農林水産省、中山間地域等直接支払制度 第4期対策の最終評価を公表

7月25日に農林水産省では「第9回 中山間地域等直接支払制度に関する第三者委員会」を開催。この会議では中山間地域等直接支払制度の推進、2018年(平成30年)度の実施状況や、この制度でどういった効果が表れたかなどを議題として話し合われ、第4期の最終評価というかたちで、農水省より素案が発表された。

今回は、中山間地域等直接支払制度に関する第三者委員会で発表された評価や、これからの課題などを解説していきたい。


中山間地域直接支払制度とは

中山間地域直接支払制度は、耕作放棄地の増加や農業による多面的機能の低下、農家の高齢化を懸念し、農業生産条件において不利な状況をなくすために農家などに支払われる交付金制度。2000年(平成12年)から5カ年計画で実施されており、第1期対策(平成12年~16年)、第2期対策(平成17年~21年)、第3期対策(平成22年~26年)を経て制度を見直し、2015年(平成27年)度より第4期対策の取り組みをスタート。今年で第4期が終了となることから、第5期に向けてその最終評価の素案が提案された。

第4期対策での実績や効果等

全体の効果としては、60万人の協定参加者により66万4000ヘクタールの農地の維持、 2019年度中にはすべての協定で活動の目標が達成される見込みで、耕作放棄の防止、水路や農道などの管理、多面的機能の増進などを軸に活動している。

実際に女性や若者の参画を得た取り組みでは、新規就農者の確保や、協定参加者の中心となる人材を1050人確保したということもあり、農業で一番のネックである高齢化による人材不足に一役買っていると言える。

交付金を受けるために必要な活動

交付金を受けるためには、農家側が行わなければならない活動が規定されている。その内容に応じて、交付金の金額も変動する。

1. 農業生産活動を継続するための活動(単価の8割を交付)
耕作放棄地をなくす活動、水路や農地などの管理のほか、多面的機能を推進する活動を行うこと

2. 体制整備のための前向きな活動((1)+(2)により単価の10割を交付)
・農業生産性の向上(A要件)
  • 機械、農作業の共同化
  • 高付加価値型農業
  • 生産条件の改良
  • 担い手への農地集積
  • 担い手への農作業の委託
※A要件ではこの5つの項目の中から2つ以上選択し実施することが条件

・女性、若者などの参画を得た取り組み(B要件)
  • 新規就農者による営農
  • 農産物の加工販売
  • 消費、出資の呼び込み
※B要件では協定参加者に女性、若者、NPOなどを1名以上新たに加え、上記の3つの項目から1つ以上選択して実施すること

・集団的かつ持続可能な体制整備(C要件)
  • 協定参加者の農業生産活動などが継続困難となった場合に備えて、活動を継続できる体制を構築

交付金の単価は農地の状況によって異なるが、例えば急傾斜の田んぼの場合、10アールで2万1000円、緩傾斜の場合10アールで8000円となっている。

今後の課題と解決に向けて必要な取り組み


中山間直接支払制度により、耕作放棄地の防止、農地や多面的機能の維持の推進が図られていることから見ても、同制度は継続的に実施していかなくてはならないものとなっている。

ただし、より効果的に安心して制度に取り組むためには、農水省は第4期対策の最終評価(素案)として以下のような課題の検討が必要とまとめている。

・人口減少や高齢化による担い手不足を解消するため、集落の全体像を明確化し後継者育成や、人材確保、関係人口の増加などの取り組みを促進。
・集落機能が低下しており、集落協定の広域化や地域団体の設立を通じて、集落機能の強化し持続的な体制を構築。
・不利な条件にある中山間地域では、営農するにあたって農作業の省力化や農業収入の減少が問題となっており、スマート農業や高付加価値農業の推進により、生産性や付加価値を向上する仕組みを促進。
・中山間地域直接支払制度を実施するための事務負担や、交付金返済措置への不安を生じており、安心して制度に取り組めるための事務負担の軽減や、交付金返済措置の見直しが必要。

国策としての農業を維持し続けることと同時に、現状維持の農業から新たな利益を生む農業へと転換していく時期にあることは、農業関係者の誰もが感じているだろう。スマート農業の活用などにより、少人数で大規模な、それも中山間地や飛び地のような厳しい条件の場所でも収益を上げられるような働き方や構造の変革も求められている。

<参考URL>
第9回(令和元年7月25日)配布資料等:農林水産省
中山間地域等直接支払制度(第4期対策)の最終評価(素案)の概要(PDF)
農林水産省

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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