Z世代の農業大学生が考える若者の就農とスマート農業導入の障壁(後編)【とある農業大学生から見た日本の農業 第4回】

前編に引き続き、帯広畜産大学生に農業への楽観的・悲観的な実感をインタビュー。食料問題に対する危機感、「スマート農業」についてどれくらい知っているのかなどを聞いてみました。

〈インタビューに応じてくれた帯広畜産大学の学生〉
左から、別科1年で農業高校から大学に進み将来は実家の酪農に就農する予定の加藤武志さん、畜産科学課程3年でスマート農業の研究を行っている岩崎圭さん、畜産科学課程2年で酪農家を目指している松下弦太さん

農業を知る手段が限られているのも離農の原因の一つ


──前回、みなさんは農家バイト(農家さんを手伝うアルバイト)をしていると言ってましたよね。学校に来ている求人でお手伝いしたと思いますが、農業系の学校に通ってない人はどうやって農業に携わればいいと思いますか?

岩崎: 農業に触れる手段が限られていることは、離農の原因になっていると思います。他の業種のように、当たり前に求人に載るようになれば興味を持つ人が増えそう。

松下: 確かに就農する手段や農業について知らない人が多いというのはあるかもしれません。僕も農業高校に行っていなければ知らなかったことがたくさんあります。中学や普通科の高校でも当たり前に農業や畜産に関する授業があれば、興味を持つ人が増えるんじゃないかな。

──都会に住んでいる人は農業や畜産について知らない人の方が多そうですしね。

松下: 「新規参入する機会がたくさんある」ということを知っている人も少ないのかなと。みんな「農家の子どもが農家を継ぐから後継者はいるはずだ」と思っているんじゃないでしょうか。

「知る機会」を増やすことが農業発展につながり、農業への関心が向くのかなと思います。関心の薄さから、海外と比べて日本は農業への考え方が少し遅れてしまっていると感じることがあるので。

──そういえば、EUでは家畜動物のケージ飼育を段階的になくして、2027年までにケージでの畜産飼育を禁止する措置を発表しましたが、元は住民の署名によって起こったものでした。そういう国民運動のようなものって、日本ではあまりない。それこそ「価格が安ければいい」と考える人は多いですけど。

岩崎: 確かに僕も安い方がいい派ですが、国民の考え方が遅れているというのは感じます。

松下: 食品の価格が安い方がうれしいのは当たり前なので、それが悪いとは思っていないのですが、そういうニュースを見るとやっぱり海外に遅れをとっているのかなと感じますね。

海外のニュースを見ているだけでも、国民がしっかり農業について考えているのがわかります。僕たちもそう考えられるようになれば、日本の農業も発展していくと思います。


高齢化が進み、スマート農業が必要な人が導入できないというジレンマ



──日本の農業従事者の平均年齢は67.9歳と高齢化がかなり進んでいます。その世代がスマート農業を使いこなしていけると思いますか? また、スマート農業が必要な人とはどんな人だと思いますか?

岩崎: 正直、長く農業をやってきた人はスマート農業を導入しなくても良いのかなと思います。これまでの知恵などで難なくやっていけているわけですし。

加藤: 確かに、長く農業をやってきた方は今のままが良いかもしれませんね。

岩崎: 技術や知識が浅い人には必要です。新規参入する人とかは特に。

──ただ、ベテラン農家さんの技術や勘というのはスマート農業でカバーできるものなのでしょうか。新規参入する人は設備投資にお金をかけることが難しいと思いますが、そのような方が現実的にスマート農業を導入できると思いますか?

加藤: できると思います。酪農を見ると牛に首輪をつけて行動を観察する機器なんかはもうありますし。反芻(はんすう)の数から牛の調子を見ることもできるので、人の目よりも正確かもしれません。

岩崎: 野菜は米粒程度の大きさの腐敗であればドローンで見つけることができると聞きました。スマート農業の導入はやはり国からの支援が必要だと思います。かなり高額と聞きますので、個人でいきなり導入するのはさすがに無理な気がします。

加藤: 農業高校時代の同級生は卒業後すぐ働いていますが、GPSとかは使っていますよ。その同級生のご両親は40代と若いので、積極的に導入しているのかもしれません。今は農機に乗って操作しないといけないようですが、もう一段階技術が進めば画面で指示するだけで動かせるようになるようです。そうなればかなり楽になりますよね。

ロボットトラクターは人が前にいても止まらないからまだ危ないとか言われていますが、大学にあるトラクターは2~3m前に人がいると自動で止まりましたよ! 実際に立ってみたこともあります。


スマート農業で軽減できた空き時間で何をしたいかが大切


──加藤さんのご実家ではスマート農業を導入されていますか?

加藤: 導入していません。酪農で導入している方はまだあまり見ないですね。野菜を育てている農家さんは入れている人が多い印象です。酪農より進んでいるイメージがあります。

──農家を目指す加藤さん、松下さんは、将来スマート農業を導入したいと思いますか?

加藤: できることなら導入したいです。ただ、お金がかなりかかりそうなので、そこがなんとかなれば……。

松下: 僕は正直、北海道というエリアはほとんどロボットが酪農を行っているのだと思っていました。スマート農業を導入すると朝の時間に余裕ができると聞くので、導入したいとは思っています。

ただ、ロボット搾乳している方に話を聞くと、自動化によってできた余裕のある時間は、乳牛の改良や繁殖を考えるなど、結局他の仕事をしているそうなので完全に楽にはならないのかなと思います。「スマート農業を導入すれば楽勝!」というイメージを持っていたのですが、実際はちょっと違いました(笑)。

岩崎: 講義でスマート農業の機械について勉強しましたが、人の目でもしっかり見て確認すべきだと教えられました。 あと、機械の値段が高すぎるのも問題ですよね。一部の農家さんはスマート農業を導入したことで逆に大変になったというような話も聞きます。

加藤: 高価すぎて、しっかり回収できる見込みがある大規模な農家でないと導入できないですよね。設備を一新しなければいけないので、億単位になることもあるみたいですし。

松下: ロボット搾乳でいうと、しぼり(乳牛を出す牛)だけで最低100頭は必要だそうです。その規模となると導入できる酪農家さんも限られてしまいますよね。


加藤: さらに、月に一回くらいメンテナンスもするんですが、そのメンテナンスにもお金がかかります。ただ、利点もあって、人だと一日2回しか搾乳できませんが、ロボットだと3回できるので、うまくいけば大儲けできるらしいですよ。

──初期投資が高くてそれがリスクになっても、やはり導入したいと思いますか?

松下: 導入したいです。僕は土地など何も持っていないので、最初からは無理だと思いますが、スマート農業のような新しいものは、どんどん取り入れていった方がいいのかなと思います。

「ラク」できるという点もありますが、空いた時間を他のことに使いたい。酪農家を目指していますが、繁殖に優れている牛や乳量が多い牛を伸ばしていきたいので、そういったことを考える時間にあてたいんです。やっぱりいい牛を育てていきたい。

加藤: トラクターなどを運転せずに画面などで操作して動かせるようになったら、その時間を他のことにあてたいです。他のことに時間を使えるようになれば、もっと農業は良くなっていくと思いますし、そういったことを考える人が増えれば、スマート農業は増えていくと思います。とにかく導入までの金額が高すぎるので、国の支援が必須だと思いますが。

岩崎: 高齢化もあり、離農者が増えていますよね。その土地に大きな企業が参入してスマート農業をすれば良いのかなと思います。正直、“農業を始めたい!”という若者が増えることはあまりないと思うので。それだったら、大企業がやるしかないんじゃないでしょうか。


──個人の力だけでなく、国や企業と協力して行う必要があるかもしれませんね。そうすれば、日本の農業はうまく続いていくと思いますか?

松下: 第一次産業なのでなくなることはないでしょうが、うまくいくかは微妙ですね。最近は株式会社化して助成金をもらったり、起業化してうまくいってるところもあるみたいなので、頭を使っていくことが重要なのかなと思います。

岩崎: 離農した農家さんの圃場にうまく企業が入っていけば続くんじゃないかと思います。実際やれば稼げますし、なんだかんだ続くんじゃないかなと思いますけど。

加藤: 企業化して、従業員を雇って、というふうに大きくしていけばいいと思います。あとは、遺伝子組み換え技術なども使って収量を増やすなどの工夫もしていけばいいんじゃないかと。遺伝子組み換え技術等の先端技術は賛成派と反対派に分かれていますが、味は変わらないので、僕はまったく抵抗ないです。

※ ※ ※

これから新規就農をしたり、家業の農業を継ぐ若者にとっても、スマート農業を導入するにはまだまだ壁があります。しかし、それでも新しいものはどんどん取り入れていきたいという前向きな意見も聞くことができました。

農業について農家以外の人も含めてもっと知り、関心を持つ。そういった機会がさらに増えれば、日本の農業もさらに発展していきそうですよね。

一方で、「米消費が減っていくのは仕方がない流れ」「日本は海外に比べて考え方が遅れているのではないか」など、今回のインタビュー内では、農業に対する良くも悪くもリアルな若者の声もたくさん聞くことができました。

それでも、農家を目指す学生がいて、最新の技術で農業を支えようと奮起している学生がいます。農業は、第一次産業の中でも生きるために不可欠な「食」に関わる産業です。少しでも農業に関わる人が増え、発展していけばと願っています。

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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