「農家の平均年収」は168万円? 494万円? 農業所得の正しい見方と儲かる農家の違い

「農家の平均年収は100万円台」

「農業の時給は10円」

SNSなどで話題になったインパクトのある数字を見て、「農業って単独では生活できない、非常に貧しい職業なのでは……?」と感じたことがある人もいるかもしれません。

しかし、勘違いされがちですが、農林水産省が公表しているのは「農業所得」であり、会社員でいう「年収」とはまったく意味が違います。農家がどのくらい稼いでいるのかを知るには、まず農家特有の「農業所得」というものについて理解する必要があります。

今回の記事では、「農家の年収」というテーマで、実際に農家はどれくらい稼げるものなのか、所得の低い農家と高い農家の違いは何かを考えてみましょう。


「農業所得」と「年収」の違い


冒頭で述べた通り、一般的な会社員でいう「年収」と、農水省などから発表される「農業所得」は大きく概念が異なります。ひとつずつ見ていきましょう。


「農家の平均年収」というデータは存在しない


農林水産省によると、2024年(令和6年)の全農業経営体の「農業所得」は、1経営体当たり平均168.6万円でした。この数字だけを見ると、「農家の平均年収は約169万円」と勘違いしてしまいそうです。

しかし、農業所得は以下のような式で表されます。

農業所得=農業の売上 − 農業にかかった経費

実際に、2024年の全農業経営体で見ると、「農業粗収益」(売上)などは平均1369.9万円でした。それに対して肥料、農薬、燃料、農機、人件費などの「農業経営費」(経費)が1201.3万円かかり、差し引き168.6万円が「農業所得」として残っているという計算です。一見非常に低い金額に見えますが、年間で動いている諸々の金額は非常に大きいことがわかります。

たとえば、一般的な会社員(サラリーマン)の年収は、会社から本人に支払われた給与の総額であり、非常にシンプルです。自分自身の人件費・労働時間の対価として給与をもらっています。

一方、個人農家には、自分自身へ支払われる「年収」という公的な統計が基本的にありません。会社員に近い感覚で見るなら、農業所得は「1年間農業を経営して、経費を払ったあとに残った稼ぎ」と考えるとわかりやすいでしょう。


“いわゆる専業農家”の平均農業所得は494.2万円


さらに注意したいのが、先ほど紹介した168.6万円は「すべての農業経営体」の平均だということです。

農業を家計の中心にしている「主業経営体」に限ると、2024年の農業所得は平均494.2万円でした。農業粗収益2347.9万円に対し、農業経営費1853.7万円という収支です。

主業経営体は、一般的な言い方なら農業を本業にしている農家に近い存在です。昔から馴染みのある「専業農家」「兼業農家」という言葉で考えるとわかりやすいでしょう。現在の農水省統計では別の区分が使われていますが、農業中心で生活する人、会社員など別の仕事と農業を兼務している、いわゆる兼業農家もいます。

規模や働き方がまったく違う農家をまとめた平均が168.6万円なので、この数字だけを見て「農家の年収は169万円」と考えると、実態からは大きく離れてしまうということがわかります。

ここまでの内容を並べてみたのが以下の図です。農家の経済状況や儲かる、儲からないという概念がわかりにくい理由は、一般的なサラリーマンと同じ尺度で考えることが難しいのです。

「農家の年収」に近い概念をSMART AGRI編集部が独自に作成したイラスト。サラリーマンにはない経費・人件費・設備費などを差し引いて残る部分が「農業所得」。サラリーマンの年収とは考え方が異なる(生成:ChatGPT)

農家は毎月「給料」をもらうわけではない


会社員とのもう一つの違いが「お金の入り方」です。

会社員なら、毎月決まった給与を受け取り、ボーナスなどを合わせたものが年収になります。

一方、個人農家は基本的に自分自身へ毎月給料を支払うわけではありません(そのような形式をとっている農家・農業法人もあります)。米なら収穫後に販売代金がまとまって入ることがありますし、野菜なら出荷を続けながら定期的に収入が入ります。その中から肥料代や燃料代などを支払い、生活に必要なお金も出していきます。

そのため、年間の農業所得が494.2万円だからといっても、毎月約41万円の給料が振り込まれるわけでもありません。

ただし、農業法人に雇用される従業員であれば、一般企業と同じように毎月給与を受け取るかたちです。自分で農業を営む個人農家と、雇われて農業をする従業員とは、明確に分けて考える必要があります。


「農家は時給が安い」のからくり


「農業は時給にすると安い」という話も、数年前から取り沙汰されてきました。これも、農業所得を家族などの農業労働時間で割って示している場合があり、会社員が受け取る給料を時給換算したものとは同じではありません。

ただし、そこから読み取れる事実もあります。

農業は、売上がいくら多くても、作業時間や経費が大きければ所得が残りません。つまり、どれだけ広い農地を使って、収量の高い作物を作っても、それだけで「儲かる」とは言えないのです。

だからこそ、儲かっている農家を見るときは、「何を作れば高く売れるのか」だけではなく、どれだけの土地、人手、機械、経費を使って、その所得を生み出しているのかをしっかり把握しておく必要があります。その上で、どうしたら農業所得を上げられるかも変わってきます。

例えば水田作では、1枚の田んぼから得られる所得を大きく増やすことが難しいため、経営面積を広げるという方法があります。

2024年(令和6年)の農水省統計では、20ha以上の主業水田作経営は平均約34haを経営し、1経営体当たりの農業所得は2016.2万円でした。

これは、34haを1人でひたすら働いて管理している、という意味ではありません。大型農機、雇用、作業委託などを組み合わせ、広い面積を回せる経営体制を作ることで所得を確保しています。大きく売上を作り、大きな投資をして、大きなリターンを得る、というかたちです。

 

米の生産国としても知られるベトナムでの米の収穫の様子。ひとつの区画が広く、効率よく収穫できる

 


簡単に土地を増やせない地域では、施設野菜などで面積当たりの売上を高めるために、栽培・収穫回数を増やす方法があります。

こちらも、高性能な自動制御ハウスを建てたからといって儲かるわけではありません。施設費、光熱費、人件費などが増えれば、売上が増えても所得が残らない場合があります。

オランダの温室で育つトマト。限られた圃場で何作も収穫できるように、環境が整えられている

つまり、農業では「広く作る」「高く売る」のどちらかだけが正解なのではなく、売上に対してどのくらい経費と労力を使っているかが重要になります。

また、儲かる作物だとしても、自分がそれを栽培できるかどうか、自分の地域や気候などでその作物が育つかどうかは別の話です。


「儲かる農業」のために見直すべき経営の内訳


農業所得に大きな差が出る理由は、作っている作物の違いではありません。

例えば、同じ米農家でも、10haと50haでは売上には大きな差がありますが、米を作る上で必要な農機の数も大きさも異なります。農地がまとまっているか、離れた場所に点在しているかでも作業効率は大きく変わります。

JAへまとめて出荷するのか、契約栽培や直販を組み合わせるのかでも、販売価格だけでなく物流費や販売にかかる時間が変わります。

さらに、肥料や農薬などの資材費、高額な農機を自前で保有するのか、共同利用や作業委託を使うのかによっても、最終的に残る所得は変わります。

「農家は儲かるのか」を考えるとき、平均農業所得だけを見ても答えは出ません。

見るべきなのは、
  1. どの作物で、いくら売り上げているか(作物ごとの収益)
  2. 肥料、農薬、燃料などにいくら使っているか(資材費)
  3. 農機の購入・維持にいくらかかっているか(機材費・ローン)
  4. どのくらいの面積を、何人で管理しているか(従業員数、家族の労働力)
  5. どこへ売り、最終的にいくら手元に残っているか(販売先ごとの売上の違い)
といった、経営の内訳なのです。

「売上を増やす」「規模を広げる」よりも先に、自分の経営でどこにお金と時間がかかり、どこから利益が生まれているのかを知る。

そこから、規模を広げるのか、作物を変えるのか、売り先を見直すのか、機械を持たずに外部へ任せるのかを考えることが、「儲かる農業」への出発点になります。

収益と出費の見直しは、簡単に変えられるものではないかもしれません。ですが、わずかな無駄の削減、収益アップのための方法を模索することからしか、現状を変えることはできません。

米の在庫があふれ、米価が下落している今だからこそ、市場や環境の価格に左右されず、堅実に経営の見直しを図るチャンスとも言えます。今からでも決して遅くはありません。できることから少しだけでも、次年度以降の安定した経営につなげるための一歩を踏み出しましょう。


参考資料
農林水産省「農業経営に関する統計(1)」
農林水産省「令和6年 農業経営統計調査(営農類型別経営統計)」
農林水産省「令和7年度 食料・農業・農村白書」

【コラム】これだけは知っておきたい農業用語
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
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    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。