茨城大学と農研機構、全世界の農産物の“収量予報”システムの開発に着手

茨城大学農学部の増冨祐司准教授と農研機構農業環境変動研究センターの飯泉仁之直主任研究員らが、気象季節予報や衛星データ、作物生育シミュレーションモデルを組み合わせた全球対象の農作物収量予報システムの開発に着手した。

同プロジェクトは2021年度の事業完了を目指しており、完成すれば全球レベルで1~3カ月後の農産物の収量を予測できる世界初のシステムとして、グローバル規模の食糧安全保障に大きく貢献することとなる。


世界中で作物情報をシェアできる社会へ


国連食糧農業機関(以下、FAO)の最新のレポートによると、世界の栄養不足の人口は、異常気象等の増大を主な要因として、2014年度以降増加している。

このような食糧安全保障の危機に対応するため、気候変動や災害級の異常気象の発生予測・予報データを活用し、影響を軽減・回避する対応行動が必要とされ、農作物の収量予報情報を数カ月というタイムスパンで、なおかつ世界レベルで提供するようなシステムが有用だと考えられている。

同研究プロジェクトはその実態を踏まえたうえで、茨城大学と農研機構が共同し進められる。

 

3つの異分野技術の融合

増冨准教授らは、3つの異分野技術シーズを融合し新たなシステムを開発し、現在の作物の生育状況のより正確な把握や、3カ月先の収量予報の精度を向上させる「全球作物生育監視・収量予報システム」の構築を構想した。

1. 植生や土中水分量などの衛星データ
衛星を使い作物の生育状態や土壌の水分量のリアルタイムデータの取得を目指す。2017年より茨城大学、農研機構、JAXAがメンバーとなっている「衛星農業気象研究会」にて議論を進めている。

2. 世界15機関の予報データを統合したアンサンブル気象季節予報
APEC気候センターが開発した、気候と降水量データを収集・提供するシステム。多数の予報を用いることで信憑性の高い予報となる。

3. 茨城大学が開発した作物育成シミュレーションモデル
気象や土壌の情報を入力値とし、作物の生育だけでなく発育も推計できるシミュレーションモデル。増冨准教授が開発し、これを用いて温暖化影響評価に関する研究も行ってきた。

同プロジェクトについて、文部科学省の2019年度宇宙航空科学技術推進委託費事業に採択されたことから、増富准教授はシステムの開発に着手。2021年度までの計画で構築を進めている。

具体的には、世界中のすべてのポイントの1~3カ月後の特定の農産物(当初は水稲のみで実装)の収量予報情報について、緯度経度1.25度(約140km四方)程度の空間解像度で取得できるシステムの構築を目標としており、完成後はウェブページで公開すること予定している。

今年6月、農研機構とAPCCは統計モデルを用いた収穫3〜6カ月前の収量予測の試行を開始。本計画では、さらに収穫に近づいた収穫1〜3カ月前に、衛星データと作物モデルを用いて、収量を精度良く予測し、提供するシステムを開発していく。

増冨准教授は、「宇宙利活用事業に係る支援により、これまで困難であった衛星情報を用いた収量予報という新たなシステムの開発が一気に現実味を増すことになった。これは衛星利活用のフロンティア拡大にもつながり、今後の気候変動分野に対する日本の貢献を高める上でも大きな一歩となる。このシステムを核として、世界中の誰もが即時に作物情報を得られる社会となり、グローバル規模の食糧安全保障に新たなフェーズをもたらしたい」とコメントしている。

<参考URL>
全世界のポイントの農産物の収量予報を取得できるシステムの開発に着手(PDFファイル)
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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