日本の「食料自給率」はなぜ低いのか? 食料自給率の問題点と真実

国内で消費された食料のうち、国産の占める割合のことを「食料自給率」という。

農林水産省の発表によれば、2017年度の日本の食料自給率は38%。これをおおまかに解釈すれば、日本で食べられているもののうち、38%が国内で生産されたもので、残りの62%は海外からの輸入に頼っているということになる。


日本の食料自給率は主要先進国のなかでも最低の水準であることは知られている。そのため、現状に危機感を覚える向きも少なくない。海外依存度が高ければ高いほど、輸入元の国が不作になってしまったり、戦争などの情勢によって輸入ができなくなったりすると、途端に食料不足になってしまうからだ。

海外に比べて著しく低い、日本の食料自給率の理由

戦後直後の日本の食料自給率は88%だった(1946年度)。ところが、1965年度に73%の水準を記録して以降、緩やかに下がり始め、2000年度以降は40%前後でほぼ横ばいに推移している。

一方、海外に目を転じてみると、カナダは264%、オーストラリア224%、アメリカ130%、フランス127%(2013年度、農水省試算)などとなっており、日本との差は歴然としている。

これを受け、2010年に当時の民主党政権が、2020年までに食料自給率を50%に回復させるという目標を立てたものの、2015年には目標値自体も45%に引き下げられている。

日本の食料自給率がここまで下がってしまった要因として考えられているのが、急激な食生活の変化だ。

かつて、日本人の主食といえば米であったが、戦後の復興に伴い、国が次第に豊かになっていくと食生活が欧米風に変化していった。米の消費が減る一方、肉やパンの需要が急激に増えていったのである。

農水省の発表している品目別自給率によれば、現在、米の自給率は主食用において100%だが、牛肉に関しては36%。輸入に頼っている飼料で育ったものを除外すると、牛肉の自給率は10%にまで下がる。豚肉は49%、鶏肉は64%となっているが、同様に、外国産飼料で育てられたものを省くとそれぞれ6%、8%と著しく低い。

ほかにも、小麦14%、大麦9%、大豆7%、果実39%、食用の魚介類55%、砂糖類32%、油脂類12%といった数字が、国内におけるそれぞれの品目の自給率である(いずれも2017年現在、農水省発表)。

世界でも珍しい算出方法「カロリーベース」

そもそも食料自給率はどのように計算されるものなのか。

日本で採用されているのが、「カロリーベース」の総合食料自給率である。これは、それぞれの品目の重さを、人が生きていくのに必要な熱量(カロリー)を基準にして割り出すもので、

国民一人一日当たり国産熱量(2017年度は924kcal)÷国民一人一日当たり供給熱量(同2444kcal)✕100

という計算式になる。

しかし近年、食料自給率の算出に、このカロリーベースを採用することについて問題が指摘されることも少なくない。

例えば、先述のように、輸入された餌で育った牛や豚や鶏、卵などは、国内で育てられたものだとしても算入しないのが、カロリーベースにおける食料自給率の特徴である。

また、食べられずに廃棄された食料も分母に含まれるため、年間2000万トンもの食品廃棄のある日本では、必然的に自給率が低くなるという側面もある。そのため、より多くの品目の国内生産に力を注ぐより、食べ残しや消費期限切れで捨てられる食料、いわゆる食品ロスを減らした方が自給率自体のアップにつながるとの指摘もある。

カロリーベースによる自給率の算出は、国際標準ではないという点も挙げられる。日本のほか、韓国や台湾など、一部の国で採用されているに過ぎない。


世界標準「生産額ベース」では見劣りしない自給率

主要先進国をはじめ、国際的に主流となっている算出方法は、「生産額ベース」の食料自給率だ。

これは、それぞれの品目の重さを、生産額を基準にして割り出すもので、計算式は、

国内の食料生産額÷国内の消費仕向量✕100

となる。これに基づけば、日本の食料自給率は65%(2017年度。国内生産額10.8兆円÷国内消費仕向量16.6兆円)。

先述した各国の自給率を生産額ベースに直してみると、カナダは121%、オーストラリア128%、アメリカ92%、フランス83%。この後に続くのは、イタリア80%、ドイツとスイスが70%。イギリスにおいては日本よりも低い58%となっている(いずれも農水省試算、2009年)。決して高いとはいえない数字ながら、主要先進国で最低水準となっていたカロリーベースと違い、生産額ベースで見てみると日本の自給率が他国と比べてそれほど見劣りする数字ではないことがわかる。

では、カロリーベースと生産額ベースとで、算出した食料自給率がこれほど大きく異なるのはなぜなのか。

例えば野菜で考えてみよう。国産の野菜の割合は79%(2017年度)。だが、野菜のカロリーは食料全体のうち数%程度に過ぎないため、国産が多くてもカロリーベースの自給率の底上げにはさほど影響しない。一方で、生産額ベースで見ると野菜の割合は全体の20%を超えている。

なお、カロリーベースにせよ生産額ベースにせよ、100%を超える自給率の国が、すべての品目を国産でまかなえているとは限らないことにも注意したい。その国の気候や土壌によって生産できるもの、できないものはさまざまあり、自給率としてみると100%であっても、一部の品目についてはほとんど輸入に頼る、といったケースは珍しくないからだ。

食料自給率から見える日本の農業の課題

カロリーベースにおける国内の食料自給率が38%という数字は、非常に強いインパクトで国民に受け止められている。冒頭で述べたように、現在、世界中で見られる異常気象や天候不順、あるいは国際情勢によって輸入が制限されれば、すぐさま食料不足に陥るリスクが容易に想定されるからだ。

また、爆発的に増え続ける世界人口を前に、地球規模での食料不足を懸念する声もある。そうした事態に備えるためにも、早急に食料自給率を向上させなければならないという考えもある。

とはいえ、2020年までにカロリーベースで食料自給率50%を達成するという目標が45%に引き下げられたことからもわかるように、その声が実態を伴って自給率向上につながっているとはなかなか言いがたい。

食料自給率が好転しない理由としては、高齢化による農業生産者の減少、またそれに伴う耕作放棄地の増加といった、農業そのものの衰退が挙げられている。

また、2018年12月に発効したTPP(環太平洋パートナーシップ協定)により、参加国間での関税が撤廃され、海外産の農産物などが輸入しやすくなることが、食料自給率のさらなる低下につながると懸念する人もいる。日本からの農産物輸出による経済活性化というメリットや、米などの主要農産物は保護されるといった日本の事情も汲み取ってくれてはいるものの、食料自給率という観点からすれば心配になるのも当然のことだ。

そもそも近年では、「カロリーベースではなく生産額ベースの自給率を重視すべきである」「食料輸入が途絶えることは想定しづらく、自給率指標そのものが無意味」「自給率よりも農家の所得向上のための政策立案が最優先」など、自給率自体についてもさまざまな考え方が見られる。

食料自給率の改善に向けた取り組み事例

カロリーベース、生産額ベースといったデータの基準をどこに定めるか、という議論はあるものの、いま我々が直面しているのは、国レベルでいかに自給自足ができる体制を整えるか、という点は疑いがない。TPPの発効などで日本と世界の垣根がなくなり、安価な物流が可能になるというメリットの裏側には、緊急時に自らの力でどれだけ生活を維持できるかという食料事情が付いてまわる。

そのため、食料自給率の改善に向けた官民上げての対応策が進められている。

「スマート農業」による省力化・収量アップの事例

農産物の生産量自体を向上させるための策としては、スマート農業の活用が第一に上げられる。高齢化が進む農業の担い手に対して、労力を軽減し、増え続ける耕作放棄地を少人数で利用して収量を上げ、収入増加と収益アップに結びつけるべく、センシング技術を活用した園芸栽培や、ドローン、ロボットなどによる農作業の省力化、新規就農者の経験不足を補うAI技術などが導入され始めている。

IoTによるセンシング技術の事例
農家が開発した水口監視IoTシステムで見回り頻度を減少──五平農園
■AI画像分析とドローンでコメの農薬散布作業を軽減した事例
「スマート米栽培」を初めて実施した農家に聞くAI×ドローンのメリット

■AIによるキュウリの自動選果で労力を軽減した事例
農家がグーグルのAIエンジン「Tensor Flow」でキュウリの自動選果を実現

スマートグラスによる技術承継の事例
スマートグラスが高齢農家にもたらすもの【富有柿農家のスマートグラス活用日記】
■需給予測・収量予測にスマート農業を活用した事例
センサーの向こうにある野菜の本質とは何か──NKアグリの例<後編>



国産食品の利用や購入のPR

例えば、政府は国産の食品を増やし、食料自給率を高めようと、パンや麺類において、国産の小麦や国産100%の米を活用した米粉を用いることを提案したり、広報したりして自給率の向上に取り組んでいる。

食品廃棄量の軽減に向けた取り組み

また、各家庭や企業において、食べ残しや食品の無駄な廃棄といった「食品ロス」を防ぐことも、自給率アップのための取り組みにつながるのは先述した通りだ。飲食業界全体での無駄のない食材管理のほか、家庭レベルでの廃棄についても賞味期限と消費期限の正しい理解や、消費できる適正量の購入、余った食材を有効活用するためのアイデア提案などが増えてきた。

日本の農業・農産物の国内外への魅力アピール

さらに、減少し続けている農業の担い手を増やし、農家自身も新たな雇用やビジネスの機会を増やす取り組みもある。農家が農業体験や農家への宿泊などを世話する「農泊」や、日本の農村風景を観光の目的として海外からの観光客を受け入れる「インバウンド」などで、日本の農業自体の魅力を国内外に広くアピールすることにつながっている。これらも食料自給率の向上に向けた取り組みのひとつと言えるだろう。

■農泊の成功事例
農家での農村体験を観光にしたフロントランナー──信州せいしゅん村(長野県上田市)
■インバウンドの成功事例
外国人客が殺到するファームステイの秘密とは?──中込農園(山梨県南アルプス市)




いずれにせよ、日本の食料事情は海外依存度が高いということを知っておくことは無駄ではない。ここから提起される問題点は、高齢化に伴う国内農業の疲弊にとどまらず、国内政治や海外事情、世界の貧困問題など、多岐にわたるからだ。

■関連リンク
農林水産省「食料自給率とは」

(最終更新日:2019年3月12日 公開日:2018年10月18日)

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WRITER LIST

  1. 渡邊智之
    わたなべともゆき。一般社団法人日本農業情報システム協会(JAISA)代表理事、スマートアグリコンサルタンツ合同会社(SAC) 代表/CEO、総務省 地域情報化アドバイザー。大手IT企業に入社し、主に各種センサーによる生育関連データ蓄積及び作業記録アプリ等の開発を主導しつつ、農業法人に飛び込み農業を学ぶ。その後農林水産省でスマート農業推進担当として、政府のスマート農業関連戦略策定や現場の普及促進に努める。慶應義塾大学SFC研究所の研究員や、農林水産省や自治体のスマート農業に関する会議の有識者、座長としても参加。著書に「スマート農業のすすめ~次世代農業人【スマートファーマー】の心得~」(産業開発機構株式会社)がある。
  2. 三好かやの
    みよしかやの。しがないかーちゃんライター。「農耕と園芸」「全国農業新聞」等に記事を執筆。八王子市ユギムラ牧場でかぼちゃの「いいたて雪っ娘」栽培中。共著『私、農家になりました。』(誠文堂新光社)、『東北のすごい生産者に会いに行く』(柴田書店)等がある。http://r.goope.jp/mkayanooo
  3. 山口亮子
    やまぐちりょうこ。フリージャーナリスト。京都大学卒、北京大学修士課程修了。時事通信社を経てフリーに。主に農業と地域活性化、中国を取材。
  4. r-lib(アールリブ)
    これからのかっこいいライフスタイルには「社会のための何か」が入っている、をコンセプトにインタビュー記事やコラムなどを発信するメディア。r-lib編集長は奈良の大峯山で修行するために、毎年夏に1週間は精進潔斎で野菜しか食べない生活をしている。
  5. 水尾学
    みずおまなぶ。滋賀県高島市出身。大学卒業後、電子機器関連業務に従事。2016年に自家の柿農園を継ぐと同時に、IoT農業の実現を目指す会社、株式会社パーシテックを設立(京都市)。実家の柿農場を実験場に、ITを駆使した新しい農業にチャレンジしています。

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