【イベントレポート】 共同防除のDX化サービス「ピンポイントタイム散布サービス」が2万6000haまで拡大できた理由
2025年1月24日 、株式会社オプティムが「OPTiM スマート農業サービス 2025」という成果発表会を実施しました。
オプティムといえば、代表取締役社長の菅谷俊二氏が佐賀大学農学部出身ということから、佐賀大学内に本店を置き、研究者や学生との交流や協力もするなど、産学連携のパイオニアとしても有名です。
今回の発表会では、同社が農業DX事業として力を入れてきた「ピンポイントタイム散布サービス」(PTS)の2024年度の成果報告と導入事例、地域の担い手として自社で営農するオプティム・ファームの取り組みなどについて報告され、会場には生産者、自治体関係者、JAなどが参加したほか、オンライン配信では150名以上が視聴されたと言います。
オプティム佐賀にて行われた「OPTiM スマート農業サービス 2025」の様子(写真:オプティム)
特に印象的だったのは、ITベンチャーにありがちなテクノロジー主導のサービスではなく、現場の不便さや不満を解消するためにAI・IoT・ロボティクスを活用することを徹底する、という同社の信念です。
2024年時点で、全国で2万6000ha、26都道府県、133もの自治体で導入されたという「PTS」の成果発表会の内容を振り返りながら、その成功の理由を考えてみたいと思います。
2024年度の「PTS」の実績(資料提供:オプティム)
オプティムは、「農業×IT」を同社の主力事業のひとつに掲げ、AIとドローンを活用して農業の効率化を進めてきました。主な技術として、病害虫をAIで検出し、農薬をピンポイントで散布することで減農薬に貢献できる「ピンポイント農薬散布」や「ピンポイント施肥」、ドローンによる稲の直播技術「ドローン湛水条播」があります。これらにより、農薬使用量の削減と農作物の収量向上を実現しました。
これらのソリューションを無償で提供し、栽培された農産物を市場価格で買い取り、利益を生産者と分け合うレベニューシェアモデルを採用した「スマート米」は、2024年には前年比1.5倍の契約面積を達成しています。
こうした技術の開発・普及の中で2021年にスタートしたのが、「ピンポイントタイム散布サービス」(PTS)。ひとことで言えば、全国の自治体、JA、共同防除組合などが担ってきた水稲の共同防除を、AI・IoT・ドローンを駆使して丸ごとデジタル化し、防除効果を向上させるというサービスです。
オプティムのスマート農業事業のあゆみ。近年は技術開発のフェーズから、社会実装のフェーズへと移り変わってきている(資料提供:オプティム)
従来、水稲での無人ヘリを用いた共同防除では、ヘリの操縦こそ業者に依頼していたものの、各生産者の受注管理や圃場確認、当日の立ち合いなど、事業者側に多大な手作業が必要でした。「PTS」のすごいところは、散布作業以外の事務手続きなども含めて、丸ごと効率化できた点です。
共同防除に直接関わったことがない方は、『共同防除といっても、生産者の希望を聞き、散布時期を決め、業者に依頼するだけでは?』と思うかもしれません。
しかし、同じ地域とは言っても圃場が違えば栽培している米の品種も移植日もバラバラで、土壌の状態も違えば、病気や害虫の発生度合い、生育状況も当然異なります。そういったモザイクのような広範囲の圃場に、同じ時期、同じ薬剤、同じ量を撒いたとして、効果がどれだけ上がるかは推して知るべしでしょう。
かといって、取りまとめている共同防除組合は、それらを把握していても平均的な時期を定めることしかできません。さらに、当日は農薬の飛散などの心配から立ち会いも必須ですし、当日の天候によって散布日がずれ込むと余計に時間もかかってしまいます。
「PTS」は、そんな一見効率的だと思われてきた「共同防除」の妥協部分・不満部分を丁寧に解決し、依頼したひとりひとりの生産者にとって最適な効果を上げられるようにした、「理想の共同防除」と言えるかもしれません。
ヘリによる散布代行サービスと、PTSの比較(資料提供:オプティム)
もちろん、これらの対応を担当者が行うとなれば大変な時間と手間がかかります。そもそも実現が無理と考えられてきたきめ細やかな対応を、AI・IoT・ドローンなどの技術を活用することで初めて実現したという意味では、「PTS」はまったく新しいスマート農業サービスとも言えるでしょう。
「PTS」のもうひとつの強みは、全国の自治体・JA・共同防除組合が今も抱える膨大なアナログ業務を簡略化し、さらに翌年以降も活用できるようデータベース化している点。
正直なところ、今回の発表会を聞くまで、ここまで細かな事務作業までDX化しているとは想像もしていませんでした。
「PTS」による防除作業のデジタル化の具体例(資料提供:オプティム)
これらを実現できた背景には、オプティムが他の業種で進めてきたDX化の技術やアイデア、ノウハウを持っていたことが大きいように思います。
たとえば、生産者から申請された圃場の地番と自治体が管理している地番の表記揺れの修正などは些細なことにも思えますが、各自治体の担当者を悩ませてきた問題でもありました。紙で申し込む生産者にも手書きの申請書の文字情報を読み取ってデジタル変換し、地番のズレなどには独自のAIを活用して99%は解決できるようになっています。
生産者の認識、登記情報、合筆・分筆による変更などのズレを整えるだけでも、大きな手間がかかる(資料提供:オプティム)
また、共同防除を行う圃場ごとの品種や移植日のズレ、立地を踏まえた上で、ドローンによる効率的な日程や散布ルートを考えるとなると、これだけでも非常に難しいことは想像に難くありません。こういった部分にはAIを活用し、最適な散布プランを自動で作成しているとのこと。これにより等級や収量がアップし、利益が上がったという実例も報告されました。
移植日、品種、気象予測などをから最適な散布日を決めることで病害虫を予防し、等級や収量のアップにつながった(資料提供:オプティム)
さらに、散布するのが人間である以上、認識のずれやミスなどのヒューマンエラーが生じる可能性もあります。それらを防ぐためにGPSとAIによりドローン散布の進捗などをリアルタイムで把握し、パイロット側のミスが起きにくいようにオペレーションを徹底。現在は、パイロットの育成やレベルアップのための講習などにも力を入れています。
デジタル地図とフライトログで確実に把握することで、共同防除組合の担当者が現場で立ち会う必要をなくすことも可能になりました。また、不測の事態に対して、パイロットの変更やドローンのトラブルにもAIなどで適切に対応できるように、バックアップ体制まで取っているというから驚きです。
ちなみに、散布作業の際にはパイロットに圃場の写真も撮影させています。これにより、生育状況がある程度わかるだけでなく、適期に散布できていたかのチェックも行っています。
センシングによる圃場の状況確認だけでなく、写真によるチェックも行っている(資料提供:オプティム)
「PTS」は、これまでの共同防除などで行われてきた「散布作業のみの代行」ではなく、防除に関わるすべての作業を請け負うことで、生産者はもちろん、共同防除に関わるあらゆるコストと作業の手間を省いていました。実際に全国で133の自治体が導入しているという事実が、その実績を示しています。
オプティムが「PTS」をここまで拡大できた理由のひとつは、全国的にこれまでの共同防除の費用対効果が見込めなくなってきたことや、人手不足が挙げられます。
生産者の都合にかかわらず、地域全体への散布を優先して一斉散布しても、個々の病害虫対策がうまくいかないケースも増えています。
発表会の中で紹介された事例としては、
事例を紹介してくれたオプティム インダストリーDX本部の星野氏(写真:オプティム)
担い手の減少は生産現場だけの問題ではありません。営農指導員やJA、自治体などの担当者、そして共同防除に関わる人材も同様です。
こうした事務方の負担を軽減することこそ、オプティムが農業以外の主力事業の中で培ってきた分野であり、その実績があればこそ「PTS」による農業DXに生かせたということでしょう。
オプティムが進めるDX事業。さまざまな事業のDX化ノウハウが農業にも生かされている(資料提供:オプティム)
農業DX事業の最後のテーマは、「オプティム・ファーム」事業です。名前のとおり、生産者の苦労を深く理解し、テクノロジーで解決策を模索することを目的に2023年に設立された新会社です。
2023年に栃木県と茨城県の10haの農地から始まり、2025年度には栃木県と茨城県で合計100haを超える見込みとなっています。
少し考えてみると、IT企業が農業法人を立ち上げて農業に取り組むということがどれほど難しいことか、農業を知る人なら気づくでしょう。農地はお金を出せば買えるというものではありませんし、地域における担い手はその地域の中で培われていきます。
2025年度のオプティム・ファームの予定地。栃木県、茨城県だけでなく、全国に規模を拡大する考えもあるという(資料提供:オプティム)
ITベンチャーのオプティムがそれを実現できたのは、地元の方々との関係構築に時間をかけながら、現場に足を運んできたからです。どんなに技術を持った企業でも、突然耕作放棄地に困っている地域に出向いたからといって、すぐに現地の方々から任せてもらえるようなことはほとんどありません。
オプティム・ファームが2年間で10倍もの圃場拡大につなげられたのは、自治体や地元生産者の支援を受けながら、耕作放棄地を活用しているためでもあります。地域の方々と交流しながら、スマート農業技術を少しずつ理解してもらい、企業としての信頼を高めた上でなければ、農業IT企業だからといって簡単に圃場を利用させてはもらえないでしょう。
また、営農の中で地域住民の雇用創出、農業技術の継承、スマート農業の普及も進めています。そのために、社員は現地出身の方を新たに採用し、2025年度は新入社員も採用し、スマート農業が当たり前に使われる、日本の農業の未来の担い手の育成につなげようとしています。
2025年はオプティム・ファーム近隣の農業高校や農業大学などから新卒正社員を採用(資料提供:オプティム)
発表会の最後に菅谷氏が再び登壇し、「農業は国の基幹産業」であるということをあらためて強調しました。
株式会社オプティム 代表取締役社長の菅谷俊二氏(写真:オプティム)
「世界中のどこを見渡しても、農作物を作っていない国はほとんどありません」とも語っていましたが、たしかに日本のどの地域にも農業の担い手は必ず存在します。農作物は人が生きていく上で必要な栄養源のひとつでもあり、豊かな生活を楽しむためにも野菜は欠かせません。
一方で菅谷氏は、そんな日本の農業が直面している課題として、「少子高齢化による担い手の不足」「耕作放棄地の増加」「食料自給率の低下」「気候変動や国際情勢への対応」といったものも挙げています。いずれも現在進行形であり、明確な解決の見通しも立っているとは言えません。
こうした課題を解決するために、オプティムは農業DX事業に注力してきました。もちろん慈善事業というわけではありません。AI・IoT・ドローンによる「ピンポイント農薬散布」を開発した頃からオプティムが常に示してきた、「楽しく、かっこよく、稼げる農業」という言葉にそれは現れています。
いくら技術が優れていても、農業に携わる方々が金銭面でも精神面でも豊かにならなければ、持続可能な農業とは言えません。それを実現するために必要なこととして、菅谷氏は「産業構造の変革」と「若者の就農」という2つを掲げました。
産業構造については、生産者個人や農業法人単位で農業に関わるすべての作業をマルチに行うのではなく、専門作業ごとに分業化することで、コスト削減と収益性の向上を目指す「水平分業化」と、デジタル技術によるデータ共有と広範囲にわたる効率的な営農により、設備投資の効率を高める「仮想大規模化」が鍵になるとも語っています。
現場が本当に困っていることを解決してこそのスマート農業であり、個々の栽培技術の効率化やデータ化だけでは、急速に進む日本の農業の課題には太刀打ちできません。それぞれの立場でスマート農業技術やデジタル技術を学びながら、未来を見据えた営農を心がけることで、少しずつ日本の農業は変わっていけるはずです。
ドローン適期防除サービス | ピンポイントタイム散布
https://www.optim.co.jp/agriculture/services/pts
農業DX事業|オプティム
https://www.optim.co.jp/business/agriculture
オプティムといえば、代表取締役社長の菅谷俊二氏が佐賀大学農学部出身ということから、佐賀大学内に本店を置き、研究者や学生との交流や協力もするなど、産学連携のパイオニアとしても有名です。
今回の発表会では、同社が農業DX事業として力を入れてきた「ピンポイントタイム散布サービス」(PTS)の2024年度の成果報告と導入事例、地域の担い手として自社で営農するオプティム・ファームの取り組みなどについて報告され、会場には生産者、自治体関係者、JAなどが参加したほか、オンライン配信では150名以上が視聴されたと言います。
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特に印象的だったのは、ITベンチャーにありがちなテクノロジー主導のサービスではなく、現場の不便さや不満を解消するためにAI・IoT・ロボティクスを活用することを徹底する、という同社の信念です。
2024年時点で、全国で2万6000ha、26都道府県、133もの自治体で導入されたという「PTS」の成果発表会の内容を振り返りながら、その成功の理由を考えてみたいと思います。
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共同防除のDX化を推進する「ピンポイントタイム散布サービス」の徹底度
オプティムは、「農業×IT」を同社の主力事業のひとつに掲げ、AIとドローンを活用して農業の効率化を進めてきました。主な技術として、病害虫をAIで検出し、農薬をピンポイントで散布することで減農薬に貢献できる「ピンポイント農薬散布」や「ピンポイント施肥」、ドローンによる稲の直播技術「ドローン湛水条播」があります。これらにより、農薬使用量の削減と農作物の収量向上を実現しました。
これらのソリューションを無償で提供し、栽培された農産物を市場価格で買い取り、利益を生産者と分け合うレベニューシェアモデルを採用した「スマート米」は、2024年には前年比1.5倍の契約面積を達成しています。
こうした技術の開発・普及の中で2021年にスタートしたのが、「ピンポイントタイム散布サービス」(PTS)。ひとことで言えば、全国の自治体、JA、共同防除組合などが担ってきた水稲の共同防除を、AI・IoT・ドローンを駆使して丸ごとデジタル化し、防除効果を向上させるというサービスです。
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散布作業に加えて重要なアナログ事務作業
従来、水稲での無人ヘリを用いた共同防除では、ヘリの操縦こそ業者に依頼していたものの、各生産者の受注管理や圃場確認、当日の立ち合いなど、事業者側に多大な手作業が必要でした。「PTS」のすごいところは、散布作業以外の事務手続きなども含めて、丸ごと効率化できた点です。
共同防除に直接関わったことがない方は、『共同防除といっても、生産者の希望を聞き、散布時期を決め、業者に依頼するだけでは?』と思うかもしれません。
しかし、同じ地域とは言っても圃場が違えば栽培している米の品種も移植日もバラバラで、土壌の状態も違えば、病気や害虫の発生度合い、生育状況も当然異なります。そういったモザイクのような広範囲の圃場に、同じ時期、同じ薬剤、同じ量を撒いたとして、効果がどれだけ上がるかは推して知るべしでしょう。
かといって、取りまとめている共同防除組合は、それらを把握していても平均的な時期を定めることしかできません。さらに、当日は農薬の飛散などの心配から立ち会いも必須ですし、当日の天候によって散布日がずれ込むと余計に時間もかかってしまいます。
「PTS」は、そんな一見効率的だと思われてきた「共同防除」の妥協部分・不満部分を丁寧に解決し、依頼したひとりひとりの生産者にとって最適な効果を上げられるようにした、「理想の共同防除」と言えるかもしれません。
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もちろん、これらの対応を担当者が行うとなれば大変な時間と手間がかかります。そもそも実現が無理と考えられてきたきめ細やかな対応を、AI・IoT・ドローンなどの技術を活用することで初めて実現したという意味では、「PTS」はまったく新しいスマート農業サービスとも言えるでしょう。
圃場の地番チェックや散布日の日程調整などはAIで
「PTS」のもうひとつの強みは、全国の自治体・JA・共同防除組合が今も抱える膨大なアナログ業務を簡略化し、さらに翌年以降も活用できるようデータベース化している点。
正直なところ、今回の発表会を聞くまで、ここまで細かな事務作業までDX化しているとは想像もしていませんでした。
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これらを実現できた背景には、オプティムが他の業種で進めてきたDX化の技術やアイデア、ノウハウを持っていたことが大きいように思います。
たとえば、生産者から申請された圃場の地番と自治体が管理している地番の表記揺れの修正などは些細なことにも思えますが、各自治体の担当者を悩ませてきた問題でもありました。紙で申し込む生産者にも手書きの申請書の文字情報を読み取ってデジタル変換し、地番のズレなどには独自のAIを活用して99%は解決できるようになっています。
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また、共同防除を行う圃場ごとの品種や移植日のズレ、立地を踏まえた上で、ドローンによる効率的な日程や散布ルートを考えるとなると、これだけでも非常に難しいことは想像に難くありません。こういった部分にはAIを活用し、最適な散布プランを自動で作成しているとのこと。これにより等級や収量がアップし、利益が上がったという実例も報告されました。
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さらに、散布するのが人間である以上、認識のずれやミスなどのヒューマンエラーが生じる可能性もあります。それらを防ぐためにGPSとAIによりドローン散布の進捗などをリアルタイムで把握し、パイロット側のミスが起きにくいようにオペレーションを徹底。現在は、パイロットの育成やレベルアップのための講習などにも力を入れています。
デジタル地図とフライトログで確実に把握することで、共同防除組合の担当者が現場で立ち会う必要をなくすことも可能になりました。また、不測の事態に対して、パイロットの変更やドローンのトラブルにもAIなどで適切に対応できるように、バックアップ体制まで取っているというから驚きです。
ちなみに、散布作業の際にはパイロットに圃場の写真も撮影させています。これにより、生育状況がある程度わかるだけでなく、適期に散布できていたかのチェックも行っています。
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「PTS」は、これまでの共同防除などで行われてきた「散布作業のみの代行」ではなく、防除に関わるすべての作業を請け負うことで、生産者はもちろん、共同防除に関わるあらゆるコストと作業の手間を省いていました。実際に全国で133の自治体が導入しているという事実が、その実績を示しています。
全国の共同防除に共通する課題
オプティムが「PTS」をここまで拡大できた理由のひとつは、全国的にこれまでの共同防除の費用対効果が見込めなくなってきたことや、人手不足が挙げられます。
生産者の都合にかかわらず、地域全体への散布を優先して一斉散布しても、個々の病害虫対策がうまくいかないケースも増えています。
発表会の中で紹介された事例としては、
- 共同防除を担当してきた団体が事業を撤退してしまい、自治体が中心となって体制を作ることになったケース
- 担当してきた自治体が事務作業負担により疲弊してしまったケース
- 担当してきたJAが立ち会いなどの運営負担が大きく、提供エリアの拡大に対応できなかったケース
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担い手の減少は生産現場だけの問題ではありません。営農指導員やJA、自治体などの担当者、そして共同防除に関わる人材も同様です。
こうした事務方の負担を軽減することこそ、オプティムが農業以外の主力事業の中で培ってきた分野であり、その実績があればこそ「PTS」による農業DXに生かせたということでしょう。
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オプティム自身も担い手となる「オプティム・ファーム」事業
農業DX事業の最後のテーマは、「オプティム・ファーム」事業です。名前のとおり、生産者の苦労を深く理解し、テクノロジーで解決策を模索することを目的に2023年に設立された新会社です。
2023年に栃木県と茨城県の10haの農地から始まり、2025年度には栃木県と茨城県で合計100haを超える見込みとなっています。
少し考えてみると、IT企業が農業法人を立ち上げて農業に取り組むということがどれほど難しいことか、農業を知る人なら気づくでしょう。農地はお金を出せば買えるというものではありませんし、地域における担い手はその地域の中で培われていきます。
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ITベンチャーのオプティムがそれを実現できたのは、地元の方々との関係構築に時間をかけながら、現場に足を運んできたからです。どんなに技術を持った企業でも、突然耕作放棄地に困っている地域に出向いたからといって、すぐに現地の方々から任せてもらえるようなことはほとんどありません。
オプティム・ファームが2年間で10倍もの圃場拡大につなげられたのは、自治体や地元生産者の支援を受けながら、耕作放棄地を活用しているためでもあります。地域の方々と交流しながら、スマート農業技術を少しずつ理解してもらい、企業としての信頼を高めた上でなければ、農業IT企業だからといって簡単に圃場を利用させてはもらえないでしょう。
また、営農の中で地域住民の雇用創出、農業技術の継承、スマート農業の普及も進めています。そのために、社員は現地出身の方を新たに採用し、2025年度は新入社員も採用し、スマート農業が当たり前に使われる、日本の農業の未来の担い手の育成につなげようとしています。
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見据えているのは「日本の産業構造の変革」と「若者の就労」
発表会の最後に菅谷氏が再び登壇し、「農業は国の基幹産業」であるということをあらためて強調しました。
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「世界中のどこを見渡しても、農作物を作っていない国はほとんどありません」とも語っていましたが、たしかに日本のどの地域にも農業の担い手は必ず存在します。農作物は人が生きていく上で必要な栄養源のひとつでもあり、豊かな生活を楽しむためにも野菜は欠かせません。
一方で菅谷氏は、そんな日本の農業が直面している課題として、「少子高齢化による担い手の不足」「耕作放棄地の増加」「食料自給率の低下」「気候変動や国際情勢への対応」といったものも挙げています。いずれも現在進行形であり、明確な解決の見通しも立っているとは言えません。
こうした課題を解決するために、オプティムは農業DX事業に注力してきました。もちろん慈善事業というわけではありません。AI・IoT・ドローンによる「ピンポイント農薬散布」を開発した頃からオプティムが常に示してきた、「楽しく、かっこよく、稼げる農業」という言葉にそれは現れています。
いくら技術が優れていても、農業に携わる方々が金銭面でも精神面でも豊かにならなければ、持続可能な農業とは言えません。それを実現するために必要なこととして、菅谷氏は「産業構造の変革」と「若者の就農」という2つを掲げました。
産業構造については、生産者個人や農業法人単位で農業に関わるすべての作業をマルチに行うのではなく、専門作業ごとに分業化することで、コスト削減と収益性の向上を目指す「水平分業化」と、デジタル技術によるデータ共有と広範囲にわたる効率的な営農により、設備投資の効率を高める「仮想大規模化」が鍵になるとも語っています。
現場が本当に困っていることを解決してこそのスマート農業であり、個々の栽培技術の効率化やデータ化だけでは、急速に進む日本の農業の課題には太刀打ちできません。それぞれの立場でスマート農業技術やデジタル技術を学びながら、未来を見据えた営農を心がけることで、少しずつ日本の農業は変わっていけるはずです。
ドローン適期防除サービス | ピンポイントタイム散布
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農業DX事業|オプティム
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