Z世代の農業大学生が考える日本の食料事情とスマート農業(前編)【とある農業大学生から見た日本の農業 第3回】

日本一の農業地帯である北海道。その中でも農業が盛んな十勝に筆者が通う農学系単科大学の帯広畜産大学があります。農業を学んでいるので、普通の大学生よりは農業やスマート農業についての意識は高いと思っています。

今回は、コロナ禍・ウクライナ情勢など2022年現在の世界情勢を肌で感じながら、20代の僕たち(大学生)が思う農業への楽観的・悲観的な実感を帯広畜産大学に通う学生3人にインタビューをしてきました。

今回のテーマは、
  • いま若者の「食」はどうなっているのか
  • 食料問題に対する危機感はどれくらいあるのか
  • 「スマート農業」についてどれくらい知っているのか

前編・後編に分け、ざっくばらんに日々の生活の話も踏まえつつ聞いてみました。

〈インタビューに応じてくれた帯広畜産大学の学生〉
左から、畜産科学課程2年で酪農家を目指している松下弦太さん、畜産科学課程3年でスマート農業の研究を行っている岩崎圭さん、別科1年で農業高校から大学に進み将来は実家の酪農に就農する予定の加藤武志さん

Z世代が考えるいまの食。コメはどのくらい食べているのか?


──最初に、皆さんと農業のつながりを教えてください。

加藤:僕は酪農家の息子で、小さい頃から農業に関わってきました。卒業後は修業のために就農した後、家を継ぐか他の農家さんのもとで働くか迷っています。

松下:将来は酪農家になるつもりです。ただ何もツテがないので、まずはどこかで修行してから新規参入できたらいいなと考えています。酪農家の息子なら土地を持っていますが僕は何もないので、正直加藤さんが羨ましいです(笑)。

岩崎:農業に興味があってこの大学に入りました。ただ、将来も農業に携わるかは迷っています。現在大学で「スマート農業」に関する研究をしているので、スマート農業には興味があります。

──加藤さんと松下さんは農家を目指し、岩崎さんは他業種も視野に入れているんですね。農業には関わりの深い3人ですが、まずは、大学生としてどのような食生活を送っているのかを聞かせてください。ちなみに、昨日の夕食は何を食べましたか?


岩崎:実家暮らしなので健康的な食生活を送れていると思います。昨晩は、白米・味噌おでん・かぼちゃの煮物・納豆・味噌カツでした。我が家は少し品数が多いかもしれませんね。

松下:寮に住んでいるので寮食や、友人と一緒にご飯を作って食べています。ちなみに昨日は外食でした。ご飯を作るときは、焼きそばやカレーなどの調理がわりと簡単なものを作ります。

加藤:僕は一人暮らしであまり野菜を食べていません。白米と、卵と豚肉を一緒に焼いたものを食べました。

──普段の食事で、野菜は積極的に摂っていますか? この画像は一日の摂取目標量と言われていて、野菜350gのイメージです。これを見て目標量が摂れていると思いますか?

出典:厚生労働省「e-ヘルスネット」 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-03-015.html 
松下:寮食では野菜が出るので、摂れていると思います。友人と作るときはあまり意識していないので微妙ですね。実際にこの量を食べているのは週に1~2回だと思います。昼と晩を寮食にすれば行けそうな気がしますが、一人暮らしでこの量を毎日摂るのはかなり厳しそう。

岩崎:うちは親が野菜を使った料理を作ってくれるので、野菜不足ということはないですね。朝に野菜を食べれば確実に摂取できると思います。20歳以上の野菜摂取量の平均と言われている280gは食べているかな。

加藤:米・卵・肉をメインに食べていてほとんど野菜は摂りません。冷凍野菜は買って食べたりしていますが、週に1~2回程度。一皿(70g)分の野菜ですら摂っているか怪しいです(笑)。生野菜の写真を見ると量が多いように見えますが、おひたしにすると食べられそうですね。

──ひとり暮らしの人が積極的に野菜を摂るのはなかなか難しいですよね。では、和食に欠かせないお米はどれだけ食べていますか? もし、米・パン・麺のうち今後どれかひとつしか食べられないとなれば、どれを選びますか?

加藤:米が好きなので毎日2~3合は食べています。ひとつしか食べられないとしたら、もちろん米を選びますよ。僕はあまりパンや麺を好まないので、食べなくてもキツくないです。

岩崎:何合かはわからないですが、お米は朝晩出てくるので食べている方だと思います。ひとり暮らしをしても晩御飯には米を食べると思うので、僕も加藤君と同じで米を選びます。パン・麺が食べられなくても、そこまで苦じゃないです。

松下:毎日、昼と晩に食べているので、2~2.5合くらいは消費していると思います。米は好きなのですが、朝はご飯が喉を通らないので食べられないんです。だから「米」を選択すると朝ごはんが食べられなくなってしまう(笑)。でもやっぱり昼と晩は米を食べたいので、「米」を選択します。



──みなさん、お米はたくさん食べているようですが、日本のコメ消費量は下降の一途をたどっています。例えば、品種改良がうまくいって今より美味しいお米ができたり、地元産のお米があったりしたら買おうと思いますか?

岩崎:原産地はあまり気にせず値段で選んでいます。親戚にお米にこだわっている人がいますが、そういう人はごく一部なのではないでしょうか。いいコメを作っても「その味がわかる!」という人が多いとは思えませんし、「良いコメができた」で米を購入する人は少ないと思います。パンと麺の制限でもしない限り、米の消費量は増えないんじゃないでしょうか。パンや麺の消費が増えているのは悪いことではないですし、仕方がない流れなのかなと。

松下:僕は、自分の生まれた土地や、住んでいる土地の名前が袋に書いてあったら買ってしまうかもしれないです。でもパンが制限されたら朝食べられるものがなくなってしまうのでキツイです(笑)。(※松下さんはどうしても朝はお米が喉を通らないようです)

加藤:ひとり暮らしなので、値段が安いものを買います。ただ、地元の北海道産なら積極的に食べたいので、安い価格で販売されているいくつかのお米の中に「北海道産」があったらそれを買いますね。僕はパン・麺をあまり食べないので消費が制限されても全く問題ないです。ただ、米の消費量を増やすのは難しいと思います。



──お米好きが多いので、このメンバーで話していると米の消費量が減っていると感じにくいのですが、減少している原因は何だと思いますか?

松下:「手軽さ」が足りないからじゃないでしょうか。パンは種類も豊富で菓子パンだと「おやつ」として手軽に食べられます。「おにぎり」も手軽ですが「おやつ」にはならないですよね。米は「ごはん」としてしか食べられないんです。もっと「手軽に簡単に」食べられるなら消費量は伸びていくと思います。

加藤:この前、スーパーで米粉パンを買ったのですが、とてもおいしかったです。間食にはぴったりでした。確かに、そんな商品がもっと増えれば米の消費量は増えていく気がします。


「スマート農業」にどんなイメージを持っていますか?


──次は「SMART AGRI」の名前にもなっているスマート農業について、農業について勉強している若者は、どれだけ関心を持っているのか、「スマート農業」と聞いて思い浮かべるイメージを教えてください。

加藤:GPS付きのトラクターとかですかね。

松下:ロボット搾乳、コンピューターで管理された野菜などを思い浮かべます。

岩崎:「データを使った農業」というイメージです。スマート農業を研究している中で思うのは、まだ運用実績がないものが多く、しっかりと扱いきれていない印象があります。

──3人とも農家バイト(農家さんを手伝うアルバイト)をしていますが、バイトをしている中で今は人が作業しているけど、スマート農業を使えるのではないかと思う場面はありますか?

加藤: 以前、松下さんと一緒に行った「じゃがいもの仕分け」は、緑色に変色したものやくさり(腐ったもの))は人の手で分けていたので、この作業は機械でできるんじゃないかと思いました。


岩崎:それは機械でできると思います。精米機でも、黒く変色した米をはじくものがありますし。ただ、コストがかかるので人の手でやっているという面もあると思います。

松下:人件費とスマート農業の機器の導入を比べたら、バイトを雇った方が安そうですね。スマート農業を生かせると思うものは多くありますが、コストを考えて導入していない農家さんが多いだけではと思います。

加藤:年配の方は今からスマート農業に移行しても、その機械を使いこなせるかわからないですよね。これから離農者が増えていく中、あえて導入する方は少ないと思います。この前、農家バイトで行ったところは、数年後には離農すると話していたので、そういう考えをされている方は新しい機器を導入するとは思えません。

松下:僕がこの前行った農家さんも、長いもは手間がかかるので生産を辞めると言っていました。そういった手間のかかる農作物の現場で、スマート農業が活躍して少しでも作業が楽になれば、それを育てる若者も出てきそうですね。

いまの若者が農業を避けているのは、その「キツさ」もあるでしょうし。農家さんは休みという休みがなく、そういったことも関係していそうですね。

※ ※ ※

日本における農業の衰退が危ぶまれる中、若者が農業とどのように向き合っているかをお伝えしてきました。お米の消費量が減っていることに対して危機感を持ちつつ、でもその流れは止まらない……というリアルな意見を聞くことができました。

解決策として「気軽に簡単に」という若者ならではのアイデアもありました。確かに、手軽においしく食べられるようになれば、若者がもっと消費量を増やしてくれるかもしれません。また、スマート農業や遺伝子組み換え技術など、新しい技術をどんどん取り入れていくことも重要かもしれません。

後編では、これからの農業を担う若者がスマート農業について何を思い、どれだけ興味を持っているかを聞いていきます。(つづく)


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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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