柑橘農業の基礎知識と現実──産地・品種・経営課題を整理する

冬の食卓に欠かせない温州みかん、爽やかな香りのレモン、ジューシーな清見やせとか。日本の柑橘は、温暖な気候に恵まれた各地で多彩な品種が栽培され、季節を通じて私たちの生活を彩っています。


しかし、その生産現場では、高齢化による担い手不足や栽培面積の減少といった構造的な課題に直面していることをご存じでしょうか?。

2024年(令和6年)産のみかんの結果樹面積は3万4,500haで、前年産に比べ900ha(3%)減少し、収穫量は 55 万 9,600t、出荷量は 51 万 900tで、前年産に比べそれぞれ12 万 2,000t(18%)、10 万 6,200t(17%)も減少しました(農林水産省「令和6年産みかんの結果樹面積、収穫量及び出荷量」)。


(出典:農林水産省「令和6年産みかんの結果樹面積、収穫量及び出荷量」より作成)
「令和の米騒動」により日本の主食である米に対する危機感は年々増してきています。ですが、それ以外の作物に関しても日本の各産地で危機を迎えていることは、意外と気づかれていません。特に柑橘の現場では、生産者の高齢化等による廃園が進行しており、この傾向は今後も続く見通しです。

そこで今回は、日本人の食の楽しさとビタミンなどの栄養素としても重要な柑橘農業の現状から栽培の基本、主要産地の特徴、経営上の課題まで、柑橘栽培を取り巻く状況を広く整理します。

これから柑橘農業に関わる方も、すでに携わっている方も、危機的な現状を理解したうえで、未来の日本の柑橘農業を考える手がかりとしてお役立てください。

米と同様に深刻な日本の柑橘産地と生産の現状


日本における柑橘の主要産地は、温暖な気候と水はけの良い地形を持つ地域に集中しています。

2024年(令和6年)産のみかん収穫量を都道府県別に見ると、和歌山県が25%、静岡県が16%、愛媛県が14%、熊本県が11%、佐賀県が5%となっており、この5県で全国の7割を占めています(農林水産省「令和6年産みかんの結果樹面積、収穫量及び出荷量)。

(出典:農林水産省「令和6年産みかんの結果樹面積、収穫量及び出荷量」より作成)
和歌山県と愛媛県が特に生産量の多い背景には、地形的な特徴があります。傾斜地を活用した段々畑は、米や野菜の栽培には不向きですが、水はけが良く、水分を適度に制限することで糖度の高い柑橘を生産できる環境として適していました。こうした地域特性を活かし、長年にわたり柑橘栽培に力を注いできた結果、現在の主産地が形成されています。

一方で、生産量は長期的に減少傾向にあります。農林水産省の最新資料によると、果樹の生産量は1979年(昭和54年)のピーク時685万トンと比較して現在は約半減の水準となっており、果樹農業者の減少と高齢化が深刻化していると指摘されています(農林水産省「果樹農業の現状と課題について 令和6年10月」)。


多彩な柑橘の種類と特徴


柑橘類はミカン科ミカン亜科に属し、カンキツ属/キンカン属/カラタチ属の3つに大別されます。日本国内では約80種類が栽培されており、それぞれ収穫時期や味わい、栽培特性が異なります。

温州みかんは、日本で最も生産量が多い柑橘で、手で皮がむきやすく、種が少ないのが特徴です。収穫時期により極早生、早生、中生、晩生に分類され、9月から翌年3月頃まで長期にわたり出荷されます。

中晩柑類には、いよかん、はっさく、清見、不知火(デコポン)、せとかなど多様な品種があり、1月から5月頃に旬を迎えるものが多く見られます。これらは温州みかんの出荷が終わった後の端境期を埋める重要な品目として位置づけられています。

レモンやゆずといった香酸柑橘は、生食よりも料理の香りづけや加工用途で利用されることが多く、国内需要は安定しています。

さらに近年は、愛媛県の「紅まどんな(愛媛果試28号)」や「甘平」といった県独自の品種開発も進んでおり、高糖度で食味の優れた新品種が産地の競争力向上に寄与しています。品種の多様化により、産地は周年供給体制を構築し、消費者ニーズに応じた販売戦略を展開することが可能になっています。


柑橘栽培の基本と管理のポイント


柑橘は比較的病害虫に強く、初心者でも栽培しやすい果樹とされていますが、高品質な果実を安定生産するには適切な管理が求められます。

栽培適地の条件


柑橘は日当たりと排水性の良い環境を好みます。品種によって耐寒性に差があり、おいしい果実を生産するための年平均気温は12〜18℃以上、冬季の最低気温は-7〜-3℃以上が栽培適地の目安とされています。

温州みかんやゆずは比較的寒さに強い一方、レモンやライムは寒さに弱く、温暖地での栽培が適しています。


植え付けと剪定


植え付けは、暖かくなった3月以降が適期です。寒い時期の植え付けは樹体を傷める恐れがあるため避けるべきとされています。

剪定は2月下旬から3月頃、新芽が出る前に行います。前年に実をつけた枝には翌年の着花が弱くなる傾向があるため、これらの枝を中心に剪定することで、樹形を整えつつ翌年の結実を促進できる可能性があります。

摘果と施肥


7月から8月頃に摘果を行い、果実数を制限することで、残った果実への栄養供給を充実させます。温州みかんであれば葉20〜25枚に対して1果、ポンカンであれば40〜50枚に1果といった「葉果比」が目安とされています。

施肥は年3回、春肥、夏肥、秋肥に分けて行います。春肥は基肥として、夏肥は果実肥大のため、秋肥は翌年の花芽形成のために与えることで、安定した生産につながると考えられています。

病害虫対策


柑橘の主要な害虫としては、アゲハチョウの幼虫、カイガラムシ、ハダニなどが挙げられます。早期発見と適切な薬剤散布により、被害を最小限に抑えることが重要です。


柑橘農業が抱える経営課題


柑橘農業は、他の果樹と同様に、構造的な課題に直面しています。

高齢化と担い手不足


果樹農業者の減少と高齢化は深刻で、果樹の販売農家数は2000年(平成12年)から2020年(令和2年)の20年間で約半減し、経営者が60歳以上の占める割合は8割を超えていると報告されています(農林水産省「果樹をめぐる情勢 令和7年1月」)。

基幹的農業従事者の平均年齢も年々上昇しており、2024年(令和6年)には69.2歳に達しています。新規就農者は2023年(令和5年)に4万3460人で前年より5.2%減少しており、世代交代が円滑に進んでいない状況が見て取れます(農林水産省「令和6年度 食料・農業・農村の動向」)。

労働集約性と規模拡大の困難さ


柑橘栽培は、収穫や摘果など手作業に依存する工程が多く、労働集約的な特性があります。収穫や摘果等の作業は極端な労働ピークが存在するため、年間を通じた雇用が困難で臨時雇用等の外部労働力に頼っており、労働力が生産規模拡大のネックとなっている状況です(農林水産省「果樹農業の現状と課題について 令和6年10月」)。

特に傾斜地の段々畑では、農作業そのものが身体的に負担が大きく、高齢化が進む中で離農に拍車をかける要因となっています。

供給不足と生産力増強の必要性


かつて柑橘は供給過剰が問題視されていましたが、現在は農家数の減少や高齢化等により生産量が減少し、需要に対して生産が応えきれない状況が指摘されています。

また、2020年(令和2年)には生産抑制から生産基盤強化に向けた施策に転換したものの、国内果実の供給量は減少し続けており、生産力強化の加速化が必要とされています(農林水産省「果樹農業の現状と課題について 令和6年10月」)。



持続可能な柑橘農業に向けた解決策


これらの課題に対応するため、産地では様々な取り組みが模索されています。

省力化技術の導入


労働生産性の向上を図るため、省力樹形の導入やスピードスプレーヤーなどの機械化が推進されています。急傾斜地が多く機械化や省力化が困難な地域では、基盤整備を行うことで労働生産性の向上が可能になり、さらに担い手への園地集積にもつながると期待されています。

新規就農支援の充実


地域によっては、新規就農者向けの研修制度や相談窓口の設置、補助金情報の提供など、包括的な支援体制が整備されつつあります。営農技術の習得だけでなく、農地の確保や資金調達、地域での人間関係構築まで支援することで、新規参入者の定着率向上が期待されています。

6次産業化と販路の多様化


生鮮果実の市場出荷だけでなく、加工用果実の供給、直売、観光農園など、多角的な販売戦略を展開する事例も増えています。近年、果実加工品の需要が高まる中、国産果実を活用した商品開発が進んでおり、ドライフルーツ、冷凍フルーツ、機能性表示食品のジュースなど、消費者の健康志向や簡便化ニーズに応じた多様な加工品が開発されています(農林水産省「果樹をめぐる情勢 令和7年1月」)。

品種改良と高品質化


消費者ニーズに対応した優良品目・品種への転換や高品質化を進めるため、改植及び未収益期間に対する支援が実施されています。新品種の開発により、産地のブランド力向上と収益性の改善が図られています。

スマート農業技術の導入


柑橘栽培の現場では、ドローンICT技術を活用したスマート農業の導入が進みつつあります。

農林水産省が推進するスマート農業とは、ロボット技術やICT等の先端技術を活用し、超省力化や高品質生産を可能にする新たな農業を指します(農林水産省「スマート農業」)。労働集約的な柑橘栽培において、これらの技術は労働力不足への対応策として期待されています。

ドローンによる防除作業は、特に傾斜地での導入効果が大きいとされています。従来の手散布や動力噴霧機と比較して、急傾斜地などの人が入りにくい場所での作業が軽労化され、防除作業時間の短縮が期待できます。

農林水産省のスマート農業技術活用促進法に基づき認定を受けたNTT e-Drone Technologyは、傾斜地の柑橘防除における労働時間を80%削減することを見込んでいます(「農業の生産性の向上のためのスマート農業技術の活用の促進に関する法律」に基づく開発供給実施計画の認定について)。

また、センシング技術も注目されています。ドローンや人工衛星にカメラを搭載し、作物の生育状況をセンシングすることで、圃場間のばらつきを把握し、適切な施肥管理につなげることが可能になります。これにより、収量の増加や環境負荷の低減が期待されます。



柑橘農業維持の鍵は作業委託サービスの活用


柑橘農業は、日本の食文化に深く根ざし、各地の気候風土と生産者の努力により育まれてきました。高齢化や担い手不足といった課題は容易には解決しませんが、省力化技術の進展、新規参入者の支援体制の充実、品種改良による高付加価値化など、持続可能な産地づくりに向けた動きも着実に進んでいます。

ただし、省力化技術、6次産業化、スマート農業技術の導入などはいずれも初期投資が必要です。園地の基盤整備や集積、加工食品のための倉庫や工場などには、時間も場所も費用もかかります。

また、作業負担を軽減する農業用ドローンなどを導入するにしても、初期費用は80万円から300万円程度とされており(農林水産省「農業用ドローン」)、中小規模の経営体にとっては負担が大きい場合もあります。

中でも、スマート農業については、使用頻度が少ない作業者の育成などの負担や保守管理のコストがかかるといった課題もあります。農林水産省の補助事業を活用したり、リース・シェアリング・委託サービスといった必要な時にだけ低コストで活用することで、初期負担を軽減できる可能性があります。

大切なことは、いまある園地を維持しつつ、収益を上げて発展させていくことであり、技術やサービスを導入することだけが目的ではありません。大規模農家よりも中小農家にこそスマート農業は必要とされています。柑橘農家をやめるか続けるかという2択に迫られた時、必要な時期だけスマート農業を作業委託することは、続け方を考える上での選択肢のひとつとも言えるでしょう。

柑橘農業に関わる一人ひとりが、これらの取り組みを実情に合わせて選択し、組み合わせることで、持続可能な柑橘農業は必ず実現できます。そして、個々の農家だけではなく、こうした取り組みを地域や国レベルで考えていくことが、未来の日本の柑橘農業を考える上で求められています。


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WRITER LIST

  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
  4. 鈴木かゆ
    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
  5. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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