柑橘園の測量データは何に使える? 防除と搬出経路の見直しから始める園地の計測

長く管理している柑橘園であれば、「この園は防除が大変」「ここは収穫物を出しにくい」といった園地ごとのクセは、経験としてわかっているでしょう。

ただ、どこにどれだけ時間を使っているのか、何を変えれば楽になるのかまで数字として比べる機会は多くありません。

そんな時に使えるのが、ドローンなどによる園地の測量・マッピングデータです。園地の形、高低差、傾斜、樹列などをいったんデータ化しておくことで、これまで感覚で捉えていた園地を、距離や勾配、作業経路として見られるようになります。毎年繰り返している作業のどこにムダがあり、何を減らせるのかを見つけるための基礎データを得ることで、作業時間や移動経路を比較できるを分析できるところがメリットです。

今回は、ドローンによる「測量」に焦点を当てて、柑橘園の作業に合わせた改善の考え方を紹介します。

(イラスト:SMART AGRI編集部 作成:Gemini)

防除|地形データを自動航行につなげる


測量による変化が数字ではっきり示されているのが防除です。

2022年(令和4年)に実施された農林水産技術会議の研究「ドローンやセンシング技術を活用した果樹の病害虫防除管理効率化技術の開発」では、斜度25度の特定の実証園で、高低差や傾斜を反映した地形データを作成し、その地形に沿ってドローンを自動航行させたところ、従来の手散布では10a当たり167分だったのに対し、ドローン散布では60分となり、1回の防除当たり107分短縮しました。これは薬液調整や機材準備などを含めた時間です。

年間9回の防除のうち6回をドローンに置き換えた試算では、年間作業時間は10aあたり1502分から923分へ減少。差は579分、約9時間40分にもなります。923分の中には地形データの取得や飛行プログラム作成も含まれていました。

この試験では、園地を測量して地形をデータ化することで、傾斜地でも自動航行できるようになり、従来の散布作業に比べて作業時間が短縮されました。

さらに、この試算では、地形データの取得と飛行プログラム作成は年間10aあたり60分として計上されています。一度作ったデータを、その年の複数回の防除に使う前提だからこそ、年間で見た時短効果が大きくなります。

ドローン散布ができない圃場なども立地条件によっては存在するものの、長年にわたってほぼ同じように繰り返していた仕事を、年間単位で減らせるところがポイントです。


施肥|園地の基本データを使い回し、生育情報だけ更新する


測量した園地データは、対応する機械・サービス、データ形式などの条件が合えば施肥にも利用できます。

農林水産省の果樹向けスマート農業技術カタログには、高精度測位による自動飛行で肥料を散布できるドローンや、生育マップから作った施肥マップを読み込み、場所に応じて散布量を変える技術が掲載されています。

ここで大切なのは、園地の情報をすべて毎年取り直す必要はないことです。

園地の外形、高低差、基本的な樹列などは比較的変わりにくい一方、樹勢、樹冠の広がり、着果量などは年によって変わります。

そのため、変わりにくい園地情報は基本データとして残し、その年に変わった生育情報を追加・更新するという使い方ができます。

柑橘で「測量によって施肥時間が何分減ったか」を直接示す国の実証値は確認できませんが、園地の位置や地形データを共通の土台として使い、その年の生育情報を重ねられる仕組みであれば、防除のために取得したデータを一つの作業だけで終わらせずに済みます。


収穫|距離と勾配を数値化し、搬出ルートの改善につなげる


園地を測量したとしても、収穫作業そのものが速くなるわけではありません。役立つのは、収穫後の搬出経路を考える場面です。

農研機構では、国土地理院のオルソ画像や標高データを使い、現地測量をしなくても、傾斜地柑橘園の園内道の長さや勾配をパソコン上で比べられるシステムを開発しています。道路勾配が15度を超える区間も把握できるため、勾配の大きい場所を特定し、搬出経路の変更や園内道の整備に役立てられます。

例えば「収穫物を出すのが大変」という園でも、原因が集荷場所までの距離なのか、急傾斜なのか、遠回りする園内道なのかで、必要な対策は変わります。

実際、農研機構の別の柑橘園研究「ウンシュウミカン果実の運搬作業の軽労働化」では、作業道を設けることで収穫果実の搬出時間が20~30%短縮されています。

公開されている地形データや、必要に応じて取得した測量データを使えば、いきなり運搬機を増やすのではなく、集荷場所を変えるのか、園内道を変えるのか、機械を入れるのかを比べてから決められます。


測ったデータ、農家はどう使う?


測量後のデータの使い方は、導入する機械やサービスによって異なります。

防除を事業者に委託する場合は、事業者側が園地データを使って飛行経路を管理する方法が一般的です。一方、自分でデータを別の作業にも使いたいなら、測量を依頼するときに、

  • どのデータを受け取れるか
  • 翌年以降も利用できるか
  • 別の機械やサービスなどでも利用できる形式か
  • 園地が変わった場合、どこまで更新が必要か

を確認しておくと使い道が広がります。

「測ってもらう」だけでなく、「測ったデータを誰が持ち、次に何へ使えるのか」まで確認することで、さまざまな作業に活用しやすくなります。


測量の前に「減らしたい作業」を一つ決める


ベテラン農家が持つ「この園は手がかかる」という感覚は、測量したことで否定されるわけではありません。

距離や勾配、作業経路という数字に置き換えることで、どの園地の、どの作業から手を付ければ時間を減らしやすいのかを、経験と数値を照らし合わせ、園地間で比較できるようになります。

そのためにまず一つ、「なぜか時間がかかる園」を選びます。防除時間、集荷場所までの距離、園内道の勾配など、困っている作業に関係する数字を一つ取ってみましょう。

そこで初めて、公開地図で足りるのか、ドローン測量まで要るのかを決めれば、測ること自体が目的になるのを避けられます。

防除では自動航行に置き換える。施肥では園地の基本データを使い回す。収穫では搬出経路や園内道を見直す。

毎年繰り返している移動や散布の負担を減らし、樹勢や着果状況に応じた栽培管理に時間を充てる。測量は、こうした作業の効率化を進め、日々の栽培管理にかける時間を確保するための手段になります。


ドローンによる測量をさまざまな農作業の改善に生かす
傾斜や樹木の配置など、園地の特徴をデータ化すれば、
防除・施肥だけでなく、収穫作業や移動の効率化にも活用できます。
▶ ドローン防除用の園地データ作成サービスを確認する相談・問い合わせ(フォーム)

参考資料
農林水産省「スマート農業技術カタログ(果樹)」
農研機構「傾斜地カンキツ園における園内道整備のための設計支援システム」
農林水産技術会議「ドローンやセンシング技術を活用した果樹の病害虫防除管理効率化技術の開発(令和4年度 最終年度報告書)」
農研機構「ウンシュウミカン果実の運搬作業の軽労働化」


【特集】果樹農園に必要なスマート農業
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
  5. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。