日本の農業が「高付加価値化」と「価格競争力」をつけるには?【とある農業大学生から見た日本の農業 第2回】

こんにちは。農学系単科大学の帯広畜産大学に通う宇佐美匠也と申します。

前回は、農業のイメージと現在私が学んでいることについてご紹介しました。今回は「日本の農業の課題と解決策」を、若者である私がどう考えているかを述べていきます。



若者が考える日本の農業の課題


日本の農業にはさまざまな課題があります。食料自給率の低下や農業従事者の高齢化、「3K」の根強いイメージなど、すぐに解決できそうにないものばかり。SMART AGRIの読者は農家さん、自治体の方々、農業関係の企業の方々、就農したい方やこれからの農業に興味を持っている方など多様ですが、みなさんは何が一番の課題だと思いますか?

私が農家さんと触れ合ったり、大学でさまざまな勉強をしている中で思う一番の課題は、「人口減少に伴う就農人口の減少」です。

内閣府の推計によると、2050年に日本の人口は1億人を下回り、2110年には現在の3分の1にまで減ってしまうと予想されています。人口が減るとその分就農人口が減り、農業市場も縮小してしまいます。

しかし、視野を世界にまで広げてみるとどうでしょう。世界では“人口爆発”が起きており、それに伴って農業市場は拡大していくと考えられます。その中で日本の農業市場が縮小していては、世界に置いていかれてしまいます。


高付加価値化による市場維持・拡大


そのうえで、「高付加価値化による市場維持・拡大」が「人口減少に伴う就農人口の減少」を解決できる策なのではないかと考えました。

日本の人口が減っていってしまうことは、農業界が止められる問題ではありません。しかし人口が減少すれば、就農人口も減ってしまいます。

その上で農業市場を維持・拡大するとなると、打つ手は農地集積・集約化や法人化、高付加価値化が考えられます。

農地集積に関しては、2014年に農地バンクが設置され改善が期待されましたが、農地バンクの利用率自体が良くなく、期待された成果は出ていません。法人化も大部分が失敗していると聞きます。

そう考えたときに、高付加価値化はリスクが低く、より良いものを作れる最適な解決策だと考えたのです。


海外進出の必要性


次に、高付加価値化した商品をどこに売るか? という話に移ります。

先ほど紹介したように、日本の人口は減少すると考えられています。人口の推移については詳しくないため素人意見になりますが、ニュースや世論、人口の推移などを見聞きする限り、人口減少は避けられないのではないかと思います。

そのため農業市場を国内で拡大したとしても、消費が追い付かずに供給過多になってしまうでしょう。

しかし、海外は逆です。海外の人口はどんどん増えていくため、需要も増えます。だからこそ、日本の農業界を発展させるには、高付加価値化した商品を海外に売ることが必要なのではないかと考えました。


海外進出を成功させるためには


では、海外進出を成功させるためにはどのようなことが大切になってくるのでしょうか。

花卉などは別ですが、農作物の大部分は食品です。食品は家計の大部分を占めるものですので、ある程度安いものでなければ買ってもらうことができません。

しかし、日本の農産物は“高い”です。その例としてはりんごが有名ですが、味は確実に良いものの、日本産りんごのイメージは“おいしい”よりも“高い”という印象が強いです。スーパーに買い物に行かれる方であれば、日々感じている方も多いでしょう。さらに各国の関税がかかると、誰も買ってくれない商品になってしまいます。

このように、海外進出をするにあたっては“高付加価値化”に加え、“価格競争力”も必要なのです。

しかし、この2つをうまく取り入れようとするのはかなり難しいといえます。なぜなら、“高い付加を付けて価値を高める”ことと、“安くする”ことの相反する要素を、どちらも入れようとしているからです。

これらをどちらも解決するには何をしたらよいかを、私なりに考えてみました。

「高付加価値」をつけるには


まずは高付加価値をつけるためにできることをいくつか挙げてみます。

  1. ブランド化する
  2. 加工して売る
  3. 農薬を使わない
  4. 栄養面で優れた作物を作る

1つめの「ブランド化する」は、時間こそかかりますが実現すれば大きな武器になります。

ただ気になるのは、日本は農薬を(他国に比べて)多く使用している国だということ。無農薬ブームが世界中に広がっているいま、「JAPANブランド」をどう維持していくかも、高付加価値化の一つのカギとなるでしょう。

2つめの「加工して売る」は、最近活発に行われ始めたものです。

引用元:AZUMARCHE | あづまフーズ株式会社
こんにゃく粉や大豆を加工して肉や魚、高級食材に味を似せる「まるで~」シリーズは最近話題になりましたが、そういった面白い加工食品が数多く発売されています。こういった「アイデア」も、高付加価値化といえるでしょう。

3つめの「農薬を使わない」は、世界の流行であり、いずれ行わなければいけないものだと思います。しかし日本は降水量や日照時間の問題など、海外と比べて圃場の環境が悪いです。その点をうまく克服し、農薬の使用を減らすことができれば、日本産のイメージがより良くなるのではないかと思います。

4つめの「栄養面で優れた作物を作る」は、海外はもちろん国内に向けての強みにもなります。栄養面は、前回の記事で触れた「ゲノム編集技術」を利用することで実現が可能です。

(※2022年6月25日追記:初出時、ゲノム編集技術を活用した商品について、誤解を招く表記がございました。お詫びして訂正いたします)

しかし、遺伝子組み換え技術やゲノム編集技術などといった先端技術を使うことには、賛否両論があります。この件に関して海外の消費者は、日本の消費者よりはるかに敏感です。

これを日本の技術で安全だと消費者に証明し、より一般的なものにすることができれば、大きな高付加価値にすることができます。


「価格競争力」をつけるには


次に価格競争力をつけるためにできることを挙げてみます。ここでいう“価格競争力”とは、どれだけ安く商品を売ることができるか? という力です。

  1. 機械化を進める
  2. 分業化を進める

1つめの「機械化を進める」は、ITをはじめとする「スマート農業」を進めていくことです。これを行い、生産性を最大限まで高めているのがオランダ。施設栽培では、温度・湿度・光量・二酸化炭素濃度などを測定・最適化する機械が使われており、病害にさらされないような監視もされています。

オランダはそれらを機械で行い人件費を抑え、AIを使い最適な環境を作り出すことで、非常に効率的な農業を実現しています(オランダの面積当たりの収量は日本の約3倍です)。効率を高めるためにAIやITを導入したり、品質に影響しない作業は機械に任せたりするなど、日本も工夫できることはまだまだありそうです。

2つめの「分業化を進める」は、農作業の分担を行うということです。それにより大型機械を持たなくてよくなったり、作業効率を上げたりといったことが実現します。

日本の圃場は小さいため、どうしても海外のように効率的な農業はできません。しかし小さいからこそ分業化を進めることができ、各農家さんがそれぞれ大型機械を持つ必要がなくなるなどのメリットに変えることができます。

さらに、分業化されていれば農業を始めるのに機械一式をそろえる必要もありません。初期投資額が少なくて済むため、新規の農業参入がしやすくなるという大きなメリットも期待できます。

ただ、これらのことを高付加価値化と同時に行うのは至難の業です。農業界で成功している例も多くはありません。しかしどちらの要素も取り入れることができれば、“安くていい商品”が誕生するのです。

価格競争力で挙げた2つは規模が大きいため、すぐ実行するにはハードルが高いですが、高付加価値化で挙げたものは個人でも手を付けることができます。付加価値の付け方は人それぞれ。自分には何ができるのか? を考えるきっかけになればうれしいです。


より良い農業のために


「日本の農業の課題と解決策」を考えてきましたが、いかがだったでしょうか。私はまだ学生で、農場で働いたこともありません。そのため農家の方からすると「こんなの無理に決まっている」と思われてしまったかもしれません。

しかし、そのギャップこそが、農業をよりよくしていく鍵だと思います。

前回の記事の中で「作物を作る以外にできる農業がある」と述べました。今やITやAI、遺伝子組み換え技術といったような「作物を作らない農業」は、作物を作ることと同じくらい大切だと思います。

作物を作っている方の声が「作物を作らない農業」をしている方にしっかり届けば、より良い農業になっていくはず。

それらがうまくかみ合った時、「価格競争力」と「高付加価値」が備わった農作物が生まれてくると思います。

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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。