東京大学、約19万に及ぶ小麦の穂画像「Global Wheat Head Detectionデータセット」を発表

東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構の郭威助教授らの研究グループは、圃場の光学画像から小麦の穂を検出する世界初のデータセット「Global Wheat Head Detection(GWHD)データセット」の構築に成功した。

この研究は、世界7か国・9研究機関の協力で行われたものである。郭威助教授らは、この研究を契機に「コムギのAI研究のための国際的な画像収集プラットフォームを構築することで、農学分野におけるAI研究の加速化に期待したい」としている。

https://www.shutterstock.com/ja/image-photo/wheat-field-on-sun-harvest-food-1085014505

小麦の栽培に関する調査は、単位面積あたりの穂数など主に目視を中心とした内容で行われているが、近年は労力の軽減などを目的に、AIによる画像解析や深層学習を活用した調査方法の開発が進められてきた。

しかし、現行の方法は限られたデータセットのみを用いて穂の検出モデルを作成しているため、異なる栽培条件、品種に対する汎用性がないことから、スケールアップすることが困難な現状にあったという。

また、穂の認識はコンピュータビジョンの研究分野でも難しい課題のひとつだった。理由として、観察条件、品種の違い、生育ステージ、穂の向きなどにばらつきがあるだけでなく、風によるぼやけの可能性や、密集した個体群による重なりなど、正確な認識を阻害する要因が多数存在するためだ。

そこで東京大学の研究グループは、汎用性のある穂検出モデルの作成を可能にするため、世界各国の研究者と協力することで、大規模で多様性に富み、ラベル付けされたコムギの穂画像データセットの構築を目標に研究を進めた。

各国で開発されている圃場での画像取得の方法。(A)手動による低コストな方法(B)ロボット(C)ガントリー(D)懸垂ケーブル式

品種や生育段階、栽培条件が異なる約19万のコムギ穂の高解像度画像の格納に成功


「Global Wheat Head Detection(GWHD)データセット」は、大規模で多様性に富むという小麦の穂画像をラベル付けして格納したデータセットだ。

同研究では、世界7か国9機関の研究者がそれぞれの国の栽培現場から、合計11のサブデータセットを収集。データの整合化を行い、標準となる合計4698枚の画像データを作成したという。

各研究機関で撮影された画像を決められた基準で整合
画像のサイズは、1024×1024ピクセルに統一され、人間の判断が必要な部分においてはコンピュータが提案する新たな解析技術を投入。複数名による再検討および手動修正を行い、最終的には品種や生育段階、栽培条件が異なる約19万のコムギ穂の高解像度画像の格納に成功したという。

格納に成功したGWHDデータセットの一例
研究では、画像取得のガイドラインおよびデータ共有の基準を示したラベル付けの方法も提案されており、小麦の穂の認識手法開発のためのベンチマークとしての利用も可能になっている。

郭威助教授らの研究グループは、この研究を通じて農業および研究現場のフェノタイピング(再現性の高い表現型解析技術)研究や人工知能を活用したAIツールの開発加速につなげたい考えを示している。


「Global Wheat Head Detection(GWHD)データセット」
http://www.global-wheat.com
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
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    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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