農業の生産性向上に貢献しているIoT・クラウド活用事例

大手企業が農業法人向けにIoTクラウドを活用したソリューションの展開を進めている。これまで農業とは無縁と思われていた企業も参入し、農家の生産性向上に貢献しようと動いている。

IoTやクラウドは、農業をどのように変えるのか。



「カイゼン」で農業の生産性もアップ! トヨタが進める「豊作計画」

自動車業界で世界最大を誇るトヨタ。そのトヨタが、実は農業用のアプリケーションを開発している。それが、「豊作計画」というソリューションである。

トヨタの農業ビジネスへの取り組みは2011年から開始され、2014年には豊作計画と共に、トヨタ独自の改善支援サービスを提供している。豊作計画は、主に大規模米生産農業法人の稲作を支援するソリューションだ。大規模米生産農業法人は、バラバラになっている小規模農家や地主が管理している水田を一元管理して、効率的な管理を実現しようとしている。2016年のデータでは、導入企業は愛知県や石川県などの大規模米生産農業法人を中心に16社に及んでいるという。

豊作計画には、トヨタがこれまでに培ってきた「カイゼン」のノウハウが詰まっている。もともと、紙で管理している水田の台帳や作業日報などをデジタル化することで、効率化が図れるのではないかというところから始まり、農機具の故障の有無や置き場所なども記録することで、作業を無駄にしないなど、自動車生産で行なっている手法を農業に応用している。

現在は、スマートフォンにも対応しており、大規模米生産農業法人の従業員はスマートフォンを持ち歩いて、豊作計画にデータを入力している。このように、作業記録をデジタル化して、作業のカイゼンを行うことで、ある企業では作業を10%以上削減することに成功している。農業はITによって大きく進化する。その可能性を示す良い事例と言えるだろう。


オムロンはセンサー技術で農業にも革新を起こす

IoTに欠かせないのがセンサーの存在。そのセンサーを開発している国内大手企業の一つ、オムロンも自社のセンサーを活用して、IoTを農業へ適用させようとしている。

オムロンは、関連会社でコーポレートベンチャーキャピタルのオムロンベンチャーズを通じて、農業ベンチャー3社と取り組みを進めている。うち2社は、これから大きな成長を秘める創業間もないシード期のスタートアップ企業。これらの企業に対して、資金とオムロンが持つセンサー技術の提供を行っている。

そのうちの1社・株式会社プラントライフシステムズは水耕栽培にソリューションを提供している。農業にセンサーを設置して、データを収集する。その情報をAIによって分析することで、より安全で美味しい農産物の生産が可能になっているという。

オムロンのように、IoT時代に欠かせないプレイヤーが今後スタートアップと手を組み農業へ参入するケースは今後も増えていくのではないだろうか。

富士通のIoT技術が山梨のワイン農園にもたらす「働き方改革」

IoTによって、ワインづくりも大きく変わろうとしている。ワインに欠かせないぶどうの生産にIoTをフル活用している事例もある。

山梨県甲州市にある奧野田ワイナリーは、富士通と共同でICT化への取り組みを行い、「富士通GP2020ワインファーム」として成果を上げている。その根幹をなすのが、IoTソリューションだ。富士通が開発した「センシング・ネットワーク装置」によって、農園の気温、温度、雨量のデータを10分おきに収集。さらに、小型カメラを農園内に設置して、リアルタイムで状況をチェックすることができる。

これまで、農園内の状況を把握するのに、半日から1日ほどの時間を要し、湿度の急激な上昇などによるカビ被害などを防ぐことができなかった。このような被害が広がってしまうと、農園にとって大きな損失を負ってしまう。しかし、IoTを活用することで、状況を瞬時に把握できるようになり、それを踏まえた迅速な対応を行えるようになった。また、最適なぶどうの収穫時期の判断も可能となり、ぶどうの品質工場も実現しているという。

さらに、このIoT化には思わぬ副産物もあった。それが、農園の従業員の働き方改革だ。IoT化によって、農園の状況はスマートフォンでいつでもチェックできるようになり、以前のように24時間365日誰かが農園に張り付いている必要もなくなった。休日も確保できるようになり、ワークライフバランスも改善されたという。

爆発的に普及するIoTデバイスの農業利用にも期待

このように、IoT化は農作物の生産のあり方を大きく変え、農業従事者の働き方も大きく帰るポテンシャルを持っている。

しかし、この動きはまだまだ序章に過ぎない。国の試算によれば、IoTデバイスは、2020年までに世界で約530億個普及すると言われており、特に農業など産業向けの展開は今後盛んになっていくことだろう。IoT・クラウドによる農業改革はまだまだこれからだ。

<参考URL>
トヨタ自動車、農業IT管理ツール「豊作計画」を開発  米生産農業法人の稲作を側面支援 | トヨタグローバルニュースルーム
https://newsroom.toyota.co.jp/jp/detail/1571544
農業制御システムを扱う企業へ出資 オムロンベンチャーズ初の投資案件 | オムロン
https://www.omron.co.jp/press/2015/05/c0515.html

マルチセンシング・ネットワークを活用したブドウ栽培支援 - Fujitsu Japan
http://www.fujitsu.com/jp/about/environment/activities/japan/winefarm/
IoT セキュリティガイドライン ver 1.0 | IoT推進コンソーシアム 総務省 経済産業省(PDF)
http://www.meti.go.jp/press/2016/07/20160705002/20160705002-1.pdf
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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