のみかん農家として実証実験プロジェクトに参加した金嘉農園の酒井能章氏は、「これまでは“おいしいみかん”を作れば売れると思っていました」と以前の考えを振り返りつつ、「最初は興味本位から参加させてもらいましたが、昨年夏の販売講座を経て、商談会に参加して話をするなかで、みかんの可能性も感じたし、必要とされていることを実感しました。直接売買できることで収入アップにつながったし、今後も続けていきたいです」と成果を実感している。

また、農業生産法人 株式会社早和果樹園 取締役専務の松本将輝氏は、「有田のみかんについて再認識するきっかけになった」と話し、「有田市にはみかん課があり、それまでは私たちもみかん課との対応だけでした。ですが、この2年間それ以外のいろいろな課の人たちも集まって有田みかんについてどうするかという話をしてくれて、リクルートさんも来てくれて、市が本気でみかんについて考えてくれていると感じました。(プロジェクトは)有田の農家にはプラスになっているし、有田市全体が盛り上がってきているという実感があります」と実感のこもったコメントをしていた。

息子に「農業やらんか」と自信を持って言えるように

その一方で、現在の課題として望月市長は「400年、500年という歴史を経て、2年間だけの策ですべてが変わるということはありえない。でも、農家ひとりひとりがアクティブになることで化学反応やイノベーションが起きてくる。有田の立地は気象条件が厳しい時ほど、有田みかんを買えば間違いないとおっしゃっていただけるのが嬉しいし、ここには“本物”があります。有田のみかんが“本物”であるということを具現化することの大切さが、リクルートさんとの協業で少しわかってきたような気がします。これからさらに自分たちが発展させていきたい」と述べた。

酒井氏は、「攻めの農業」に取り組んできた意義を語り、「みかん作りに関して、攻める考えでおいしいみかんを作る努力をしてきたが、2年前からは販売にも取り組んで攻める農業にしました。もっと収入も上げて、自信を持って高校生の息子に『農業やらんか』と言えるようにしたいですね」と語った。

さらに松本氏は、高齢化という有田の農家の課題をあらためて見据えて、「盛り上がってはきたんですけど、有田に限らず、農業を第一線でやっている人たちは80代くらいの僕らのおやじかそれ以上の代ばかり。その人たちがあと何年農業できるかというのが問題になっています。みかんの数が減ったら値段上がるというわけではないし、やめてしまうとすぐ空き地になって荒地になってしまうということが、目の前の課題としてありますので、そのあたりを今後も考えていきたい」という。

どの地域にもある“本物”の農産物を誇りに

最後に、「AGRI-LINK」のスタートに際してそれぞれの意気込みを伺った。

「なんとかしないといけないことをかたちにしていくこと。課題さえもふんわりとしかわかっていませんでしたが、有田市はみかんで、もう一度ここに生まれた誇り、いい街に住んでいるのだ、といういいサイクルにしていけたらと思っています。
全国的にも農業は大変なところばかりだと思いますが、どの地域にもある“本物”をどう誇りに変えていくか、というのが悩ましいところ。このような取り組みで先頭を走る私たちの役割や責任も大きいと思います(望月市長)」

「自分だけでなく、地域としてもっと有田みかんを上手に広めれば、まだまだみんなに知ってもらえる機会はあると思います。商談会などで直接消費者の声を聞けて、“おいしかった”と言ってもらえるとモチベーションも上がります。そんなかたちで、今後も続けていきたいですね」(酒井氏)

「『農業やろうよ』という声も世の中的に増えていますが、みかんは果樹であり、コメ、野菜などは栽培方法もやりかたも全く違います。みかん農業に人が増えて、山地を守ってもらえるように期待しています。また、みかんだけでなく、こういうかたちでどんどん全国に広がってくれたらと思っています」(松本氏)

なお、有田市への新規就農を希望する人は、有田市みかん課にて電話のほか、ウェブサイトのお問い合わせフォーマットからも問い合わせを受け付けている。

<参考URL>
有田市就農PR
スマートアグリフーズ直送便(スマ直)
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WRITER LIST

  1. 三好かやの
    みよしかやの。しがないかーちゃんライター。「農耕と園芸」「全国農業新聞」等に記事を執筆。八王子市ユギムラ牧場でかぼちゃの「いいたて雪っ娘」栽培中。共著『私、農家になりました。』(誠文堂新光社)、『東北のすごい生産者に会いに行く』(柴田書店)等がある。http://r.goope.jp/mkayanooo
  2. 山口亮子
    やまぐちりょうこ。フリージャーナリスト。京都大学卒、北京大学修士課程修了。時事通信社を経てフリーに。主に農業と地域活性化、中国を取材。
  3. r-lib(アールリブ)
    これからのかっこいいライフスタイルには「社会のための何か」が入っている、をコンセプトにインタビュー記事やコラムなどを発信するメディア。r-lib編集長は奈良の大峯山で修行するために、毎年夏に1週間は精進潔斎で野菜しか食べない生活をしている。
  4. 水尾学
    みずおまなぶ。滋賀県高島市出身。大学卒業後、電子機器関連業務に従事。2016年に自家の柿農園を継ぐと同時に、IoT農業の実現を目指す会社、株式会社パーシテックを設立(京都市)。実家の柿農場を実験場に、ITを駆使した新しい農業にチャレンジしています。
  5. 窪田新之助
    くぼたしんのすけ。農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。 2015年11月に発表される「農業センサス」で明らかになる衝撃の事実! 日本の農地は急速な勢いで大規模化され、生産効率も急上昇……輸出産業となる!! 日本経済団体連合会(経団連)も2015年1月1日、発表した政策提言『「豊かで活力ある日本」の再生』で、農業と食のGDPを合わせて20兆円増やせるとした。これは12兆円の輸送用機械(自動車製造業)よりも大きく、インターネット産業や金融・保険業に肩を並べる規模──日本のGDPは500兆円なので、農業が全体の4%を占める計算になる。「コメ農家は儲けてない振りをしているだけですよ」「本気でやっている専業農家はきちんと儲かっている」など、日本中の農業の現場を取材した渾身のレポートは、我々に勇気を与える。日本の農業は基幹産業だ!日本発「ロボットAI農業」の凄い未来 2020年に激変する国土・GDP・生活自民党農林水産部会長の小泉進次郎氏は語る。「夜間に人工知能が搭載された収穫ロボットが働いて、朝になると収穫された農作物が積み上がっている未来がある」と──。21世紀の農業はAIやビッグデータやIoT、そしてロボットを活用したハイテク産業、すなわち日本の得意分野だ。その途轍もないパワーは、地方都市を変貌させて国土全体を豊かにし、自動車産業以上のGDPを稼ぎ出し、日本人の美味しい生活を進化させる。大好評『GDP4%の日本農業は自動車産業を超える』に続く第2弾!

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