農薬散布やデータ解析に活躍! 農業用ドローン最前線

スマート農業における最新テクノロジーの一つとして、ドローン(小型無人航空機)が取り上げられることが多くなった。国も法整備を進め、活用の促進を図っている。

そんなドローンは農業での活用も視野に入っている。その現状はどのようになっているのか。さまざまなプレイヤーの「今」を紹介する。



ヤマハ発動機、クボタ、オプティム──続々登場する農業用ドローン

世界的にその活用が進められつつあるドローン。無人航空機の総称として、世の中に広く認知されるようになった。そもそも、ドローンは軍事で利用されていた機器である。敵陣の視察や救援物資の輸送などで活用されていた。このドローンが民間で利用されるようになり、今後さまざまな分野で活用が進むと期待されている。そして、農業もその一分野として有望視されている。

農業におけるドローンの活用例として、主に「農薬散布」が挙げられる。ドローンを使用して空中から農薬を散布することで、これまでよりも効率的に農薬散布を行うことができるのだ。そして、それを実現するためのドローンが、日本メーカーから続々と登場している。

たとえば、農業用機械を開発しているヤマハ発動機から登場したドローン(上)は、6枚羽を搭載して安定した飛行を実現。15分で1ヘクタールの農薬散布が可能だ。
また、クボタは8枚羽でさらに大型化と飛行の安定化を実現しようとしている。高精度なミリ波レーダーが搭載されているので、正確に高度維持することも可能だ。
さらに、小回りが利く小型ドローンの開発を行っているのがオプティムだ。4枚羽で機動性に富んでおり、ピンポイントで農薬を散布することが可能となっている。

今後はドローン業界の最大手・中国のDJIなどが参入してくる可能性も高いだろう。このように、農業用ドローンの開発は各社で進んでおり、ますます活発化することが予想される。

商社もドローン活用をビジネスチャンスに

ドローンに対して商機を見出しているのはメーカーだけではない。商社もこのチャンスをものにしようと狙っている。

総合商社の最大手・三菱商事は、日立製作所と共同で「スカイマティクス」を設立。すでに三菱商事が出資していた愛知県名古屋市にあるプロドローンと協力して、農薬散布ドローン「なかせ」や作物の生育状況を判断できるドローン「いろは」を開発して、2017年7月から販売を開始している。

そんななか、スカイマティクスが狙っているのは農作物のデータ収集だ。大量のデータを収集して人工知能で分析を行うことで、より効果が高い農薬散布時期や精度の高い収穫予測が可能となる。そして、ゆくゆくはAIとドローンの組み合わせで自動化したサービスの実現を目指している。

また、伊藤忠商事はグループ会社・スカパーJSATホールディングスを通じて農業用ドローンビジネスに参入している。スカパーJSATホールディングスは、ドローンの開発、製造、販売をヤマハ発動機と協業で手がけるエンルートに2016年から出資。エンルートは、国内に約1,000台のドローンを販売し、高い実績を有しているが、その約半分は農業用ドローンだという。農業分野におけるドローンのニーズの高さがうかがえる。

ドローンの自動飛行の基準を国も検討中

このように、ドローンの農業分野における活用は徐々に進みつつある。そして、その裏では政府が産業分野でのドローンの活用に向けて積極的に推進しているところが大きい。2017年12月に公表された「改正航空法の概要と最近の動向」によれば、空港周辺や人口密集地域、飛行機などが飛ぶ空域、イベント開催地以外であれば、ドローンの飛行は可能とされている。さらに農林水産省としても、ドローンによる自動飛行での薬剤散布に関して、安全性の確保や飛行地域などについての基準を設けるとしている。事故発生時の危険性をはらむことから安全第一で進んできたドローンに関する規制だが、農業に関しては柔軟な対応が検討されているようだ。

ちなみに、国が考えるドローンの活用は、農業だけではない。荷物配送など早ければ3年以内に実現するという。すでに一部山間部では2018年に荷物配送を本格化させる仕組みを導入すると明言しており、2018年はドローン物流元年になるかもしれない。

農業分野でドローンの活用を進めるために

ドローンを開発するメーカー、ビジネスチャンスを掴み取ろうとする商社、そして利用を後押しする政府と日本にもドローン活用の追い風が吹いている。ここ2、3年でドローンはさまざまな領域で当たり前のように利用されるかもしれない。そして、この流れは農業にも押し寄せてくるだろう。担い手の高齢化、人手不足という課題に直面している現状を踏まえると、ドローンを活用して少しでも生産性を上げることが求められている。

今後、ドローンを農業で活用するには、費用面も含め導入のハードルを下げ、AIなど連携してより効率的に作業が進められるということを利用者に提示していく必要がある。特に、費用面の支援は、自治体などが補助金制度などを用意して支援することも考えねばならないかもしれない。

農場を縦横無尽に飛ぶドローンの姿が当たり前になる。この光景がスマート農業の象徴になる日は、すぐそこまで来ている。

<参考URL>
ヤマハ発動機株式会社
https://www.yamaha-motor.co.jp/ums/
クボタ農業用マルチローター MG-1K
https://www.jnouki.kubota.co.jp/product/kanren/mg_1k/
固定翼・マルチコプター・陸上走行型ドローン | OPTiM
https://www.optim.co.jp/agriculture/robotics.php
SkymatiX X-F1
https://www.prodrone.jp/solutions/x-f1/
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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