話題の稲作シミュレーションの完成度はどれくらい? 『天穂のサクナヒメ』を編集部で遊んでみた

日本農業新聞に取り上げられ、SNSなどでも異色の話題作となっている『天穂のサクナヒメ』(てんすいのサクナヒメ)。

特に農業関係者の注目を集めている理由は、ゲーム中の稲作がリアルという点だ。米農家ならば当たり前のことが知識としてゲーム攻略に生かせると、稲作を知らないゲーマーや若者たちがこぞって稲作の知識を求めているという。

いったいどんなゲームなのか。実際にSMART AGRI編集部でも遊んでみた。なお、PC版は英語だが、しっかり日本語にも対応している。



米を育てることで成長していく主人公


主人公は、武神と豊穣神を両親に持つ神、サクナ。財産を食い潰しながらぐうたらな生活をしていたある日、神界に迷い込んだ人間たちを都に侵入させてしまい、主神への献上物である備蓄米を台なしにされてしまう。


その罰として、鬼が住まうヒノエ島の調査を命じられたサクナと人間たちが、そこで生きるために作物を育て、島を探索していく、というストーリーだ。

侍などが登場することから、時代考証としては禄米が重要な武家時代と思われるため、米の重要性は現代とはまったく違う。奉納米を失うということの意味は、単に食を失う以上の意味があるのだ。このあたりは戦国時代、江戸時代あたりを勉強した子どもほど、より親しめるかもしれない。

一緒に暮らす人間たちは、心優しき山賊の田右衛門、宣教師で料理上手なミルテ、戦災孤児のきんた、手芸が得意なゆい、山賊の頭領の子どもで言葉が話せないかいまる
ゲームは島を探索するアクションパート、米を育てるシミュレーションパート、そして料理や農機具(武器)などを作るパートに分かれている。

アクションパートは、ジャンプとボタンとレバーの組み合わせで技を繰り出しながら、島に住む鬼や動物を退治していく。一定の条件を満たすと新たな探索場所が現れ、島の探索を進めていくことになる。

操作自体は非常にシンプルで簡単だ。2つの攻撃ボタンを連打するだけで連続技が発生するので、これを確実に敵にヒットさせていけばいい。米を育てていくと新たな技を覚えて、より強力な攻撃ができるようになる。

序盤は体力が低く敵の攻撃もきついが、「R」ボタン+方向キーにより敵をつかまえて移動できる羽衣移動が無敵なので、連打→敵に向かって羽衣移動を繰り返せばある程度は先に進めるだろう。

これらの敵を倒すと、時々ウサギやブタ(敵)の肉などを入手できることもある。それらをミルテに料理してもらい、夜はいろりの周りで夕餉を囲む。この食事によってサクナのパラメーターも上下し、アクションパートの攻略にも役に立つ。

いろりを囲んでみんなで夕食。日本人がイメージする夕餉の姿だ
食材はそのままにしているとすぐに腐ってしまうため、帰ってきたら干し肉や別のものに加工することで長持ちさせることもできる。原始的な時代設定になっているが、それが消耗品としてのアイテムをうまく使う動機付けにもなっている。

できた米も加工が可能。どこかの映画で見たような加工品も……?

日本古来の米作りをしっかり再現


肝心の稲作のシミュレーションパートでは、田んぼを起こし、種籾をまき、水を張ったり抜いたりして雑草を取りながら育て、刈り取り、乾燥、脱穀などの手順をこなしていく。ストーリーを進めていくと雑草を食べてくれるカモなども出てくるが、稲作作業自体は現代では文化として扱われるような古来の栽培方法になっている。

田植えのシーン。この田んぼには入水と出水の口があり、水管理も可能。1aあるかないか、という小さな圃場
雑草は田んぼを歩きながら「!」マークで抜くことができる。苗は踏むことはないので安心
「二次分けつ」などの成長過程もしっかり再現。このゲームで「分けつ」という言葉を初めて知った子どももいるのではないだろうか
当然、機械などない時代設定なので、米の乾燥は天日干しだし、脱穀も手作業だ。米作りのあらゆる作業を原始的なやり方で行うところが、稲作を知らないユーザーにとってはかえって新鮮に受け取られたのだろう。

米の乾燥は天日干し。雨が降ることもあるが、一定期間が経つと収穫可能になる。田右衛門に聞けば適切な時期もわかる
脱穀は稲から籾を外す作業。スティックなどを使ってリズミカルに作業するミニゲームになっている
籾摺りには臼と杵を使用。精米度合いは自分で調整できる
これらの作業をすべて終えると晴れて新米の完成だ
ただ、興味深かったのが稲作の成果のパラメーターだ。植え方や育て方による稲作の成果が数値として現れ、作業の良し悪しも判断できる。ゲーム的な要素ではあるが、生育状況や土壌分析などによる数値ベースの稲作は、スマート農業がいま進めているデータ農業とも言える。

新米の味や香り、硬さなどにより格付けされる。これらはサクナの強さにも結びつくゲーム的な要素だ
こちらは生育の状況。日照や平均温度など、スマート農業も顔負けのデータ分析がされてしまう。初回は低めになっても仕方ないだろう
初回プレイ時は気づけなかったが、実は人間や動物のふんから肥料も作れる。どのように生育に結びついたかも確認可能だ
ちなみに、栽培した米は次回の種籾として保管しておくことも忘れていない。米が貴重な時代の話のため、とても大切に扱われており、ストーリーの中にも随所にそのような発言がある。

そのため、序盤の夕餉の食べ物はアワやヒエなどが多く、食べられないこともたびたび。これまでぜいたくな暮らしをしてきたサクナが弱音を吐きながらも、同時に貧しい生活をしてきた人間たちのことを理解していく物語も展開される。

また、食料としてだけでなく、主人公が神様ということで、米がうまく育つごとに「技」を習得できるのもゲームならでは。うまく育てることで、キャラクターが成長してどんどん強くなるので、米作りパートもおろそかにはできない。

米作りの基本を誰でもゲームで自然に学べる


ゲーム内の時間経過はかなり早いため、1時間も遊べば次の田植えの季節がやってくる。2回目以降は田起こしから始めて、徐々に地力を高めていくことで収量なども増やしていける。


ある程度遊んでいけばコツが見えてくるので、ゲーム的に効率よく成長させるための方法もわかってくるだろう。ただ、その基本的な米作りの過程を、ゲームを楽しく遊びながら自然と学べるというところは、子どもだけでなく大人にも米作りや農業の大変さ、魅力を知ってもらうにはとてもいい作品だと思う。

ゲームとして見ると、アクションパートの連続技などがやや短調なため、もう少し歯応えがあってもいいような気もするが、狙っている年齢層(子どもと高齢者?)を考えてみれば、誰でも何度か挑戦すればクリアできるくらいの難易度はちょうどいい気がする。ファミコン世代のアクションゲームを遊んだことのある人なら、誰でも遊べるだろう。

また、稲作について何も知らなくても、田右衛門がアドバイスをしてくれるので、ネットで言われているように本格的な稲作を学ぼうとしなくても、ゲームとしては十分に遊べる。サクナの成長に関わるため、効率よく強化する=稲作を成功させることも必要だが、時間をかけさえすれば、クリアすること自体はそれほど難しくない。

おじいちゃんが孫に教える米作りがゲーム攻略になったり、このゲームから農業に興味を持つ若者なども出てくるかもしれない。なにより、擬似的とは言え米作りの「体験」ができることで、プレイヤーが米を食べた時に何か感じるものもあるのではないだろうか。

ネット上では、仕事以外で稲作をするのは苦痛といった声もあるが、実際の稲作とは異なるのは当事者が遊べばすぐにわかるはず。ぜひ遊んでみることをオススメしたい。

『天穂のサクナヒメ』で感じてほしい、今の日本のお米事情


そして同時にSMART AGRI編集部としては、これだけ本作でフィーチャーされている米が、需給の関係で40万トン以上余ってしまっているという状況も、プレイヤーのみなさんにはぜひ知っていただきたい。

このあたりは、米の生産にかかわる農政の問題も含んでいるが、新型コロナの影響による飲食店での米需要も減っているうえ、もともと国民の米自体の消費量も減っているのが現実だ。

ちょうどいまの時期は新米が登場し、日本各地の特徴的なお米が最もおいしい時期でもある。スマート農業を活用した「スマート米」のように、このゲームの稲作とはまったく正反対の、効率と安心を追求したお米もある。

ゲームを遊んでお腹が減ったら、お米を食べてプレイヤー自身も強く賢くなってくれたら、いち農業メディアの編集部としてもうれしいかぎりだ。

『天穂のサクナヒメ』
対応機種:Nintendo Switch™ / PlayStation®4 / PC(Steam)
ジャンル:和風アクションRPG
発売日:11月12日
プレイ人数:1人
レーティング:B
希望小売価格:< Nintendo Switch™ >パッケージ限定版 6,980円+税、通常版(パッケージ/ダウンロード) 4,980円+税
< PlayStation®4 >パッケージ限定版 6,980円+税、ダウンロード版デジタルデラックス 6,980円+税、通常版(パッケージ/ダウンロード) 4,980円+税
< Steam >通常版 5,478円、デジタルデラックス版 8,100円(いずれも税込)

©2020 Edelweiss. Licensed to and published by XSEED Games / Marvelous USA, Inc. and Marvelous, Inc.

天穂のサクナヒメ(日本語サイト)
https://www.marv.jp/special/game/sakuna/
天穂のサクナヒメ PC版(英語サイト)
http://sakunaofriceandruin.com/

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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