2025年の日本の農業はどうなる? 「令和7年度農水概算要求」に見るスマート農業の役割
農林水産省は2024年8月30日、2025年度(令和7年度)農林水産予算概算要求の概要を公開。2025年度(令和7年度)は2兆6389億円が計上されました。
概算要求とは、農林水産省として次年度に必要と考えている事業と予算を、財務省に対して要求するものです。現時点ではあくまで予算案であり、確定したものではありませんが、その内容を見ることで、農水省としてスマート農業をはじめとする農業施策のどんな部分に注力し、どのように進めようと考えているのかが見えてきます。
特にスマート農業は、生産者が導入する際にある程度の予算が必要になるものであり、補助金などの政策も必須になってきます。今回は、生産者として知っておきたい、2025年のスマート農業の見通しを、概算要求の中身から見てみましょう。
概算要求金額の内訳を見てみると、2024年度(令和6年度)の2兆2686億円から3703億円増の2兆6389億円と、大幅な増額となっています。2025年は「食料・農業・農村基本法」が改正された直後の年でもあり、農業の構造転換の実現に向けて、初動からの今後5年間を重要視していることがうかがえます。
その概要としては、以下のような項目が挙げられています。
カーボンニュートラルや花粉症解決といった目新しい言葉もありますが、農業全体で見ればいかに既存の環境を維持しつつ発展させ、食料安全保障と環境保護を両立しながら、人口減少・生産者の減少という課題に立ち向かっていくか、というさまざまな課題の同時解決を目指すものとなっています。
ここからは、耕種農業に絞ってスマート農業関連の取り組みと予算について、よりシンプルな言葉でご紹介します。
日本の果樹はいちごやぶどう、りんごなどが海外でも人気を集めていますが、まだまだ国内外の需要に応えられるほどの生産基盤ができていないということで、生産量の拡大を目指してさまざまな事業が盛り込まれました。将来にわたって需要に応えられるように、産地構造の転換にスマート農業を活用するとしています。
2024年(令和5年)4月に法律が改正され、2026年(令和7年)3月までに、全国に「地域計画」が策定されることになりました。そのための支援として実施するスマート農業について明記されています。
「地域計画」は、これまで地域での話し合いにより作られてきた「人・農地プラン」から発展したもの。文字どおり、人と農地という個々の担い手を維持するという考え方から、地域ぐるみでそれらを維持あるいは発展させられるように考えていく、という方針になりました。
スマート農業は特に、人手や機械等のリソース不足を補うためのサービス事業体の活用への支援が期待されています。
「地域計画」が策定された地域において、担い手が利用する農地面積の割合の増加を目標として、経営改善の取り組みに必要な農業用機械・施設導入を支援するための交付金です。さらに、スマート農業などの取り組みには優先枠も設けて支援するとのこと。上限金額は約300万円とされています。
40代以下の農業従事者の拡大を目指す予算で、大幅な増額を見込んでいます。スマート農業については、農業大学校や農業高校のカリキュラムの中に、スマート農業や環境調和の取れる農業に関する学習を強化するとのことです。
ドローンやロボットトラクターのように目に見えて便利なスマート農業機器はわかりやすいですが、経営改善や労力軽減などによる収益アップといった、より高度な農業を身につけるためにスマート農業を当たり前のように活用できる農業者の教育にも力を入れるということのようです。
農業者の高齢化・減少が進む中で、農業の持続的な発展を図るため、スマート農業技術の現場導入、生産・流通・販売方式の転換、これを支える農業支援サービス事業体の育成や活動の促進などの取り組みを総合的に支援するとしています。
生産現場でのスマート農業の導入は、農業経験がある生産者が扱うことがほとんどでしたが、今後はより作業が細分化され、専門的になっていくと考えられます。スマート農業はその最たるものとして、従来の篤農家だけでなく、まったく異なる分野から来た方や他業種の専門家などが担当するようになるかもしれません。
2031年(令和12年)までに、スマート農業技術の活用割合を50%以上に向上させるという大目標に向けて、「スマート農業技術活用促進法」に係る生産方式革新事業活動を行う農業者、開発供給事業を行う者に対して、スマート農業技術を活用するための環境整備や各種支援事業の優遇措置が取られます。
具体的には、
スマート農業の普及率50%を目指す上で、技術開発や普及のための環境整備などに用いられる、スマート農業の社会実装・実践に近い技術やサービスを使う人を対象とした予算です。
具体的には、民間企業・農研機構・研究コンソーシアムなどに対する支援や、社会実装を目指す技術については、データ連携、収益向上につながる取り組み、ロボット(無人)トラクター、さらに土づくり、衛星の活用、教育などにも使われる見込みです。
日本経済が落ち込んだ時代、研究機関やその予算は一気に縮小されてしまいました。この予算案では、生産性の高い食料供給体制をしっかり作るため、産学官連携の強化による研究開発の推進、優良な植物新品種の開発と研究成果の早期創出を目指すとしています。
政策目標としての、スマート農業の活用割合50%以上を目指して、開発者と生産者の橋渡しへの支援、先進的なスマート農業機械の共用といった課題解決を目指す予算です。
これまでも国は「スマート農業実証プロジェクト」などのかたちで、スマート農業の研究開発を支援してきましたが、技術開発だけでなく、より現場で使ってもらえるような仕組みまで含めた補助となるようです。
基盤整備完了地区における担い手への農地集積率を、2025年度(令和7年度)までに約8割以上にするという目標のために、畦畔の除去や農地改良といった事業に当てる予算です。
スマート農業に関しては、自動制御可能な農機の導入や、その基盤となる通信網(GNSSなど)の整備といった項目が具体的に挙げられています。
都市と農山漁村の交流人口を、2025年度(令和7年度)に1540万人まで増加するなどの目標のために設定された交付金です。
具体的な事業としては、地域資源の活用や価値創出、農泊の推進、農福連携のほか、中山間地の支援や、農村型地域運営組織(農村RMO)、土地利用の最適化、通信環境の設備といったものが挙げられています。
スマート農業は、農村RMOの中での実証実験や、通信環境整備事業における自動操舵、ドローン、鳥獣害センサーといったさまざまな通信機器の活用などが想定されています。
農作物に被害を及ぼすシカやイノシシの生息頭数を2028年度(令和10年度)までに半減させる、ジビエ利用量を2025年度に4000tまで増やすといった目標に向けた対策にかかる予算です。
スマート農業としては、発見も捕獲も難しい鳥獣害をICTなどを活用して効果的に進めることと、そのためのモデル地区の作成なども検討されています。
中山間地域等の農用地8万4000haの減少を、2025年〜2030年までの5カ年で防止するという目標に向けた予算です。農村の機能を守るため、地域の共同活動、中山間地域等における農業生産活動、自然環境の保全に資する農業生産活動などに予算が割り当てられています。
中でも、「中山間地域等直接支払交付金」というかたちで、スマート農業による作業の省力化、効率化に向けた取り組みへの支援として、上限額年間200万円、10aあたり5000円という金額が設定されています。
今回ピックアップした以外にも、概算要求の中には重要な項目が多数盛り込まれています。これらをざっと眺めるだけでも、国として日本の農業をどうしていきたいのか、それは現実的なのか、机上の空論でしかないのか、といったことは、現場で頑張っている生産者の方々ならすぐに気づけるでしょう。
たとえば、高騰する飼料の国産化、外国人の受け入れ、みどりの食料システム戦略の推進などに関しても、個々に見ていけば広義の意味でのIT技術や最先端技術を活用したスマート農業が活躍できる場面はたくさんありそうです。
スマート農業は、農業の一分野でもなければ、特別な栽培技術でもありません。従来日本の生産者が守り継いできた農業を、データや最新技術を用いてより便利に、より使いやすくしただけのものであるはずです。
ただし、担い手となる生産者の方々、彼らを取り巻く農業関係者の方々にとっては、まったく新しい技術であり、新たな仕事や知識を増やさなければならず、負担が増えるものでもあります。
技術の定着にはどんな業界でも時間がかかります。日本の農業=スマート農業といった当たり前のような環境になるまでには、まだまだ国の支援や現場の努力が必要です。
概算要求はあくまで未来に向けた「希望」でしかありません。それを現実のものとするためには、説得力のある予算と実現する人々の意識変革も求められます。
今できていることが来年も同じようにできるとは限らないというくらいに、日本の気候や経済状況、世界情勢は急激な速度で変わりつつあります。変化し続ける中で日本の一次産業を維持・発展させていくために、農業関係者ひとりひとりが国や農水省の動きもしっかり確認してきましょう。
令和7年度農林水産予算概算要求の概要|農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/budget/r7yokyu.html
概算要求とは、農林水産省として次年度に必要と考えている事業と予算を、財務省に対して要求するものです。現時点ではあくまで予算案であり、確定したものではありませんが、その内容を見ることで、農水省としてスマート農業をはじめとする農業施策のどんな部分に注力し、どのように進めようと考えているのかが見えてきます。
特にスマート農業は、生産者が導入する際にある程度の予算が必要になるものであり、補助金などの政策も必須になってきます。今回は、生産者として知っておきたい、2025年のスマート農業の見通しを、概算要求の中身から見てみましょう。
2025年度は食料安全保障、花粉症対策などの予算を追加
概算要求金額の内訳を見てみると、2024年度(令和6年度)の2兆2686億円から3703億円増の2兆6389億円と、大幅な増額となっています。2025年は「食料・農業・農村基本法」が改正された直後の年でもあり、農業の構造転換の実現に向けて、初動からの今後5年間を重要視していることがうかがえます。
その概要としては、以下のような項目が挙げられています。
- 食料安全保障の強化
- 農業の持続的な発展
- 農村の振興(農村の活性化)
- みどりの食料システム戦略による環境負荷低減に向けた取組強化
- 多面的機能の発揮
- カーボンニュートラルの実現・花粉症解決に向けた森林・林業・木材産業総合対策
- 水産資源の適切な管理と水産業の成長産業化
カーボンニュートラルや花粉症解決といった目新しい言葉もありますが、農業全体で見ればいかに既存の環境を維持しつつ発展させ、食料安全保障と環境保護を両立しながら、人口減少・生産者の減少という課題に立ち向かっていくか、というさまざまな課題の同時解決を目指すものとなっています。
2025年度スマート農業関連事業の概要
ここからは、耕種農業に絞ってスマート農業関連の取り組みと予算について、よりシンプルな言葉でご紹介します。
5 持続的生産強化対策事業(果樹の生産増大への転換) 58億1200万円(50億5400万円)
日本の果樹はいちごやぶどう、りんごなどが海外でも人気を集めていますが、まだまだ国内外の需要に応えられるほどの生産基盤ができていないということで、生産量の拡大を目指してさまざまな事業が盛り込まれました。将来にわたって需要に応えられるように、産地構造の転換にスマート農業を活用するとしています。
36 地域計画実現総合対策 48億2120万円(2025年新設)
2024年(令和5年)4月に法律が改正され、2026年(令和7年)3月までに、全国に「地域計画」が策定されることになりました。そのための支援として実施するスマート農業について明記されています。
「地域計画」は、これまで地域での話し合いにより作られてきた「人・農地プラン」から発展したもの。文字どおり、人と農地という個々の担い手を維持するという考え方から、地域ぐるみでそれらを維持あるいは発展させられるように考えていく、という方針になりました。
スマート農業は特に、人手や機械等のリソース不足を補うためのサービス事業体の活用への支援が期待されています。
37 農地利用効率化等支援交付金 27億円(10億8600万円)
「地域計画」が策定された地域において、担い手が利用する農地面積の割合の増加を目標として、経営改善の取り組みに必要な農業用機械・施設導入を支援するための交付金です。さらに、スマート農業などの取り組みには優先枠も設けて支援するとのこと。上限金額は約300万円とされています。
41 新規就農者育成総合対策 148億7000万円(96億3800万円)
40代以下の農業従事者の拡大を目指す予算で、大幅な増額を見込んでいます。スマート農業については、農業大学校や農業高校のカリキュラムの中に、スマート農業や環境調和の取れる農業に関する学習を強化するとのことです。
ドローンやロボットトラクターのように目に見えて便利なスマート農業機器はわかりやすいですが、経営改善や労力軽減などによる収益アップといった、より高度な農業を身につけるためにスマート農業を当たり前のように活用できる農業者の教育にも力を入れるということのようです。
45 多様な農業人材の意欲的な取組の推進(スマート農業・農業支援サービス事業導入総合サポート事業) 32億500万円(4500万円)
農業者の高齢化・減少が進む中で、農業の持続的な発展を図るため、スマート農業技術の現場導入、生産・流通・販売方式の転換、これを支える農業支援サービス事業体の育成や活動の促進などの取り組みを総合的に支援するとしています。
生産現場でのスマート農業の導入は、農業経験がある生産者が扱うことがほとんどでしたが、今後はより作業が細分化され、専門的になっていくと考えられます。スマート農業はその最たるものとして、従来の篤農家だけでなく、まったく異なる分野から来た方や他業種の専門家などが担当するようになるかもしれません。
46 スマート農業技術活用促進集中支援プログラム 410億300万円(新設)
2031年(令和12年)までに、スマート農業技術の活用割合を50%以上に向上させるという大目標に向けて、「スマート農業技術活用促進法」に係る生産方式革新事業活動を行う農業者、開発供給事業を行う者に対して、スマート農業技術を活用するための環境整備や各種支援事業の優遇措置が取られます。
具体的には、
- スマート農業技術の開発・供給支援(技術開発支援)
- スマート農業技術の導入による生産方式革新支援(生産・流通・販売)
- スマート農業技術の活用を促進するための環境整備支援(教育関連)
47 スマート農業技術活用促進総合対策 69億9000万円(12億1200万円)
スマート農業の普及率50%を目指す上で、技術開発や普及のための環境整備などに用いられる、スマート農業の社会実装・実践に近い技術やサービスを使う人を対象とした予算です。
具体的には、民間企業・農研機構・研究コンソーシアムなどに対する支援や、社会実装を目指す技術については、データ連携、収益向上につながる取り組み、ロボット(無人)トラクター、さらに土づくり、衛星の活用、教育などにも使われる見込みです。
48 農業関係試験研究国立研究開発法人の機能強化 19億6500万円(11億1100万円)
日本経済が落ち込んだ時代、研究機関やその予算は一気に縮小されてしまいました。この予算案では、生産性の高い食料供給体制をしっかり作るため、産学官連携の強化による研究開発の推進、優良な植物新品種の開発と研究成果の早期創出を目指すとしています。
50 スマート農業・農業支援サービス事業導入総合サポート事業 32億500万円(4500万円)
政策目標としての、スマート農業の活用割合50%以上を目指して、開発者と生産者の橋渡しへの支援、先進的なスマート農業機械の共用といった課題解決を目指す予算です。
これまでも国は「スマート農業実証プロジェクト」などのかたちで、スマート農業の研究開発を支援してきましたが、技術開発だけでなく、より現場で使ってもらえるような仕組みまで含めた補助となるようです。
52 農地耕作条件改善事業 238億5000万円(198億4300万円)
基盤整備完了地区における担い手への農地集積率を、2025年度(令和7年度)までに約8割以上にするという目標のために、畦畔の除去や農地改良といった事業に当てる予算です。
スマート農業に関しては、自動制御可能な農機の導入や、その基盤となる通信網(GNSSなど)の整備といった項目が具体的に挙げられています。
66 農山漁村振興交付金 103億8800万円(83億8900万円)
都市と農山漁村の交流人口を、2025年度(令和7年度)に1540万人まで増加するなどの目標のために設定された交付金です。
具体的な事業としては、地域資源の活用や価値創出、農泊の推進、農福連携のほか、中山間地の支援や、農村型地域運営組織(農村RMO)、土地利用の最適化、通信環境の設備といったものが挙げられています。
スマート農業は、農村RMOの中での実証実験や、通信環境整備事業における自動操舵、ドローン、鳥獣害センサーといったさまざまな通信機器の活用などが想定されています。
68 鳥獣被害防止対策とジビエ利活用の推進 122億9500万円(100億900万円)
農作物に被害を及ぼすシカやイノシシの生息頭数を2028年度(令和10年度)までに半減させる、ジビエ利用量を2025年度に4000tまで増やすといった目標に向けた対策にかかる予算です。
スマート農業としては、発見も捕獲も難しい鳥獣害をICTなどを活用して効果的に進めることと、そのためのモデル地区の作成なども検討されています。
75 日本型直接支払 844億5000万円(773億3000万円)
中山間地域等の農用地8万4000haの減少を、2025年〜2030年までの5カ年で防止するという目標に向けた予算です。農村の機能を守るため、地域の共同活動、中山間地域等における農業生産活動、自然環境の保全に資する農業生産活動などに予算が割り当てられています。
中でも、「中山間地域等直接支払交付金」というかたちで、スマート農業による作業の省力化、効率化に向けた取り組みへの支援として、上限額年間200万円、10aあたり5000円という金額が設定されています。
「日本の農業=スマート農業」が当たり前になる未来に向けて
今回ピックアップした以外にも、概算要求の中には重要な項目が多数盛り込まれています。これらをざっと眺めるだけでも、国として日本の農業をどうしていきたいのか、それは現実的なのか、机上の空論でしかないのか、といったことは、現場で頑張っている生産者の方々ならすぐに気づけるでしょう。
たとえば、高騰する飼料の国産化、外国人の受け入れ、みどりの食料システム戦略の推進などに関しても、個々に見ていけば広義の意味でのIT技術や最先端技術を活用したスマート農業が活躍できる場面はたくさんありそうです。
スマート農業は、農業の一分野でもなければ、特別な栽培技術でもありません。従来日本の生産者が守り継いできた農業を、データや最新技術を用いてより便利に、より使いやすくしただけのものであるはずです。
ただし、担い手となる生産者の方々、彼らを取り巻く農業関係者の方々にとっては、まったく新しい技術であり、新たな仕事や知識を増やさなければならず、負担が増えるものでもあります。
技術の定着にはどんな業界でも時間がかかります。日本の農業=スマート農業といった当たり前のような環境になるまでには、まだまだ国の支援や現場の努力が必要です。
概算要求はあくまで未来に向けた「希望」でしかありません。それを現実のものとするためには、説得力のある予算と実現する人々の意識変革も求められます。
今できていることが来年も同じようにできるとは限らないというくらいに、日本の気候や経済状況、世界情勢は急激な速度で変わりつつあります。変化し続ける中で日本の一次産業を維持・発展させていくために、農業関係者ひとりひとりが国や農水省の動きもしっかり確認してきましょう。
令和7年度農林水産予算概算要求の概要|農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/budget/r7yokyu.html
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