「スマート農業」とはどんなものか? ICTを活用した農業のメリットと導入の課題

私たちが生きていく上で必要不可欠な穀物や野菜といった食物を育てる農業。土を耕し、水を活用し、植物という自然の恵みを、気候や天候といった不確実な環境のなかで育むという、高度な知識と技術と経験が求められてきた業界だ。

そんな農業分野に、いまICTやロボット、AIなどを活用した次世代型の農業「スマート農業スマートアグリ)」が登場し、注目を集めている。


本記事では、スマート農業の定義、目的、事例、メリット・デメリットなどを解説したうえで、日本と世界の事例、導入コストを抑える方法などをご紹介していく。

スマート農業とは?

農林水産省は、「スマート農業」を「ロボット技術やICT等の先端技術を活用し、超省力化や高品質生産等を可能にする新たな農業」と定義している。

海外では、
  • スマートアグリカルチャー(Smart Agriculture)
  • スマートアグリ(Smart Agri)
  • アグテック(AgTech
  • アグリテック(AgriTech)
などとも呼ばれており、日本よりも一足先にさまざまな国で導入されている。

・世界に広がる「AgTech」による先進農業の事例

産業機械やIT技術は、私たちの業務や暮らしを劇的に変えてきた。電話は無線の携帯端末に、計算機はパソコンに、さらにパソコンからタブレット端末にと、技術の進歩によって形態も機能もガラリと変化してきている。

では、農業の分野はどうか。くわやすきによる手作業から、耕運機やトラクターといった機械へと力仕事は移行し、収穫した作物の運搬もクルマやコンベアーを使った自動化・省力化は進んだ。しかし、人間が判断しなければならない部分はまだまだ残されており、この部分をこれから「スマート農業」が担っていくと言われている。

「スマート〜」という先進技術を利用した取り組みはさまざまな分野で進められており、製品やソリューションも多々存在する。スマートフォン、スマートウォッチ、スマートスピーカー、スマートホーム、さらにこうしたデバイスを活用したスマートコミュニティという言葉さえも生まれている。

そのなかで農業は、特にこれまでITやICTといった技術とあまり縁がないと思われがちだった分野だけに、導入が難しいとされてきた。それがここ数年の間に一気に加速し、規模の大小を問わず、導入も急速に拡大しつつある。

スマート農業の目的

日本の農業において、スマート農業を導入する目的として、以下のようなものが考えられる。


1. 農作業の省力化・労力軽減

ひとつ目は、農作業における省力・軽労化だ。日本の農業は、個々の農家の高齢化が進み、深刻な労働力不足に陥っている。そんな日本の農業の現場の苦労を、ICTなどを活用して支援していくことが求められている。

2. 農業技術の継承

ふたつ目は、新規就農者への栽培技術力の継承だ。跡継ぎや農業を継承する人材が不足し続け、これまで家族の継承のなかで培われてきた農業技術を、スマート農業のシステムなどによって継続的に継承していけるようにすることにある。

3. 食料自給率の向上

3つ目の目的は、日本の食料自給率対策としてのスマート農業だ。日本の食料自給率(カロリーベース)は2021年度で38%と、輸入が自国生産を大幅に上回っており、適切なバランスが保てているとは言いがたい。前述のような人材不足のなかで収量を上げて自給率を高めるためには、少ない人員で農産物を確実に育てるうえで、センサーやロボットによる自動化、植物工場といった仕組みが欠かせなくなる。

4. 環境保全

4つ目は、肥料や農薬、農業関係の資材による環境への悪影響を防ぐことだ。農業において必須と思われている化学肥料や農薬だが、近年は地球環境保護の観点などから、欧州を中心に使用を制限する動きが加速している。スマート農業により、こうした化学肥料や農薬の使用量を削減したり、場合によってはまったく使わずに栽培することも可能になる。生産性を維持しつつ、環境保全にも役立つ農業を実現することもできる。

5. 品質の向上

5つ目は、生産物の品質向上に寄与するという目的だ。品質の向上には、その生産物にとって最適な環境や状況を把握し、栽培のたびに再現する必要がある。こうした作業は長い年月をかけて先人たちが集めてきた知識などにより実現してきたが、スマート農業によって栽培履歴を管理し、それらを気候や土壌の環境データと組み合わせることで、いつでも最適な食味をもつ米や野菜を栽培することが可能となる。

スマート農業の主な取り組み

では、スマート農業の取り組みとは、いったいどのようなものなのだろうか。例を挙げてみよう。


・ロボット技術×農業

農機ロボットの自動操縦技術によって省力化を図ったり、収穫作業などをロボット技術により自動化する。

ロボットとひとことで言っても、カメラやセンサーを搭載して画像分析に活用するロボットもあれば、農薬散布などの重労働を担う自動飛行ドローン、レタスなどの作物の自動収穫ロボット、収穫した作物の選果や箱詰めをするロボット、荷物を運搬するロボットなどさまざまな目的と用途がある。そして、従来は大規模農場や食品工場などでしか使われなかったこれらのロボットが、より安価に、身近な農家レベルでも使えるような導入コストの低減も進んできている。

このようなロボット技術の開発が進んだ暁には、24時間365日、さまざまな作業させることも夢ではなくなり、生産性の向上や市場規模の拡大も見込める。究極的には、人間が行う作業をすべてロボットが肩代わりするという世界も実現できる。

さらに、実作業だけでなく、人間しかできなかったような摘果(いいタイミングで果実を収穫すること)の判断や、かたちやサイズの選別といった部分も、AIと組み合わせることでロボットに任せる取り組みも進められている。

世界的にも高齢化が進む農業界において、こうしたスマート農業によるロボット技術の活用と導入、そして普及は喫緊の課題だ。

<事例>
・ヤンマーの無人自動走行スマートトラクター/ヤマハ発動機の除草剤散布ボート
・ドローンによる画像解析を実現したアメリカ/巨大ビニールハウスの自動制御システムを国レベルで実現したオランダ


・ビッグデータ×農業

圃場の状況を撮影したり、センサーで計測したりして集めたビッグデータを解析し、効率的に栽培管理する方法を提示する農業も進められている。これらは「精密農業」も呼ばれている。

たとえば、生育状況や病気、日照などの状況による変化が、データ解析により誰でも手軽にわかるようになる。野菜の収穫可能時期は一定濃度の炭酸ガス(CO2)の量によりある程度予測することができるが、炭酸ガスの量などを測定することで、収穫/出荷時期を予測することもできる。

さらに、気象データなどのビッグデータを解析していけば、栽培に関するリスクを予測することも可能になる。過去のデータから生育の傾向を導き出し、確実に成熟した作物の収穫に結びつけることができる。

天候は人間がコントロールするのは難しいが、不足している水分や日照などを他の方法で賄うことはすでに行われている。これらをIoT機器やロボットと結びつけることで、人間の作業がなくとも収穫まで行える農業も実現可能だ。

<事例>
・センシングデータと気象データからブドウの品質を向上した事例(信州ワインバレー構想)
・シャインマスカットのハウス管理でデータを活用した事例(山梨県アグリイノベーションLab)

・人工知能(AI)×農業

AIは新規就農者向けの技術やノウハウをシステム化して提供することにも活用できる。これにより、農業の経験や知識がない人でも、農業に従事できるようにして、人材不足の解決につなげたい考えだ。

すでに、作物の形状や色から成長度合いを解析し、収穫時期を予測・判断するプログラムなどが開発され、実用化している例もある。

<事例>
・GoogleのオープンソースAIエンジンできゅうりを自動選果した事例(静岡県湖西市・小池誠さん)
・ドローン×AIで農薬散布量の削減を実現した事例(北九州のスマート米栽培農家)

また、AIによる画像解析で農作物の病害虫の情報を早期発見したり、対処方法を提示したりすることもできる。いずれもすでに実証実験は始まっており、部分的に実用化されているケースもある。

<事例>
・AIで土壌を管理して潅水・施肥を行う「ゼロアグリ」の事例(ルートレックネットワークス)

AIによる農業の分野で特に最近増えているのが、ドローンによる圃場の画像から生育状況を判断したり、病害虫の場所を検知して対処するというものだ。オプティムの特許技術「ピンポイント農薬散布テクノロジー」では、検出した病害虫がいるポイントにだけ農薬を散布し、農薬散布の労力軽減、散布する農薬のコスト削減、そしてなにより自然環境や農作物への影響を必要最小限に抑える。また、この技術は大規模農家はもちろんのこと、小規模な圃場しか持たない中小農家でも実現可能な点で、後継農家や新規就農者を支える技術になっていくかもしれない。

<事例>
・「ピンポイント農薬散布テクノロジー」が農家にもたらす3つのメリットとは?(オプティム)

・IoT×農業

IoTにより市場の動向や消費者のニーズを把握でき、ニーズに合った産物の生産が可能になる。需要予測が成り立てば、必要とする人に確実に野菜などを届けることもできる。より規模が大きいレベルでは、生産・流通・販売を連携させることで、輸送コストを低減し、効率化を図れる。

<事例>
・トヨタの生産方式「カイゼン」のノウハウを農業に取り入れたソリューション「豊作計画」の事例

・富士通のセンシング・ネットワーク技術を活かしたブドウ農園の事例

稲作で言えば、トラクターでの走行時に土壌を分析したり、収穫時にどれくらい乾燥させればいいのかを判断するIoTトラクターやコンバインの普及が始まっている。さらに、農業従事者の作業記録などをスマートフォンなどを使って丹生録することも、スタッフの仕事負担の軽減や健康上の問題の早期発見にもつながる。

<事例>
大量離農で拡大する農地を「KSAS」で管理──株式会社RICEBALL


スマート農業のメリット

ここまで述べたような技術を導入することで、農業のあり方も働き方も大きく変わるだろう。

それでは、農家自身がスマート農業を導入することによるメリットには、どんなものが挙げられるだろうか。

省力化による圃場の拡大・収量アップ

たとえば、人が操作しなくても自動で作業可能なロボットの登場により、長時間の作業が可能になれば、これまで人員的に広げられなかった圃場の規模を拡大することもできるだろう。また、複数の作業が行えるようになるため、生産量も増加する。人件費もかからず、従来よりもきめ細やかな栽培が実現できる。

<事例>
・農家が開発した水口監視IoTシステムで見回り頻度を減少──五平農園
・大量離農で拡大する農地を「KSAS」で管理──株式会社RICEBALL
・農家目線で開発された開水路用の自動給水機の現地実証──横田農場

肉体への負担の軽減

農業=きついというイメージも、スマート農業が本格的に導入されれば払拭されていくだろう。作業の自動化は、きつい作業や危険な作業から人間を解放してくれる。また、人力でしかまかなえない収穫や積み下ろしなどの作業も、アシストスーツなどを使って負担を軽減できるようにもなっていく。

<事例>
・高齢の農家をサポートするさまざまなスマート農業デバイス事例
・inahoのアスパラガス自動収穫ロボットの仕組み──inaho株式会社


農業ノウハウのデータ化&活用

なにより、農業のノウハウや技術をデータ化することで、経験値のない人でも農作業が可能になる。つまり、初心者であっても農業に取り組みやすくなるのだ。コンピュータによる調整や計算を行うため、経験によるノウハウは必要なくなり、誰でも品質や収益性の高い農作物を栽培できる世界になる。野菜を売ることが儲かる仕事だという認識の転換や、「きつい・汚い・危険」といったマイナスイメージのあった農業からの脱却も、スマート農業の普及がカギを握っている。

<事例>
・スマートグラスを活用した新規就農農家への柿栽培技術継承の事例(株式会社パーシテック)

持続可能な社会を実現するための有機栽培・農薬使用量削減栽培の推進

従来の農業=慣行栽培では、収穫量を増やし、農作業を軽減するために、雑草や病害虫の防除を行ってきた。しかし、環境にとっても人体にとっても、農薬のような薬剤は使用しない方がいい。そこで、必要な場所にだけ必要な量の農薬を使用することで、農薬にかけるコスト自体を減らし、使用量を削減もしくは不使用とするような

<事例>
・丹羽篠山地域での黒枝豆へのドローンによるAI画像解析とピンポイント農薬散布の事例


世界のスマート農業の導入事例

ここまで語ってきたようなスマート農業は、決して理想だけを追い求めた夢物語ではない。一般の農家まで普及するのには時間がかかるが、すでに世界中でスマート農業の導入事例がある。


オランダの例〜安定して栽培できる作物に特化し、国を上げてハウス栽培を実現

スマートアグリ先進国と言われるオランダは、スマート農業を語るときに必ず挙げられる先駆者だ。

オランダは耕地面積は日本の4分の1、農業人口は43万人と日本の7分の1以下の規模ながら、農業輸出額は米国に次ぐ世界第2位の農業大国。そんなオランダの農場では、スマートフォンやタブレットによるインフラが整備され、作物の発育状況を24時間把握できるようになっている。

また、各種センサーによるセンシング技術=IoTによるネットワーク技術、さらには再生可能エネルギーも活用されているなど、最先端技術を駆使した農業が展開されている。

<事例>
・オランダ北部の完全制御ビニールハウス「アグリポートA7」の例

日本の例(1) 農業用ドローンで圃場の生育&病害虫を分析

国内で特に話題に上るのが、農業用ドローンだ。

圃場情報の収集や種子・農薬の散布などに活用されており、従来使われてきたヘリコプターに比べて、GセンサーとGPSによるホバリングの安定感の高さと操縦の簡単さも手伝って、各社から農業用ドローンが登場。小回りも利き、操縦性・安定性ともに優れている。

それだけでなく、本体に搭載したカメラを用いて、空撮で生育状況を把握でき、農耕面積が広くてもピンポイントで農薬を投入できるなど、大規模農場から個人の農場まで、今後必須のシステムとなっていくだろう。

<事例>
・農薬散布やデータ解析に活躍する農業用ドローン

日本の例(2) 自動走行トラクターにより人員削減

北海道のような広大な農地を持つ地域では、GPSを搭載したトラクターなどが開発されており、自動走行や夜間作業、ひとりの運転者で複数台同時走行といったかたちで、大規模化・低コスト生産が実現されている。

自動走行トラクターには安全面などでさまざまな法整備も必要になるが、農林水産省は2020年までの現場実装を目標にしている。

<事例>
・ヤンマーと北海道大学が共同開発するスマートトラクター

日本の例(3) 稲作におけるドローンによる直接播種栽培


農業におけるドローンの活用事例として、大幅な労力軽減、コスト削減を実現できる技術として期待されているのが、ドローンによる直接播種だ。

日本の主食である米は、国を上げた重要農産物だが、苗を作り、それを圃場に植え、水を張り、生育を確認しながら雑草や病害虫にも対応し、さらに稲穂を収穫して米粒を分けるという膨大な作業を必要とする。その中でも大きなコストがかかっていたのが、育種〜移植の作業だった。

そこで、日本ならではの丁寧な作業をできるだけ再現するべく、ドローンにより直接圃場に種籾を打ち込み、育種から播種までの作業を一度に行う「ドローン直播」の技術が確立されてきている。播種後の苗立ちや栽培作業をやりやすくするための条を再現するといった開発は続けられているが、数年の間に育種による栽培からドローン播種へと大変革をもたらすかもしれない。

<事例>
・稲の直接播種に利用できる専用ドローン


スマート農業のデメリット、これからの課題

このようにいいことづくめに思えるスマート農業だが、当然これからスマート農業を導入しようと思うと、いくつかのデメリットも存在する。

イニシャルコストが割高

まず、導入にあたってのイニシャルコストが、通常の農機と比べて割高だ。いかに開発コストを低く抑えるかは、メーカーの手腕が問われる

。また、たとえ導入できたとしても農業分野で活用が始まったばかりのICTやロボットは、費用対効果の見通しが立てにくいという側面もある。結局うまく活用できずに途中で使用を断念した、という農家も多い。

個々の機器のデータ形式のバラツキ

次に、こうしたICT機器やロボットはメーカーごとに特色のある製品のため、どうしても問題となるのがソフトウェアやデータ形式の標準化だ。OSやミドルウェア、農業関連データなどは、長期的な視点でデータの保存や管理、移行まで視野に入れておく必要が、将来的には必ず出てくる。独自のシステムや規格に分かれていては相互運用ができないからだ。ただし、これらのOSやミドルウェアの開発は、市場シェアを獲得するべく企業や団体などの機関が単独で開発していることが多いため、なかなか標準化が進まないというジレンマに陥っている。

スマート農業実施者の不足と育成

スマート化のための人材育成という視点も必要になってくる。高齢化した農業従事者にとって、このようなスマートデバイスをすぐに活用できる人は少ない。スマート機器を使いこなすためのサポート体制や、ITに精通した人材の育成が、農業の分野の中で急務とされている。

農家への新たな作業負担

このようなスマート農業の導入にあたっては、導入する農家側にも、金銭的・時間的・技術的な負担がのしかかる。従来までのように農機を導入すること以上に覚えることが増え、パソコンやスマートフォン、タブレットなどを用いたデータ入力や、データの分析などは慣れない人には非常に難しいだろう。

スマート農業で育てた野菜の食味

そして忘れてはならないのが、農作物の味だ。いかにスマート農業で効率が上がり、収量が上がったとしても、そもそもおいしい農作物でなければ消費者は選んではくれない。植物工場のように、安定的に一定の収量が得られる取り組みも大切だが、LEDなどの人工光を受けた植物工場の野菜よりも、太陽光をいっぱいに受けて育った露地栽培の野菜の方がおいしいこともまた明白だ。

スマート農業は、私たちの農作業の負担などを軽減してくれることは間違いない。しかしそれは、おいしい野菜などを作るための“手段”であって“目的”ではない。栄養価が高く、おいしい野菜を育てるための方法がスマート農業であるという点を忘れないようにしたい。

初期コストをかけずにスマート農業を導入する方法

これまで述べてきたような課題を解決するために、ITベンチャー企業の株式会社オプティムが、導入コストが一切かからずにドローンやICT機器を導入できる「スマート農業アライアンス」 という取り組みをスタートさせている。

最先端のスマート農業ソリューションを導入可能に

高額な農機具を購入してもその代金の回収には何年、何十年とかかってしまうが、スマート農業アライアンスでは、無料で最先端のスマート農業を導入・運用することができる。

たとえば、ドローンにより圃場を撮影し、学習済みのAIによって病害虫の発生箇所を予測し、最小限の農薬のみで栽培する「ピンポイント農薬散布テクノロジー」や、トマトなどの生育状況をクローラータイプの移動式カメラで撮影し、AI分析して生育状況を判別したり、収穫時期を予測したり、病害虫を発見したりする画像解析技術、メガネタイプのスマートグラスを活用し、熟練農家の経験とカンを収穫者に伝えてベテラン農家の知識と技能を継承する、といった様々な取り組みを利用できる。

<事例>
・ハウス栽培の野菜の生育や病害虫のAI画像分析&管理「Agri House Manager」
・圃場の生育状況や病害虫をAI画像で検知「Agri Field Manager」

しかも、この「スマート農業アライアンス」を活用して栽培した作物は、オプティムが市場価格で全量を買い取ってくれる仕組みになっている。買い取った作物は「スマートアグリフーズ」という、安全・安心・高品質な作物としての価値を上乗せして販売される。さらに、その利益分の中からも、生産者に対してレベニューシェアというかたちで還元されるというシステムだ。

実際に販売も始まっており、ドローン×AIによって栽培した「スマート黒枝豆」は、本来使用するはずの農薬を大幅に減らし、健康面でのメリットが大きいと大手デパートや八百屋の店頭販売などで好評を博した。同様に、AIによる画像解析で病害虫を検知し、2018年は農薬散布自体を行わない=農薬不使用で栽培した「スマート米」「スマート米 玄米」も、福岡県、佐賀県、大分県、青森県の4県の品種からスタートしている。

<事例>
・「スマート黒枝豆」の店頭販売事例
・「スマート米」「スマート米 玄米」の直販サイト(スマートアグリフーズ直送便)
・「スマート米」「スマート米 玄米」の直販サイト(Amazon内)
・農業×ITが当たり前の世界へ──「スマート米 玄米」に込められたオプティムの思い

オプティムが取り組む理念は「儲かる農業」。これまで否応なくかかっていた厳しい労働力をICTの力で解決し、作業の省力化により収量や販路の拡大、品質の向上などに時間を使えるようになり、魅力的でやりがいのある農業を実現したいと考えている。

そのために、「スマート農業アライアンス」という仕組みを設け、一般の農家から農業法人などの大規模農家までさまざまな営業形態の農家に門戸を開いている。

このアライアンスの取り組みに賛同したり、共同で推進してくれる企業や研究機関、大学、自治体、金融機関など、農業に関わるあらゆる分野の人々と手を取り合って進めていこうとしている。

・オプティムが推進する「スマート農業アライアンス」とは




多くの企業がスマート農業に参画

他にも、今後多くの企業が農業分野に参戦してくることが見込まれている。すでにNTTドコモは法人向けにIoTソリューションを展開しているし、ソフトバンクといった通信・電話会社や、昔ながらの農機具メーカーのクボタ、ヤンマーなども、スマート農業に対応するサービスやハードウェアの開発を進めている。大学発のベンチャー企業なども農業向けのユニークな製品を開発しているほか、地方の銀行などからも、スマート農業への投資は拡大し続けている。

<事例>
・NTTドコモの法人向けIoT農業ソリューション事例
・ソフトバンクがオプティムと進めるドローン×AI×農業の実証実験

・クボタのスマート農業

・ヤンマーが考えるスマート農業
・みちのく銀行とオプティムによる合弁会社の事例

未来に向けた持続可能な農業の実現を

日本における農業従事者は高齢化の一途を辿っている。このこと自体は残念であり、危機感を持っている農業関係者は多い。

しかしその一方で、実は農家一人当たりの生産量は拡大しつづけており、暗い話題だけではない。高齢農家の離農により畑の土地が増えたり、後継者不足で担い手がいないままに耕作放棄地になった土地を活用することで、収量を増やせる可能性は大いにある。

また、日本だけを見れば人口は減少傾向だが、世界的には人口は増加し続けており、世界の食料は足りなくなっていくとも言われている。そうなれば、今後は安全で食味のいい日本の農産物や、付加価値の高い日本ブランドの農作物の輸出なども必ず求められるようになっていくだろう。

そんな時代に向けて、日本の農業がいま抱えている問題を解決するための方法のひとつが、スマート農業なのだ。労働力不足や高齢化、技術の継承といった現在直面している課題を克服し、ビッグデータやAIによる未来予測で農業を安定的に運用できる産業とすることは急務であり、それはスマート農業の活用とさらなる発展をもってすれば十分に実現可能だ。

折しも、国連サミットで「SDGs」(持続可能な開発目標)が採択され、様々な産業分野で未来を見据えた働き方や技術の活用が叫ばれるようになってきている。農業分野はSDGsの取り組みの最たるものと言われており、スマート農業の活用が、そのSDGsの取り組みにも不可欠なものとなりつつある。

スマート農業は、日本の未来の農業を持続可能でさらに魅力的で稼げる農業へと変えてくれるだろう。

(最終更新日:2022年2月14日 公開日:2018年4月24日)
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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