農研機構、水田の除草作業を効率化する「植付位置制御機構」を開発

農研機構は、碁盤の目状に苗を植え付ける両正条植えを可能とする水稲苗用の植付位置制御機構を開発した。両正条植えで縦横2方向の機械除草が可能となり、これまで除草率が低かった株間でも除草効率が向上し、除草の手間が壁となっていた水稲作での有機栽培の取組面積拡大に貢献することが期待される。

株間の除草効率をアップ


農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」では、2050年までに有機農業の割合面積を25%(100万ヘクタール)に拡大する目標を掲げている。しかし、2021年時点の有機農業の割合面積が0.6%(26万6000ヘクタール)であったことから、栽培面積の大きい水稲作での取り組みが不可欠となっているという。

水稲の有機栽培では「除草作業」に手間がかかるため、栽培面積の規模拡大を阻む要因となっている。農研機構では、水稲作での除草作業の効率化を図るため高能率な水田用除草機を開発したが、「田植機の作業方向である条間の除草は高能率で行えるが株間の除草効率は上がらない」という課題を抱えていた。

出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/iam/160509.html

そこで、水稲苗を田植機作業方向(縦方向)だけではなく、その直交方向(横方向)の位置も列状になるようにそろえて碁盤の目状に苗を植える両正条植えができる植付位置制御機構を開発し、市販の乗用型田植機に組み込んだプロトタイプ機を製作。

これにより、水田用除草機を縦横2方向に走らせる直交除草ができるようになり、これまで困難であった大区画水田での有機栽培が可能となった。

出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/iam/160509.html

開発した植付位置制御機構を組み込んだ田植機は、高精度なGNSS(RTK-GNSS)を用いて横方向に仮想の基準線を設定し、それに合わせるように植付爪を回転させる仕組みにしたため、横方向にも苗が列状にそろえられるようになり、縦方向と横方向が碁盤の目状にそろった両正条植えができるようになった。

研究では、両正条植えをした圃場で水田用除草機による除草効果の確認試験も実施。従来の縦方向のみの除草(慣行除草)と比べ、株間の除草率が向上することを確認した。


両正条植え圃場での直交除草の様子(上)と直交除草による除草効果の一例(下)
※除草後に取りきれずに残った雑草を乾燥させ質量を比較
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/iam/160509.html

さらに、研究成果を早期に社会実装するため、すでに実用化済みである無段変速機を搭載した機械式の植付部を装備する田植機をベースに開発を進めることとし、農機メーカーからほ場内での車輪の滑りによる株間の変動を抑えることを目的として、植付部にHSTを搭載した田植機が市販化されたことから、これらに植付位置制御機構を組み込んだ。

現地実証にこれらのプロトタイプ機を供試した結果、秋田県大潟村の大規模水田圃場(1.25ヘクタール)などでも、高精度な両正条植えが実現できることを確認したとのこと。

開発機構を市販機に搭載したプロトタイプ機
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/iam/160509.html

現地実証における両正条植えの様子(秋田県大潟村)
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/iam/160509.html

プロトタイプ機はマット苗用田植機(クボタ NW8S)をベース機として製作したが、同じ走行部を利用するポット苗用田植機(みのる産業 RXG800)にも開発した植付位置制御機構を搭載することが可能であり、現在、農研機構の農業機械技術クラスター事業で開発を進めているという。

開発機による両正条植えは栽植密度が37株/坪と慣行よりも低くなることから、慣行栽培と比較した収量性への影響の評価や各地域での気候適応性、除草率の向上による収量性の改善効果の確認などが必要となる。そのため現在、農研機構のNAROプロジェクトなどにおいて確認試験を各地で実施している。

農研機構は今回の研究の成果を基に、今後は実証試験でデータを蓄積するとともに、メーカーへの技術移転を進め、早期実用化を目指す考えだ。


農研機構
https://www.naro.go.jp/index.html
SHARE

最新の記事をFacebook・メールで
簡単に読むことが出来ます。

WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
パックごはん定期便