農研機構、AI研究用スパコン「紫峰」と総合DBを導入 データ駆動型農業研究を推進

農研機構は、国内農業系研究機関で初となるAI研究用スーパーコンピューター「紫峰」、および農研機構内に分散して所有管理されている各種の研究データを収集・統合し、農研機構内外の研究者が分野横断的に利活用できるデータベース「NARO Linked DB(ナロ リンクド データベース)」の稼働を2020年5月より開始した。

データ駆動型農業の推進を目指す

AI研究用スパコン「紫峰」
政府が目標として掲げているSociety5.0実現のためのデータ駆動型農業の重要性の高まりや、農林水産省におけるスマート農業の促進などを受けて、農研機構でもAI研究およびデータ連携のための農業情報研究基盤の整備が求められている。そうしたことから、2018年10月に設立した農業情報研究センターに、人工知能研究用スーパーコンピューターおよび大規模データベースを整備。

国内の先進的な事例を参考にするとともに、農研機構内での計算機資源の利用状況を踏まえて、必要な計算機の能力・規模を算出し、計算速度1ペタフロップス(ペタはギガの100万倍、フロップスはコンピューターの性能を表す単位)の計算性能を有するAI研究用スーパーコンピューター「紫峰」と、データ容量3ペタバイト(300万ギガバイト)の大規模データベース「NARO Linked DB」を導入した。

紫峰に計算処理装置として搭載されている画像処理装置(GPU)「NVIDIA Tesla V100」は、AI、高性能計算などの計算分野において、1つで中央演算装置(CPU)100個分の性能を誇る高性能なもので、これを計128基搭載。複数のGPUを同時に利用して画像認識等を高速に実施したいAI研究者にも対応できる構成となっている。

計算性能だけでなく、Webブラウザを通した入出力、高速な画像表示を行うなど、対話形式による解析や画像処理を可能とし、パソコンのように扱いやすいスーパーコンピューターを目指す。さらに最新の機械学習用のプログラム群をあらかじめインストールした仮想化技術を導入して、利用者がこれらをすぐに利用できるようにしているという。

数ある研究データをひとつに集約

AI研究用スパコンと大規模統合データベースによる農業情報研究基盤イメージ図
これまで農研機構内の個々の研究センターや各部門で所有していた病害虫、気象、遺伝資源、ゲノム情報など各種の研究データについて、組織内での連携利用に向けた研究データベース運用ガイドラインを策定し、それに基づき、農研機構内全研究データの農研機構統合データベースへの一元的な集約を開始。

農研機構内の研究者がそれらのデータに横断的にアクセスして利活用するために、統合データベースでは、すべてのデータにメタデータ(著者、日付、ライセンス、内容など、データの属性を説明するためのデータ)を付与し、機構内全研究データの見える化・カタログ化を実現した。

データ間のフォーマットの違いなど異質性を解消し、AIによる分析を容易にすることで機構内での分野横断的な研究を加速。農業データ連携基盤WAGRIとも連携し、統合データベース内のデータを、WAGRIを介して安全に外部公開するシステムを設計・開発した。

なお、AIスパコンおよび統合データベースの導入は、富士通株式会社の協力により実現。双方の知見によるスーパーコンピューター向けのセキュリティ強化策や、新たな試みとしてリモートワークを活用した構築作業などを通してこれらの研究基盤が整備された。

AIスパコンと総合データベースの導入で可能になること

例えば、大量の画像処理が必要な画像からの病害虫の発生状況把握が従来よりもおよそ100倍(理論値:87倍)高速になることが想定される。具体的には、1ヘクタールのジャガイモ畑の画像から、画像処理でウィルス病発病株の検出をするのに従来の計算機資源ではおよそ200時間(個人のパソコンでは500日)かかるところ、紫峰では2時間で終わらせることができる。

また、統合データベースの活用によって過去の栽培記録や気象データなどから作物の生育や品質を予測する研究においても、貴重な学習データや開発した解析手法などを組織内で共有し、他地域や他の作目への適用を進めるなど、データ駆動型農業研究の推進に役立てることが可能になる。


農研機構 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
http://www.naro.affrc.go.jp/index.html
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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