「休みが取れない」の正体は? 水稲農家の負担が重い作業5選

水稲=米は、日本の農業を支える基幹作物ですが、現場では今も多くの「手」と「時間」が必要とされます。人手不足が続くなか、解決策としてスマート農業への関心は高まっています。ただ、初期投資や導入への不安から、踏み切れずにいるケースも少なくありません。

あらゆる作業が人手不足に直結していることは言うまでもありません。そのため、いま考えるべきは「どの作業が自分にとって最も時間を取られているのか」という視点です。

すべてを一度に変えるのではなく、優先順位をつけること。そこから改善の糸口が見えてきます。

本記事では、編集部がこれまで取材してきた水稲農家の声をもとに、「時間」と「日々の気配り」という観点からスマート農業を活用することで解決できる、現実的な選択肢を探ります。


水管理(見回り・水位調整)



多くの農家があまず挙げているのが「水管理」です。

生育に応じた水位調整は、シーズンを通して続く作業。朝夕の見回りに加え、雨や猛暑への対応も欠かせません。圃場が点在していれば移動は車が中心になり、距離が短くても時間やガソリン代は積み重なります。

水位のわずかなズレが収量や品質に影響することから、常にどこかで気にかけている状態が続きがちです。「今日は何もしなくていい」という日は多くはなく、天候ひとつで予定が変わることもあります。特に、時間が限られている兼業農家や高齢の農家からは、見回りの回数を減らしたいという声が聞かれます。

活用できるスマート農業


こうした悩みを解決するため、水位をセンサーで把握し、離れた場所からスマートフォンで確認できる仕組みや、給排水を遠隔操作できる機器の導入が進みつつあります。

現地でしかわからないこともありますが、すべての圃場を毎日回らなくても、あるいは隅々まで見て回らなくても、大まかな状況を把握できる点は大きな利点です。計測された数値の中で、異常がありそうな田んぼを優先する、といった判断もしやすくなります。

水位センサーを使っていない場合でも、見回り時の確認項目、天候急変時の対応手順を整理しておくことも有効です。対処方法に迷う時間を減らすことにもつながります。

水管理については、スマート農業によって完全に自動化するというよりも、回数を抑えたり、判断しやすくするための補完策という位置づけで検討する農家が増えています。


草刈り・畦畔管理



水稲の作業の中でも、特に多く挙がったのが田んぼ周辺の草刈りや畦畔管理です。夏場を中心に、2〜3週間に一度の頻度で作業が必要になる地域もあります。

近年は地球温暖化の影響もあってか、猛暑日が続くことも増えた印象がありますが、特に除草作業は人が暑さの影響を受けやすい作業です。斜面や水路沿いなど足場の安定しにくい場所もあるため、体勢に気を配りながら進める場面も少なくありません。草刈機の振動や騒音が重なることで、体力を要する工程でもあります。

1回あたりの作業時間は長くなくても、シーズン中にそれが何度も繰り返されることで、やらなければならないという心理的負担も大きくなります。収量に直接結びつきにくいと感じられることもありますが、環境維持のために欠かせない工程です。

活用できるスマート農業


畦畔管理で刈り払い作業をなくすことは難しいものの、リモコン操作や自動走行に対応した草刈機の選択肢は増えています。傾斜地に対応した機種も登場しており、斜面での長時間の手作業を抑えやすくなっています。

一方で、機械の有無にかかわらず、例年伸びが早い場所や管理に時間がかかる区画を把握し、重点的に対応するだけでも作業の見通しは立てやすくなります。草刈りとあわせて畦の状態も確認しておけば、後から別の作業が発生するのも防ぎやすくなります。スマートフォンで気になる場所を撮影しておくなどの工夫だけでも、次からの作業改善につながります。

機械の活用と管理方法の見直しを組み合わせることが、現実的なアプローチといえます。

畦畔除草こそ外部委託に最適
▶︎作業代行サービスの内容を見る

田植え・収穫(準備と段取り)


田植えや稲刈りは水稲農家にとっては当たり前の作業で、作業そのものよりも事前準備や段取りに時間を要するという声が多くあります。シーズンイン前の農機の点検や調整、天候を見極めた作業日の決定、規模によって数日に及ぶ作業の人手の確保。こうした調整まで含めると、実際の作業日数以上に準備に時間を割くことになります。

作業は数日から1週間ほどの期間に集中しますが、苗の成長は待ってはくれず、限られた期間で進めなければならないため、段取りの重要性が高い工程です。兼業農家であれば、有給休暇の取得や勤務調整、遠方に住む家族への応援依頼なども必要になります。

活用できるスマート農業


田植えに関しては、直進アシスト機能や自動走行に対応した田植機は、比較的取り入れやすい選択肢です。植え付け精度が安定すれば、その後の管理作業も進めやすくなります。また、近年はドローンで種もみを直接まく「ドローン直播」に取り組む事例なども出てきました。トラクターなどを使った「乾田直播」もありますが、機材や圃場の整備などを考えればドローンの方が圧倒的に省力化できます。これらの「田植え」を「直播」に変えるという、作業工程そのものを見直す方法の一つです。

移植と直播についてさらに詳しく:直播×移植で組む水稲営農設計 ──ハイブリッド型から直播栽培を始めよう

収穫では、たんぱく含有量や水分量を計測しながら作業できるコンバインもあります。収穫と同時にデータを取得でき、翌年の施肥計画を検討する際の振り返りにも活用できます。

また、農機トラブルへの備えとして代替手段をあらかじめ決めておくことも有効です。作業日数だけでなく、準備や待ち時間まで含めて見直すことが、改善のヒントになります。事前に農機のチェックをすることはもちろん、いざ収穫適期を逃さないために、農機のレンタル、作業委託などの情報を集めておくと安心です。


病害虫防除・除草



病害虫や雑草への防除は、地域や年ごとの発生状況に左右される作業ですが、想定外に発生することもあり、毎年同じ対応では済まないところも負担を重くしています。散布のタイミングを見極める難しさに加え、天候次第で延期や再調整が必要になることもあります。

小規模な圃場などでは背負い式の動力噴霧器を使うケースもありますが、短期間とはいえ身体的な負荷も大きく、作業量に加えて適切なタイミングの判断が求められます。省力的な防除手法は広がりつつあるものの、人による見極めが重要な場面は少なくありません。


活用できるスマート農業


代表的なのがドローンによる防除です。個々の圃場ごとに上空から液剤や粒剤を散布でき、GNSS(衛星測位システム)を活用して飛行ルートを設定し、自動飛行で散布してくれます。

風による薬剤の飛散リスクもあるため、気象条件の確認や近隣への配慮は欠かせませんが、作業自体の必要性がなくなるというよりは、作業の進め方が変わる技術といえます。

また、ドローン搭載カメラによる撮影や分析を活用して、病気や食害などの初期症状の把握につなげる取り組みもあります。発生状況を記録・可視化し、散布計画を支援する仕組みも広がっています。

ドローン防除について詳しく見る
▶︎活用内容はこちら

育苗・苗管理


育苗は、温度や水分の管理、病気の早期発見、ハウス内環境の調整など、日々の細かな手当てが欠かせない工程です。近年は猛暑日が増え、ハウス内の温度が急上昇しやすい傾向もあります。

この苗づくりでつまずくと立て直しに時間を要し、その年の作付け全体に影響することもあります。準備段階でありながら慎重な管理が求められる工程です。

活用できるスマート農業


育苗ハウス内の環境をセンサーで可視化する仕組みを取り入れることで、温度ムラや夜間の変化に気づきやすくなります。見回りや判断を補助する手段として活用されています。

また、前述のように育苗自体をやめ、「直播」に切り替えるという方法もあります。種もみを直接圃場にまくため、きちんと出芽するかどうか、気候や水温なども重要になりますが、田植機もいらずドローンだけで作業できる湛水直播や、トラクターで行う乾田直播などがあります。


水稲農業での省力化・スマート化のヒント


このように水稲栽培の作業を振り返ると、いくつかの共通点が見えてきます。それは、「毎日のように発生する作業が多い」こと、「天候に左右されやすい」こと、そして、「作業そのもの以上に、判断や見回りに時間を取られやすい」ことです。

大変な作業負担の質スマート化の鍵
水管理 精神的拘束(休日がない) センサー・自動給水機
草刈り 身体的・環境的リスク ラジコン草刈機
田植・収穫 期間集中・段取りの重圧 直進アシスト・データ管理
防除 重労働・タイミングの判断 ドローン活用
育苗 失敗できないプレッシャー ハウス環境モニタリング
水稲栽培における負担の大きい作業とスマート化技術
水稲の仕事は、単純に「これを行えば終わり」といった作業時間だけでは測れません。常にどこかで田んぼの状態を気にかけている、その時間も含めて成り立っています。

自動給水システムや水管理の遠隔化、草刈りや防除の省力技術、ドローンの活用など、さまざまな方法が広がっていますが、これらをすべて自分の圃場に導入するとなれば相応の予算もかかってきます。それらの一部を外部への委託も含めて考えることで、経営の組み立て方に幅が生まれます。

重要なのは、「作業量を減らす」ことだけでなく、「考える時間」や「動きが制限される時間」をどう減らすかという点です。

どの作業に時間を取られているのかを整理し、「作業」と「判断」を分けてとらえてみる。その視点が、水稲農業のスマート化、DX化を進めていく上で、選択肢を考える手がかりになるでしょう。


まずは、どんな支援が可能なのかを確認してみよう
畦畔除草・ドローン防除の対応内容を見る(無料) 


SHARE

最新の記事をFacebook・メールで
簡単に読むことが出来ます。

RANKING

WRITER LIST

  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
  4. 鈴木かゆ
    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
  5. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
パックごはん定期便