【農家コラム】 24歳女子が新規就農で「有機トマト農家」の道に進むことを決めた理由

「SMART AGRI」をご覧のみなさん、はじめまして。北島芙有子と申します。2017年に三重県でトマト農家として新規就農し、今年で7年目になります。

ハウス栽培の夏秋トマトと、冬春にはハウスと露地栽培で豆類やニンニクなど、いろいろな野菜を育てています。野菜はすべて有機肥料のみ・化学農薬不使用で栽培しています。


これから、私が有機農業を志すまでの経緯や、有機農業をする上での喜びや大変さなどについて、みなさんにお伝えできればと思います。

まずは、大阪で生まれ育ち農業と全く縁がなかった私が、なぜ農業の道に進むことに決めたのか、その経緯をご紹介します。

在学中に感じた「本当にやりたいことは何だろう?」


幼少期から動植物を観察したり、育てたりすることが好きで、農業の仕事に少し興味はあったものの、非農家から農家になって食べていくことは到底できないと思っていました。

学生のころ将来の夢は特になく、生物の授業が好きだったので、何も考えずに大学は農学部バイオサイエンス学科へ。大学で学ぶうちに、バイオサイエンス・化学や研究などは、自分の本当にやりたいことではないのでは? と気付きました。

そんな時に、たまたま大学2年生のインターンシップで、牧場で10日間働くことになりました。その時はじめて一次産業の仕事に触れ、自然の中で生物に関わる仕事をすることが、本当に自分のしたいことなのではないかと思うようになりました。

その後大学の春休みに自分で牧場のアルバイトを探して応募し、1カ月間香川県で住み込みアルバイトをしました。夏休みには、岡山県でトマト農家のアルバイトを見つけました。子どものころから、トマトは野菜の中で特に好きな野菜だったので、軽い気持ちで応募しました。

この岡山での住み込みアルバイトで、初めてトマトがどのように栽培されているのかを知り、日々驚きの連続でした。種から大事に育てた苗をひとつひとつ手作業で植え、気候や成長に合わせて毎日細かな管理を行って育てられたトマトは、今まで食べてきたトマトとは比べ物にならないくらい美味しくて、農園の人たちのトマト作りへの情熱に心を動かされました。

「私が本当にしたいことはこれだ!」と、人生で初めて強く思った瞬間でした。


「有機農業」を選んだきっかけ


大学3年目に大学を休学し、岡山のトマト農家で2度目のアルバイトを始めました。そこで働くうちに、ただ手伝うだけではなく、トマト栽培についてしっかり学んで、自分でも農業をしてみたいと本格的に思うようになりました。

アルバイトを終えて大阪に戻り、非農家から農家になる方法を、本やインターネットなどで探し始めました。農家で研修をしたり、農業大学校などで1~2年間農業を学ぶことで、助成金をもらいながら技術を習得し、研修終了後に新規就農して独立することができる制度があることを知りました。

この時、トマト栽培で農業を始めたいという意志は固まっていたものの、まだどこでどんな農業をしたいかははっきりと決まっていませんでした。しかし、農業についていろいろ調べるうちに、「有機農業」という選択肢があることを知りました。

アルバイトをしていた岡山のトマト農家は慣行栽培の農家だったので、毎週のように大量に化学肥料や農薬を散布している姿を見て、「散布する人間に健康被害はないのだろうか?」と疑問に思ったのが、有機栽培に興味を持ったきっかけです。

実際にその圃場で農薬を散布されている時に、薬剤特有のにおいが苦手だったのと、散布された後に死んでいる虫を見て、農業の世界に初めて飛び込んだ私にとっては、ショックだったのを覚えています。

また、化学肥料や農薬、除草剤などの購入には費用がかかること、原材料費が高騰しているものがあること、世界の農業に比べて日本での有機栽培の普及率は非常に低い、などの問題についても考えさせられました。限られた資源に頼るよりも、地元の資源などを利用する循環型の農業を目指すのが将来的に良いのではないかと考えたのも一つの理由です。

慣行栽培の農家でアルバイトをする中で、収量や安定した出荷のためには、化学肥料や農薬が非常に有効であることがよくわかりました。日本の気候で農薬を使わなければ、湿度に弱いトマトは病気になりやすく、収量が安定しません。そのため、有機で農業を始めることはリスクが大きく、それで食べていくのは難しいことであると言われています。

しかし、一人で農業を始めるにあたって、小規模でも肥料などにこだわり、大量生産では難しいような付加価値が付けられる野菜を生産することができるのではないかと思いました。実際にスーパーやイベント、インターネットなどで有機農産物が高く売られているのを目にして、少し高くても本当に必要としている人たちがたくさんいるはずだと実感しました。

アルバイトで感じた「本当においしい野菜」から得られる幸せを、「安心して食べられる野菜」を求めている人たちに届けたい。そのためには、有機で育てるという選択肢が、当時自分の中ではベストであると感じていました。


研修農園探しで幸運な出会い


有機のトマト農家になると決意した後は、いくつかの有機栽培、自然栽培の農園を調べて見学に行き、農家さんのお話を聞く中で、慣行栽培とはまた違う考え方や雰囲気を感じ取ることができました。しかし、トマトをメインに栽培していて、研修生を募集しているという農場を見つけるのは簡単ではありませんでした。

そんな中、三重県にある祖父母の家にいた時に、偶然家の近くの農家との出会いがありました。そのトマト農家は小規模で、肥料にこだわり味を一番大事に栽培されていたので、何度か通った後にここで1年間研修させてもらえないかと聞くと、快く承諾してもらえました。

その農園では特に研修生を募集していたわけではありませんが、突然訪れて農業がしたいという私を受け入れていただけました。この出会いがなければ今のように農業をするのは難しかったと思うので、とても感謝しています。

研修をしながら「青年就農給付金」をもらい、本格的に1年トマト栽培を学ぶことができました。研修終了後、農園のハウスの一部を借りる形で独立し、晴れて新規就農することができました。

もちろん、慣行栽培農家でのアルバイト経験や農家さんたちの話を聞いて、本当に農薬を使わずにトマトを栽培できるか不安はありました。アルバイトや研修で少し農業に触れたとはいえ、本当に一人で農家としてやっていけるのだろうか? と何度も思いました。「無農薬で農業なんて無理」「農業なんてやめとき」といったネガティブな言葉をかけられたこともありました。

しかし、トマト農家で研修をするうちに、最初にアルバイトをしたときに感じた「これが本当に自分のやりたいことだ」「こんなおいしいトマトを私も作ってみたい!」という気持ちがますます強くなり、不安やネガティブな考えもむしろバネにして、絶対に成功できるように頑張ろうと思えました。

こうしてなんとか農業を始めることができましたが、農業と全く縁がなく、24歳で新規就農し、世間のこともまだよくわからなかった私には、実際に独立した後にさまざまな困難が待ち受けていました。(つづく)


これまでの歩み
2015年 岡山のトマト農家でアルバイトをする
2016年 青年就農給付金をもらいながら、三重県の農家で1年間トマト栽培の研修をする
2017年 ハウス(約5a)を借りて新規就農
2019年 露地畑(約5a)を借りる

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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