農業大学生の私が思う日本の農業・バイオテクノロジー【連載:とある農業大学生から見た日本の農業】

皆さんはじめまして。農学系単科大学の帯広畜産大学に通う宇佐美匠也と申します。

私は旅行が大好きで、海外は10か国以上、国内・道内も毎年数回と、暇さえあればどこかに行っているような大学生です。私の親も出かけることが好きで、小さいころには車で北海道の隅々まで連れまわしてもらいました。そのため、育ちは札幌の住宅街でしたが、多くの自然を見て育ちました。

今回、SMART AGRI編集部の方と知り合う機会があり、「令和のいま、農業について学んでいる学生がどんなことを学び、日本の農業と未来についてどう考えているのかを聞かせてほしい」という話になりました。

私の考えは農業を学ぶ学生のひとつの声でしかありませんが、ともに学んでいる先輩・後輩や先生たちの声も含めて、いまの農業やこれからの農業について、私たちの世代がどう考えているかを書かせていただくことにしました。特に、私が大学で学んでいる最新のバイオテクノロジーに関する問題についても触れてみたいと思います。

宇佐美匠也(うさみたくや)

2000年生まれの道産子。15歳から高専に通って工学分野の化学を学び、2021年に現在通っている帯広畜産大学に編入しました。大学では農学分野の「食品科学」を学んでいます。高専で学んだ「食品化学」から「食」に興味を持ち、食の源である農業に触れ始めました。
今の目標は、メディアを通じて“農業のいま”そして“魅力”を広めること!

「農業」へのイメージと想い


私はこの4月に大学4年生になりましたが、農学を学び始めてからはまだ1年しか経っていません。そのため、少し前まで「農業」のイメージは、農学を学んでいない人と同じだったと思います。

私が農業と出会ったきっかけは「食」でした。高専では工学分野の化学を専攻していましたが、たまたま農学分野の「食品科学」を受講する機会があり、農学を学び始めたのです。

「食品科学」の授業では、食品の味や成分・微生物の働きなどといった「食」の基礎を学びました。日常生活に深く関わる分野であったことと、当時学んでいた化学とも似ている分野であったため、その授業以降「食品科学」に興味を持ち、もっと学んでみたいという気持ちが強くなりました。

そして、高専を飛び出して「食品科学」を学ぶことのできる大学への編入学を決めました。それが現在通っている帯広畜産大学です。

帯広畜産大学は農学系の単科大学のため、専攻は工学から農学に変わりました。たまたま農学を専攻する身となりましたが、それは「食品化学」が農学分野だったから。畑作業や野菜を育てる「農業」にはあまり興味がありませんでした。

しかし、「農学」とはお米や野菜を実際に生産する「農業」を、よりよくしていくために研究する学問です。「農学」を専攻する学生として、入学後は自然と「農業」についても学ぶようになりました。


それまでの農業のイメージは「新規参入者にはハードルが高い」だったり、「年中無休で朝早くからの労働」など、あまり良くないものばかりでした。さらにニュースでも農業従事者の高齢化や後継者不足など深刻なニュースばかり流れており、暗い印象を受けていました。

しかし、2021年から農業を学び始め、農学を学ぶほど、また農家さんのことを知るほど「農業」に対するイメージは変わりました。

農家でも休みは取れる


まず一番驚いたことは、「農家はそんなにつらいばかりの仕事じゃない」ということです。

学生の知り合いにも農家を継ぐという人がいるのですが、「夏はきついけどそこで頑張れば冬は遊べる!」と言っており、かなり衝撃を受けました。


農家になったら「年中無休で朝早くからの労働」というイメージを持っていたため、以前は自由とはかけ離れた印象を持っていました。旅行好きの私にとっては、場所に縛られ少しも手が離せない状態は耐えられないと思っていましたが、今では逆に羨ましいとまで思っています。

最近は、週末農業や共同農業など、さまざまな形かつ自分のペースで農業に関わることができる仕組みがあり、農業のハードルは思っていたほど高くないと感じるようになりました。

作物を作る以外にできる「農業」がある


次に農学を学ぶ中で感じたことが、「農作物を作ることだけが農業じゃない」ということです。

農学にはさまざまな部門がありますが、「獣医学」や「農業工学」などの生産現場と密接に関わる部門から、「農業経済」や「食品科学」など、生産現場とは少し離れた部門もあります。

私は後者から農学分野を学び始めましたが、農業には非常に多くの関わり方があるのだと感じました。

一般に「農業」というと、畑や田んぼなどといった現場がイメージされる方が多いかもしれません。しかし研究所や机上からでも「農業」というものにアプローチできるのではないかと考えたのです。

それ以来、「まだまだ農業はやれることがたくさんある」と考えるようになりました。これは農学を学んでいる多くの学生が感じていることだと思います。

農業を学んでいるのは農家になりたい人だけじゃない



私が通っている大学は農学系の単科大学のため、農業に関わりたいと考えている人がたくさんいます。その中には農家になる予定の人ももちろんいますが、家業を継ぐことや、農業に関連する会社に就職することだけが目的の人だけではありません。

農業について深く考えている人は、「農家は継ぐけど、それにプラスして農園カフェをやりたい」といったように農業+他事業のプランを持っていることもありますし、「夏はがっつり働いて冬は自由に生活する」といった農家の働き方改革を考えている人もいます。

なんとなくネガティブな印象を持っていた農業ですが、アイデア次第でこんなにも働き方が広がっていくのかと初めは驚きました。そして農業を知れば知るほど、それまで抱いていたネガティブなイメージは変わっていきました。

しかし、農業の現実を知らず、イメージが変わらないままの人もまだ多くいます。

私は「食」を通じて農学に出会い農業を知りましたが、すべての人が農業と出会うわけではありません。一生の中で農業について深く考える人はまだまだ少ないはずです。農業についてもっと多くの人が知って考えるようになれば、農業に積極的になる人も多いのではないかと考えています。

農業をより多くの人に知ってもらうためには、どのようなことができるでしょうか。私は将来メディアを通じて農業の今を伝え、農業に寄与したいと考えていますが、メディアやブログなどで農業関係者自身が発信していくことも重要なのではないかと考えています。農業と聞くとまだ3K(きつい、汚い、危険)というイメージが強い方もいると思いますが、それも変わってきているということを伝えていきたいです。

最先端の品種改良技術「ゲノム編集技術」をどう捉えるか


前章で、「農業にはさまざまな関わり方がある」と言いましたが、中でも私が学んできた「バイオテクノロジー」が農業に応用されている事例が増えています。バイオテクノロジーは非常に新しく、加速度的に発展している技術です。すでに農業に応用された例は数多くありますが、その中でも農家さんにとっても消費者にとっても大きな話題は、「遺伝子組み換え」や「ゲノム編集」ではないでしょうか。

そこで今回は、バイオテクノロジーの中でも新しい技術である「ゲノム編集技術」について、私が大学で学んでいる内容をもとに、どんなふうにとらえているかをお伝えしたいと思います(あくまでいち学生の声ですので、違う考えの方もいるということを前提でご覧ください)。

 

「遺伝子組換え食品」は、皆さんもよく聞いたことがあるかもしれません。遺伝子組換え食品は、今やスーパーに並ぶほど身近なものになってきました。

では、「ゲノム編集食品」は身近にあるでしょうか。言葉を聞いたことはあるけど見たことがないという方が多いと思います。

実は、ゲノム編集食品が初めて日本で届け出されたのは2020年12月です。ちなみに遺伝子組換え食品が日本に初めて登場したのは1996年でした。ゲノム編集技術はバイオテクノロジーの中でも特に新しく、これから食品に使われ始める技術なのです。

「遺伝子組み換え」と「ゲノム編集技術」の決定的な違い


では、遺伝子組換え技術とゲノム編集技術は何が異なるのでしょうか。

簡単に言うと、遺伝子組換え技術は新たな遺伝子をゲノム(自分の遺伝子)に挿入する技術で、ゲノム編集技術はゲノム自体を変化させる技術です。入れるか、いじるかの違いです。

生物には損傷したDNAを修復する力があります。ゲノム編集技術は、ゲノムの一部を切ることで修復を促し、修復する際に起こる塩基配列の変化によって編集を行っています。


このメカニズムは、自然界で起こる「突然変異」のメカニズムとほぼ同じです。自然界でも紫外線や放射線によってDNAが損傷し、そのDNAを修復する際に塩基が変わって突然変異が起きています。

一方、今まで多くの食品に用いられてきた遺伝子組換え食品は、遺伝子を挿入するという自然界ではありえないことをしていたため、安全性が疑問視されてきました。その点でゲノム編集食品は、従来の育種と科学的に行っていることは同じであるため、安全性が高いと考えられています。

「ゲノム編集食品」には表示義務がない


しかし、安全性が高いことが原因で一つ問題が生じています。それは「ゲノム編集食品」という表示義務がないことです。

確かにゲノム編集食品は安全性が高いと言われていますが、それは遺伝子組換え食品などと比べた場合です。遺伝子組換え食品を避ける消費者がいるという現実を見れば、ゲノム編集食品が消費者にすんなりと受け入れられないことは容易に想像がつきます。しかし表示義務がないため、知らず知らずのうちにゲノム編集食品を口にしてしまうことになるのです。

アメリカでは、いち早くゲノム編集食品が店頭に並んでいますが、「ゲノム編集食品」の表示はありません。それどころか、遺伝子組換え食品を避ける人が目印とする「NON-GMO(遺伝子組換えでない)」のラベルまで貼られています。


もちろん事実であり間違いではありませんが、消費者の思いを尊重しているとは思えません。ゲノム編集は新しい技術のため、予期せぬ危険があることも考えられます。それを避けるために行動している消費者は、気軽に買い物をすることができなくなってしまいます。

新技術の普及のためには消費者の思いが第一


ゲノム編集技術は素晴らしいものだと私は思います。うまく応用すれば農作物の単価を上げて、農家さんの収入を上げることもできます。さらに、希少な食品の収量や発育を向上することができれば、手軽に多くの食品が楽しめるようになるでしょう。

しかし、未知の技術や意見が分かれる方法を用いるときは、消費者のことを第一に考えて行動することが一番大切だと思います。新しい技術を導入する際には、どのような行動をすれば安全に利用してもらえるかを考えていく必要がありそうです。

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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。