【農家コラム】初めての有機トマト栽培、販路開拓はどうやった?

「SMART AGRI」をご覧のみなさん、こんにちは。三重県でトマト農家として新規就農した北島芙有子です。

前回の記事では、就農1年目に直面した課題や、有機栽培の大変さなどについてお話しさせていただきました。

【農家コラム】新規就農で有機トマト栽培に挑戦! 成果と課題が見えた1年目の反省点とは

今回は、私が新規就農してから、どのように販路を見つけてきたかについてお話ししたいと思います!


お客さんに直接届けられる販路


前回お話ししたように、就農1年目から栽培面で直面した課題がたくさんありましたが、さらにもう一つ大きな壁として立ちはだかったのが「販路の確保」でした。

トマト農家での1年間の研修では、栽培面で多く学ぶことができました。しかし、農家として生活するためには、栽培した野菜を販売しなければなりません。栽培面では、1年目は師匠と同じやり方で始めてみましたが、販売については私の中では新しいことに挑戦してみたいという思いがありました。

私がトマト農家になりたいと思ったきっかけであるアルバイト先の農家さんはすべて農協出荷、研修先の師匠もほとんどが市場出荷でしたが、私は栽培した野菜をお客さんに直接届けたいと考えていました。

「小さな畑で1人で農業を始め、小規模栽培でも付加価値を付けた野菜を育てて、『安心して食べられる野菜』を求めている人たちに届けたい」

それが、有機栽培でトマトを栽培することに決めた理由の一つだったからです。

そのためには自分で販路を開拓し、有機野菜を必要としている方々とつながらなければなりません。

そんな時、研修からお世話になっていた市の農林資源室の情報で、市内で新しく事業を行いたい人たち向けのセミナーが開催されていることを知りました。これから農業を始める上で、人脈を作るいいきっかけになるかもしれないと思い、参加してみることにしました。

そのセミナーで出会った人たちの中にいた農業をされている方が、偶然にも新鮮な野菜を直売する朝市を運営されている方でした。私が1人で農業を始めて販売先を探しているということを知ると、さっそくその朝市に参加してみないかとお誘いを受けました。

そして5月の下旬に初めて収穫したトマトは、この朝市で販売することになりました。

朝市での初販売!



収穫したトマトを袋に詰めて、自分でトマトの絵やアピールポイントなどを描いたPOPを作りました。自分の作ったものを売るという経験は今までなかったため、「本当に買ってもらえるだろうか?」と、準備している時はドキドキしていました。

しかし、朝市が始まるとお客さんが次々と来て、陳列したトマトはすぐにお客さんの手に。それを見て「初めて自分のトマトが売れた!」と心のなかで感動していたのもつかの間、お客さんの対応に忙しくなりそれどころではありませんでした。

朝市が終わり、持ってきたトマトはほとんど売り切れ。あれだけドキドキしていたのは嘘のようにあっさりと終わった初出荷でしたが、育てたトマトを新鮮なその日のうちに、自分の手でお客さんの元に届けられたことに大きな喜びを感じました。

また、朝市の農家さんたちと情報交換できたり、お客さんから「あなたのトマト、おいしかったよ」と直接感想を頂けることは、毎日作業をする上で大きな励みになりました。

朝市は商店街の小さなお店で週に2回、朝の10時から12時まで開催されていて、1回で売れるトマトの袋数は多くても20~25袋ほどでした。お客さんの量にも左右されますが、売り上げは平均5~6000円ほど。6月の中旬にはトマトの収穫量が急激に増えてきて、朝市だけでは売り切ることができなくなっていたため、師匠と同じルートで市場にも出荷させていただけることになりました。

しかし、市場ではその時期のトマトの単価は非常に安く、有機栽培のトマトも慣行栽培のものと同じ扱いになってしまいます。この生産量と単価で、農家として生活していけるだろうか? と不安にもなりました。

地元スーパー、道の駅など、人との出会いで広がる販路


そんな時に、朝市を運営する方にこのような悩みを相談していたところ、近くのスーパーへの出荷ルートを紹介してもらえることになりました。いわゆる「スーパーの地場産コーナー」への直接出荷です。自ら袋詰めなどの準備をしてスーパーに陳列しなければなりませんが、自分で価格を決めたり自分の名前で販売することができます。

この方法で市内の数カ所のスーパーへ出荷し、より多くのお客さんのもとに届けることができるようになりました。



さらに、ファーマーズマーケットや道の駅などにも登録をして出荷しました。こちらは農協が運営しているお店なのですが、ここでは「農協出荷」ではなくあくまでお店の出荷者として登録し、スーパーの地場産コーナーと同じように自分の名前で価格なども決めて販売するという形になります。

こうして朝市、スーパー、道の駅への出荷ができるようになりましたが、就農1年目に植えたトマトは1200本。収穫量は毎日コンテナ10かご以上=約100kgもあるにもかかわらず、野菜コーナーのスペースは限られているので大量に置くことはできません。また、6、7月は他のトマト農家さんたちの出荷のピーク。野菜コーナーはトマトで溢れかえっているという状況になりました。

それでももちろんトマトは待ってくれません。気温が高いとさらに熟すスピードが速くなり、朝夕と収穫しても間に合わないようになりました。

熟しすぎたトマトはレストランや加工所へ


夜は袋詰めと数カ所のスーパーへの出荷に回り、また朝からトマトを収穫するのですが、毎朝「昨日採ったのにもうこんなに赤くなっている……!」と、喜ぶべきところが複雑な気持ちになっていました。採り遅れたトマトは熟しすぎてやわらかくなったり、裂果して売れなくなってしまうからです。

そんな時に出会ったのが、市内でレストランを経営されている方で、熟しすぎてしまったトマトでジュースを作り、レストランのメニューにできないかという話をいただきました。しかも、その方の紹介で農産物加工所の方とも知り合うことができ、トマトケチャップ製造のためにトマトを購入いただけることにもなりました。

それから毎週のように、1回100kg~200kgという量のトマトを買っていただいて、なんとかトマトの収穫ピークを乗り越えることができました。

またさらに、その加工所の方のご紹介で出会ったのが、化学農薬や化学肥料を栽培期間中に使用せずに栽培された野菜の宅配をされているサービス「雨ニモマケズ」の方たちで、現在の主な野菜の出荷先となっています。当時はまだ野菜の宅配を始めたばかりで、少量の取引から始まりましたが、徐々に規模を拡大されていく中で、数年後にはほぼ全量のトマトを買い取りしていただけるようになりました。

無農薬野菜というブランドで販売されているため、そのような野菜を必要とされている方に手に取っていただけますし、購入いただいたお客さんの声も直接届けていただけるので、もっとおいしいトマトを作りたいというモチベーションアップにもなりました。


このように、私が新規就農から販路を見つけられたのは、「偶然」と「人とのつながり」によるものが大きかったです。

販路を見つけられる前は、熟しすぎて売れなくなったトマトや広がってしまった病気を見て、本当に有機にこだわるべきなのか悩んだこともありました。しかし、諦めずに続けたことが結果につながったのだと思います。

また、研修時から地域のセミナーや農家の集まりに参加したり、他の農家さんたちとできるだけつながる機会を持っておくと、情報交換や販路を紹介し合えたり、困ったことがあった時に助け合うこともできました。これらは農業をする上でとても大切なことだと実感したので、これから有機農業を始めたい方などは参考にしてもらえればと思います。

栽培面、販売面の両方で、さまざまな困難があった新規就農1年目でしたが、成長と未来へつながる実りある1年でもありました。販路を探すことに力を入れられたのは、研修で栽培技術をしっかり教えていただいたおかげです。次回は研修で学んだ大切なことをご紹介します。

2024年8月より、有機農業での就農から販路探しについてお話しさせていただいた農家コラムですが、1年間読んでいただきありがとうございました! これからも農業についていろいろ綴っていきたいと思いますので、来年もどうぞよろしくお願いします。

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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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