「国際植物防疫年2020」が発足 国連食糧農業機関を中心に、植物防疫による飢餓撲滅等を目指す

2019年12月2日、国連食糧農業機関FAO)が、植物防疫による飢餓撲滅、貧困削減、環境保護、経済発展の促進を目指した「国際植物防疫年2020」(IYPH2020)を発足した。

国際植物防疫年の開始を宣言するFAO事務局長 Photo (C)FAOGiuseppe Carotenuto

『国際植物防疫年2020』とは


『国際植物防疫年2020』は、植物病害虫のまん延防止の重要性に対する世界的な認識を高めるための取り組みだ。

国連食糧農業機関(FAO)と、FAOに事務局を置く国際植物防疫条約IPPCが主導し、植物病害虫の予防と保護、植物防疫を確保・促進するための方針が示された。
その方針は以下の通りである。

  1. 持続可能な開発のための2030アジェンダ達成に向けて、健康な植物の重要性への意識を高める
  2. 植物の健康が食料安全保障と生態系機能に及ぼす影響を周知する
  3. 環境を保護しながら植物を健康に保つ方法に関する最良事例を共有する

世界の食用作物のうち、最大40%が植物病害虫によって喪失


植物は、地球上の食物のおよそ8割を占める重要な資源であり、呼吸する酸素の98%を生成する生命の源だ。しかし、世界の食用作物のうち、最大40%が植物病害虫によって失われている。さらに農業分野にも深刻な損害を与えており、農業貿易では年間2,200億ドルを超える損失が報告されている。

調和のとれた国際的な植物検疫の規制と基準


各国政府や農家、民間部門など、食料分野の関係者が連携を図り、害虫の拡散や他地域への侵入を防ぐことで、数十億ドルの節約と質の高い食物へのアクセスを確保する方針も示された。
植物や植物製品を病害虫から保護することは、「農産物の貿易活動を促進し、途上国市場へのアクセス向上も期待できる」として、調和のとれた国際的な植物検疫の規制と基準への遵守を強化することの重要性も説いている。

FAO事務局長 屈冬玉氏のコメント


今回の採択にあたり、FAOの事務局長である屈冬玉氏は
「国際植物防疫年の目的を達成するためには、政府や学界、研究機関、市民社会、民間部門を含むすべての関係者との戦略的な連携が不可欠である」
と述べており、また
「植物は地球上の生命の中心的な基盤を提供し、人間の摂り入れる栄養の最も重要な柱です。 しかし、健康な植物は当たり前のことではありません」
と続け、「植物防疫を促進するための政策と行動」が、持続可能な開発目標であるSDGsを達成するための欠かせない取り組みであることを強調している。

さらに、気候変動と人間活動が、生態系の変化や生物多様性の減少をもたらし、害虫が繁殖しやすい状況を作り出していることにもふれ、
「人間や動物の健康と同様に、植物の健康も治療よりも予防のほうが大事です」
とも述べた。

国連事務総長 アントニオ・グテーレス氏のコメント


国連の事務総長であるアントニオ・グテーレス氏は、採択の宣言にあたり
「持続可能な開発目標SDGsを達成するための今後の『行動の10年』を通じて、必要な資金を投資し、植物防疫への取り組みを強化しましょう」
と述べ、取り組みへの協力を呼びかけた。

植物防疫のために「できること」を


採択の宣言後に行われたパネルディスカッションでは、植物防疫に関する知識を高めるための写真コンテストの開催も提案、ウェブサイトも開設し植物防疫のためのヒントも掲載していくとのこと。

国連食糧農業機関(FAO)と国際植物防疫条約IPPCでは、植物検疫措置のための調和のとれた国際基準を策定し、基準を幅広く適用することで多くの利益を得られるよう、今後も植物病害虫の予防と保護に努めていく考えを示している。


<参考リンク>
国連食糧農業機関(FAO)
国際植物防疫条約IPPC
SHARE

最新の記事をFacebook・メールで
簡単に読むことが出来ます。

RANKING

WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
パックごはん定期便