日本の「一次産業」を支えるためのスマート農業の現状と課題

私たちの「衣食住」を支えている一次産業が、高齢化による担い手不足など、さまざまな問題に直面しています。もう何年も前から言われていたことですが、今後も少子高齢化が進むと予想されている日本の一次産業は、低迷していく一方と考えられています。

それを解決するための方法のひとつが、国が進めてきた「スマート農業」です。生産現場の課題を先端技術で解決すべく、AI・ドローン・ロボットなどを活用したり、社会実装を目指した3カ年計画「スマート農業実証プロジェクト」も全国各地で進められています。しかし、日本の農業の構造的な課題もあり、スマート農業の普及・拡大はまだまだ成功しているとは言いがたい状況です。

今回は、そんなスマート農業の原点に立ち返り、一次産業の基礎知識をはじめ、日本の農業が抱えている課題、それらを解決に近づけるためのこれからのスマート農業技術はどうあるべきかを紹介していきます。



「一次産業」とは


産業は、自然の恩恵を活かした「一次産業」、一次産業で生産された材料などを加工する「二次産業」、サービス業や小売業など幅広い業界が含まれる「三次産業」の3つに分類されています。

就業者数については、途上国では一次産業、先進国では二次・三次産業の割合が高くなることが特徴です。日本の部門別就業人口割合見てみると、一次・二次ともに減少しつつありますが、三次産業は増加傾向にあることがわかります。

出典:独立行政法人 労働政策研究・研修機構 図4 産業別就業者数(第一次~第三次産業、主要産業大分類)より(https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0204.html

さらに一次産業の中でも、大きく分けて「農業」、「林業」、「漁業」の3つからなり、主に自然界に働きかけることで作物を育てたり採取したりして食料などを生産するという役割を持っています。


また、自然環境保全や伝統文化の維持など、生産過程で副次的に生じる外部経済効果といった多面的機能を有している点においても、重要で欠かせない産業です。

一次産業の現状


なくてはならない重要な産業である反面、さまざまな理由から脆弱化しているとも言われる日本の農林水産業の現状はどうなっているのでしょうか。

少子高齢化が世界一進んでいると言われる日本では、あらゆる業界で人手不足が叫ばれています。その中でも特に顕著といえるのが一次産業であり、就業人口が年々減少しつつあります。

最近では、新型コロナウイルスの影響による飲食店などでのまとまった需要の減少や、それに伴う価格の下落により、売上が減少した生産者が多くいました。


また、日本の食料自給率は1965年をピークに低下傾向が続いており、2020年度は37%(カロリーベース)と諸外国と比較するとかなり低い水準となっています。これは戦前までは国内で生産された米や野菜が食事の中心でしたが、戦後の復興と共に食生活が欧米化したことで自給率の高いお米の消費量が減り、自給率の低い肉や油脂などの消費量が増えていることが大きな要因です。

出典:農林水産省「世界の食料自給率」(https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/013.html

日本では少子高齢化が問題視されている一方で、世界的には発展途上国を中心に人口が増加し続けています。経済発展すると穀物中心の食生活から肉類を多く食べる食生活に変わると言われますが、人間が穀物をそのまま食べるよりも、肉として食べる家畜を育てる用途の方が多くの穀物を必要とします。そのため、途上国が発展するにつれて、今後必要となる穀物の量は増えていくと言われています。

また、日本に食料を輸出している国が異常気象による自然災害、病害虫や疫病の流行など多様化するリスクの影響を受けた場合に安定的な食料供給が難しくなってしまうことも考えられるので、食糧自給率を向上させるためのさまざまな取り組みが行われています。

日本の農業が直面している問題


ここであらためて、日本の農業の課題を整理してみましょう。

(1)高齢化による人手不足


日本の農業では慢性的な人手不足が発生しています。これは農業就業人口の70%が65歳以上と高齢化していることや、新規就農者数減少傾向にあることが大きな原因です。総務省が行った離農率の調査によると経営開始直後の新規就農者を助成する「農業次世代人材投資事業(経営開始型)」を利用した者の離農率は2.5%と低いものの、新規雇用就農者向けである「雇用就農者育成タイプ」の助成金を利用した者では3年目までに39.5%が離農してしまうという現実があります。

この助成金は新規就農を希望する者を雇用して実施する研修を支援するもので、研修生からは「業務内容が合わない、想定と違っていた」といった声が多く寄せられていることから、勤務時間や賃金の低さなどが関係していると考えられます。

(2)荒廃農地の増加


荒廃農地とは調査員が客観的に見て作物の栽培が不可能であると判断された農地のことで、特に中山間地域での割合が高く、高齢化や労働力不足が発生原因と考えられています。


農水省が行った調査によると、ピーク時は約609万ヘクタールあった全国の耕地面積が、現在では437万2,000ヘクタールまで減少しているようです。これは荒廃農地(耕作放棄地、休耕地など)の増加や宅地など非農業用途への転用や自然災害が主な理由で今後しばらくは減少が続くと見込まれています。

現在荒廃農地は全国でおよそ28万ヘクタールありますが、そのうち9万ヘクタールは整地などを行うことにより耕作可能な土地に再生できるともいわれています。

(3)中山間地域農業の省力化・効率化


中山間地域では特に高齢化と人口減少による担い手不足が深刻です。急斜面が多いため除草作業などはかなりの重労働であり、農作業の省力化・効率化が急務となっています。

農業を営んでいくには厳しい条件である中山間地域ですが、農家数・農業人口・耕地面積・農業粗生産額はいずれも全国で4割を占めています。中山間地域は立地条件や特色を活かした農産物栽培を行いながら多面的機能を発揮する場であり、農業生産活動を行うことで洪水や土砂崩れの防止、自然環境の保全といった重要な役割も担っています。

(4)気候変動


農業生産は気象条件によって作物のできが左右するため、気候変動の影響を受けやすく米や果樹などさまざまな品目で高温による品質の低下、生育障害、収穫期の早まりなどが確認されています。また、融雪水を利用している地域では利用可能な水量の減少や、豪雨などによる農地の湛水被害など農業生産基盤への影響も予想されます。



解決策となるスマート農業技術


こうした一次産業の課題を解決するためのスマート農業技術にはどんなものがあるのでしょうか。すでに販売されていて誰でも導入できるものの中からご紹介しましょう。

自動操舵システム
既存のトラクターなどに後付けすることで、水稲をはじめ麦や大豆栽培などのスマート農業化が可能。
トプコンやニコン・トリンブル、FJDといったメーカーからリリースされている。

自動運転トラクター
自動運転機能を搭載したトラクター。遠隔操作や事前の設定により無人運転が可能。クボタ、ヤンマー、イセキといったメーカー各社がラインナップしている。

・水管理システム
圃場の水位・水温などを自動測定しスマートフォンなどでいつでもどこでも確認可能。farmoやPaditchといったサービスがある。



・食味収量コンバイン
クボタが提供するKSASというシステムの機能のひとつで、作付け状況や収量・食味に関するデータが確認可能。

・可変施肥システム
センサーにより生育状態雄計測し、肥料の散布量をリアルタイムで制御するシステム。クボタのトラクターのほか、オプティムのドローンによるピンポイント施肥などもある。


・GPSガイダンスシステム
GPSを利用して適切な進行経路を誘導するトラクター専用のカーナビ。

リモートセンシング
人工衛星やドローンを利用して圃場の状態を観測。天地人、DATAFLUCT、UP42といった衛星データ解析から、ドローンによるセンシングを行うオプティム、スカイマティクスなどもある。

・農業用ドローン
農薬散布をはじめ、施肥や播種も可能。ドローン大手のDJI、XAGを筆頭に、NTT e-Drone、マゼックス、東光鉄工といった国産メーカーも多数登場している。

・自走草刈り機
リモコンで操作するタイプの草刈り機。地味ながら人の手で行うには厳しい畦畔の除草などを行える。

・農業技術学習支援システム
ICTを利用して熟練者の農業技術の習得が行える学習支援システム。「阿部梨園の知恵袋」や、稲作を学べる「お米未来塾」といったコンテンツから、専門家による業務向けのものまで多数ある。

アシストスーツ
米などの重いものを持ち上げる際に足腰への負担を軽減。サポートジャケット、マッスルスーツのような動力でアシストするものから、ゴムなどの反発力を用いて普段の無理な姿勢での作業を楽にするものもある。

スマート農業の導入・活用事例


こうしたスマート農業技術はあくまで個々の作業だけですが、実際に導入した場合の農作業全体への効果がなければなかなか踏み切れません。ここからは、最新の活用事例をご紹介します。


衛星画像を活用した高品質な米生産(青森県産業技術センター)


青森県のブランド米である「青天の霹靂」の高品質化を目指して津軽地域の13市町村で衛星情報の利用を開始しました。利用方法は、衛星画像から水田一枚ごとに予想した「収穫適期マップ」を作成し、アプリで提供されたものを生産者が確認して収穫を行うというものです。

導入効果

・従来では不可能であった水田単位の情報提供を実現。
・収穫適期を把握でき、予想誤差が従来の1/2に軽減された。
・出荷基準の達成率が98%以上と2年連続で高い割合を維持。
・2017年度産の1等米比率は98.9%と高い結果になった。

ピンポイント農薬散布・施肥(石川県輪島市 有限会社ファーマー)


石川県輪島市でドローンを利用したピンポイント農薬散布・施肥を行っています。

導入効果
・AI画像解析で必要な箇所にだけ農薬散布を行うことで農薬使用量を50~70%削減。
・ピンポイント施肥では圃場全体の生育ムラの改善と収量アップに貢献。
・作業時間を軽減。

基盤整備に伴う自動走行トラクターの活用(北海道妹背牛町)


北海道妹背牛町(もせうしちょう)では、2.2haへの大区画化および地下水位制御システムの導入が実施されました。この取り組みでは地上に設置した基準局からの位置情報データによってと高い精度の測位を実現するRTK-GPSを利用した自動走行農機を活用しています。

導入効果
・重複がなくムラのない代かき作業を実現

ドローン直播とAIによる画像解析(株式会社オプティム)


株式会社オプティムでは石川県と共同で、ドローン直播の実証を行っています。このプロジェクトでは点播方式での播種が可能なドローン搭載型播種機やAIによる直播栽培の高度化に挑戦しました。

導入効果
・労働時間の削減。
・高精度の播種を実現。
・多収も期待できる。
・AI画像解析によりピンポイント除草も可能に。

NEC農業技術学習支援システム(三重南紀農業協同組合)


三重南紀農業協同組合では、NEC農業技術学習支援システムを活用して栽培技術支援プラットフォームを構築しました。

導入効果
・短期間で管理技術を身につけることが可能に。

長時間飛行が可能な高域生育状況調査(株式会社オプティム)


石川県農林総合研究センターは、株式会社オプティムと連携して広範囲な水稲、大豆等に関する生育情報を栽培指導に活用する実証を行いました。空撮には固定翼ドローンを利用しています。

導入効果
・60分の飛行で300ヘクタールを撮影可能。
・葉色や生育状況を分析し、栽培指導に活用。
・写っている圃場の持ち主全員が活用できるためコストカットを実現。

日本の農業が目指す方向性


スマート農業という言葉自体は4、5年前から少しずつ叫ばれるようになってきました。当時はあるひとつの課題を解決するための技術開発、という側面が強くなっていました。

しかし、農水省が推し進めるスマート農業実証プロジェクトなどの複数年計画により、徐々に実効性が見え始めてきました。そして、研究・開発から現場への実装が進みつつあり、省力化や栽培技術の習得のしやすさなど効果も実感されてきています。

一方で、生産者が一個人として導入する場合の初期コストやインフラ面の整備など、課題も多いのが現状です。スマート農業導入に関わる補助金を利用したとしても、最終的にが軽労化や収益アップに結びつける必要があります。その意味では、まだまだスマート農業は個々の研究開発事例であり、日本に存在する農業従事者全体が恩恵を受けられるようになるまでには、時間がかかるでしょう。

農業に携わる、自治体、企業、生産者、販売者、そして一般消費者も、体と健康を保つために最も大切な一次産業に対してより興味を持ち、今後もスマート農業の実証を進めていくとともに、実践環境の整備や機器の操作方法の学習機会を提供するなどして現場での活用を進めていく必要があります。


「人口統計資料集2020」
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/P_Detail2020.asp?fname=T08-07.htm
農林水産委員会 鈴木朝雄「第一次産業の多面的機能」
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2008pdf/20080401002.pdf
GREEN WEB「日本の食生活と食料自給率」
https://www.hokuren.or.jp/_greenweb_/?post_type=season_booklet_page&p=5742
総務省「農業労働力の確保に関する行政評価・監視-新規就農の促進対策を中心として-3.新規雇用就農者に対する支援の実施状況」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000607935.pdf
農林水産省「荒廃農地の現状と対策」
https://www.maff.go.jp/j/nousin/tikei/houkiti/attach/pdf/index-13.pdf
A-PLAT「気候変動と適応分野別影響&適応」
https://adaptation-platform.nies.go.jp/climate_change_adapt/impact.html
農林総合研究所 生産環境部「技術名:衛星画像を利用したブランド米の生産支援」
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/smart_agri_technology/smart_agri_catalog_hinmoku/pdf/smartagri_catalog_suitou-145.pdf
株式会社オプティム「ドローンによる種まきで生産コストの削減とAI画像解析で直播栽培の高度化を実現」
https://www.optim.co.jp/agriculture/rd/drone-seeding-and-AI-analysis/
SMARTAGRI「わずか1時間で300haを空撮! 農地の未来を映し出す、固定翼ドローンの飛行をレポート」
https://smartagri-jp.com/smartagri/3098
農林水産省「スマート農業の推進状況と活用可能性 イ 誰もが取り組みやすい農業の実現」
https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h30/h30_h/trend/part1/chap0/c0_2_01_2.html
SMARTAGRI「農水省と農研機構、2021年度の「スマート農業実証プロジェクト」31地区を採択」
https://smartagri-jp.com/smartagri/2653
【コラム】これだけは知っておきたい農業用語
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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。