農水省、「2025年農業技術10大ニュース」を発表 未来の農業現場を変える実用性と革新性

農林水産省は、「2025年農業技術10大ニュース」を発表した。

「農業技術10大ニュース」は、2025年の1年間に新聞記事となった民間企業、大学、公立試験研究機関および国立研究開発法人の農林水産研究成果のうち、内容に優れるとともに社会的関心が高いと考えられる成果10課題を、農業技術クラブ(農業関係専門紙・誌など30社加盟)の加盟会員による投票を得て選定したもの。

【TOPIC1】特定外来生物「ナガエツルノゲイトウ」の防除技術


農研機構などが開発した、水田の難防除雑草「ナガエツルノゲイトウ」を防除する技術。

「ナガエツルノゲイトウ」は、関東近県を中心にまん延が話題となっている特定外来生物。繁殖力・再生力が非常に強く、発見した場合には役場などに通報のうえ、再生・拡大を防ぐために機械除草を行わないようにするなどの注意も促されている。

参考資料:特定外来生物ナガエツルノゲイトウに注意してください|群馬県

本技術は、そんな「ナガエツルノゲイトウ」を水稲移植栽培期間中に複数の農薬で処理する技術を体系化したもの。2年間継続すれば、まん延した水田でも地下部まで駆除でき、分布拡大防止が期待されている。

ナガエツルノゲイトウ
出典:農林水産技術会議(https://www.affrc.maff.go.jp/docs/press/attach/pdf/251219-1.pdf

【TOPIC2】 ドローンによるレーザー照射&自動飛行で鳥獣害対策


株式会社 NTT e-Drone Technology などが開発した、鳥獣害対策のためのレーザー搭載ドローン。自動航行機能により、鳥獣の追い払いにかかる人的・時間的負担を削減する。

ドローンから鳥獣が違和感を覚える赤・緑のレーザーを、パターンを変えながら照射し、忌避させるというもの。上空からの照射のため、屋外や屋根などでも利用でき、イノシシ、シカ、カラス等の多様な鳥獣に対して活用できる。

農地の鳥獣害対策のほか、鳥獣によるウイルス等の伝播を防ぐことにより、畜産業の防疫対策への貢献も期待できる。

ドローンから照射されるレーザーのイメージ
出典:農林水産技術会議(https://www.affrc.maff.go.jp/docs/press/attach/pdf/251219-1.pdf

【TOPIC3】 日本初の有人監視型自動運転草刈機


株式会社アテックスが開発した、国内企業としては初の有人監視型自動運転草刈機。

従来の自動運転草刈機のように作業場所をフェンス等で囲う必要はなく、オープンなスペースでも安全に自動運転による草刈が可能。労働負担の軽減、人手不足の解消、熱中症回避などの安全性の工場にも寄与する。

自動走行による草刈の様子。1時間あたり12.1アールの除草が可能

【TOPIC4】 温暖化時代に対応するための「果樹適地予測マップ」

農研機構が開発した、温暖化に対応した果樹の栽培適地予測マップ。温室効果ガス排出量が異なる複数の仮説を基に、今世紀半ば及び今世紀末の適地予測を1km メッシュ単位で詳細に示す。

例として、2080年〜2099年に2.6℃気温が上昇した場合に、高温障害が発生しそうなうんしゅうみかんの産地を割り出し、高温地域でも栽培に適したアボカドへの樹種転換などを挙げている。

来たる温暖化に対応した果樹の生産計画や、自治体ごとの長期的な栽培計画策定などに活用できる。

果樹敵地予測マップの活用事例
出典:農林水産技術会議(https://www.affrc.maff.go.jp/docs/press/attach/pdf/251219-1.pdf

【TOPIC5】 LEDよりも光合成促進効果の高い「赤色レーザーダイオード」


東京大学は、赤色レーザーダイオード(LD)を光源に用いることで、赤色発光ダイオード(LED)に比べ、植物の光合成と成長を促進できることを世界で初めて確認。

赤色LDの方が光合成色素(クロロフィル)の吸収に最適な狭い波長帯の光を照射でき、光合成の促進、植物の成長促進につながるという。

「次世代型光源」として、植物工場や宇宙空間などの閉鎖空間での栽培への応用も期待される。


赤色LED(左)と赤色LD(右)のイメージ
出典:農林水産技術会議(https://www.affrc.maff.go.jp/docs/press/attach/pdf/251219-1.pdf

【TOPIC6】 シャインマスカット由来の糖度の高いぶどう新品種「サニーハート」


農研機構が開発した、果皮が赤色で皮ごと食べられるぶどう新品種「サニーハート」。糖度が約20%と高く、歯切れのよい果肉と良好な食味が特徴。

種なしの生産も可能で、ハート型を連想させる特徴的な果形とフローラルな香りを持っている。また、全国のぶどう栽培地域で栽培可能で、新たな需要を喚起できる。

新品種「サニーハート」のハート型の果形
出典:農林水産技術会議(https://www.affrc.maff.go.jp/docs/press/attach/pdf/251219-1.pdf

【TOPIC7】 動画を活用したAIかん水タイミング判断技術


農研機構が開発した、AIによるももの樹の動画を利用した水分状態を簡便に診断する技術。

高価な機器や葉の採取は不要で、樹の周囲を1分ほど動画撮影し、切り出した静止画からAIが水ストレスを判定し、初心者でも適切なかん水タイミングを判断できるようになる。

将来的にロボットによる自動診断・自動かん水への発展も可能としている。

動画から切り出したももの葉の静止画。これらからAiにより水ストレスを判断する

【TOPIC8】 海水から肥料原料のカリウムを確保する技術

国立研究開発法人産業技術総合研究所が開発した、海水から肥料原料のカリウムを効率よく回収する技術。特殊な電極を使い、ナトリウムを99%以上除きながらカリウムを10倍以上に濃縮できる。

これにより、肥料原料を国内で安定的に確保し、輸入依存を減らすことが期待されている。

カリウム資源回収のイメージ図
出典:農林水産技術会議(https://www.affrc.maff.go.jp/docs/press/attach/pdf/251219-1.pdf

【TOPIC9】 反収や品質を見える化できる生産支援システム「KOMECT」


株式会社サタケが開発したのは、ライスセンターや精米工場でのDXを活用した生産支援システム「KOMECT(コメクト)」。

ライスセンターの乾燥機、光選別機、計量機などの収集データをリアルタイムに表示し、遠隔で監視できるため、作業負担が軽減できる。また、反収を圃場マップで色分け表示したり、年度ごとに記録・比較できることで、収益向上にも貢献できるという。


「KOMECT」の主な機能
出典:農林水産技術会議(https://www.affrc.maff.go.jp/docs/press/attach/pdf/251219-1.pdf

【TOPIC10】ダイズ・根粒菌を活用した温室効果ガスN₂O大幅削減技術


農研機構が開発した、ダイズと根粒菌の共生を活用し、農地から排出される温室効果ガスN₂O(亜酸化窒素)を効率的に削減する技術。

N₂O削減能力の高い根粒菌を優先的に共生させるダイズ・根粒菌共生系を開発。収穫後の圃場からのN₂O排出量を74%削減し、地球温暖化抑制に貢献する。


ダイズ・根粒菌共生系のイメージ図 
出典:農林水産技術会議(https://www.affrc.maff.go.jp/docs/press/attach/pdf/251219-1.pdf


「2025年農業技術10大ニュース」を選定しました!|農林水産技術会議
https://www.affrc.maff.go.jp/docs/press/251219.html

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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
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    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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