農業ブルドーザー+ICT技術のコマツが、日本の農林業を救う 〜株式会社小松製作所

建設機械の世界的企業、コマツ。同社製品は洋の東西を問わず人気が高く、世界中の建設現場で働いている。

コマツが特に先行しているのはICTの活用である。「KOMTRAX」と呼ばれる建設機械の稼働管理システムを提供している。建設機械の位置や稼働時間、稼働状況などの情報を提供するシステムだ。得られた情報を活用することで、車両の稼働率向上や維持費の低減等、機械のライフサイクルでのサポートに貢献している。

そんな建設機械の先駆者であるコマツがいま、農業・林業との関わりを深めている。コマツは一体、何を目指しているのだろうか? 林業についてはグリーン事業(林業・農業)推進部の増野谷裕弘さんに、農業については同部の矢上尚孝さんにお話をうかがった。


株式会社小松製作所(コマツ)グリーン事業推進部の矢上尚孝氏(左)と増野谷裕弘氏(右)


農業ブルドーザーで農業を省力化・効率化する手法


SMART AGRIの読者には説明も不要だろうが、日本農業には固有の問題がある。農業従事者の減少と高齢化の同時進行である。それに対応するには、農業の省力化・効率化が欠かせない。

この課題解決に向けて国も動いている。2013年に閣議決定された日本再興戦略において、米について今後10年間(2023年まで)の間に生産コストを平成23年全国平均(1万6000円/60kg)から4割削減する、という目標を設定したことは、ご存じの通りだ。

こうした背景にあってコマツが目を付けたのが稲作工程の見直し。一般的な水稲栽培においては、田起こしから播種、育苗、そして田植までに、特に多くの労働が必要となる。これらの工程を省略できたら、繁忙期の作業分散にもつながり……それは省力化・効率化に直結する。

その代表的なものが、水稲直播だ。苗を植えるのではなく、水田に直接種子を播く栽培方法のこと。育苗→田植作業を省略できる。直播には、種籾に鉄粉を塗布(鉄コーティング種子)して行う「湛水直播」と、不耕起V溝播種機による「乾田直播」があるが、コマツは現在ICTブルによる高精度均平を活かし、先ずは、乾田直播農法でのブルの活用を推進展開している。


出典:コマツ

育苗→田植をしないで済む直播は省力化・効率化が可能になるが、大きな課題があった。「圃場の均平化」である。

直播では種籾を直接水田に蒔くため、圃場の均平化が正しくできていれば、発芽→生育初期の苗立ちがうまく行く。ところが、この均平化が容易ではない。一般的にはトラクター+レーザーレベラーで圃場の高さを均平化するのだが、作業には熟練を要すうえ、良好な生育を担保できるレベルに均平化ができない例もある。その結果、せっかく始めた直播を諦めてしまう農業生産者がいるほどだ。


出典:コマツ

この均平化で活躍しているのが、コマツの農業ブルドーザー+ICT技術である。

これまでにコマツが土木工事の調査・設計・施工等において培ってきた技術である、人工衛星、デジタル無線、インターネットといった情報通信技術を用いて、高効率・高精度な均平化を実現する。


出典:コマツ

「D21PL-8ブルドーザー」という農業ブルドーザーは、GNSS衛星データとあらかじめ取得しておいた3次元データを組み合わせることで、自車位置とレーザーレベラーの高さを調節してくれる。熟練者がトラクターを操作して行う均平化での精度は50mm、レーザーレベラーでも25mm~35mmであったものが、「D21PL-8ブルドーザー」では15mmにまで高まる。熟練者でなくてもそれが可能であるというから、人手不足の農業界にとって救世主となる可能性がある。


農業ブルドーザーのメリットとは?


この農業ブルドーザーによる均平化のメリットを証明すべく、コマツは2013年から石川県農林総合研究センターと実証実験を行った。2013年は移植栽培で、そして2014年と2015年にはV溝乾田直播による多収米栽培を行ったのである。その結果、生産コスト4割削減(多収米による削減分は2割)できることが明らかになった。

コスト削減の詳細を見てみよう。これは事前に想定されていたとおりだが、

  1. 直播化による育苗ハウスと作業の廃止
  2. ブルドーザーの高い耐久性による償却費低減
  3. V溝乾田直播による田植機と田植作業の廃止
  4. 均平化と乾田直播による水管理作業の低減

という4点が挙げられたという。

出典:コマツ

農業担当の矢上さんが、農業ブルドーザーについて、さらに詳しく教えてくれた。

「農業ブルドーザーと呼ぶからには、幅広い農作業に役立つように改良されています。トラクターで一般的な後方作業機をそのまま流用できるよう、後ろに三点リンクとクイックカプラ、PTOを搭載。これで、均平はもちろんのこと、耕起、代かき、直播といった作業が可能となります。農業ブルドーザーは、名前から想像されるよりはるかに多目的に使うことができるのです。

また農業ブルドーザーのメリットは、走破性が高いという点も挙げられます。鉄クローラーとゴムクローラーという二つの仕様を用意していますが、いずれもこれまで作業が困難であった湿地での作業が可能です。

軟弱地だけでなく、水整地ができるのもウリの一つですね。農作業に費やせる時間は限られているため、北陸や関東地区の乾きにくい地域では、特に作業できる時間が問題となります。『一気にレベラーを掛けたいけれど乾いていないからできない……』という時にも、農業ブルドーザーなら作業できます。作業可能期間が広がるわけです。

そしてもちろん、土木系の作業はお手のものです。圃場整備、たとえば畦畔除去などで大活躍する姿は、一般の方も想像しやすいのではないでしょうか? もちろんブルドーザーがトラクターより劣る点もありますが、土工量が求められる場合にはブルドーザーが有利です。でき上がっている圃場での作業はトラクター、大規模化や土工量の多い圃場での均平化といった作業は農業ブルドーザー、という住み分けができると、より農作業が効率化すると考えています」


農業ブルドーザーのシェア拡大の鍵は?


建機であるブルドーザーを転用すれば、水稲の効率化に貢献できることはわかる。しかし一般的に農業生産者が利用しているのはトラクター。そこに「ブルドーザーを使ってみよう!」と発想を転換させることは容易ではない。

そこでコマツが注目しているのが、すでにブルドーザーを所有している土木業・土建業だ。

「当社が期待しているのは、土木業をやりながら農業をやっている、という方です。中規模経営の農業生産者さんですと、案外土木業と兼業している方がいらっしゃいます。たとえば水稲50ha+土建業という方にとっては、農業ブルドーザーに心理的な障壁はありません。まずは、そうした方々から情報提供していただいたり、コンタクトを取りつつ、徐々に認知を拡大して行きたいですね。

一方、超大規模営の農業法人さんについての障壁も小さくはないですが、大型機械を複数台所有することに抵抗がありませんから、所有車のうちの1台を農業ブルドーザーにする、という考え方が比較的受け入れられやすい。すでにトライアルもしていただいており、トラクターとの違いを体感して、総合的に評価していただきたいと思っています。

もう一つの注目点は、土建業の方による農業への参入です。ご存じのとおり、公共事業はこれから減少していくと考えられます。そこで、いかにして売上を上げていこう、となったときに、農業に参入する土建業の方が出てくるのではないか、と考えているのです。

土建業の方が営農にまで携わるかは不明ですが、垣根は下がり、結び付きが強くなる可能性がある。彼らが農業ブルドーザーを購入して、例えば均平化作業を請け負う、ということもありえます。

そして最後は農業ブルのシェアリング。圃場面積が5haとか10haといった農家さんもいらっしゃいますが、地域で1台農業ブルドーザーを持ったらどうでしょうか、というご提案です。行政にも検討してもらっています」


農業ブルドーザーの課題


農業ブルドーザーによって、トラクターではやりにくい作業が可能になり、トラクターを補完する機能があることはわかる。では、デメリットはないのだろうか。

「一つは、先にお伝えした心理的な参入障壁。ここは地道にやっていくしかありません。

それから、実務上で引っ掛かるのが、輸送性の問題です。トラクターのように公道を走ることができませんので、そこをどうするか。また、ブルドーザーは運転するのに車両系建設機械(3t以上)の免許が必要となります。金額的にも日数的にもそれほど大きな負担ではありませんが、トラクターのようには行きません。これらは、お客様と具体的にお話しする際には、必ず事前に説明しています。

ここまでにご説明したように、農業ブルドーザーには独自のメリットがあります。そこに目を向けてくださる方を増やして行けたらと考えています」


コマツが取り組む林業イノベーション


農業と林業は関係が深く、日本固有の課題を抱えている点は類似している。そこでここからは、簡潔に日本林業の現状と課題を概説したうえで、コマツの挑戦について紹介して行く。

日本は今、第二次世界大戦後に大量に植林した森林を抱えている。ところが、労働生産性は低く、労働災害率は高く、また造林のためのコストが高い。そのうえ林業従事者数は減少傾向にある。こうした現状を改善するために林野庁が進めているのが、「林業イノベーション」だ。

「林業イノベーション」では、生産に関しては、ICT活用により資源管理や生産管理を行う「スマート林業」や自動化機械の開発、早生樹等の育種といった技術革新により伐採・搬出や造林を省力化・軽労化する、とされている。

具体的には5つのポイントが示されているが、コマツが注目したのは以下の2つのポイントだ。

ポイント1:記憶からデジタル記憶の森林管理へ
  • 資源・境界情報をデジタル化することで、人手と時間をかけることなく、森林を管理・利用
  • レーザ計測、ドローン、ICT機器を使用し、路網を効率的に整備・管理

ポイント2:経験から、ICTによる生産管理へ
  • 経験則に頼る木材の生産管理にITを導入
  • 資源・境界の管理、生産計画の策定、木材生産の進捗管理、事業の精算を効率的に運営

あまり知られていないが、コマツは2004年にスウェーデンの林業機械メーカーを買収してコマツフォレストAB社を設立。それを端緒として、林業機械の生産・販売事業に本格的に乗り出した。

以降、林業向けにさまざまなシステム・サービス事業を展開。林業にICT を導入することでスマー ト化を図ろうとしている。

出典:コマツ

林業担当の増野谷さんにお話しいただいたのは、2014年に石川県と林業に関する包括連携協定を締結して開始した、林業のサプライチェーンを効率化する仕組みについてである。

「ドローンによる空撮を活用することで、これまで人が山に入って行っていた森林調査を軽労化し、効率化を実現します。これまでは、どこにどれだけの資源があるのか経験に頼るところがあったのですが、ドローンの活用で資源量の見える化を容易に実現します」

具体的には、空撮した写真を付属のコンピュータで処理することで位置精度の高い森林の情報が取得でき、得られたデータはクラウド上に保管される。クラウドシステムには、建設業界向けとして成功している「LANDLOG」を活用している。

保管されたデータをウェブアプリで解析することで森林の資源量(本数や体積)が推定できる。また、ICTハーベスターと呼ばれる林業機械で、伐採した木の太さや長さ、体積などのデータをクラウドシステムを介して離れた場所にある事務所や木材センター・製材工場などにリアルタイムで送り、販売に活用することも考えている。

そして将来は、木材価格や需要量といった情報に合わせて最適な施業計画作成や集材指示等を行う仕組みや、自動化技術を活用して作業を行う仕組みを、IoTの活用により構築する。



出典:林野庁「林業イノベーション現場実装推進プログラム」

「需要に合わせて伐採・加工を行うことができれば、同じ材でも、より高価に販売できるようになります。収益性の向上に直結するわけです。また需要に応じて伐採するということは、逆に言えば不要な伐採を行わないことにもなるんですよ」

建設機械そのものだけでなく、ドローン活用やクラウドシステムの利用など、林業の川上から川下までをつなぐというコマツは、2019年8月から、スマート林業化を加速させるべく、ドローン本体の無償貸出を開始している。まずはドローンを使ってもらい、ユーザーからの要望を聞き出すのが狙いだ。

「当社としては測量した成果を共有させていただき、貸し出したドローンが取得した画像を、オルソ画像(写真上の像の位置ズレをなくし、地図のように正しい大きさと位置に表示される画像に変換した画像のこと)と点群データとして活用できるようにしています。オルソ画像は立ち枯れの状況確認などに、点群データは斜面形状の確認などに用います。この森林資源量の把握の部分は、他社(SAP、ドコモ、オプティム)と一緒にやっていて、ウェブ上のアプリ運営はオプティムが行っています」

次に行ったのが、伐採した木のデータ化だ。従来、チェンソー等を使い人力で木を伐っていたが、ハーベスターと呼ばれる林業機械を使う。

ハーベスターは、伐った木に残った枝を取り除く枝払いという作業や、用途に合わせた長さに切る測尺玉切りといった作業、それに玉切りした材を集める集積作業を1台で行える機械。このハーベスターにモデムを車載しておき、木をつかむと長さ、太さなどが「LANDLOG」にアップロードされる。これにより、どこでどのハーベスターがどんな材を取ったのかが、事務所で確認できるようになるというわけだ。

「整理しますと……第1フェーズに当たるドローン利用による森林の見える化はすでに実現しており、現在その動きを加速化させています。第2フェーズがハーベスターで、これも今、取り組んでいるところ。第3フェーズでは、搬出するためのフォワーダーと呼ばれる積載式の集材作業車の情報を「LANDLOG」に入れたい。

ハーベスターでデータを取ることはできるのですが、伐った木にはタグが付いていないため、材を完全に個別管理はできていないのです。ヨーロッパでは材の端面にインクで吹き付ける方法が使われていますが、決定打にはなっていません。材の個別管理をどうするのか、ということと、得られたデータを製材業者とマッチングする、という課題についても第3フェーズで取り組む予定です」


コマツの確かな技術が農林業を活性化する


今回の「連載 スマート農業に挑む企業たち」では、圃場の均平化や大規模化を誰でも高精度に実現可能な農業ブルドーザーと、ICT利用による林業サプライチェーンのスマート化に挑戦するコマツを紹介した。

前者からは、トラクターに取って代わるものではなく、新たな選択肢として、水稲栽培の効率化と低コスト化を実現する可能性が感じられた。後者は、サプライチェーン全体に関わるプロジェクトだけに、すぐに成果がでるものではないだろう。しかし、林業サプライチェーンのスマート化は林業界にとっての悲願である。業界全体のバックアップが得られれば、加速的に進んで行く可能性がある。

コマツによる農林業における挑戦は、建設業という長い歴史と甘えが許されない業界で培った確かな技術に基づいている。課題解決に対する一つの有効な解となる機能が備わっていることも間違いない。後は農林業の現場に受け入れられるのか……今後も注目してウォッチして行きたい。


コマツD21PL-8農業ブルドーザー
https://home.komatsu/jp/kcsj/kyusyu_okinawa_n/products_detail.php?item_id=239

LANDLOG
https://www.landlog.info/
林野庁「林業イノベーション現場実装推進プログラム」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/press/ken_sidou/attach/pdf/191210-1.pdf

【連載】スマート農業に挑む企業たち
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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