【農家コラム】新規就農で有機トマト栽培に挑戦! 成果と課題が見えた1年目の反省点とは

「SMART AGRI」をご覧のみなさん、こんにちは。三重県でトマト農家として新規就農した北島芙有子です。

前回の記事では、私が非農家から有機トマト農家の道に進むことを決めた理由についてお話しさせていただきました。

【農家コラム】 24歳女子が新規就農で「有機トマト農家」の道に進むことを決めた理由

今回は、実際に就農してどうだったのか、大変だったことや直面した課題について綴ってみたいと思います。

ついにトマト栽培をスタート!


偶然のトマト農家さんとの出会いから1年間の農業研修を終え、面接や書類審査などを経て晴れて新規就農できた私は、「ついに夢だった農家になれた」という喜びでいっぱいでした。

就農できたといっても、もちろんやみくもに野菜を植えて収穫すればいいというものではありません。農業を「仕事」として始めようと決めた限りは、まずは計画的に野菜を栽培・出荷するために、年間の栽培スケジュールを設定することが重要です。

新規就農1年目で私が決めたトマトの栽培計画は、以下のようなものでした。

  • 3月中旬 トマト定植
  • 5月下旬 トマト収穫開始
  • 12月上旬 トマト収穫終了

なぜこのような計画になったのかというと、研修先の農家さんが同じ栽培スケジュールだったためです。1年目は失敗をできるだけ少なくするために、研修で学んだ方法と全く同じやり方でやってみようと思いました。

▲育苗中のトマト

▲赤くなる前のトマト

この計画通りにトマトを長期採りすることができれば、トマトの供給がまだ少ない5月下旬から出荷を始められ、夏を越して一番トマトの単価が上がる9~10月にも出荷でき、霜の降りる12月上旬まで収穫が続けられます。

しかし、トマトが日本の暑い夏を越え、秋まで実を成らせ続けるのは簡単なことではありません。

トマトは暑い時期によくできるイメージがありますが、もともと高地の冷涼な気候を好み猛暑には弱く、特に梅雨のじめじめした気候では病害虫がよく発生します。一番暑くなる7〜8月には、しっかり管理をしないと新しい花が咲いても実が成らずに、どんどん落ちていってしまいます。

私が1年目に直面したのもまさにこの問題でした。収穫開始時の5~7月にはたくさんトマトが穫れましたが、8月後半から収穫量がガクッと落ち、9月にはほとんど収穫がない状態になってしまいました。

就農して初めて気づいた課題の数々


トマトが暑さに弱いことも一因ではありますが、1年目の私の栽培計画が甘かったことが大きな原因でした。

今までアルバイトや研修先では、他の従業員さんたちと手分けして、作業の優先順位などは言われた通りにすればよかったのですが、独立後はトマトの手入れから収穫、出荷まですべて一人でしなければなりません。

そのため、収穫量が一番多い時期には、収穫や出荷準備に大半の時間が取られてしまい、手入れにかける時間が少なくなってしまいました。

その頃は朝に収穫しても全て採り切れないので、夕方にも収穫をして、夜に袋詰めをして出荷していました。採り遅れてしまったトマトは熟しすぎてやわらかくなったり、水分を吸いすぎて皮がひび割れ、泣く泣く捨ててしまうものもたくさん出ました。

▲裂果して売れなくなったトマト
収穫をしている間にもトマトの樹はどんどん成長して大きくなるので、成長に合わせた追肥をしたり、支柱に誘引したり、混み合った葉や不要な実や芽を取り除いたり、日々細かな手入れをしてあげなければなりません。

▲不要な葉を取り除く作業
▲取り遅れて大きくなったわき芽

農薬を使わない分、これらの作業が特に重要になってきますが、収穫に追われる私は、この手入れがおろそかになっていきました。

その結果、梅雨の時期には「灰色かび病」や「葉かび病」という病気が出てしまいました。トマトの葉が病気で茶色くなり、光合成がうまくできないため、実がとても小さくなったり、そもそも実がつかなくなったりしました。

これらの病気は、最初は古い葉や下葉など、一部に小さな病斑があることで気づきますが、2、3日後には他の健康な葉にも広がってしまいます。病原菌にとって快適な気温・湿度になると、病気が広がる速度も速くなり、ひどい時には一晩で病気が進んでいるのを確認できることもあります。

また、葉が混み合うことで、「コナジラミ」「アブラムシ」といったとても小さい害虫も大量発生し、トマトの実が黒く汚れてしまうため、出荷前に実をきれいに拭く作業も発生しました。

無農薬で栽培するにあたって、病害虫は発生前に予防するのが大事ですが、結局私がしっかりと手入れに着手できたのが、トマトの収穫量が落ちた8月頃で、その頃にはすでに手遅れでした。一つずつ病気の葉を手作業で取り除き、伸びすぎた枝を整理して、なんとか12月まで収穫を続けたものの、反省点がとても多い1年となってしまいました。

補助金も活用した1年目の振り返り


私は、研修中も独立後も「青年就農給付金(現在は農業次世代人材投資資金)」を活用していました。認定就農者の元や農業大学校などで農業研修をし、新規就農することで、研修中最大2年間・独立後最大3年間、年間150万円の補助金がもらえるという制度です。

新規就農直後は収入が不安定であることと、資材の購入など必要な資金に充てることができたので、非常に助かりました。1年目の時点での収入は、補助金を差し引いた純粋なトマトの売上だけで230万円ほど。

これだけで食べていけるかというと不安な額ではありますが、5aのハウストマト栽培だけでまずまずの量は採れていたので、今後、販売単価を上げたり、規模を拡大できれば、農業で食べていくには十分の稼ぎを得ることができるのではないか? と希望が見えた1年でもありました。

今回お話ししたように、私が新規就農1年目に直面した課題としては、「栽培計画の立て方」「作業時間の使い方」「病害虫の防除」などさまざまなものがありましたが、さらにもう一つ大きな壁として立ちはだかったのが「販路の確保」でした。

次回は、新規就農で大切になる「どのように販路を確保してきたか」などについてご紹介したいと思います!

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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