夏の農作業は「時間帯」と「見守り」が鍵 「熱中症ゼロへ」プロジェクトがWGBT調査結果と対策紹介

一般財団法人 日本気象協会が推進する「熱中症ゼロへ」プロジェクトは、全国農協青年組織協議会の協力のもと、農園でのWBGT(暑さ指数)観測と、農業従事者へ「夏の暑さを考慮した働き方」に関するインタビューの詳細を公表した。



「熱中症ゼロへ」プロジェクトは、熱中症にかかる方を減らし、亡くなってしまう方をゼロにすることを目指して、日本気象協会が推進するプロジェクト。2013年夏のプロジェクト発足以来、熱中症の発生に大きな影響を与える気象情報の発信を核に、熱中症に関する正しい知識と対策をより多くの方に知ってもらう活動を展開している。

その実施主体である一般財団法人 日本気象協会は、民間気象コンサルティング企業の先駆けとして1950年に誕生。防災・減災や洋上風力発電の分野以外でも、気象データを活用した商品需要予測や電力需要予測、気候変動対策などのコンサルティングを通じ、気象データのビジネスでの利活用を提案しつづけている。

2025年は、8月にJA全青協の協力のもと、若手青年農業従事者90人(20代~50代)を対象にした「農作業と熱中症に関する実態調査」を実施。夏の暑さによる働き方の変化について聞いたところ、回答者の90%以上が「作業環境や働き方、作業時期に影響があった」と回答し、休憩頻度を増やす、作業時間を調整するなど、暑さを避けるための工夫が明らかとなった。

一方で、熱中症に注意が必要なシーンについては、環境・内容・体制によって異なることや、対策の程度は個人の経験則に依る部分も多く、より現場の実態に根差した啓発が求められる結果が現れた。

この調査結果をより具体的な予防・対策に役立てるため、真夏の露地・ハウス栽培におけるWBGTの観測と、働き方の異なる2つの農園の方にもインタビュー。農業に従事される方や趣味で家庭菜園や園芸を楽しむ方に向けて、暑い時期の農作業の注意ポイントや実践的な対策について伝えている。


WBGT観測調査結果から見えるポイント


  1. 観測日(塩久園:2025年8月20日 荒井農園:2025年8月22日)暑さのピークは12:00~14:00、日最高WBGTは両農園とも35.7℃を記録した。農作業はこの時間帯を避けて早朝に行い、複数人の作業によって時間を短縮するなど、暑さを避ける工夫を取り入れていた。
  2. インタビュー先の農園では、天候や体調に応じて作業や休憩の計画を立てているほか、ファン付きウェアやウェアラブルデバイスなどの暑さ対策グッズも活用し、複合的な熱中症対策を実施していた。
  3. 1人作業や離れた場所での作業時でも、定期的に連絡を取り合い、互いの体調を見守る体制づくりが重要。


観測結果(1)塩久園でのWBGT推移


塩久園 塩野雅之さん(JA埼玉県青年部協議会 委員長)
【日時】2025年8月20日(水)7:00~16:00頃
【場所】埼玉県三芳町
【天候】晴れのち曇り、最高気温 36.6℃(最寄りの観測地点 所沢にて観測)
【環境条件】1.露地(土の上)、2.作業小屋(窓開放、扇風機2台稼働)


塩久園では、露地は日ざしや風の影響を受けやすく、WBGTは変動幅が大きい結果に。

日ざしが強まった10:00~13:00頃にはWBGT31℃以上の「危険」ランクの時間帯が多く見られ、12:13に最高値35.7℃を記録した。

直射日光の遮られた作業小屋では、WBGTの変動幅は比較的小さく、多くの時間帯で露地よりも低い値で推移したが、露地で最高値を記録した時刻とほぼ同時刻の12:25には32.1℃を記録し、「危険」ランクに達する時間帯もあった。

13:00以降は雲が広がりはじめ、露地、作業小屋ともWBGTは緩やかに低下したが、この時間帯はいずれも「厳重警戒」レベルと、日ざしがなくても油断はできない状況だった。

塩野さんは、散水やパイプ挿し、播種(はしゅ)、耕耘(こううん)などの農作業を早朝から昼前までに行い、暑さがピークとなる時間帯は作業を中断。自分の体調と相談し休憩をこまめにとるなど、作業時間帯を工夫した働き方を実践していた。



観測結果(2)荒井農園でのWBGT推移


荒井農園 荒井俊一さん(JA東京青壮年組織協議会 委員長)
【日時】2025年8月22日(金)7:45~16:00頃
【場所】東京都調布市
【天候】晴れ時々曇り、最高気温 36.4℃(最寄りの観測地点 府中にて観測)
【環境条件】1.露地(土の上)


荒井農園では、塩野農園と同様に露地では日ざしや風の影響を受け、WBGTは変動幅が大きい結果に。

露地の日最高WBGTは14:03に35.7℃を記録した。一方、ハウスでは、空気循環設備2台とミスト散布管を稼働させ、ハウスの壁面には遮光シートをつけて観測したところ、暑さの立ち上がりは露地よりも遅い結果となったが、日ざしがある程度差し込む環境であったことから、露地と似た時系列変化をとっている。

11:00頃および13:00頃には雲が広がったため、露地・ハウスともにWBGTは一時的に30℃前後へと下降。14:45以降は、周囲の建物により日ざしが遮られ、WBGTの変動は比較的穏やかとなったが、露地・ハウスともに「厳重警戒」のランクで推移していたことがわかる。

荒井さんは、計測開始前の明け方から昼前にかけて、出荷作業や露地でのナス・ピーマンの収穫、草刈り作業を行っており、暑さがピークとなる時間帯を避けた作業計画を立て、またパート従業員の方と複数名で作業を行うことで、作業時間自体の短縮も実践されていた。

また、帽子やファン付きウェアを着用するなど暑さから身を守る工夫や、ウェアラブルデバイスのアラート機能を使った暑さに対するリスク管理も行っていた。



農作業時の熱中症対策のポイント


これらのデータやインタビューを受けて、「熱中症ゼロへ」プロジェクトでは熱中症対策のポイントを以下のように提示している。

  • 作業は早朝や夕方など、なるべく涼しい時間帯に行いましょう。
  • 天気予報や暑さ指数(WBGT)の情報を事前に確認し、体調や作業量に合わせて、無理のない計画を立てるようにしましょう。
  • 屋外での作業は、直射日光に特に注意が必要です。帽子や暑さ対策グッズを活用し、こまめに涼しい環境で休みましょう。
  • ハウス内や、作業小屋などの屋内であっても、高温多湿、風通しが悪い環境では熱中症に注意しましょう。設備の見直しや、換気や遮熱対策など複合的な対策を意識することが大切です。


塩久園、荒井農園へのインタビューでは、「草むしりも夏場は大変」「農薬散布の作業は、空調服が着られずマスク必須のため体に熱がこもりやすい」といった夏場の苦労や、「一人作業のため体調や作業量に合わせて時間を調整し、無理をしない」「パートさん向けに空調服・保冷剤付きベスト・ウェアラブルデバイスの3点を貸与している」など、それぞれが行っている具体的な対策についての話がなされた。

「熱中症ゼロへ」プロジェクトでは、農業をはじめとする、熱中症に注意が必要な環境で働く方々に向け、今後も熱中症対策について調査・情報発信を続けていくとしている。


なお、今回のレポートの詳細は、公式サイトにて公開されているほか、熱中症に関する実態調査や、注意点、応急処置のポイントなどをまとめた情報も紹介されている。

熱ゼロ研究レポート:夏場の農園におけるWBGT観測調査
https://www.netsuzero.jp/netsu-lab/lab16
熱中症ゼロへ|日本気象協会
https://www.netsuzero.jp/

※「熱中症ゼロへ」は日本気象協会の登録商標です。

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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
  4. 鈴木かゆ
    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
  5. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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