限られた農地をどう使う?二毛作・二期作・再生二期作の基礎知識

気候変動や農業者不足が進むいま、「限られた農地をどう活用するか」は全国の産地共通の課題です。

特に、日本の主要な農産物である米=水稲は、基本的に年1作=1回しか収穫できないため、その年の気候や天災、水不足などの環境の変化によって収穫量も変動し、国民の食生活にも大きな影響を与えています。

そんな中であらためて注目されているのが、「二毛作」や「二期作」といった昔ながらの作付け方式。近年は、「ひこばえ」を活用した「再生二期作」という新しい技術も登場しています。

今回は、農業の作付方式として混同されがちな「二毛作」「二期作」の違いを整理しつつ、注目されている「再生二期作」の事例も含めて、それぞれのメリット・デメリットを解説していきます。


「二毛作」:異なる作物を1年に2回作る方式


大前提となるのが、「二毛作」は「作物を変える」、「二期作」は「作物を変えない」ということ。この違いが、作業内容やリスク、向いている地域などを大きく左右しています。


「二毛作」は、同じ農地で1年の間に“異なる”作物を2回作ることを指します。

例えば、第1作では春〜夏にかけて水稲を作り、収穫が終わった同じ圃場で秋〜冬にかけて第2作として、麦・飼料作物・野菜などを作る、といった方法です。

水稲が終わった後の田んぼを冬作物に活用し、収穫機会を増やせるのが二毛作の特徴です。

「二毛作」のメリット


一つ目はなんといっても、広大な農地を遊ばせることなく、1年間の収穫回数を増やせるという点です。

農業では、「10aあたり平均500〜600kgの米が収穫できる」というように、圃場の広さに応じた大まかな収量の限界と収入の目安が予測できます。たとえ収穫量をどれだけ増やしたとしても、圃場の広さと収穫量にはどうしても限界があります。そのため、同じ圃場で別の作物を作れば、その分だけ収益も上げられることになります。

二つ目は、異なる作物を組み合わせることでリスク分散が可能という点です。

台風や冷害、病気・害虫などの影響で商品になる米が減ってしまったとしても、別の作物を作ることで年間利益を補完することができるようになります。

三つ目は、別の作物を作ることが、病害虫の抑制に役立つという点です。

同じ場所に同じ野菜などを栽培する「連作」を続けていくと、その作物に対する病原菌や害虫が定着して集中してしまったり、その作物が必要とする栄養分などが著しく不足してしまうことがあります。このような状態を「連作障害」と呼びます。

これを防ぐために、最初に作る「前作」と、収穫が終わった後に作る「後作」の作物を変えることで、病害虫の発生を抑えることができます。組み合わせにも相性があり、前作が米なら、後作には麦、菜種、たまねぎや豆類などの組み合わせなどが使われています。

「二毛作」のデメリット


年間の売上を見越した収益アップが目的であれば、2回分の販売ができれば当然売上は増えます。ただし、単純に増やせばいいとは言い切れない面もあります。

例えば、異なる作物を2回作る分だけ、土壌に含まれる栄養分の偏りや地力の低下はどうしても起こりやすくなります。それぞれの作物に有効な肥料や土壌の調整などが必要になれば、それだけ手間も時間もかかることになります。

また、品目ごとに栽培管理の作業や必要な資材が増えることで、予算的にも負担が増えます。初期投資を行いペイできるまでに時間を要することもあるでしょう。

新たな作物を作るとなれば、そのための知識や経験も必要になります。スマート農業などで栽培をアシストしてくれるツールも増えましたが、それでも新しい作物は未経験からのスタート。きちんと生育させられるかどうかも作ってみなければわかりません。

これ以外にも、特に第2作が冬になる場合、冬作に不向きな地域では二毛作自体が成立しにくいという環境条件もあります。

こうしたメリット・デメリットに加えて、作った作物の需要や販売先が確保できるかどうかも重要です。麦にしても国産よりも高品質で低価格な輸入小麦が大半となっているため、単純に2回分の成果物を作れたからといって、2倍の収益が上げられるというわけでもありません。

最近の事例としては、大規模法人や地域の協力体制を築き、「飼料用の稲WCS+そば」といった二毛作に取り組む例などもあります(出典:「稲WCSと麦作の二毛作経営(静岡県 株式会社浅羽農園)農林水産省。生産者の減少や作業人員の不足などを解消することができれば、より大きな収益を上げられる可能性はあります。

また、国としては二毛作よりも、水田からの高収益作物等の定着に向けて、「水田活用の直接支払交付金」といった補助金により、休耕田を減らすための補助金なども設定しています。


「二期作」:同じ作物を1年に2回作る方式


「二毛作」と似た言葉ですが、「二期作」は同じ作物を2回続けて栽培する方式です。最も代表的なのは水稲の「二期作」で、主に早い時期に収穫できる温暖な地域で実施されています。

「二期作」では、第1期として春に田植えをし、夏には収穫をしてしまいます。そして第2期として夏〜秋に再び田植えをし、晩秋に収穫をするというスケジュールです。

通常の水稲は、春〜初夏(4月〜5月頃)に田植えを行い、秋(10月〜11月頃)に1回だけ収穫したらその年の農作業は終了です。その後は土づくりなどは行うとしても、特に農作物を作ることはありません。

「二期作」では、この栽培の期間を短くできる品種などを選択することで、栽培回数を増やせる方法です。

「二期作」のメリット


大きなメリットのひとつは、同じ作物を栽培するため、栽培技術や農機の種類を増やす必要がないという点です。水稲で言えば、作業時期は変わっても、育苗・播種、施肥・防除、収穫といった手順は変わらないため、ノウハウも生かせる上に経験を積めるスピードも早くなります。

また、1年あたりの収量を増やせるという点もメリットです。特にここ数年の米不足のような時期に、単純に同じ広さの圃場から2倍の米が収穫できれば、市場のニーズに合わせて大きな収益アップとなるでしょう。

「二期作」のデメリット


ただし、そんな二期作にもデメリットはあります。多くの米農家が二期作をしていないということからもそれは明らかでしょう。

一つは、生育期間が短いため、日照不足や高温などのその年の気候の影響を受けやすいという点です。

日本で、春から秋にかけて1年1作での米づくりをしている農家が多いのは、稲という植物をしっかり成長させるためにそれだけの時間が必要という経験と長年の実績に基づいています。

二つ目は、同じ作物を連続して作ることによる病害虫の発生リスクの増加です。第1作で病害虫が発生した場合、第2作でも影響を及ぼす可能性がどうしても高くなります。特に病原菌などは土壌中に潜んでしまうことで、第2作でも同様に病気が発生しやすくなると言われています。

三つ目は、単純に作業時間が2倍になるため、2度の田植え・収穫といった作業負担が大きいことです。ドローン播種やV溝直播などで作業負担を軽減できたとしても、2倍の作業となるため、1年を通して考えると体力的な負担も確実に増えることは間違いありません。


「再生二期作」:ひとつの苗から2回収穫する省力化技術


※写真はイメージです

1年間に2回収穫する方法として、近年特に注目されているのが「再生二期作」です。

名前のとおり、同じ作物を2回収穫するという点は「二期作」と変わりませんが、「再生二期作」は水稲で1回目の収穫後に株を高く刈り残し、残した株から伸びる「ひこばえ」を育てて2回目の米を収穫する方式のこと。農研機構などを中心に研究・実証を進めており、米不足などに対する解決策として一気に注目を集めました。

通常の米の二期作との最大の違いは、2回目の田植えを行わないということ。これにより移植作業を省くことができ、時間、労力、コストを一気に減らせる方法として期待されています。

「再生二期作」のメリット


「再生二期作」の最大のメリットは、「二期作」との違いでもある2度目の田植えが不要なため、労力・コストが大幅に削減できる点です。これにより、苗づくり(育苗)、移植、田植えの工程をすべて省略できるため、作業時間、人件費、育苗・苗代コスト、機械の稼働時間が大幅に削減されます。1回の田植えで2回分が収穫できるため、農地の利用効率もアップします。

一般的に農業の収益は、「収穫した農産物の販売額ーかけたコスト(人的資源・資材コスト)」となりますが、かなりのコストが削減できることになり、結果的にアルバイトや社員などの「働き方改革」に寄与するとも言えます。規模拡大のしやすさ、絶対的な栽培面積が狭く作業の手間も逆にかかってしまいがちな、中山間地での活用なども期待されます。

二つ目は、再生芽は初期生育が早く、収穫のリスクが少ないという点です。第1作で植えた苗から出てくる2度目の芽(ひこばえ)は、高温期の成長が旺盛で、秋口の短期間でも育ちやすいという特徴があります。そのため、通常の米+米の二期作よりも気温低下のリスクを受けにくいという特徴もあります。単に低コストというだけでなく、栽培のしやすさという面でのメリットもあるのです。

三つ目は、スマート農機やドローン施肥などの技術と組み合わせやすいという点です。田植えの工程を省くことで、栽培管理の作業をスマート化しやすくなるとも言われています。水管理の自動化やDX化、ドローンなどの新技術と相性がいい方式と言えます。

「再生二期作」のデメリット


いいことづくめに見える「再生二期作」ですが、デメリット=課題もあります。

一つ目は「ひこばえ」の生育のばらつきがあることです。第1作の刈りの高さが適切でなかったり、収穫時期が遅くなってしまったといった要因によって、再生芽の揃いが悪くなることがあります。

二つ目は、そもそも第2期の栽培管理が非常にシビアだということ。水管理や追肥のタイミング、刈り株の高さ調整などには精密な管理が必要と言われています。秋〜初冬にかけての日本は低温・日照不足の影響を受、特に米どころと言われているような寒冷地では栽培の難しさもあります。

四つ目は、品種適性による制限です。「再生二期作」はすべての水稲品種で安定して生育してくれるわけではなく、農研機構が推奨する品種(にじのきらめきなど)に限定されてしまっています。

五つ目は、米自体の品質低下の可能性がある点。秋期の登熟(とうじゅく)は気候の影響を受けやすく、品質や食味にばらつきが出ることもあります。

実際、にじのきらめきで再生二期作を実施した例では、第2作で収穫した米は通常の米と比べて、水分含有量などが落ちるとも言われています。ただし、米の品質と米の食味は少し異なり、主食用米としてまったく食べられないわけではなく、あくまで少し落ちるというレベルです。

参考記事:水稲の「再生二期作」は“地球沸騰化”の攻めの解決策 「にじのきらめき」で極多収に成功
https://smartagri-jp.com/management/7814


二毛作・二期作・再生二期作はどんな農家に向いている?


農地の集約や耕作放棄地の解消は、いまある農地をいかに守り、日本の代表的な主食である米をいかに確保するか、という食料安全保障の観点からも重要なテーマです。

そのような観点から、それぞれの作付け方法が向いている人を考えてみると、

二毛作……作物ごとの販売ルートを持ち、経営的に収益分散を考えたい人
二期作……温暖地域で作業人員を確保でき、収量最大化を狙いたい人
再生二期作……省力化・スマート農業・DXなどを組み合わせて作業負担を減らしたい人

といった方々が想像できます。

ただし、規模拡大を目指して農地を借り受けるにしても、その圃場がどのような手間をかけて、どんな肥料や農薬などを用いて、どのように管理してきたかといった履歴によっても大変さは変わってきます。それらを知った上でもなお、うまく栽培できるかどうかは試してみなければわからない部分も多々あるでしょう。

その意味では、深く理解できている自分の圃場を最大限活用して、年2回の収穫で収益アップや需要増への対応にもなる「二毛作」「二期作」「再生二期作」などの取り組みは、比較的検討しやすい方法とも言えます。

実際に、国も「二毛作」や「二期作」に対して「水田活用の直接支払交付金」といった補助金を設定し、主に食料安全保障の観点から、ニーズに応えられるだけの生産量を維持できるようにするための取り組みも行っています。

「令和の米騒動」や「米不足」を再び招かないために


それぞれの作付方法には、いい面と同時に課題もあります。基本概念を理解しておくと、農地の特性に合わせた作付計画を立てやすくなるだけでなく、新しい技術の評価や導入判断にも役立てることができるでしょう。

特に「再生二期作」は、スマート農業の普及に伴い、省力化と収量増の両面で研究を進めている、将来の稲作を考える上での可能性を秘めた技術です。農地利用のあり方を考え、より儲かる農業を目指すために、注目すべき選択肢の一つになっていくでしょう。

限られた農地に加え、担い手や作業者も限られてきている中で、生産者それぞれが持っている資源を最大限活用できる可能性を模索してみてはいかがでしょうか。


水田活用の直接支払交付金(水田収益力強化ビジョン)|農林水産省
https://www.maff.go.jp/kinki/tiiki/otsu/photo/20251105.html

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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
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    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
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    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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