10月から始める農家の冬支度|来春のトラブルを減らす「病害虫・施設・農機・土壌」の確認ポイント

2026年は記録的な大雨や長雨に見舞われた地域が多くありました。千葉県や茨城県では、未だに雨の被害が残っています。

例年通りの月ごとの作業を進めることが難しく、今季の作業も来季の準備も手が回らなくなっている農家も多いでしょう。

こうした年は、今年起きた問題を一度振り返り、冬を越す前に何を済ませておくべきか、今何ができるかから考えた方が実情に合います。

この記事では、「病害虫・施設・農機・土壌」について、10月から来季に向けて着手できる冬前の対策を紹介します。



病害虫・雑草|冬の間に「どこに残るか」「どう動くか」を調べて対策しよう


収穫後、作物が存在しないこの時期は、一見“きれいな圃場”に見えます。しかし、冬の間息を潜めているだけで、害虫や病原菌の一部は土中、刈り株、残渣、雑草などに残っています。

冬前の対策として考えるべきは、単に「残渣を片付ける」のではなく、今年問題になった病害虫がどこで越冬しているのかです。

例えば、稲の害虫として知られるツマグロヨコバイでは、水稲の刈り株が幼虫の越冬場所になるため、収穫後に刈り株を粉砕してすき込むという方法があります。田植え直後に苗を食べ尽くしてしまうジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)も表に現れないだけでそのまま越冬するため、冬季の耕起が対策になります。

冬前にやっておきたいのは、

  • 今年特に問題だった病害虫は何か
  • その病害虫は土、残渣、雑草など、どこで越冬するか
  • その病害虫は耕うんや残渣処理で密度を減らせるか

を調べて、可能な対策を施しておくことです。

具体的には、今年の栽培記録や被害の写真を振り返り、問題になった病害虫を確認した上で、自分の都道府県の病害虫防除所が公開している図鑑や資料を参考にするのがよいでしょう。

そして病害虫を特定できたら、発生生態や越冬場所を調べます。あわせて、各都道府県が公開している「農作物病害虫防除指針」などで、収穫後の残渣処理、耕うん、雑草管理といった対策が有効かどうかを確認しましょう。

病害などの場合、土壌中に病原菌が長期間残るものもあります。一律に耕うんや残渣のすき込みを行えば解決できるわけではなく、それぞれの特性に合った方法を選ぶことが重要です。

また、この時期の農作業で注意したいのが、病害虫を別の圃場へ持ち込まないために、農機や長靴に付着した土の除去を徹底することです。

冬は「虫や病原菌がいなくなる季節」と考えるのではなく、「次作へ残す病害虫を減らせる時期」ととらえると、収穫後の片付け方や作業の慎重さも変わってくるはずです。ここで気を抜かずに、より徹底した対応をすることで、次作の苦労が軽減されます。


施設・設備|ハウスの冬支度は雪+融雪水の可能性、台風などの被害箇所を優先しよう


雪が降る地域では、ビニールハウスのパイプや筋交い、被覆材の点検・補強をこの時期に行うのが基本です。ただし、想定を大きく超える大雪が予想される場合には、被覆材よりもハウス本体を守る判断が必要になることもあります。

補強や除雪でも倒壊を防げないほどの積雪が見込まれる場合、屋根のフィルムを切ったり外したりして、骨組みに雪を載せない緊急措置が有効です。

フィルムを切断・撤去する場合は、作業前に農業共済組合などへ連絡し、共済の取り扱いを確認しておきましょう。園芸施設共済に加入している場合、事前に連絡せず被覆材を切断すると、共済金の支払い対象にならない可能性があります。

また、雪は解けた後には融雪水となり、今度は水による二次被害が発生することがあります。融雪水などがハウス内へ入らないよう、排水路や周囲の水の逃げ道も確認しておきましょう。

暖地や太平洋側など、比較的雪が少ない地域では、今年の台風や豪雨で水が入ってしまった箇所、強風を受けた面など、被害が出た部分から補修・補強する方が優先順位を決めやすくなります。

参考記事:大雪の前だけでは遅い? 10~11月に見ておきたい農業用ハウスの冬前点検ポイント


農機|「動けばOK」では不十分。「しっかり動作する」ように整備しておこう


トラクター・コンバインなどの冬季整備では、エンジンやオイル、バッテリーなどに目が向きます。こうしたメンテナンス箇所は、自家用車などと同様に定期的に行っている方も多いでしょう。

ただ、来春の作業をトラブルなく行えるようにと考えるなら、「農機自体が動くかどうか」だけではなく、「想定した通りに仕事ができるかどうか」まで確認したいところです。

例えば、特定の作業を行う農機の場合、1年に数回しか使わないと「まだ大丈夫だろう」と楽観的に思われがちです。耕うん爪が摩耗していてもトラクターは走りますし、播種機も動きはしても、種子や肥料の吐出量が設定どおりとは限りません。

冬のこの時期にチェックしたいのは、故障箇所だけではなく、正常に動作するかどうかの確認です。春の作業を始めてから故障や設定のずれに気づいても、作業適期を逃しかねません。

冬のうちに、次の箇所を点検・調整しておきましょう。

  • 耕うん爪などのパーツが摩耗していないか
  • 播種・施肥装置に詰まりや付着物などがなく、正常に動作するか
  • 農機の回転部や作溝部が正常に動くか
  • 設定した播種量・施肥量が実際に出ているか

目指すのは、春にエンジンがかかるだけでなく、作業開始から狙った精度で使える状態まで整備することです。


土壌|土壌診断を活用し、露地は「土を流さない」、ハウスは「肥料を入れ過ぎない」を徹底しよう


冬前の土づくりとして露地、特に傾斜畑では、豪雨や融雪による表土の流亡の可能性があります。後作緑肥を全面的にすき込まず、等高線方向に帯状の不耕起部分を残して、表面を流れる水と土を受け止めるといった方法もあります。実証では、部分不耕起だけで土壌流亡量が約20%減少するというデータもあります。

つまり、冬前にすべてきれいに耕すより、「春まで表土をどう残すか」を考えた方がよい圃場もあるということです。

一方、ハウスの土壌は露地と異なり、雨で肥料成分が流れにくいため、養分や塩類が蓄積することがあります。ここで注意したいのが、EC(電気伝導度)が高い=窒素が多い、と単純には判断できないことです。ECには硝酸態窒素以外のイオンも影響するため、施肥量を調整するときはpHや硝酸態窒素なども組み合わせて確認する必要があります。

いずれの場合も、収穫後から次作の施肥・土づくりを始める前は、土壌診断で今の状態を確認しておくのに最適な時期です。

pHやEC、必要に応じて硝酸態窒素やリン酸などを確認すれば、例年どおりに肥料や土壌改良資材をただ投入するのではなく、「足りないものだけを補う」という判断がしやすくなります。

特にハウスでは、前作の肥料分が残っていれば施肥量を減らせる場合もあり、過剰施肥を防ぐだけでなく、肥料コストの削減にもつながります。露地では土壌診断に加えて、排水や表土の流れ方なども確認し、春までにどこを直すべきか整理しておくとよいでしょう。


これからの冬支度は、毎年同じチェックリストをこなすだけでは十分とは言えません。その年の病害虫の影響に応じて、効果が実証されている対策や、データに基づいた対応を行うことで、より安心して次作に臨むことができます。

害虫は越冬場所、施設は大雪と融雪水、農機は作業精度、土壌は露地とハウスをキーワードに、今年被害が出た場所や作業が滞った原因を振り返り、冬前にできることから手を付けていきましょう。10月から少しずつ対策を進めることが、来春のトラブルと作業負担の軽減につながります。


参考資料
気象庁「日本の季節平均気温」
植物防疫所「指定有害動植物の総合防除を推進するための基本的な指針」
農林水産省「農業用ハウスの予防減災情報」
農研機構「日本海側砂丘地・気候における砂丘畑地パン用小麦の栽培技術マニュアル」
農林水産省「簡単にできる!傾斜畑の土壌流亡対策」
農林水産省「ECに基づく土壌診断の留意点」
農林水産省「土壌溶液による診断法」
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
  4. 鈴木かゆ
    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
  5. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。