東京農業大学 加藤拓の土壌入門「土壌」ってなんだろう?
家庭菜園で花や野菜を育てるときに私たちの身近にあり、農業で作物を育てるうえで必須となる「土壌」。でも、そもそも「土」とはどんなものなのか、なぜ植物の生育に土が必要なのか、どんな成分が含まれていて、どんな土が栽培に適しているのか、といったことまで考えている人は多くはないと思います。
このコラムは、「土壌」を専門に研究されている東京農業大学の加藤拓先生と一緒に「土壌」について考えていく連載です。生産者の方々も、農業に興味があったり間接的に関わっている方も、「土壌」についてより深く知り、考えるきっかけにしていただけたら幸いです。
著者紹介
加藤 拓(カトウ タク)。1998年4月~2000年3月 筑波大学 第二学群 生物資源学類 卒業、 2000年4月~2005年3月 筑波大学 生命環境科学研究科 生物圏資源科学専攻 博士課程 修了。筑波大学在学時、火山噴火後、徐々に森が形成されていくにつれ土壌がどうやってできてくるのかについて研究。
卒業後、茨城県農業総合センター農業研究所 土壌・環境研究室 研究員、帯広畜産大学 地域環境学研究部門 研究員、神戸大学 農学研究科 助教に。
2015年4月~2018年3月 東京農業大学 応用生物科学部 生物応用化学科 准教授、 2018年4月から現在は同大学応用生物科学部 農芸化学科 准教授 として農業を行う上で土壌をいかに持続的に利用するかについて研究を行っている。
加藤 拓(カトウ タク)。1998年4月~2000年3月 筑波大学 第二学群 生物資源学類 卒業、 2000年4月~2005年3月 筑波大学 生命環境科学研究科 生物圏資源科学専攻 博士課程 修了。筑波大学在学時、火山噴火後、徐々に森が形成されていくにつれ土壌がどうやってできてくるのかについて研究。
卒業後、茨城県農業総合センター農業研究所 土壌・環境研究室 研究員、帯広畜産大学 地域環境学研究部門 研究員、神戸大学 農学研究科 助教に。
2015年4月~2018年3月 東京農業大学 応用生物科学部 生物応用化学科 准教授、 2018年4月から現在は同大学応用生物科学部 農芸化学科 准教授 として農業を行う上で土壌をいかに持続的に利用するかについて研究を行っている。
「土壌」は環境そのもの
「土壌」を想像した時、読者の皆さんの頭の中にすぐに思い描がかれるイメージがあると思います。多くの方は土壌が存在することを知っていますし、「土壌」もしくは「土」という言葉を使って、「それ」を認識しています。
「土壌」と「土」では意味が違うとする考えもありますが、ここでは「土壌=(イコール)土」と思って読んで下さい。
畑や田んぼといった土壌を上手に使って作物を生産するために使う。あるいは、ベランダや庭で植物を育てるために土壌を使いたいと考えた時に、どう取り扱ったらいいのか悩むことが多くありませんか?
私は建物が好きで建築物の間取りを見たり、建築家がどのような意図と哲学を持って設計したのかなどが書かれた記事を読むことが好きです。専門外の素人考えですが、木材やコンクリートなど多種多様の素材で部材を作り、これら部材を組み合わせて構造が形成され、人間が活動する空間が「建物」だと考えています。世界にはいろいろ建物があり、そこには大小さまざまな空間が存在し、その空間に応じた人間の営みが行われています。
建物を前述のようにとらえている私にとって、土壌と建物は非常によく似ています。土壌とは私たちの足もとにある「空間をもった構造物」です。建物の一つである住宅が「人間が生活する環境」と考えると、土壌は「植物や動物や微生物が生きるための環境」と言えます。
土壌を建物に例えて考えてみましょう。柱一本や瓦一枚を「建物」としてとらえている方は少ないと思います。土壌はこの辺が誤解されるところで、土壌を構成している物質をもって「土壌」と認識されてしまうことがよくあります。
柱や瓦といった建材を用いて構成された構造体が人間の住む環境としての建物であるように、土壌とはさまざまな種類の鉱物や腐植を素材にした部材(土壌物質)で構成された環境であり、そこには多くの生き物が住んでいるのです。
皆さんが頭の中に思い描かれたイメージの土壌には、空や川・湖をはじめ、畑・田んぼ、森・草原などに育つ植物たちが同時に存在していませんか? その直感的にとらえられた認識は正しく、土壌とは、空(大気圏)、川や湖(水圏)と同じく環境を構成する要素の一つです。
つまり、土壌とは「環境」であり、建物でいう柱や瓦といった部材でも木材やコンクリートといった素材でもなく、さまざまな部材や素材でできた「構造体」であると言えます。大気圏や水圏と比較するならば、土壌は「構造をもった環境」と言えますね。
でき方の違いから土壌を分類する学問=「ペドロジー」
この土壌ですが、暑いところには暑いところの土壌がありますし、寒いところには寒いところの土壌があります。当たり前のように聞こえるかもしれませんが、これが結構重要なところです。土壌は水圏や大気圏と同時に存在するので、周囲の環境からの影響を強く受けます。
周りの環境影響は、「気候」「生物(植物・動物・人間の活動)」「地形」「時間」の項目に分けることができます。これらの項目に「母材(土壌を構成する無機物系の部材の原料)」を加え、専門的な言葉で「土壌生成因子」と言います。
これら5つの土壌生成因子がさまざまに組み合わさることによって、世界中にいろいろなタイプの土壌が存在することになるのです。そのため、前述のとおりに暑いところには暑いところの、寒いところには寒いところの土壌が当たり前のように存在することになるのです。
では、皆さんが植えようと思っている作物やお花を育てる土壌はどんな土壌ですか? 母材・気候・生物・地形・時間といった土壌生成因子がどのように組み合わさってできている土壌でしょうか。このように「土壌がどの様にできたのか」を考える学問分野を「土壌生成学(ペドロジー・Pedology)」と言います。そして、この土壌のでき方を調べる方々を「ペドロジスト」と呼びます。ペドロジストは、土壌のでき方を調べながら、世界中の土壌を分類することができます。
アマチュア「ペドロジスト」になるために
ペドロジストの達人級になると、この土壌がどういった土壌なのかがわかるだけでなく、どういった経緯でできてきたのかがわかるので、土壌を無理なく作物生産に使用することができるようになります。例えば、未就学児童にはオリンピック選手と同じトレーニングメニューはさせませんよね。それと同じように、その土壌のポテンシャルに応じた利用方法を選択できるようになります。
土壌は時を経て徐々に変化します。火山が噴火した直後や海面から隆起したばかりの土壌は、植物を養うには“まだまだ”貧栄養な環境です。一方、1万年から10数万年の時を経た土壌は粘土が多くて硬かったり、土壌有機物(土壌学では腐植と言います)が少なくて色が赤かったり、黄色かったりして“もうすでに”植物を養うには貧栄養な環境です。
同じ貧栄養な環境ですが、これらは少なくとも土壌生成因子のうちの「時間」が異なっているため、別々の土壌型になります。当然のことながら作物を育てる際、肥料の使い方や土壌の改善方法などが両者では全然違ってくることが想像できると思います。
先述の話は極端ですので「ペドロジストでなくても、肥料を使えば作物は育てられるのでは?」と思われた方も多いと思います。ですが、同じ品種のお茶を静岡県と埼玉県の茶畑で育てると味は同じでしょうか? 新潟県と茨城県の田んぼで育ててみると? 隣の畑と自分の畑で育てたら? 同じ土壌型ですか。一枚一枚の畑や水田は、それぞれ違う土壌型かもしれませんよね。
まぁ、ここまで判断できるには達人レベルのペドロジストにならねばなりませんが、まだまだ実力不足でアマチュアペドロジストの私であっても、土壌の最適な利用方法を考える上でペドロジーは非常に役に立っています。あっちの畑でうまく行った方法があっても、こっちの畑の土壌型が違うのであれば、単に同じ方法を使うことはせずに少しは工夫することができるからです。
読者の皆様には、ぜひ土壌のでき方や土壌型の違いに興味をもって頂き、目の前にある「構造をもった環境」である土壌の使い方を、ご自身で考えることができるようになっていただけるとうれしいです。そうすれば、プロの農業生産者の方々は毎年分析に出されている土壌診断結果を使って、ご自身で肥料や土壌改良資材を選択した「処方箋」が書けるようになると思いますし、今年からベランダでミニトマトを栽培したいと思っている方は、土壌の材料となる物質(赤玉土とか腐葉土とか)の選び方に法則性が見いだせると思います。
このコラムがSMART AGRI読者の皆様の一助となるように、これから[土壌」についての話を進めていきますので、どうぞお付き合い願います。
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