【FARM DOI 21・大坪さんの農家コラム】この時代に「農業」するということ

SMART AGRI読者の皆さん、はじめまして。福岡県大川市にあるFARM DOI 21で代表を務めます、大坪雅喜と申します。


筑後川下流域の肥沃な土壌と温暖で比較的安定した気候に恵まれた環境のもと、現在、基本家族経営で、博多あまおうを21アール、普通作(米・麦・大豆)を20ヘクタール作付けしています。

我がファームでは2017年秋から、数年後に控えた両親の家業からの完全リタイヤに対応すべく、家族経営から雇用型大規模経営へとその経営方針をシフトしてきました。

現在、農業界にはTPPにみるグローバル化や不安定な農業政策、また生産者の高齢化による後継者不足、極端な気象条件と、時代の流れに順応し発展していくためには課題が山積しています。しかしながら、今だからこそその課題を克服していく「農業経営」に大きなチャンスがあるのではないのでしょうか。私は、これからの社会的な価値観の転換期を迎えることにワクワクしています。

曇りなき眼で将来を見定め、農業経営者として人間力を高めながら、新しく魅力ある農業のカタチを確立する。そのためにできるだけ自ら動いて世界を広げ、農業界の周辺の立場いる方々と繋がっていく日々を送っています。


今回、「SMART AGRI」のSNSの「ライター募集」に応募し、このような機会をいただきました。日々農業の生産現場に携わるという立場から消費者の皆さんに「農」の魅力や現状を伝えたり、同じ農業者の皆さんには農業経営に関わる問題提起ができれば幸いです。どうぞよろしくお願いします。


なぜ「農業」なのか

さて、SMART AGRIに訪れている農業者の皆さんは、今どうして「農業」を生業として生活をしているのでしょうか? いろんな場面において価値観が大きく転換するこの時代にこそ、今一度考えてみませんか。

家業が農業だから。

農地があるから。

農業高校を卒業したから。

自然にふれることが好きだから。

植物や動物を育てるのが好きだから。

食に関心があるから。

稼ぎたいから。

人に使われず自営で力を試したいから。

どうしても農業で実現したい夢があるから……。

育ってきた環境や経験によって、その人それぞれの多様な考え・理由があります。どの理由が正しくて尊いというものはありません。


ただ、理由の根底に、自分の将来の姿を想定できるかどうか、というのは大きなポイントだと思いますとなります。私は、“人は想定した以上の人間にはなれない”と考えています。運良くなれたとしても、それは砂上の城、土台がないのでいっときの間浮かれるだけで、かえって不幸になるのではないのでしょうか。

日々の暮らしの中での言動が、将来の自分を形づくっていきます。今やっていることが将来の理想像に近づくために、エネルギーの投入量やタイミング、方法といった面で最適なのかどうか、定期的に確かめていきたいですね。


「宿命」だった農業との出会い

プロフィールでもふれていますように、私は非農家出身です。結婚したいなぁと好きになった人が農家の娘であったことから、私と農業の接点が生まれました。

結婚後、妻との将来の人生について話し合う中で、自然の流れに身を任せる形で、義理の両親が培った土台のもと就農しました。そして、長女が小学校に入学するタイミングで「大坪家」に婿養子として迎えられ、本格的に農業の後継者としての人生が始まりました。


表面的に見るといかにも受身的な人生です。ですが、他人が「大変でしょう」と渋い顔で気遣われるのとは裏腹に、のびのびと生きたいように人生楽しませてもらっています。それは常になりたい自分像を持ち続け、しかし周りとの調整を図りながら自分の人生を選択してきた結果だと振り返ることができます。

つまりは、身の回りで起こる出来事や環境もとらえ方次第で、今置かれている立ち位置が幸にも不幸にもなるということ。人生の主役は自分。自分の人生は、すべて自ら責任と覚悟を持って選択していく。そんなふうに考えることができれば周りに幸せを求めることも、愚痴を言う必要もなくなります。

「宿命に生き 運命に挑み 使命に燃える」

これは故・小渕恵三元総理大臣の言葉です。これまでの私の人生はある意味外的要因からの影響が強かったですが、最終的にこの命をどのように真の人生のゴールのために使い果たすのか。まだまだ永く続く人生の、大きくて難解な問いとなっています。

一度しかない人生、受身的ではなく主体的に、前向きに生きていきたい。そしてまた、職業として選択している「農業」に対しても、前のめりの姿勢で積極的に取り組んでいきたいですね。

この章の最初に皆さんに問いました、なぜ「農業」なのか?

私の場合、それはまず宿命として「出会ってしまった」から。そして、地域の大きな担い手である農業経営体の後継者として迎えられた運命の中で、「自分の可能性を最大限に試してみたい」と思い、最終的に自分に待ち受けている「使命がどんなものか見定めたい」からです。


就農するにあたって、当初から農業に対して熱い思いがあったわけではありません。家業を継いで農業で生計を立てていきたいという思いは私より妻のほうが断然強く、私はそんな妻の願いに寄り添う中で、幸せな家庭を築いていけたらいいと思っていました。

農業経験ゼロからの就農までの経緯については、次回以降詳しくお話しさせていただきたいと思います。


この時代の、多様な「農業」のカタチを知る

農業にもさまざまな経営スタイルがありますよね。

日々の生産作業に追われてしまい、家と圃場の行き来ばかりになってしまうと、あたかも半径5kmの現実が世界のすべてであるかのように感じてしまいます。

実際私も就農して3年間ほどは、農家の生活リズムに順応し、さらに生産技術を習得するのに精一杯で、井の中の世界が農業経営のすべてだと錯覚していました。

しかしながらそんな私にも、就農して4年目、36歳の時に転機が訪れました。

もともと勉強が好きで、知らない世界に飛び込んで知識や経験を積んでいきたいという姿勢を認められ、青年部組織の地域代表として福岡県の組織に出向させていただきました。


いちご畑から、個性的で勢いのある、各地域代表の農業者グループの世界に浸かり感じたのは、農業経営の多様さでした。福岡県でも私が属する県南の久留米地区は、比較的主要な産地的作物に集中し、共販組織に属し生産を頑張るというのが一般的な農家像です。

しかし、大きな消費者圏を抱える福岡地区や小倉地区になると、地域ブランドを生かした直売メインの野菜農家だったり、不動産業が業務の大半だという農家がいたり、地域のリーダーとなるべく農政に熱心な農家がいたりと、その農業のカタチの多様さに一種の衝撃を覚えたのでした。

次回は、あらためて農業に出会ってしまうまでの経緯と、その農業を継承していくために「変わらないために変わること」を経営理念としてアップデートしてきた流れについてお話しできればと思います。

次回以降もどうぞよろしくお願いします。
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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