“循環”をテーマにした新しい農業のカタチ【後編】──農地所有適格法人「耕す」

Mr.Childrenなどの音楽プロデューサーとして活躍された小林武史さんが、ap bankでの活動をきっかけに循環型農業の実践を目指してオーガニック農園をやられていることは、農業関係者ならご存じかもしれません。今回、SMART AGRI編集部は「農地所有適格法人 株式会社 耕す」さんを訪ねてきました。

前編はこちら


──市場にもっと有機野菜の出回る量を増やしていくという目標についてもうちょっと詳しくお聞きしたいです。


日本の青果市場における99.7%は農薬を使ったいわゆる普通の野菜で、たった0.3%が有機野菜というのが現状なんです。その0.3%を、1%、10%というふうに大きくしていくのが僕らの目標です。
0.3%のニッチなパイを取り合っても意味がないので、僕らは有機野菜が普通の野菜と変わらなく流通するような状況をつくっていかなければならないと思っています。
有機野菜に取り組む生産者が増えないのは、扱ってもらえる売り場はあっても、動く量がやはり圧倒的に少なくて、儲かりにくい状況がそこにあるのも原因の一つだと思います。

つくってる人が少ないと、物流の問題でコストが高くなってしまうので消費者も躊躇してしまうし、もちろんそうなるとスーパーなどのお店も躊躇しますよね。
販売する側も、箱に入っているバラで仕入れたものを袋に小分けするには、有機JASの認証を取る必要があるんですけど、たかが数パックのためにはそんなことしてくれないですよね。だからどこのスーパーでも扱ってもらえるようにするためには、まずは量が必要なんです。

この日出荷の準備をしていた野菜

──でも実際にその実践は大変そうですね。

そうですね。もちろんそれは僕たちだけじゃ無理なので、多くの生産者を巻き込めればいいなと思っています。
同じ気持ちをもった生産者がどんどん増えてくれたら、有機野菜の枠は必ず広がっていくはずです。そうすればスーパーでも有機野菜のコーナーが広くなっていくし、価格も消費者が手に取りやすい価格に下がっていきますよね。
だからもし具体的に目標をあげるなら、スーパーの有機野菜のコーナーを全国規模でどんどんと広げていくということですかね。でも現状はホントにまだまだです。
こんな雑然とした環境で僕らみたいな若造が3人でやってる規模の「耕す」でさえ、一つの法人や農家としては、有機JAS認証の畑面積は千葉県で2、3番目くらいの規模なんです。だからもっと仲間を増やしていきたいです。

──いろいろな気持ちで取り組んでいるのが凄く伝わりました。そうした中で有機野菜をつくっていると苦労が多いと思うのですが、気持ちの持ち方としてコツのようなものってありますか?

常に完璧を目指しながらも、完璧に固執しないことが重要です。
ベストな方法だけを実践するのではなくて、どちらかというとベターの中のベストを選択し続ける方が最善だと思います。それはとても重要だなと。農業って完璧主義はダメだと思ってるんですよ。手をかけようと思えばいくらでもできるんですよ、時間さえあれば。
でも現実問題として季節の移り変わりや、天候を考えていくとそんなに悠長なことは言ってられないんです。もちろん種を撒く前にする土作りとか、そういう野菜を作る前の準備は完璧にやらないといけないですが、あとは自然が相手ですし、完璧を目指してたら間に合わないんですよね。

麦や稲を使って緑肥をつくる。新規就農では土作りに苦労することが多い

だから常に80%くらいを目指して走り抜けるようなイメージでやってます。
そうなると、品質を高めていくためには生産者の工夫が不可欠なんです。作業の効率化をはかるというのがずっと目の前の課題ですね。機械化は常に進めていこうと思っています。農薬に頼らないからこそ、機械化で効率化していかないといけないわけです。

農薬を使わない代わりにできるだけ機械化は進める

──なるほど。有機農業に対する心構えがとても伝わりました。ありがとうございます。最後にこの「耕す」を含めたkurkku fields(クルック フィールズ)の構想を可能な範囲で教えていただければと思います。

kurkku(クルック)はフィンランド語で「きゅうり」という意味で、このkurkku(クルック)というブランド名で、神宮前・代々木・スカイツリーエリアを中心にレストランやカフェ、バー、フードストアを展開しています。
そしてこの木更津にあるkurkku fields(クルック フィールズ)の中に、僕たちの「耕す」もあります。「耕す」はkurkkuという組織の一部なので、僕らとは別にkurkkuのメンバーもいます。

こちらの建物はkurkkuのスタッフの事務所やキッチンなどがある

kurkku fields(クルック フィールズ)は一次産業を基盤として、いろんなジャンルからそれぞれの文脈を持ち寄った「場」となるように構想されています。
具体的には「耕す」のように有機野菜を生産する以外にも、水牛を飼いチーズを作る場や、ピッツェリア、ベーカリー、シフォンケーキ屋、タイニーハウスの宿泊施設などが併設される予定です。
kurkku fields(クルック フィールズ)の真ん中にはもともとあった森を育てるプロジェクトも進行中で、現在千葉県に自生する広葉樹を中心にスタッフで1000本以上もの木を植えました。また東北でap bankが「Reborn-Art Festival」を開催したように、ここでもアートとの関わりを展開していく予定です。

kurkku fields(クルック フィールズ)の完成予想図

タイニーハウスの1棟目は以前あった牛舎の廃材を使って作られているそう

──物凄く多様な展開をしていく場になりますね! 牛舎までできるなんてびっくりです!

ピッツェリアで使用するモッツァレラチーズのために、北海道から水牛がチーズ職人と一緒にやってくるんです。あとは、僕らの「耕す」とは別で、エディブルパークという小規模の畑が別にあって、こちらでは多種多品目の野菜や、ハーブ、果樹などを栽培する予定で、今は畑作りをしています。
基本的には僕ら「耕す」のメンバーは有機野菜の大量生産に集中しているので、メインでそれらに関わることはないですが、畑作りのアドバイスなどはしていて、それぞれのプロジェクトを別々にこなしながら、緩やかに繋がっているという感じです。

エディブルパークは基本的に有機農法ですが、ひとつの農法に固執せず、土地や野菜にあった様々な農法(コンパニオンプランツなど)を柔軟に試して野菜や果樹、ハーブを作っています。
エディブルパークには担当者が1名いますが、フィールド(森づくりや、場内整備)担当、シェフやベーカリー担当なども含めて、みんなで畑作りをしています。イベントでお客さんを招いて野菜の植え付けや収穫をすることもあります。
抽象的な表現ですが「開かれた畑」として、畑作りから多くの方に関わって欲しいという気持ちがあります。

「耕す」は小品目大量生産で多くの有機野菜を市場へ出し、消費者に手にとってもらえる機会を増やすという目的があり、エディブルパークは多品目少量生産で、時には体験なども行いながら、まずは場内を訪れたお客さんやシェフに多様な野菜の魅力を伝えたり、料理のアイディアを刺激したり、食について考える機会を増やすという目的があります。同じ有機でも両者それぞれ違いや良さがあるわけです。

「耕す」のスタッフがkurkkuのスタッフに畑作りのアドバイスをすることもある

僕がこの環境に惹かれた理由のひとつは、世界観を共有した仲間がそれぞれの役割を頑張って、一緒にいろいろなことに挑戦していけることなんです。
先ほども言いましたけど、当時は生産から調理までして、お客さんの口まで届ける一連の流れを全部自分で完結させないとダメだと思っていましたが、ここではそれをみんなで分担しながら大きな流れをつくっていけるので。

──確かにそれは自分1人ではできない大きな流れができていきそうですね。

ほとんどのスタッフが同世代なので話もしやすいですし、みんなが専門知識や世界観を持ち寄って化学変化を起こす「場」みたいなものですね。
もちろんスタッフだけではなく、ここを訪れる人たちにとってもそういう場所であってほしいです。kurkku fields(クルック フィールズ)には、弱い立場の人もそうでない人も、多様な人を受け入れられる場所にしたいという願いがこめられているんです。

──物凄い壮大な構想があるんですね!! 

壮大という意味では、もともとはもっと大規模なテーマパークになるように考えていたんですが、小さな規模でも自然に人が集まってくるほうが、より良い循環を生み出していけるんじゃないかというふうに変わってきました。
特に今、kurkkuのスタッフは月に1回やるイベントやワークショップを通じて、どういう風にお客さんに伝えればお客さんの視界が変わっていくようになるか、試行錯誤しているようです。そのため、ベーカリー担当の人やシェフ、広報担当など、それぞれの役割がある人たちも一緒に畑や森をつくっています。
それはkurkku fields(クルック フィールズ)で自分たちが感じていることを、自分たちの言葉や料理でお客さんに伝えていきたいという想いがあるからです。

──イベントやワークショップというのは、どういうことをやってるんですか?

うちの農場では、平飼いしている日本原産の3種類の鶏がいるんですけど、生み落した直後の卵の暖かさを感じながら、料理研究家の方とご飯の炊き方から学んで卵かけご飯をつくって食べるというイベントを最近はやっていましたね。
あとは、9種類のジャガイモの植え付けのイベントをして、数カ月後にそのジャガイモの収穫と、9種類それぞれにあった料理をふるまうイベントを開催しました。植付けから参加されたお客さんから「食べ物の根っこの部分から子どもたちと知ることができてよかった」という言葉をいただきました。

エディブルパークに関しては、市場や都内のレストランに食材をおろすことを現在は考えていませんが、今後はシェフたちを呼んで(もしくは来たいと思ってもらって)エディブルパークで採れた食材にシェフたちが刺激受けて料理を作るイベントなんかを開催できたらいいなと考えています。
そういった体験を通して、参加された方々の考え方が変化してくることを意図して、kurkkuのスタッフが頑張っているようです。

平飼いの鶏は「岡崎おうはん」「ゴトウもみじ」「さくら」という3品種だそう

今は、イベントをやって自分たちも体験を通じて相手にどう伝えるかを学んでいるところです。そういう試行錯誤を繰り返して自然と対峙するとはどういうことなのかを学べる場にいろんな人が集まってくるといいなとスタッフ一同が思ってます。

──今日は貴重なお話をありがとうございました。またkurkku fields(クルック フィールズ)の進捗があったら取材に伺いたいと思います!


<参考URL>
株式会社 耕す

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WRITER LIST

  1. 三好かやの
    みよしかやの。しがないかーちゃんライター。「農耕と園芸」「全国農業新聞」等に記事を執筆。八王子市ユギムラ牧場でかぼちゃの「いいたて雪っ娘」栽培中。共著『私、農家になりました。』(誠文堂新光社)、『東北のすごい生産者に会いに行く』(柴田書店)等がある。http://r.goope.jp/mkayanooo
  2. 山口亮子
    やまぐちりょうこ。フリージャーナリスト。京都大学卒、北京大学修士課程修了。時事通信社を経てフリーに。主に農業と地域活性化、中国を取材。
  3. r-lib(アールリブ)
    これからのかっこいいライフスタイルには「社会のための何か」が入っている、をコンセプトにインタビュー記事やコラムなどを発信するメディア。r-lib編集長は奈良の大峯山で修行するために、毎年夏に1週間は精進潔斎で野菜しか食べない生活をしている。
  4. 水尾学
    みずおまなぶ。滋賀県高島市出身。大学卒業後、電子機器関連業務に従事。2016年に自家の柿農園を継ぐと同時に、IoT農業の実現を目指す会社、株式会社パーシテックを設立(京都市)。実家の柿農場を実験場に、ITを駆使した新しい農業にチャレンジしています。
  5. 窪田新之助
    くぼたしんのすけ。農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。 2015年11月に発表される「農業センサス」で明らかになる衝撃の事実! 日本の農地は急速な勢いで大規模化され、生産効率も急上昇……輸出産業となる!! 日本経済団体連合会(経団連)も2015年1月1日、発表した政策提言『「豊かで活力ある日本」の再生』で、農業と食のGDPを合わせて20兆円増やせるとした。これは12兆円の輸送用機械(自動車製造業)よりも大きく、インターネット産業や金融・保険業に肩を並べる規模──日本のGDPは500兆円なので、農業が全体の4%を占める計算になる。「コメ農家は儲けてない振りをしているだけですよ」「本気でやっている専業農家はきちんと儲かっている」など、日本中の農業の現場を取材した渾身のレポートは、我々に勇気を与える。日本の農業は基幹産業だ!日本発「ロボットAI農業」の凄い未来 2020年に激変する国土・GDP・生活自民党農林水産部会長の小泉進次郎氏は語る。「夜間に人工知能が搭載された収穫ロボットが働いて、朝になると収穫された農作物が積み上がっている未来がある」と──。21世紀の農業はAIやビッグデータやIoT、そしてロボットを活用したハイテク産業、すなわち日本の得意分野だ。その途轍もないパワーは、地方都市を変貌させて国土全体を豊かにし、自動車産業以上のGDPを稼ぎ出し、日本人の美味しい生活を進化させる。大好評『GDP4%の日本農業は自動車産業を超える』に続く第2弾!

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