農研機構と岡山大学、ゲノム編集によるコムギの改良に国内で初めて成功

岡山大学資源植物科学研究所の佐藤和広教授、農研機構(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)の安倍史高主任研究員らの共同研究グループは、コムギの特性の改良にゲノム編集技術を利用することで、収穫時期に雨に濡れても発芽しにくい(休眠が長い)植物体を短期間のうちに開発することに成功した。

図1 コムギとオオムギは共通の祖先から3百万年前ころに分かれたとされており、それぞれ7対の染色体からなる類似したゲノムを、コムギは3組、オオムギは1組持っている。オオムギの5番目の(5H)染色体には種子休眠を変えるQsd1(キューエスディーワン)があることがわかっていたが(○印)、コムギでは同じ祖先をもつ遺伝子配列に種子休眠を変える作用があることは知られていなかった(出典:岡山大学/農研機構)

ゲノム編集を用いてコムギの特性の改良に成功したのは国内初。オオムギの遺伝子情報でコムギの特性の改良ができることを示し、同じ役割をもつ3つの遺伝子全てを1年あまりで改変した。

図2 A、B、Dゲノムの遺伝子と変異したa、b、dをもつ個体の種子発芽の遅れ(休眠程度)(出典:岡山大学/農研機構)

複雑なゲノムを持つコムギの特性の改良のため、より単純なゲノムを持つオオムギで発見された遺伝子情報を役立てた。この手法は、他の植物種の遺伝子情報をもとに、コムギにおいて重複している遺伝子を一度に変えて新たな特性を生み出すための技術として注目されている。本研究成果は7月30日(米国東海岸時間午前11時)、「Cell Reports」電子版にも公開されている。

日本や北欧など収穫期に雨の多い地域では、休眠が短い品種などで、穂についたまま芽の出る穂発芽(ほはつが)が発生し、コムギの生産に大きな損害が出ていた。しかし、コムギの中には穂発芽耐性の改良に役立つような遺伝資源が少ない。本研究成果によって、オオムギなど近縁の植物の遺伝子情報を活用した効率的なコムギの品種開発の可能性が示されたことになる。

図3 A,B.Dゲノムに変異を持つ植物(左)の種子休眠による発芽の遅れ(出典:岡山大学/農研機構)

■論文情報
論文名:Genome-edited triple recessive mutation alters seed dormancy in wheat
邦文題名「ゲノム編集による三重変異でコムギの種子休眠が変わる」
掲載紙:Cell Reports
著者:Fumitaka Abe1, Emdadul Haque1, Hiroshi Hisano2, Tsuyoshi Tanaka1, Yoko Kamiya3, Masafumi Mikami4, Kanako Kawaura3, Masaki Endo4, Kazumitsu Onishi5, Takeshi Hayashi1 and Kazuhiro Sato2
所属
1
Institute of Crop Science, NARO, Tsukuba, 305-8518, Japan
農研機構次世代作物開発研究センター
2
Institute of Plant Science and Resources, Okayama University, Kurashiki, 710-0046, Japan
岡山大学資源植物科学研究所
3
Kihara Institute for Biological Research, Yokohama City University, Yokohama, 244-0813 Japan
横浜市立大学木原生物学研究所
4
Institute of Agrobiological Sciences, NARO, Tsukuba, 305-8602, Japan
農研機構生物機能利用研究部門
5
Department of Agro-Environmental Science, Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine, Obihiro, 080-8555, Japan
帯広畜産大学環境農学研究部門

<参考URL>
論文:Genome-Edited Triple-Recessive Mutation Alters Seed Dormancy in Wheat(Cell Reports)
<ゲノム編集で迅速にコムギの特性を改良>-収穫前の雨で発芽せず良質な小麦生産に向けて-|岡山大学
農研機構

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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