農地の貸し手と借り手をマッチングさせる「農地バンク」「全国農地ナビ」の課題

新たに農業を始めたい──そのような希望を持った人が最初に直面する壁が「農地の取得」だ。多額の費用がかかる上、地権者と粘り強く交渉して農地を取得しなければならない。農林水産省はこの問題を解決すべく、新たな仕組みを設けた。それが「農地バンク」だ。また、一般社団法人全国農業会議所では、売りたい(貸したい)農地がインターネットで検索できるよう「全国農地ナビ」をリリースしている。

本記事では、農地バンクと全国農地ナビの現状と今後の課題について考えてみたい。



農林水産省が管轄する「農地バンク」とは

新しく農業を始めたい人の強い味方になりうるのが「農地バンク」だ。正式名称は「農地中間管理機構」と言い、農林水産省が農地を借りたい人と貸したい人を仲介する制度で、2014年度から全都道府県に設置された。

「信頼できる農地の中間的受け皿」をコンセプトに、新規就農者が農地を借りる場合だけでなく、農業をリタイアした方が農地を貸せるようにしたり、利用権を交換して分散した農地を集約したいときに利用できるように制度を整えている。特に、日本の農業は農地が飛地となっている関係で生産性が低いという課題を抱えている。これを解決する手段としても、農地バンクは期待されている。

農地を借りたい人が農地バンクを利用するときは、まず農地中間管理機構が実施している借受公募に応募する。公募状況については、各都道府県の「借受公募の実施状況」で確認することができる。

一方、農地を貸したい人は、農地中間管理機構が間に入っているため、貸出期間である10年間は確実に賃料を得られる。耕作放棄地として無駄にするのではなく、収入を生み出す資産として運用することができるのだ。


インターネットで農地を探せる「全国農地ナビ」

全国農地ナビとは、一般社団法人全国農業会議所や全国新規就農相談センターが日本全国の農地の状況を取りまとめ、インターネット上で公表しているサイトだ。そのため、パソコンやスマートフォンを使って、いつでもどこでも農地の状況を調べることができる。

全国農地ナビに載っている農地を借りたい場合は、取得したい農地の所在地にある該当機関に相談する必要がある。事前に市町村農業委員会の許可を得ずに、代金の支払い、農地の引き渡しを受けるなどの農地のやり取りをすることは農地法に違反する可能性があるため、注意が必要だ。所在地ごとにある、各市町村の農業委員会や都道府県の農地中間管理機構が窓口になるので、調べてみると良いだろう。

一方、農地を売りたい、もしくは貸したい人は各市町村の農業委員会に連絡する必要がある。ここで登録が完了すると、全国農地ナビに掲載されることになる。


新規就農者の農地取得問題を解決する合理的な仕組み

新規就農者にとって、農地取得は非常に高い壁だ。仮に土地が比較的安い地方だったとしても、土地の取得にかかる費用は大きな負担であり、融資や投資を受けて参入するのも難しいだろう。それだけに、国が間に立ち、新規就農者が農地を取得しやすくする制度は理に適っている。農地バンクにより農地の集約が進めば、日本の農業の生産性が向上するはずだ。

さらに、全国農地ナビを使って取得できる可能性のある農地を検索できるようにすれば、借り手側は農地を探す手間も省ける。

このように、農地バンクと全国農地ナビは農地取得を容易にする合理的な仕組みのように思える。


利用率の低迷 その原因はどこに?

大きな期待がかけられている両サービスだが、現状はあまり好ましいとはいえない。特に、農地バンクについては、利用率が上がらず、低迷を続けている。

農林水産省がまとめた「都道府県別の担い手への農地集積に係る中間目標(2017年度4月時点)」によると、2014年度から2023年度までの都道府県ごとの年間集積目標の5年分を2018年度の中間目標として設定した場合、これをクリアした都道府県はゼロ。当初目論んでいた3割未満の進捗率にとどまっているという。

その後は都道府県ごとに割合のバラツキはあるものの、農地バンク設立時の担い手への集積面積48.7%から、58%へと約10ポイント上昇したものの、それでもまだ半数近くは利用されていない。

なぜ、このような現状に陥っているのか。その根本的な問題は、貸し手と借り手のマッチングが想定していたように進まないことが考えられる。

たとえば、土地を貸す側からすると、どこの誰だかわからない人に土地を貸し出すことに抵抗を感じるケースもあるという。そのほか、地方では長年持ち続けた土地に対する愛着が強く、手離すことに抵抗を感じる人も多い。

また、貸し手が土地を提供しても、必ずしも借り手が見つかるとは限らない。借り手は農地中間管理機構が探すとはいえ、貸し手の意思を満たすようには進まないこともある。借り手側も生産効率を高めるため、一定規模の土地を求めたり、生産地域を選びたいという考えもあるだろう。

そもそも農地バンクや全国農地ナビの存在自体が農家に認知されているかという点も気になるところだ。全国の農家に対して、積極的にサービスの告知をしなければ、サービスを利用しようという発想すら出てこないだろう。

YouTubeなどには、農地バンクの制度を説明する動画もアップロードされているが、再生回数も8カ月で約2700回と伸び悩んでいる。PR戦略を含め、今後の巻き返しを期待したい。



<参考URL>
農地を借りたい方、貸したい方へ:農林水産省
都道府県別の担い手への農地集積に係る中間目標(平成29年度4月時点)
農地中間管理事業の優良事例集(平成29年度版)
全国農地ナビ - 都道府県から農地を探す
e-Gov 農地法
【コラム】これだけは知っておきたい農業用語
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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