「減反政策」の廃止で、日本の稲作はどう変わったのか

1970年から2017年まで、およそ50年近くにわたり実施された「減反政策」が、2018年度に廃止された。

米の生産量抑制のために実施され、農業関係者にとって当たり前の存在になりつつあった減反政策。廃止されて1年経過した今、各地域で少しずつ変化も見られる。

今後、日本の稲作はどうなるのか。減反政策の歴史的な流れなども踏まえながら占ってみたい。


減反政策の歴史、廃止になった理由とは

そもそもなぜ減反政策が導入されたのか。その歴史的背景から探ってみよう。

従来、米を主食としてきた日本人にとって米の安定供給は大きな課題であった。特に、戦後の食糧難の時代は、米の生産量引き上げが国全体の問題といっても過言ではなかった。

この問題を解決するため、昭和40年代に入ると肥料や農業用機械の導入が進むなど技術革新が起こる。これにより、米の生産量を大きく引き上げることに成功。米が名実ともに家庭の主食になった。

しかし、その後「主食=米」の常識が徐々に崩れ出す。アメリカが統治してきた影響もあり、日本人の食卓の欧米化が進行したことで、パンを主食とする日本人が増え、「米離れ」が加速した。

そして、生産量を増加し続けてきた米に余剰が発生するようになる。当時、食糧管理制度により米の価格が調整されてきたが、農家からの買取価格より市場への売値の方が安くなるという事態も発生。米の生産計画は大きな見直しが迫られた。

そこで、日本政府は1970年に新規の開田を禁止し、耕作面積の配分を行うなど生産調整を開始。これがのちの減反政策へつながっていく。

減反政策のメリット・デメリット

こうして開始された減反政策。果たしてどんなメリット、デメリットがあるのか。今回は生産者の立場から考えてみたい。

メリットとしては、政府の方針に従えば収入がある程度確保されることだ。生産量・価格は政府が決めるため、農家はそのとおりに生産すれば生活が安定しやすくなる。

また、水田で米以外の作物を生産する際の補助金も大きな収入源となる。例えば、水田で麦や大豆などを作る農家に対しては、10アールあたり3万5000円の補助金が付与される。菓子類などに使われる加工用の米を生産した場合にも、2万円の補助が与えられる。さらに、家畜などの飼料用の米に対してはより手厚い補助がつく。その金額は最大で10万5000円。

このように、手厚い補助金を付与することで、減反に反対する農家の支持を受けてきた。生産者にとっていいことづくめのように見える減反政策だが、その裏には当然デメリットもある。

その中でも大きいのが、農家が自らの経営判断で米の生産などを実施しづらくなったという点だ。農業経営者のやる気を削ぎ、自由な発想が生まれてこなければどうなるか。農業の自由化が進み、海外から米が輸入されるようになった際に、日本の生産者が競争に負けてしまうリスクもある。

減反政策廃止に伴う変化

実際のところ、この減反政策廃止はその後の米の生産にどのような影響を与えたのか。減反政策が廃止された2018年度の都道府県別の生産計画を紐解いていこう。

数値を公表した45の道府県のうち、増産の計画を出したのが14道県だ。北海道、青森県、新潟県などの米づくりに強くブランドを持っている地域や、千葉県、神奈川県など消費地に近い県は、減反政策廃止をうまく活用しようとしている様子がうかがえる。

一方で、熊本県をはじめ福島県、山口県など8県は減産を予定。それ以外の県は前年並みを予定しており、現状は米価格に大きな影響は発生しないと考えられる。

減反政策廃止の影響が顕在化するには、もう少し時間がかかると言えそうだ。

日本の稲作は今後どうなるか

それでは、減反政策が廃止されたあとの日本の稲作はどう変化していくのか。

今後考えられる大きな変化は、農業のビジネス化がより加速することだ。これまでの国の方針に従うだけでなく、経営者個人がより自由に米の生産量を決め、ビジネスチャンスを的確に捉えて大きな収益を得られるようになる。


日本の米や果樹をはじめとする農産物は、中国など海外で人気を博している。海外市場に積極的に参入したい農業経営者にとっては大きなチャンスだ。また、自由化が進むことで新たに農業へ参入する企業も増えるかもしれない。減反政策廃止後のストーリーとして、国が描いた理想的な流れであろう。

一方で、このような理想的なストーリーにならない可能性もある。補助金などが削減されれば、それを頼りにしていた農家は生産から手を引くことも考えられる。そうすると、これまで管理されてきた水田などが荒れ、地域の自然に大きな影響を及ぼす可能性もある。実際、作付け面積自体は必ずしも増えてはいない。

また、食用以外で飼料用のエサとなる米も減ることが予想される。こうなると、畜産業などにも影響が広がる可能性もあり、その点も無視できない。

ひとつ言えることは、米農家自身が自分たちが作った米をどのように流通させ、誰に販売するのかを、これまで以上に明確にした上で生産する必要があるということだ。付加価値を高めて単価を上げるという方法もあれば、海外などにブランド米として販売するという戦略も考えられる。結果的に放棄された水田が集約し、より規模の大きな経営体が増える可能性もあるだろう。

減反廃止により、日本の米の生産体制は新たなフェーズに入っている。補助金に頼ることなく、日本の代表的な農産物である米を今後どのように生産し、普及していくのか。国としてもひとりひとりの農家としても、新たな考え方が必要になってくるだろう。

<参考URL>
米をめぐる参考資料|農林水産省

【コラム】これだけは知っておきたい農業用語
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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