持続可能なネギ農業のヒント ──省力化・コスト対策・スマート農業の現状

前編では、ネギ農業の全体像と、品種・作型による周年出荷の考え方を整理しました。しかし、ネギ農業を続けるうえで本当に悩ましいのは、その“裏側”にある日々の作業や経営判断かもしれません。

後編では、土づくり、病害虫対策、収穫・調製、価格変動への対応、スマート農業といった、現場で避けて通れないテーマを掘り下げます。



土づくりのコツ──連作障害を避けて、長く使える畑に


ネギ栽培で長く付き合っていく必要があるのが、土づくりです。ネギは栽培体系が確立されており、比較的取り組みやすく育てやすい作物と言われていますが、同じ場所で何年も作り続けると、根腐れや萎凋病(いちょうびょう)といった土壌病害が出やすくなります。

これを避けるには、「輪作」が有効とされています。たとえば、ネギの後にトウモロコシやイネ科の作物を作る、緑肥作物を挟むといった工夫で、土壌環境がリセットされます。土壌改良資材を使って有機物を増やしたり、排水性を改善したりするのも効果的です。


「うちの畑はもう何年もネギを作ってるけど大丈夫」という方もいるかもしれませんが、土の状態は徐々に変わっていきます。定期的に土壌診断を受けて、pHや養分バランスを客観的にチェックしておくと、根腐れや欠乏症といった土壌トラブルの予防に繋がります。

こうした畑の栽培履歴を「営農ログ」として、スマホのカメラで日付入りの写真を残しておくだけでも立派な記録になります。また、営農支援アプリなどを使うのもいいでしょう。記録しておくことで、年ごとの成功要因や課題を正確に振り返ることができるため、次作の収益向上に向けた戦略づくりに役立ちます。


病害虫対策は「予防」が基本──早めの観察と総合的な管理


ネギ栽培では、アザミウマ類、ネギアブラムシ、ネギコガといった害虫や、べと病、黒斑病、さび病などの病害が問題になることがあります。特に梅雨時や秋雨の時期は湿度が高く、病気が広がりやすいので注意が必要です。

防除で大切なのは、「出てから対処する」より「出ないようにする」視点です。たとえば、圃場整備を定期的に行い水はけの良い状態を保つ、株間を広めに取って風通しを確保する、といった基本的な管理が予防につながります。密植しすぎると蒸れやすく、病気の温床になりやすくなってしまいます。

病害虫被害にあったネギ
また、薬剤散布に頼りすぎると、害虫が抵抗性を持ったり、残留農薬の問題が出たりするため、総合的病害虫管理(IPM)の考え方が推奨されています。これは、栽培方法の工夫、物理的な防除(防虫ネットなど)、天敵の利用などを組み合わせる方法です(出典:農林水産省 総合的病害虫・雑草管理(IPM)の推進)。

IPMのイメージ。作物を守るためにさまざまな方法を組み合わせることで相乗効果が期待できる
病害虫対策で何より大切なのは、技術以前に「こまめな見回り」という習慣です。毎朝コーヒーを片手に畑を一巡りし、「今日は葉の色が少し違うな」「このあたりに虫が増えてきたか?」と、小さな変化を五感でとらえる。 そのわずかな気づきこそが、被害を最小限に食い止める最大のリスク管理になります。


収穫・調製作業をどう乗り切るか──機械化と工夫の両立


ネギ栽培で一番の山場といえば、収穫と調製作業でしょう。掘り取って、根を切って、皮をむいて、結束して──。この一連の作業をどう効率化するかが、経営を左右する大きなポイントになります。

かつて、ネギの皮むきはすべてが手作業であり、膨大な時間と労力を要する過酷な工程でした。その負担を軽減したのが、1980年代以降に普及した「エアー式」の皮むき機です。さらに1990年代後半から2000年代にかけては、皮むきだけでなく「根切り・葉切り」から「結束」までを一台で完結させる「全自動ネギ調製機」が登場。大規模農家を中心に、作業工程全体の劇的な省力化が進みました。

しかし、これらの機械は強力なコンプレッサーを使用するため、激しい騒音や高い電気代が長年の課題となっていました。

こうした背景を受け、2010年代半ば頃から新たに注目を集めているのが「水圧式」の技術です。従来の全自動化による効率性はそのままに、水の力で「静音化」と「低コスト」を実現。さらに、ネギの鮮度(ツヤ)を保てるという利点も加わり、現代のニーズに合致した新たなスタンダードとして注目を集めています。

ただし、水圧式は排水の処理や作業場所の確保といった面で考慮すべき点もあります。エアー式のスピーディーさと、水圧式の仕上がりの美しさ。自分の出荷先がどちらを求めているかを見極めることが、機械選びの失敗を防ぐ鍵です。

皮むき機に限らず、機械を導入することは生産性の向上や作業負担の軽減を叶えられる可能性が高いです。ただし、導入には初期費用やメンテナンス費用がかかるので、自分の経営規模や作付面積に見合うかどうかを見極める必要があります。こうしたコスト面から、導入を躊躇している農家も多いのが実情です。リースや中古機械を活用する、近隣の農家さんと共同利用するといった方法も選択肢の一つとして有効です。



出荷と価格の話──市場の流れを読みながら戦略を立てる


ネギの市場価格は、天候や作柄、他産地の出荷状況でかなり変動します。「去年の今頃は高かったのに、今年は安い」ということもよくあります。ネギは栽培期間が約10カ月と長く、多湿に弱い性質があるため、夏場のゲリラ豪雨や猛暑、季節外れの台風などの異常気象の影響を受けやすく、特に夏季に供給不足となり高騰する傾向があります。

一方で、天候に恵まれて各産地が豊作となった場合や、暖冬で冬ネギの出荷が前倒しになった場合など、市場に供給が集中すると価格が大きく下落することも。「せっかく手間暇をかけて育てたのに、出荷したら採算が合わない」という事態も起こり得ます。供給過多で出荷制限(出荷調整)がかかり、畑で育ったままのネギを放置することもあります。

こうした価格変動に備え、いくつかの対策を常に検討しておくことが、リスクを減らすために有効となります。その一つが、販路を分散させることです。

たとえば、契約栽培で一定量を安定価格で出荷しつつ、余った分は市場に出したり、直売所やネット販売で独自ルートを持つといった方法です。また、加工・業務用に出荷するという選択肢もあります。カット野菜業者や飲食店への供給は、味や鮮度が良ければ多少のサイズ違いや曲がりは許容されることもあり、廃棄せざるを得なかったネギを利益に変えることにも繋がります。

また、出荷時期をずらす戦略も、利益を最大化する有効な手段です。例えば、秋冬ネギが主流の地域であえて春ネギに力を入れることで、端境期の高値を狙える可能性もあります。ただし、この時期は「トウ立ち(ネギ坊主)」との戦いでもあるため、晩抽性品種の選定やトンネル栽培など、気象リスクを技術でカバーする準備がセットで重要になります。


スマート農業の可能性 ──新しい技術を味方につける


最近、ネギ栽培でもスマート農業技術が話題になっています。

たとえば、ドローンやセンシング技術を使った生育モニタリングはすでに実用化が進んでいます。農林水産省の農業新技術活用事例には、北海道のネギ生産者がドローン搭載の可視光カメラで圃場を撮影し、生育ムラをマップ化した事例が紹介されています。この事例では、生育マップに基づいて土壌を採取・分析し、pHのムラが原因と特定。石灰資材の施用量を調整することで、圃場内のpH値が均一になり、ネギの生育ムラが軽減して製品率の向上が認められました(出典:農林水産省 農業新技術活用事例)。

島根県の青ネギ栽培では、ハウス内環境を計測・記録するシステムを導入し、温湿度や日射量のデータを常時自動記録しています。このデータをもとに管理方法を検討・改善した結果、青ネギのパネルあたり収量が増加し、秀品率も向上したと報告されています(出典:農林水産省 農業新技術活用事例)。

また、近年ではネギ栽培においても、ドローンを使用した防除が注目されています。従来の動力噴霧器による散布は時間と労力がかかるため、ドローンによる省力化への期待が高まっています。秋田県農業試験場の実証試験では、ドローンによる高濃度少量散布が、べと病、葉枯病、さび病に対して地上散布とほぼ同等の防除効果を示すことが確認されています(出典:秋田県 ネギのベと病、葉枯病、さび病に対する無人マルチローターを用いた高濃度少量散布の実用性)。

水稲でのドローンによる防除は一般的だが、ネギに関しても普及が進み始めている
こうしたスマート農業を支える最新技術は日々進化しており、現場の課題を解決する選択肢は今この瞬間も広がり続けています。

ただし、先述の機械化と同様、導入には相応の投資が必要となる場合もあるため、常に最新の動向をキャッチアップし、自身の経営スタイルに合致するかを見極めることが重要です。農林水産省の「農業新技術_製品・サービス集」や「農業新技術活用事例」では、ネギを含む露地野菜のスマート農業技術の実証報告が掲載されています。自分の地域ではどうかと比較しながら読んでみると、栽培のヒントが見つかるかもしれません。(出典:農林水産省 スマート農業


経営の数字を整理してみる──収益性を考えるヒント


ネギ栽培の収益性は、(1)収穫量、(2)販売単価、(3)生産コストのバランスで決まります。実践的な視点としては、収益を上げるために複数の視点から考えることが重要です。単収を上げることで売上が増えますし、機械化により労働時間を短縮できればコスト削減につながります。また、資材を適正に使うことで無駄な出費も抑えられます。

千葉県が2016年(平成28年)に公表した経営モデルでは、育苗・定植の委託、調製機械の導入、臨時雇用の活用、収穫機の導入を段階的に進めることで、ネギの作付面積を68aから278aまで拡大し、農業所得を大幅に向上させる試算が示されています。特に臨時雇用の導入は、他の改善対策に比べて拡大面積あたりの所得向上効果が大きいとされています(出典:千葉県 平成28年度試験研究成果普及情報 ネギ経営において規模を段階的に拡大し所得向上を目指す経営モデル)。

「自分一人で、家族だけで頑張る」という美徳から一歩踏み出し、「外の力(機械や人手)」を借りることで、結果として手元に残る利益が増える──そんな「経営者としての視点」への切り替えが、今のネギ農業には求められているのかもしれません。

ただし、規模拡大には人手や資金繰りの制約もあるため、現実的な計画を立てることが大切です。地域の普及指導員に相談したり、先進農家の事例を参考にしたりしながら、自分の状況に合った改善の道を探っていくと良いでしょう。

経営の数字を整理してみると、「意外とここにお金がかかってるな」「ここを改善すれば効果が大きそうだ」といった気づきがあります。年に一度、決算の時期などに、じっくり見直してみてはいかがでしょうか。


ネギ栽培のこれから ──自分に合ったやり方を見つける


ネギ栽培は、技術も労働も市場も、いろいろな要素が絡み合う仕事です。「これが正解」というやり方は一つではなく、地域や経営規模、目指す方向によって最適解は変わってきます。


大切なのは、今の自分の状況を整理して、一番のネックがどこにあるかを見つけることです。「収穫調製に時間がかかりすぎる」なら機械化を検討する、「価格変動が怖い」なら販路を分散させる、「土壌病害が増えてきた」なら輪作体系を見直す──。一つずつ、できるところから手をつけていけば、着実に改善していけます。

地域の試験研究機関や普及指導センター、先進農家さんの事例は、具体的なヒントの宝庫です。「うちとは規模が違うから」「地域が違うから」と思わず、使えそうな部分を取り入れてみると、意外とうまくいくこともあるかもしれません。

また、最近では農作業代行サービスを活用して、防除や収穫・調製など労働集約的な作業を外部に委託する選択肢も広がってきています。人手不足の時期だけスポットで依頼することもできるので、経営状況に合わせて検討してみるのも良いでしょう。

食卓に欠かせない野菜として、日本の食文化に深く根付いているネギ。その栽培を続けていくことは、地域の農業を守り、食の安定供給を支えることにもつながっています。

時代や環境が変化する中でも、一歩ずつ自分のペースで向き合い続けていくことが、持続可能なネギ栽培への道なのではないでしょうか。すべてを自分たちで背負うのではなく、スマートな技術やプロの代行サービスを賢く取り入れる。それが、長く楽しくネギ農業を続けるための「新しいスタンダード」になっていくはずです。


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WRITER LIST

  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
  4. 鈴木かゆ
    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
  5. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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