柑橘施肥のそのこだわり、ちょっと待った! 実証から見えた“思い込み”の解決法 3選

極早生の収穫が進み、早生温州の柑橘類の収穫も本格化する10月下旬。収穫、選果、出荷が重なるなか、秋肥の時期を迎える産地もあります。

柑橘の施肥は、地域の施肥暦や園地ごとの経験をもとに組み立てられてきました。一方、国のスマート農業実証や県の試験では、実際の柑橘園で施肥方法を変え、樹体の栄養状態や果実品質、作業負担などを比較する取り組みも進んでいます。

そこで試されているのは、単なる増肥や減肥ではありません。肥料の効く期間を変える、土壌pHを整える、水と肥料を一緒に根へ届けるなど、「どう効かせるか」まで含めた施肥です。

今回は、静岡、愛媛、長崎で行われた試験・実証から、普段の施肥を見直すための3つの“思い込み”を紹介します。

(イラスト原案:SMART AGRI編集部、作成:ChatGPT)

思い込み(1)「施肥回数を減らすと、途中で肥料が切れる」


作業を減らしたいが、品質や収量を落とすリスクが怖い──柑橘園を営んでいる方に共通する悩みでしょう。春肥、夏肥、秋肥と、忙しい作業の合間を縫って肥料を撒くのは大変ですが、「回数を減らして肝心な時期に肥料が切れてしまったら」と思うと、なかなか省くわけにもいきません。

そんな中、静岡県では果実品質や樹の栄養状態を維持しながら施肥作業を減らす、「肥効調節型肥料」を使った年1回施肥法を開発しています。

施用時期は、温州みかんでは11~1月、中晩柑では3月に1回。ただし、春肥、夏肥、秋肥を単純にまとめて一度に撒く方法ではありません。

肥効調節型肥料は、成分が時間をかけて溶け出すように設計された肥料です。この試験では、樹が多くの養分を必要とする夏にも窒素が供給されるよう、溶出期間の異なる肥料などを組み合わせています。

減らすのは「人が肥料を撒く回数」であって、「樹へ養分を供給する期間」ではない、という考え方です。

寿太郎温州、はるみ、井原日向といった品種で3年間試験した結果、秋季の葉中窒素含有率、着果数、果実品質は慣行施肥と同程度となりました。

一方、同じ年1回施肥でも、気象や園地条件に応じて肥料設計を調整した例があります。

青島温州の試験では、3月の平均気温が平年より2.7℃高かった年に、肥料成分が想定より早く溶出。その後、葉中窒素が慣行区より低く推移したことから、翌年度は年1回施肥の方式を維持しつつ、より長い期間かけて成分が溶け出す肥料へと変更しました。

別の園では、より長く効く肥料へ変更しても葉中窒素が低いままでした。樹冠が小さく、肥料が雨で畝間へ流れやすかったことに加え、根量の少ない台木だったことが影響したと考えられています。

こうした園地に対し、静岡県は施肥後の覆土や堆肥施用など、肥料成分の流亡を抑える方法の必要性を挙げています。

年1回施肥は、単に「長く効く肥料を1回撒けばよい」というものではありません。高温で溶出が早まるなら肥料の組み合わせを変え、流れやすい園地なら根の周辺に肥料を残す工夫を加える。

つまり、樹が必要とする時期まで養分を届けるため、肥料と園地条件をセットでカスタマイズする考え方です。

年1回施肥を導入しない場合でも、普段使っている肥料がいつ効き始め、どのくらい続くのかを確認すれば、現在の施肥時期や回数を見直す材料になります。


思い込み(2)「施肥量を決めれば、土の状態は後回しでもよい」


施肥暦どおりに肥料を撒いているから大丈夫だと思っていても、斜面の園地まで重い苦土石灰を運ぶのはひと苦労で、土壌改良まではなかなか手が回らないのが実情です。

愛媛県八幡浜市の真穴地区では、JAにしうわや愛媛県などが参加する国のスマート農業実証が行われました。課題の一つが、柑橘園の土壌酸性化です。

愛媛県の資料によると、2020年(令和2年)の全農えひめの調査では、県内の温州みかん園地の約70%の土壌が、適正範囲とされるpH5.5~6.3を下回っていました。

さらに傾斜地では、土壌のpHを中和しながらミネラルを補給する苦土石灰などの重い資材を運搬・散布すること自体が大きな負担になります。

そこで真穴地区が試したのが、自動液肥灌水システムから液体石灰肥料を点滴で施す方法でした。

特徴的なのは、石灰による土壌改良を「施肥とは別の仕事」にしなかった点です。

点滴設備から水、肥料、石灰成分を供給し、かん水・施肥・土壌改良を一つの体系にまとめる仕組みで、実証では酸性化しやすい園地でpHの低下が抑えられ、施肥・土壌改良にかかる作業時間も平均30%削減されました。

施し方にも特徴があります。液肥は時期ごとに200~300ppmの濃度とし、30~40日かけてじっくり施用。施肥設計例では、液肥の吸収効率を踏まえ、肥料成分量を地域の施肥基準の0.7倍に設定しています。

もちろん、これは「柑橘なら肥料を3割減らせる」という意味ではありません。注目すべき点は、同じ成分を一度に施すのではなく、根の近くへ薄く、長く届けることで、施肥量だけでなく施し方そのものを組み直している点です。

設備を使わない園でも、この発想は取り入れられます。例えば、土壌pHなら試験紙や液剤による簡易測定キットでも確認可能です。

「何kg入れるか」を決める前に、今の土に何が足りないのかを確認し、そのうえで、量だけでなく、施す場所や濃度、期間まで含めて組み立てる。真穴地区の実証から見えてくるのは、施肥を「投入量」だけでとらえない考え方です。

ちなみに、JA松山市ではドローンによる石灰の散布も検証しています。散布量も移動の重さも解消できるとして、今後の活用に期待されています。

参考記事:【インタビュー】 JA松山市が柑橘施肥にあえて外注を選んだ理由とは? 地元でドローンチームを組むメリットとデメリット




思い込み(3)「かん水と施肥は別々に考える」


みかんの糖度を上げるために、マルチで雨水を遮り、乾燥しすぎれば水をやり、肥料は施肥暦に合わせて撒く──というように、それぞれを別の作業として考えている農家も多いのではないでしょうか。しかし、水やりと施肥をうまく組み合わせた栽培方法の実証が進められています。

長崎県佐世保地区では、JAながさき西海させぼ広域かんきつ部会を中心に、温州みかんのスマート農業実証が行われました。

この地域では、シートマルチで雨水の流入を抑え、水分ストレスをかけることで高品質なみかんづくりに取り組んでいます。ただし、乾燥が強くなりすぎれば樹への負担が大きくなり、生理落果や収量低下につながる場合があります。

そこで採用されたのが、マルチドリップ栽培です。

マルチで雨水を遮りながら、必要な時には点滴チューブから水を補給。佐世保地区では、そこに液肥施用も組み合わせました。

「乾かして品質を高める」「水を補う」「肥料を与える」を別々に行うのではなく、樹の状態に合わせ、水分と養分を一緒に調整する仕組みです。

実証では、開花後に乾燥した際、点滴かん水と同時に液肥を施用。その結果、生理落果が少なくなり、収量は20%増加しました。さらに、かん水と液肥施用を同時に行えるため、作業時間の短縮や軽労化にもつながっています。

この結果から見えてくるのは、施肥を「肥料だけの作業」として切り離さない考え方です。

土壌が乾燥している時には、水分が不足したまま肥料を施すより、かん水と合わせて養分を根へ届けるという選択肢があります。十分に水分がある時には、当然ながら同じかん水を行う必要はありません。

佐世保地区のような点滴設備があれば、水分量を調整しながら液肥も供給できます。一方、ここから得られる考え方は設備の有無だけに限りません。「いつ肥料を施すか」に加え、「その時に水も補う必要があるのか」まで考えることです。

特に、マルチ栽培など水分を積極的にコントロールする園では、かん水と施肥を別々に決めるより、樹へ水分と養分をどう届けるかを一つの管理としてとらえる。佐世保地区の実証は、その選択肢を示しています。


実証から見えてきた「量・日付・回数」以外の見方


今回の3つの実証に共通するのは、施肥を「何kg、何回、いつ撒くか」だけで考えることが“思い込み”になっていないか、という警告です。

静岡県では肥効の続く期間、愛媛県・JAにしうわでは土壌pHと施し方、長崎県・JAながさき西海では水分と養分の届け方まで見ています。

実証で使われた設備そのものではなく、施肥をどう組み立てているかを見ると、自園でも応用できる部分があります。使っている肥料がいつまで効くのか、土壌pHはどうか、水分条件はどうか。いつもの施肥に一つ視点を足すだけでも、見直す場所が見えてくるでしょう。

肥料の量だけでなく、「どんな条件で、どう効かせるか」まで考える。今回の実証を参考に、そんな施肥の考え方を、ぜひ実際の営農に生かしてみてください。


参考資料
静岡県経済産業部「あたらしい農業技術 No.638 施肥作業を大幅に省力化できる柑橘の年1回施肥法」
農研機構「JAにしうわ真穴共選スマート農業研究会(愛媛県八幡浜市)」
愛媛県「点滴かん水設備を用いた液体石灰肥料の現地実証」
農研機構「JAながさき西海させぼ広域かんきつ部会(長崎県佐世保地区)」
農研機構「カンキツ栽培におけるマルチおよび点滴かん水施肥法導入の現状と課題」
農林水産省「みかん」
農林水産省「うんしゅうみかん栽培のポイント」
農林水産省「Ⅰ 土壌診断と対策[2]土壌診断の方法と活用 ⑶ 土壌改良資材量のもとめ方」



SHARE

最新の記事をFacebook・メールで
簡単に読むことが出来ます。

RANKING

WRITER LIST

  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
  4. 鈴木かゆ
    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
  5. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。